妹を想いながら転生したら

弓立歩

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本編

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広場に到着するとほぼ準備は終わっていたようで、次々とハーピーたちが集まってきていた。

「あっ、ティアたち来たんだね。もう少ししたら呼びに行こうと思ってたの」

「じゃあちょうどだったわね」

「そうだね。じゃあ皆はこっちに並んで並んで。すぐに始まるから」

言われた通り、木々の間に私たちは整列する。それと向かい合うようにハーピーたちが並んでいる。大人達は最後の準備をしているようで、奥でまだ動いているようだ。そうこうしているうちに長老が来た。

「おや、皆さん先に来られていたのですか。では、お待たせするのもあれですし始めましょうか」

「そんな、我々が早く来ただけです。準備が終わってからでも…」

「ははは、実はそこの子供たちが待ちきれないようでしてな。遠慮はいりません」

「そう言われると断れんな」

「では始めましょう。皆の者、少し手を止めてこちらを向いて欲しい」

長老の声とともに準備をしていた大人たちも手を止めてこちらに向き直る。

「改めて皆には紹介しよう。右からティア、カークス、フォルト、エミリー、キルド殿たちだ」

そう言って1人ずつ名前を呼び紹介していく。一応呼ばれるたびにみんなも手を振ったりして応対する。

「この者たちの活躍により、飛竜が倒されカリンも無事帰ってくることができた。今宵はこのことを歓迎し、ささやかではあるが宴を開くこととなった。皆の者も今回のことは疲れたであろう。今宵は楽しむがよい」

「村長様、ありがとうございます」

ちょっと若いハーピーが返事をする。村の将来を担う人なのだろうか。それからみんなに木の実を加工したグラスが配られる。

「これは?」

「この辺でとれる果物から搾ったジュースだよ。栄養もあっておいしいんだ」

「ふ~ん。見たことないけれどとてもいい香りね」

「そうそう、味も香りも良くてこういう時に口にするの」

「普段は飲まないのか?」

「飲んだりもするんだけど、採りたてはそこまでおいしくないの。ちょっと置いて飲んだらおいしいの。それにそんなに大量に実を付けることもないから、あんまり量は作れないんだ」

「貴重なんだね~。味わって飲まなきゃ」

「皆行き渡ったようじゃな。それではカリンの無事と新たな友人を迎えた記念に…乾杯!」

「「「「かんぱ―い」」」」

その場にいたみんなの声が重なる。カリンはもちろんのこと、周りにいたハーピーとも乾杯をして一口飲む。

「おいしい!甘みもあるけどすっきりとしていてとても飲みやすいわ」

「でしょでしょ。だから、みんな我慢できずに毎回毎回開くたびに空にしちゃうんだよね」

「たしかに~。この味じゃあしょうがないよね~」

見るとエミリーはもう1杯目を飲み切ったようだ。味わって飲むんじゃなかったの。

「あら、もう空になってますのね。お注ぎしますので」

直ぐにエミリーは空になった器に爪を器用に使って入れてもらっている。しかし、注ぎ終わるとすぐに口を付け始めた。

「あの子、あんなに普段から飲んだかしら」

「やあ、ティア。調子はどうだい?」

「あらキルド。あなたも注いでもらいに来たの?」

「ああ、こんなにおいしいお酒は普段飲めないからね。材料がわかるなら王都で作りたいぐらいだよ」

「確かにそうよね…ってこれお酒なの?」

「ほんの少しだけどね。貯蔵期間がそこまで長くないからだろうけど、少しだけ入ってるよ」

「エミリーそれであんなに勢いよく…」

「エミリーは酒ダメなのか?」

「カークス。料理とかに使うお酒もぎりぎりまで遠ざけて使うぐらいには苦手のはずよ」

「いつも酒場で端の方に座るのはその為だったのか」

「今回は匂いもほとんど果実の香りでしなかったみたいだし、ジュースだと思って飲んだのね」

「まあ、本人がおいしいならいいんじゃない?」

「キルド、簡単言うけど明日からも討伐依頼あるのよ?そんなこというなら責任もって見てなさいよ」

「それは確かにな。だが、こうして幸いにも拠点が確保できたんだ。明日はこの周囲の地理の確認にある程度時間は当てようと思う。もし、気分がすぐれないようなら休んでてもらうとするさ」

「カークス、珍しく優しいじゃない。明日は天気が心配だわ」

「何だそれは。みんな今日は疲れてるだろうし、休むことも重要だ。今日は治癒魔法で疲れてるだろうし」

「あら、エミリーはあれくらいじゃ大丈夫よ。ああ見えて治癒は大の得意だから。神官にだってなれるでしょうね」

「普段あまりケガをしないからわからないものだな。しかし、それでも冒険者になったのか?」

「ギルドから援助が出ている冒険者向けの学校卒業なのよ。まかり間違ってもあの学校からストレートで神官なんて出さないわね」

「確かにね。昔からギルドと教会は犬猿の仲だもんね」

「そう言えばフォルトはどこにいるの?姿を見ないけど」

「あいつはあそこだ」

カークスが指をさすとフォルトはその先にいた、というより見えた。

「体格的にも風貌もリーダーっぽいからね。多分、飛竜を倒したのフォルトが中心だと思われて殺到してるみたい」

よく見れば小柄なハーピーが多いようだ。困った顔をしながらも2体目の飛竜の時の話をしているようだ。

「ヒーローは大変ね。あなた達、助けに行ってあげないの?」

「俺はあそこには無理だ」

「僕はそもそもエミリーと一緒にいるから向こうに行って話はできないしね。ティアが行ってきたら?」

「あんなに人が集まっている場所は苦手よ。フォルトを心から尊敬するわ」

「あ、ティアいた~」

「あらカリンどうしたの?みんなと一緒にいなくて大丈夫?」

「うん、フォルトの話も面白いんだけど、小さい子もみんなティアの話が聞きたいって」

横目でちらりと見ると子供たちがキラキラした目でこちらを見ている。

「カリン。ひょっとして私と出会った時のこと話したの?」

「当然でしょ。わたしたちの出会いだもん!」

これは絶対盛って話したな。ああ逃げ出したい、でもあの目を裏切るのも…。

「何してるのティア、ほら行くよ。行かないって言っても爪で運んじゃうよ」

「翼をはためかせながら言わないの。わかったから」

「やった~!じゃあ、キルドにカークス、ティア借りてくね~」

「まるでひもでひっぱられてるみたいだね」

「そうだな。俺たちは食事も出してもらえたことだし食べるか」

「いいね。珍しい木の実とかがあって気になってたんだよ」

「ふたりとも~、ティアは~~?」

「出来上がってるね。あっちでカリンたちに今日のことを話してるよ」

「そうなんだ~。じゃあわたしも行ってくる~」

「迷惑はかけないようにな」

「は~い!」

あの調子じゃあ無理そうだなと半ばあきらめつつ、俺とキルドは食事をとりに行く。後日、ティアに聞いたところ「は~」とか「ほえ~」とか相槌を言いながら聞いていたらしい。その後はハーピーの子供たちにティアの過去のことを話していたらしいと恥ずかしそうに言っていた。できるだけエミリーには酒を飲ませないようにと心の片隅にとどめておいた。
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