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13話
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「気が済んだか……?」
「済んでないねえ」
「うえぇ~、オレの唇が死ぬよ~」
「死なないよ」
鼻先が触れるのではないのかという程の近い距離のまま、顎に添えられた親指の腹で下唇が撫でられていく。撫でる力は優しいが、まだ瞳の奥には熱が籠もっているらしい。
息を整えながらの問いに返された言葉に呆れてしまうのは仕方がない。体感三十分ぐらいしたんだけど、まだ満足してないのか? 体力おばけ怖い……! 内心でドン引きしていると、「ふみゃ~」と小さな鳴き声な響く。
「んにゃ~、よく寝たです~。うぅ、にゃぁ~、交尾するですかぁ? あ、違ったです、えっちだったです~」
起き上がって小さな躯を伸ばしたケット・シーは寝台にいるオレたちを見て首を傾げた。ふにゃ~と大きな欠伸をしてもう一度辺りを見渡している。最後にはバスケットの持ち手に小さな手を伸ばして、身を乗り出した。
「どうするです~? ケットもう一度寝るですよ~」
「気を使わなくていいよ。最後まではしないから」
「んにゃ~、ケット解ったですよ~。夜にするですよね~」
「ちぃちゃんが言うにはね」
「それはそうだろうが。一応いまは勤務中だぞ」
「真面目だねー」
「お前がサボり魔なの!」
ケット・シーに気を使われるとはどういうことだよ。あ、いや、待って。他の精霊の気配もものすごく薄いんだけどさあ、もしかしなくとも、ずっと気を使われていたのか? え、マジで? ありがとうな!
驚愕の事実を知ってからはすぐさまに羞恥が湧き上がってきてしまい、両手で顔を隠しながら悶えていると、ルーくんが「いまさらだよね」と言ってきた。お前は抱く方だから問題ないんだろうが、オレは抱かれる方なんだぞ! 喘ぎ声は聞かれたくないだろ! 聞いてないよな!? あ、大丈夫? ううん? なに? 聞いてたら殺される……? 精霊が物騒なことを言ったんだが、殺すことなんてできないよな? なに言ってるの?
うわああああ~聞かれてなくてよかったよ~と、今度は喜びでゴロゴロ左右に転がっていると、ケット・シーがおはようです~と目を擦りながらもふよふよ飛んできた。オレの顔の右横に着地すると「チェルチが恥ずかしがる必要はないですよ~。ケットたちは覗きはしないですから~」と頭を撫でられた。ケット・シーに慰められる人間はオレぐらいだな。「うぅ~、ありがとな~」と短く答えて顔から手を離す。気にしなければなあ、気にならなくなるんだよぉ! 指の間からちらちら見ていて解ってはいたんだが、なんだか毛があちこち跳ねているようだ。全身が爆発している。寝癖かこれ?
「ほ~、ケット・シーにも寝癖がつくみたいだぞ」
「むぁ! チェルチはこうです~!」
ルーくん見てみてとケット・シーを抱き上げると、ケット・シーはなんと躯を捻ってうらうらうらうらぁ! と、アホ毛にネコパンチをしてきた。左右の前足の動きは早く、残像しか見えん。ケット・シーすごい。アホ毛はぽよぽよアホみたいに上下左右斜めに動いているはずだ。アホ毛だから。
「悪かったって」
「ケットは見世物ではないですから~!」
「そうだなよな~。ケット・シーはかわいい精霊だよな。オレも寝癖が酷い時はあるから気にしなくていいよ」
「アホ毛はアホ毛のままだよね」
「もうアホ毛のことはいいから!」
ケット・シーをわしゃわしゃ撫でつつ手櫛で直してやっていると、ルーくんが余計なことを言ってくる。お前さてはアホ毛が好きだろ~? とにやにやして言ってみれば、べちんと額を叩かれた。いったい!
「ところでケットたちはずっと思っていたですが、クエルトルフは呼びにくいです~。ルフと呼びたいです~」
「それなら好きに呼ぶといいよ」
「でも、ルーくんはチェルチだけですよね~?」
「そうなるね。他の人には呼ばれたくないから」
「愛し合っているですね~。でもでも! ケットもチェルチが大好きですから~、覚えておいてほしいです~」
んふふ~とにやにや笑いをしたケット・シーはオレの頬に頬擦りをしてくる。いやだって、まだルーくんが退いてくれないからさあ、押し倒された体勢のままなんだよね。ルーくんの左肩からおずおずとこちら側を窺うのは契約精霊だろうか。淡く光っているからヒカリちゃんかな? ヒカリちゃんはそのまま光属性の精霊である。この状況が気になっちゃったか?
「お~、ヒカリちゃん久し振り~」
ケット・シーの右手を上げながら軽く声をかけるとひゃあ! と驚いて引っ込んでしまう。ごめ~ん。驚かせるつもりはなかったんだよ~。
「ヒカリちゃんは相変わらず用心深いなあ。まあでも、精霊はだいたい用心深いんだけど」
「誰だって捕まりたくはないでしょ」
「逆にケット・シーが人懐こすぎるんだよな」
「ケットたちだって、近づく人はちゃんと選んでいるですよ~! 変な人には初めから近づかなければいいのです~」
「賢い! でも甘い物に弱いから、お菓子をあげるからとか言われたら付いていきそうな子がいないか?」
「そんな策にはアホしか引っ掛からないですから安心してほしいです~。ケットたちはおいしいお菓子の味を知っているですからね~」
胸を張るケット・シーがかわいすぎて全身を撫でまくった。ルーくんはケット・シーではなくオレの頬を撫でてきたが、キスはもうしないからな?
◆--・--・--・--◆
【 あとがき 】
いままで頑張って定期更新(2日に1回)してきましたが、そもそも本作の更新はまったりです(不定期かつ予約投稿)
これからの更新はまったりになりますので、ご理解いただければ幸いです
「済んでないねえ」
「うえぇ~、オレの唇が死ぬよ~」
「死なないよ」
鼻先が触れるのではないのかという程の近い距離のまま、顎に添えられた親指の腹で下唇が撫でられていく。撫でる力は優しいが、まだ瞳の奥には熱が籠もっているらしい。
息を整えながらの問いに返された言葉に呆れてしまうのは仕方がない。体感三十分ぐらいしたんだけど、まだ満足してないのか? 体力おばけ怖い……! 内心でドン引きしていると、「ふみゃ~」と小さな鳴き声な響く。
「んにゃ~、よく寝たです~。うぅ、にゃぁ~、交尾するですかぁ? あ、違ったです、えっちだったです~」
起き上がって小さな躯を伸ばしたケット・シーは寝台にいるオレたちを見て首を傾げた。ふにゃ~と大きな欠伸をしてもう一度辺りを見渡している。最後にはバスケットの持ち手に小さな手を伸ばして、身を乗り出した。
「どうするです~? ケットもう一度寝るですよ~」
「気を使わなくていいよ。最後まではしないから」
「んにゃ~、ケット解ったですよ~。夜にするですよね~」
「ちぃちゃんが言うにはね」
「それはそうだろうが。一応いまは勤務中だぞ」
「真面目だねー」
「お前がサボり魔なの!」
ケット・シーに気を使われるとはどういうことだよ。あ、いや、待って。他の精霊の気配もものすごく薄いんだけどさあ、もしかしなくとも、ずっと気を使われていたのか? え、マジで? ありがとうな!
驚愕の事実を知ってからはすぐさまに羞恥が湧き上がってきてしまい、両手で顔を隠しながら悶えていると、ルーくんが「いまさらだよね」と言ってきた。お前は抱く方だから問題ないんだろうが、オレは抱かれる方なんだぞ! 喘ぎ声は聞かれたくないだろ! 聞いてないよな!? あ、大丈夫? ううん? なに? 聞いてたら殺される……? 精霊が物騒なことを言ったんだが、殺すことなんてできないよな? なに言ってるの?
うわああああ~聞かれてなくてよかったよ~と、今度は喜びでゴロゴロ左右に転がっていると、ケット・シーがおはようです~と目を擦りながらもふよふよ飛んできた。オレの顔の右横に着地すると「チェルチが恥ずかしがる必要はないですよ~。ケットたちは覗きはしないですから~」と頭を撫でられた。ケット・シーに慰められる人間はオレぐらいだな。「うぅ~、ありがとな~」と短く答えて顔から手を離す。気にしなければなあ、気にならなくなるんだよぉ! 指の間からちらちら見ていて解ってはいたんだが、なんだか毛があちこち跳ねているようだ。全身が爆発している。寝癖かこれ?
「ほ~、ケット・シーにも寝癖がつくみたいだぞ」
「むぁ! チェルチはこうです~!」
ルーくん見てみてとケット・シーを抱き上げると、ケット・シーはなんと躯を捻ってうらうらうらうらぁ! と、アホ毛にネコパンチをしてきた。左右の前足の動きは早く、残像しか見えん。ケット・シーすごい。アホ毛はぽよぽよアホみたいに上下左右斜めに動いているはずだ。アホ毛だから。
「悪かったって」
「ケットは見世物ではないですから~!」
「そうだなよな~。ケット・シーはかわいい精霊だよな。オレも寝癖が酷い時はあるから気にしなくていいよ」
「アホ毛はアホ毛のままだよね」
「もうアホ毛のことはいいから!」
ケット・シーをわしゃわしゃ撫でつつ手櫛で直してやっていると、ルーくんが余計なことを言ってくる。お前さてはアホ毛が好きだろ~? とにやにやして言ってみれば、べちんと額を叩かれた。いったい!
「ところでケットたちはずっと思っていたですが、クエルトルフは呼びにくいです~。ルフと呼びたいです~」
「それなら好きに呼ぶといいよ」
「でも、ルーくんはチェルチだけですよね~?」
「そうなるね。他の人には呼ばれたくないから」
「愛し合っているですね~。でもでも! ケットもチェルチが大好きですから~、覚えておいてほしいです~」
んふふ~とにやにや笑いをしたケット・シーはオレの頬に頬擦りをしてくる。いやだって、まだルーくんが退いてくれないからさあ、押し倒された体勢のままなんだよね。ルーくんの左肩からおずおずとこちら側を窺うのは契約精霊だろうか。淡く光っているからヒカリちゃんかな? ヒカリちゃんはそのまま光属性の精霊である。この状況が気になっちゃったか?
「お~、ヒカリちゃん久し振り~」
ケット・シーの右手を上げながら軽く声をかけるとひゃあ! と驚いて引っ込んでしまう。ごめ~ん。驚かせるつもりはなかったんだよ~。
「ヒカリちゃんは相変わらず用心深いなあ。まあでも、精霊はだいたい用心深いんだけど」
「誰だって捕まりたくはないでしょ」
「逆にケット・シーが人懐こすぎるんだよな」
「ケットたちだって、近づく人はちゃんと選んでいるですよ~! 変な人には初めから近づかなければいいのです~」
「賢い! でも甘い物に弱いから、お菓子をあげるからとか言われたら付いていきそうな子がいないか?」
「そんな策にはアホしか引っ掛からないですから安心してほしいです~。ケットたちはおいしいお菓子の味を知っているですからね~」
胸を張るケット・シーがかわいすぎて全身を撫でまくった。ルーくんはケット・シーではなくオレの頬を撫でてきたが、キスはもうしないからな?
◆--・--・--・--◆
【 あとがき 】
いままで頑張って定期更新(2日に1回)してきましたが、そもそも本作の更新はまったりです(不定期かつ予約投稿)
これからの更新はまったりになりますので、ご理解いただければ幸いです
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