学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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4 次の日

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弟に忠告を受けて次の日。やはり、特に何も起きなかった。朝から、昼まで、あの人の影を見る事が無ければ、普段通りに授業が進む。
手紙はしっかりと相手に届き、心配する事はなかった。
なかった、のだがーーー。
学園の食堂に行こうと決めた12時。これくらいの時間はいつも混んではいるのだが、入り口のところで混んでいるというより人の集まりができていた。
既視感ある光景に嫌な予感がしつつ、人の集まりを避けながら入り口に向かうとした時だった。立ち塞がるように目の前に黒い玉が浮かぶ。
黒い球は短い毛が生えてふわふわとしていて、目もなく、口もない。生物のように見えるし、植物のようにも見える、不思議ものが浮かんでいる。
黒い球はそれでもこちらを見ているのか、傾げるように体を傾けた。イーナも釣られて頭を傾けた。

「精霊だ……」

誰かが、言った。
すると「良い子だ」と声が聞こえてきて、そちらの方に顔を向ければ青い瞳と目が合った。目の前にいたはずの精霊は瞬きした時には消え、人集りの中心にいるのは昨日出会ったレオンである。

「どいてくれる」
 
少しだけ刺々しい声。人をかき分けては、レオンは真っ直ぐとイーナの方に顔を向けた。嘘だろと、イーナは後退するが相手は気にすることなく近づいてくる。

「良かった、名前……聞いていなかったから、もう会えないかと思って辛かった」

イーナは両手首をギュッと握り、レオンの大きな手が包み込む。

「だからね。君の返事はもちろんだよ」
「へっ? なんの返事ですか」

カラメルのような、濃く張り付くような甘い声。
相手に「何故」と問わなくとも自身は充分理解している。けれど、どうしてもこの男の口から聞かなくてはならない。浮かんできた答えが、間違えだと直接言って欲しい。

「もちろん、昨日の手紙だよ。こう、君は見た目に反して結構情熱的というか、大胆だね。読んでいて恥ずかしくなってくるというか、あっ、でも嫌いじゃないからね」

少々頬を赤らめてレオンは手紙のことを語るが、イーナの顔は反して青ざめていく。

弟が言った通りになってしまった。両耳を塞いで全力で遥か彼方に走りたい。けれど、それを見越した様に両手首はしっかりと掴まれている。

「結婚はまだ早いから、お付き合いからでいいかな」
「えっと、その……」
「うん?」

考えろ、考えろ、どうしたらいい。いい感じの断り方を、導き出さなくては。

「くっ、国の法的に無理です」
「えっ?」

お互いに固まった。レオンは振られた事に唖然としていたが、イーナは咄嗟に出た自身の発言が意味の分からなさに呆然とする。

「ほうてきとは。君とは付き合えないの」
「その、俺の国では……男と結婚できでないし、その、つっ付き合うのも、違法で罰せられますから……だから無理です!」

イーナは嘘をついた。祖国では同姓同士が結婚できないのは本当である。しかし、恋愛は本人同士の話であり、罪には問われない。とにかく断らないといけないというのが脳裏に残り、焦りと緊張でそのまま話を盛ってしまったのだ。

「そうなんだ」
「そうです……ですから、すいません」

頭を下げるイーナ。こっちが告白して断るなんて、人の心を弄ぶ様な事をした。殴られても仕方ないと思ったが、レオンは罵ることもなく、ただ下がる頭を見て一言。

「分かった」

あれ、納得してくれた? 面倒になると思われたが、案外簡単に身を引いてくれた。
顔を上げると無表情のままレオンは踵を返して、食堂を離れていく。
周りに集まっていた人達は、どういうことなのか話がさっぱり掴めないようで騒つき、そして視線はイーナの方に集中する。

「本当に、なっなんでもないんで」

視線に耐えきれなくなったイーナは食堂から慌てて逃げるのだった。



食堂から逃げ惑うように廊下を走っていたイーナは、今度は自分が人にぶつかってしまう。
額同士をぶつけては、バランスを崩しお互いに尻をつく。

「ごっ、ごめん、前を全然みてなくて」
「……クソがっ、前みろっての」
「え……」

聞き取れないほど小さな声だったが、汚い言葉であった。こちらが当たってしまい罵られて当然なのだが、猫が鳴くような可愛いらしい声だというのに荒々し言葉に驚いた。
目線を上げると、白色の長い髪を揺らす美少女が尻をついては赤くなった額を撫でていた。

「ごめん、痛かったよね」

自分のせいで彼女は怪我をした。イーナはすぐ起き上がり、彼女を起こすために手を伸ばす。
差し出した手に彼女は不満そうだったが、それでもこちらに顔を向けて手を伸ばしてきた。

「スズラン様、大丈夫ですか。お怪我は!」

奥から数人が走って来ては大声で叫ぶ。それは合図だったかのように彼女は手を引っ込めては、スッと立ち上がり、表情はまるでゲロを吐きそうに歪ませた。

「このくそ野郎! スズラン様に何しやがる」「そうよ! スズラン様にお怪我でもあったら、どう責任取るつもりなの」

こちらに走って来た生徒数人はイーナに詰め寄った。どうやら、白髪の少女はスズランという名だったようだ。

「えっと、えー」

急に詰め寄られて、どう話せば良いのか惑うイーナの元に、スズランが長い髪をふわりと揺らし近寄って来ては皆に穏やかに微笑みかける。

「皆さん、やめてください。僕が前を見ていなかったんです、ですから、彼を責めないであげてください」
「スズラン様……なんと、お優しい」

スズランがそう促すだけで、イーナから離れ彼らはうるうるとした涙を溜めた瞳でスズランを拝む。

「当たって来たのはコイツだというと、お優しいお言葉感服いたしました」「ああ、素晴らしいですわ」

心までお美しいと、彼らは彼女を褒め称えた。

「あの」

イーナはぶつかってしまった事を謝ろうとしたが、スズランは手を前に出し言葉を遮る。

「いいよ。さっき謝られたし、このことはお互い様だからね。それより仲直りの握手をしよう」

先ほどとはまるで違う穏やかな表情を向けて、手を伸ばす。表情がコロコロと変わる彼女に不気味さを覚えて、少しだけ手を差し出した。
スズランはその手を前に引っ張り出しては両手で包み込み、握手をする。

「仲直りだね」

小鳥のような可愛い声と共に、手は握られた。周りにいたものは、ハンカチを取り出し綺麗だと、感動すると言って涙を流す。
なに、この空間。

「いっ」
変な空気に油断していた、手に痛みが走る。

「では、それでは」

スズランは手を離しては、彼らを連れて奥へと悠々と歩いていく。

「やっぱり、怒ってるし」

彼らの姿が見えなくなったくらいに握られた手を見てみれば、赤く手の跡がついていた。
握手する際にスズランに強く握られたからだ。少女とは思えない力、ーーー姿を思い出していると彼女の制服はスカートではなく、ズボンを履いていた事を思い出し、アッとなる。
女の様にも聞こえ声は、今思えば少年のように低く。そう、彼女ではなく、彼である事実にやっと気がついた。

昨日から、イケメンに美少女? 次から次へと、責められるばかりでいい加減、国に帰れと言われているのだろうか。
連続で変な出来事が起きているとイーナは、さらに肩を落とすのだった。
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