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本編
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みんなが頷くと、一斉に魔法を唱え始める。3人の浄化魔法が一気に飛竜の目の障壁を破り、目本体に届く。昨日の弱体化によってかなり障壁は弱まっている。私はエミリーに目配せする。エミリーも頷いて返してくれる。
「セイラちゃん。ついてこなくていいからちゃんと見ていてね」
私とエミリーは浄化魔法の出力を一気に上げる。これまでは持久戦だろうと加減していたが、このぐらい弱くなってしまえば、逆に時間を短く済ませた方が効率的だと判断した。一気に流れる力が強くなってセイラちゃんはびっくりしたが、すぐに彼女も強くした。
「が、がんばってついていきます」
セイラちゃんは初日や昨日の私たちぐらいの強さが出ているので、無理をしているのだろう。まあ、疲れたらすぐに休めるし、カリンも居てくれる。そのまま、私たちは強い魔力を込めながらそれを維持する。20分ほど経っただろうか、さすがに疲れてくる。いつもより急激に魔力を消費しているため、疲れの方も早く来ている様だ。
「エミリー、そっちはどう?」
「もうちょっとかな」
「私もかな。セイラちゃんはちょっと休む?」
「もうちょっとだけ…」
「なら、もう少しだけね」
返事を聞いて作業を切りのいいところで止めようと言おうとしたときだった。急に飛竜の目から強い光が生じ、空へと突き抜ける。
「な、なに?」
「ティア!」
「大丈夫なの?」
「ちょっと離れて!」
私たちは一斉に作業をやめ、カリンたちの方へと下がる。唯一、集中していたセイラちゃんだけがそのまま魔力を送り続けている。
「セイラ、ストップ、ストップ!」
「はえ?」
カリンが慌てて声をかけて、正気に戻ったセイラちゃんはようやく魔法を止めた。
光が静まると、先ほどまで飛竜の目があったところには何もなかった。
「どういうことなの?」
「なんだろうね。光が収まったら目が消えちゃうなんて」
「でも、なんかありますよ」
セイラちゃんが指をさしたところ、そこは飛竜の目があったところの布のすぐ上だった。そこをよく見てみると野球ボールほどの玉がある。
「ひょっとしてこれが飛竜の目だったもの?」
「ん~、そうなんじゃない。だってほら」
エミリーがその玉を手に取って見ると、確かに光の魔力が漏れ出ている。という事はこれができたばかりの魔光玉だろうか。
「でも、これ結構重いかも…」
「本当?圧縮されたけど重さは一緒ということかしら」
私も実物を持ったこともないし、魔力が詰まると重くなったりするのだろうかと思い持ってみる。結構、ずっしり来る。
「エミリーの言う通りね。これは持ち運ぶの大変かも」
「へ~、どれどれ。って、うわっ」
カリンが持とうとすると魔光玉から障壁が発生し、カリンの翼がはじかれる。
「なにこれ~。こんなんじゃ持てないよ~」
「何かしらね。作るのに関わった人しか持てないのか、光の属性がないとだめなのかしら?」
とりあえず、エミリーと私の共通点とカリンの差を適当に考えてみる。
「じゃあ、わたしももてる?」
セイラちゃんが私に聞いてくる。まあ、仮説が正しいか判断するのに協力してもらおう。
「いいわよ。でもカリンみたいにはじかれるかもしれないから、十分注意してね?」
「はい」
恐る恐る近づいていくセイラちゃん。とりあえず今のところは反応がない。カリンみたいに門前払いを喰らうことはなさそうだ。
「障壁の方は大丈夫みたいね。じゃあ、触ってみて」
「は、はい。……これ軽くないですか?」
「「へっ?」」
私とエミリーの声が重なる。いやいや、普通の剣ぐらいの重さがあったけど。私でもそこそこ重さを感じるからセイラちゃんにはかなり重たいはずだ。
「結構重くないそれ?」
「いや、軽いですよ。ほら」
セイラちゃんは爪で魔光玉をつかむと翼をバサバサと動かす。左右の翼の動きはまるで乱れず、確かに重さを感じていないようだ。
「カリン。セイラちゃんって力持ちってわけじゃないわよね?」
「ぜ~んぜん。むしろ、力はない方だよ」
「そうよね」
あの服の下がムキムキボディじゃないことがわかってほっとする。ならば、どういうことだろうか。確かに今のところは、持つのに光属性か制作時に関わるかだろうけど、それにしても私たちだけ重いなんて。
「もう一度、持ってみましょうか。セイラちゃんちょっと貸してくれる?」
「どうぞ」
セイラちゃんから玉を受け取る。
「変ね」
「どうしたのティア?」
「たしかに軽いわね」
先ほどとはうって変わって魔光玉は軽い。確かにこの重さなら翼を動かすのに邪魔にならないだろう。
「ほんとに~、ちょっと貸してみてよ」
「はいはい」
私はエミリーにせっつかれて玉を渡す。
「よっと…。うそつき!やっぱり重いよこれ!」
「そんなはずないわよ。もう一度貸してみて」
私は怒っているエミリーから半ば奪うように取り上げる。
「はいっと。…確かに重さが元に戻ってるわね。最初に持った時と同じ重さね」
「ほら、やっぱり重いじゃない」
よくわからない。最初重かったのにセイラちゃんは軽くて、次は私も軽かった。でもエミリーに渡したら重くて、さらにもう一度持つと思い。これはひょっとして…。
「もう一度、セイラちゃん持ってくれる?」
「分かりました」
セイラちゃんにもう一度持ってもらう。
「どう?」
「やっぱり軽いです」
「次はエミリーに渡してくれる?」
「?エミリーさんどうぞ」
「は~い…」
また重たいものを持たされると思って、エミリーはいやいやながら受け取る。
「だから、重いって…あれ?」
「どう、エミリー?」
「なんか、すっごく軽い。ティアなんかした?」
「何もしてないわよ。見てたでしょ。じゃあ、私に渡して」
「うん、はい」
再びエミリーから私へ玉が渡る。思っていた通り、玉は最初に持っていた時同様に重かった。
「…ん~。非常に言いづらいんだけど」
「何か分かったティア?」
「カリン、今からいうことをよく聞いてね。この玉、魔光玉っていって飛竜の目を浄化したもので、膨大な魔力を秘めているの」
「それは、最初にある程度聞いたけど…」
「そして、今考えられる結論は一つ。この魔光玉はセイラちゃんを持ち主としているみたい」
「セイラが持ち主?」
「そう。何回か私たちで持って回ったけど、常にセイラちゃんからはもらうと私もエミリーも軽く持てる。でも、私やエミリーからお互いに渡すと重たいの。ここから考えるに、セイラちゃんを持ち主として本人が自分の意志で渡した場合に限り、一時的に持ち主を変えるみたいね」
「じゃあ、又貸しとかはできないの?」
「そういうことね。私たちが軽く持てるのも、あくまでセイラちゃんが所有権を渡してくれたからよ。普通に持ったら重たいままね」
「ま、まあ、ちょっと重たいだけでしょ?」
「それならいいんだけど。この玉は使用者の魔力を増幅させることができるアイテムなの。正直、私たちじゃその効力を十分に発揮できると思えないわ」
「つまり?」
「私やエミリーだとちょっと性能のいい杖ぐらいにしかならないってこと」
「あれだけ頑張ったのに?」
「そう、あれだけ頑張ったけどね。でも、よかったじゃない。これが誰でも使えたんなら、盗まれでもしたら大変よ。セイラちゃんしか使えないなら、ずっとこの村にあるってことよ。他の人はそこまで使えなければ興味も示さないだろうし、安全といえば安全ね」
「そんな…わたしが手伝ったから」
「気にしないでセイラちゃん。もともと頼んだのは私からだし、使い方が限定される方が悪用されなくて済むし。私たちにはまた別の機会に別のものを手に入れることができるしね」
なんてったって私たちは冒険者だからとセイラちゃんに言う。さすがにこの事態を誰も予測していなかったので、驚いてばかりだ。
「それよりもこれがどのくらい魔力を増幅させるのか、知っておかないとね。ちょっと外に出てやってみましょうか?」
「それはいいんだけど…」
カリンが何か言いたそうにしている。何だろう上ばかりさっきから見て。
「あっ!」
天井を見ると屋根の一部がなくなっていた。ひょっとしてさっきの光のせいだろうか。完全に突き破ってしまっている。
「これも予想外ね。カークスや村長にも謝りにいかないと」
「ま、まあ仕方ないよティア。こうなるって分かんないって」
「エミリーの言う通りだよ。わたしから村長には言っとくよ」
「ありがとう2人とも。じゃあ、セイラちゃん一緒に行きましょう?」
「はい」
私たちはひとまず壊れた天井を無視して、小屋の前に出る。すぐ横にある細長い木を上方向に狙いをつけるようセイラちゃんに指示する。狙いをつけやすいように簡単に魔法で丸を付けて準備完了だ。
「さあ、セイラちゃん。それを握ったまま魔法を使ってみて。いつも、カリンが教えてるぐらいの強さでいいわ」
こう言っておけばカリンの教え方は無理がないし、大丈夫だろう。という見通しの甘さをすぐに後悔することになった。
「じゃ、じゃあいきます!」
セイラちゃんが魔光玉に魔力を注いで、光の魔法を使う。
ビシュウー
何だろう。大きなビームのような光が細い木を一瞬で消し去った。後ろの木の半分は半月上にくりぬかれている。
「えっと、セイラちゃん。今、弱くした?」
「は、はい。いつも通り、的に当てるぐらいで。ちゃんと当たったらぽきって折れるぐらいに」
「折れるっていうか、完全に突き抜けたね」
「しんどいと思うけど、今の魔力でかなり強めに同じ魔法を使ってみて。玉は使わないでね」
「はい!」
セイラちゃんが再び魔法を使う。今度は魔力が大きく消費されたのがすぐにわかる。そして放たれた魔法はさっきより幾分小さい穴を作り上げた。
「この年で、これだけの魔法を放てること自体がすごいことだけど…」
「明らかにさっきの魔法の方が強いよね」
「セイラはちなみにどれぐらい魔力を込めたの?」
「たぶん、さっきの三倍ぐらい」
「ということは少なく見積もっても、4倍近い魔力を増幅するわけね。これは危険だわ」
彼女と私たちとでは魔力の開きは倍以上ははあるだろう。それが一瞬にして詰められるどころか上回ってしまっているのだ。まだまだ、魔法を覚えたてで多くの魔法を使えないが、使えるようになったら到底かなわないだろう。しかし、魔力の消費はどうなのだろうか?
「セイラちゃん、最初に魔法使った時はその玉に魔力を吸い取られたりしなかった?」
「ぜんぜんないです。ほんとに使った魔力の分だけで、2回目の方が疲れました」
なんというチートアイテム。4倍近くの増幅量ながら現在のところデメリットなしとは。超希少品というのも頷ける話だ。戦う前から勝負が決まっているようなものだ。
「ここまでのものとは思ってなかったわ。とりあえず、使う時はとにかく注意して。普段も身に着けて離さないようにするか、絶対に見つからないところに隠しておきなさい」
「そうだね。あんなに強い魔法を使えるようになるって危ないよね」
「分かりました。どうにかして首にでもかけられるようにします」
「そうね。何があるか判らないからそうしている方がいいでしょ。じゃあ、今度来るときには良さそうなもの選んできてあげる」
「ほんとうですか!」
「ええ」
「わたしも一緒に選ぶ!」
「そうね。エミリーのセンスには期待しているわ」
一旦は魔光玉を預かり、小屋で保管することになった。持っていても大丈夫とは思うが、玉の魔力が暴走したり最悪無くなった場合を考えてだ。それと、小屋を破損させたことを謝りに長老のところにもカリンと一緒に行く。
「…という訳でして、考えが甘く壊してしまいました。申し訳ありません」
「いやいや、ティア殿でさえ予測できないことだったわけじゃから、仕方ないでしょう」
事情を説明すると長老は特に問題ないと言ってくれた。
「まあ、しかし、ここにいる間は使われるでしょうし、村のものを修繕に出しましょう」
「お手数をおかけします。該当の場所さえ取り除けば、木の張替えなどはこちらでやりますので」
「では、準備ができたら声をかけてください。村のものには伝えておきます」
「ご迷惑おかけします」
「良いのです。それよりその玉のことですが、そこまで強くなるのですかな?」
「長老様信じてないの?」
「そういう訳ではない、カリン。ただな、あの子がそこまで強くなるとはな」
「強くなるわけではありません。持ち主の力を増幅するだけですから。もっとも、あまりにその幅が大きく通常のものとは桁外れですが」
「こんなことをいうのはあれですが、もし何かあった場合に止めることはできますかな」
「正直言ってあの玉と彼女を離さない限り、難しいでしょう。今なら彼女自身の知識が不足しているため大丈夫ですが、このままだとすぐに私たちでは敵わなくなります」
「そんなにですか」
「一度見たらびっくりするよ。カリンだって最初見たときは言葉が出てこなかったもん」
「幸い、セイラちゃんは素直でいい子です。彼女にしか使えないという事が村にとってもいいことだと思います」
誰かが村にきて取ってしまっても使い道が殆どないですからと続ける。確かに魔力増幅のアイテムとしては値が付くだろうが、重量があるのを魔法使いは嫌うためそこまでにはならない。
それなら少しぐらい安価でも、付与師の作った魔道具の方が実用的で高く売れるだろう。
「ですが、本当に頂いてもよろしいのですかな?」
「カークスたちとはまだ話してませんが、彼らも自分たちにとって無用なものであれば納得するでしょう。この村にはお世話になっていますし」
「そう言って頂けるとありがたい。村を助けていただいたというのに」
長老とはその後は扱いにだけ注意するように伝え、家を後にした。なんにせよ今はカークスたちに伝えなければ。
そう思っていたが、みんなは今日も出先からそのまま料理の手伝いに行ったようで、小屋には帰ってこなかった。
「エミリーも食事の手伝いに行ってしまったし、帰ってから改めて話しましょう」
とりあえず、話が長くなりそうなので今のうちに日記をつける。それと―。
「これは確実に更新事項よね」
エリアの書を取りだすと、今日起きたことをまとめて最後の方のページに書いていく。まだまだ不明な点が多いけれど、取り扱い注意と書いて注意事項を並べていく。いつかこの書を持った人が、魔光玉を持った時に手に余ることがないようにと。
「セイラちゃん。ついてこなくていいからちゃんと見ていてね」
私とエミリーは浄化魔法の出力を一気に上げる。これまでは持久戦だろうと加減していたが、このぐらい弱くなってしまえば、逆に時間を短く済ませた方が効率的だと判断した。一気に流れる力が強くなってセイラちゃんはびっくりしたが、すぐに彼女も強くした。
「が、がんばってついていきます」
セイラちゃんは初日や昨日の私たちぐらいの強さが出ているので、無理をしているのだろう。まあ、疲れたらすぐに休めるし、カリンも居てくれる。そのまま、私たちは強い魔力を込めながらそれを維持する。20分ほど経っただろうか、さすがに疲れてくる。いつもより急激に魔力を消費しているため、疲れの方も早く来ている様だ。
「エミリー、そっちはどう?」
「もうちょっとかな」
「私もかな。セイラちゃんはちょっと休む?」
「もうちょっとだけ…」
「なら、もう少しだけね」
返事を聞いて作業を切りのいいところで止めようと言おうとしたときだった。急に飛竜の目から強い光が生じ、空へと突き抜ける。
「な、なに?」
「ティア!」
「大丈夫なの?」
「ちょっと離れて!」
私たちは一斉に作業をやめ、カリンたちの方へと下がる。唯一、集中していたセイラちゃんだけがそのまま魔力を送り続けている。
「セイラ、ストップ、ストップ!」
「はえ?」
カリンが慌てて声をかけて、正気に戻ったセイラちゃんはようやく魔法を止めた。
光が静まると、先ほどまで飛竜の目があったところには何もなかった。
「どういうことなの?」
「なんだろうね。光が収まったら目が消えちゃうなんて」
「でも、なんかありますよ」
セイラちゃんが指をさしたところ、そこは飛竜の目があったところの布のすぐ上だった。そこをよく見てみると野球ボールほどの玉がある。
「ひょっとしてこれが飛竜の目だったもの?」
「ん~、そうなんじゃない。だってほら」
エミリーがその玉を手に取って見ると、確かに光の魔力が漏れ出ている。という事はこれができたばかりの魔光玉だろうか。
「でも、これ結構重いかも…」
「本当?圧縮されたけど重さは一緒ということかしら」
私も実物を持ったこともないし、魔力が詰まると重くなったりするのだろうかと思い持ってみる。結構、ずっしり来る。
「エミリーの言う通りね。これは持ち運ぶの大変かも」
「へ~、どれどれ。って、うわっ」
カリンが持とうとすると魔光玉から障壁が発生し、カリンの翼がはじかれる。
「なにこれ~。こんなんじゃ持てないよ~」
「何かしらね。作るのに関わった人しか持てないのか、光の属性がないとだめなのかしら?」
とりあえず、エミリーと私の共通点とカリンの差を適当に考えてみる。
「じゃあ、わたしももてる?」
セイラちゃんが私に聞いてくる。まあ、仮説が正しいか判断するのに協力してもらおう。
「いいわよ。でもカリンみたいにはじかれるかもしれないから、十分注意してね?」
「はい」
恐る恐る近づいていくセイラちゃん。とりあえず今のところは反応がない。カリンみたいに門前払いを喰らうことはなさそうだ。
「障壁の方は大丈夫みたいね。じゃあ、触ってみて」
「は、はい。……これ軽くないですか?」
「「へっ?」」
私とエミリーの声が重なる。いやいや、普通の剣ぐらいの重さがあったけど。私でもそこそこ重さを感じるからセイラちゃんにはかなり重たいはずだ。
「結構重くないそれ?」
「いや、軽いですよ。ほら」
セイラちゃんは爪で魔光玉をつかむと翼をバサバサと動かす。左右の翼の動きはまるで乱れず、確かに重さを感じていないようだ。
「カリン。セイラちゃんって力持ちってわけじゃないわよね?」
「ぜ~んぜん。むしろ、力はない方だよ」
「そうよね」
あの服の下がムキムキボディじゃないことがわかってほっとする。ならば、どういうことだろうか。確かに今のところは、持つのに光属性か制作時に関わるかだろうけど、それにしても私たちだけ重いなんて。
「もう一度、持ってみましょうか。セイラちゃんちょっと貸してくれる?」
「どうぞ」
セイラちゃんから玉を受け取る。
「変ね」
「どうしたのティア?」
「たしかに軽いわね」
先ほどとはうって変わって魔光玉は軽い。確かにこの重さなら翼を動かすのに邪魔にならないだろう。
「ほんとに~、ちょっと貸してみてよ」
「はいはい」
私はエミリーにせっつかれて玉を渡す。
「よっと…。うそつき!やっぱり重いよこれ!」
「そんなはずないわよ。もう一度貸してみて」
私は怒っているエミリーから半ば奪うように取り上げる。
「はいっと。…確かに重さが元に戻ってるわね。最初に持った時と同じ重さね」
「ほら、やっぱり重いじゃない」
よくわからない。最初重かったのにセイラちゃんは軽くて、次は私も軽かった。でもエミリーに渡したら重くて、さらにもう一度持つと思い。これはひょっとして…。
「もう一度、セイラちゃん持ってくれる?」
「分かりました」
セイラちゃんにもう一度持ってもらう。
「どう?」
「やっぱり軽いです」
「次はエミリーに渡してくれる?」
「?エミリーさんどうぞ」
「は~い…」
また重たいものを持たされると思って、エミリーはいやいやながら受け取る。
「だから、重いって…あれ?」
「どう、エミリー?」
「なんか、すっごく軽い。ティアなんかした?」
「何もしてないわよ。見てたでしょ。じゃあ、私に渡して」
「うん、はい」
再びエミリーから私へ玉が渡る。思っていた通り、玉は最初に持っていた時同様に重かった。
「…ん~。非常に言いづらいんだけど」
「何か分かったティア?」
「カリン、今からいうことをよく聞いてね。この玉、魔光玉っていって飛竜の目を浄化したもので、膨大な魔力を秘めているの」
「それは、最初にある程度聞いたけど…」
「そして、今考えられる結論は一つ。この魔光玉はセイラちゃんを持ち主としているみたい」
「セイラが持ち主?」
「そう。何回か私たちで持って回ったけど、常にセイラちゃんからはもらうと私もエミリーも軽く持てる。でも、私やエミリーからお互いに渡すと重たいの。ここから考えるに、セイラちゃんを持ち主として本人が自分の意志で渡した場合に限り、一時的に持ち主を変えるみたいね」
「じゃあ、又貸しとかはできないの?」
「そういうことね。私たちが軽く持てるのも、あくまでセイラちゃんが所有権を渡してくれたからよ。普通に持ったら重たいままね」
「ま、まあ、ちょっと重たいだけでしょ?」
「それならいいんだけど。この玉は使用者の魔力を増幅させることができるアイテムなの。正直、私たちじゃその効力を十分に発揮できると思えないわ」
「つまり?」
「私やエミリーだとちょっと性能のいい杖ぐらいにしかならないってこと」
「あれだけ頑張ったのに?」
「そう、あれだけ頑張ったけどね。でも、よかったじゃない。これが誰でも使えたんなら、盗まれでもしたら大変よ。セイラちゃんしか使えないなら、ずっとこの村にあるってことよ。他の人はそこまで使えなければ興味も示さないだろうし、安全といえば安全ね」
「そんな…わたしが手伝ったから」
「気にしないでセイラちゃん。もともと頼んだのは私からだし、使い方が限定される方が悪用されなくて済むし。私たちにはまた別の機会に別のものを手に入れることができるしね」
なんてったって私たちは冒険者だからとセイラちゃんに言う。さすがにこの事態を誰も予測していなかったので、驚いてばかりだ。
「それよりもこれがどのくらい魔力を増幅させるのか、知っておかないとね。ちょっと外に出てやってみましょうか?」
「それはいいんだけど…」
カリンが何か言いたそうにしている。何だろう上ばかりさっきから見て。
「あっ!」
天井を見ると屋根の一部がなくなっていた。ひょっとしてさっきの光のせいだろうか。完全に突き破ってしまっている。
「これも予想外ね。カークスや村長にも謝りにいかないと」
「ま、まあ仕方ないよティア。こうなるって分かんないって」
「エミリーの言う通りだよ。わたしから村長には言っとくよ」
「ありがとう2人とも。じゃあ、セイラちゃん一緒に行きましょう?」
「はい」
私たちはひとまず壊れた天井を無視して、小屋の前に出る。すぐ横にある細長い木を上方向に狙いをつけるようセイラちゃんに指示する。狙いをつけやすいように簡単に魔法で丸を付けて準備完了だ。
「さあ、セイラちゃん。それを握ったまま魔法を使ってみて。いつも、カリンが教えてるぐらいの強さでいいわ」
こう言っておけばカリンの教え方は無理がないし、大丈夫だろう。という見通しの甘さをすぐに後悔することになった。
「じゃ、じゃあいきます!」
セイラちゃんが魔光玉に魔力を注いで、光の魔法を使う。
ビシュウー
何だろう。大きなビームのような光が細い木を一瞬で消し去った。後ろの木の半分は半月上にくりぬかれている。
「えっと、セイラちゃん。今、弱くした?」
「は、はい。いつも通り、的に当てるぐらいで。ちゃんと当たったらぽきって折れるぐらいに」
「折れるっていうか、完全に突き抜けたね」
「しんどいと思うけど、今の魔力でかなり強めに同じ魔法を使ってみて。玉は使わないでね」
「はい!」
セイラちゃんが再び魔法を使う。今度は魔力が大きく消費されたのがすぐにわかる。そして放たれた魔法はさっきより幾分小さい穴を作り上げた。
「この年で、これだけの魔法を放てること自体がすごいことだけど…」
「明らかにさっきの魔法の方が強いよね」
「セイラはちなみにどれぐらい魔力を込めたの?」
「たぶん、さっきの三倍ぐらい」
「ということは少なく見積もっても、4倍近い魔力を増幅するわけね。これは危険だわ」
彼女と私たちとでは魔力の開きは倍以上ははあるだろう。それが一瞬にして詰められるどころか上回ってしまっているのだ。まだまだ、魔法を覚えたてで多くの魔法を使えないが、使えるようになったら到底かなわないだろう。しかし、魔力の消費はどうなのだろうか?
「セイラちゃん、最初に魔法使った時はその玉に魔力を吸い取られたりしなかった?」
「ぜんぜんないです。ほんとに使った魔力の分だけで、2回目の方が疲れました」
なんというチートアイテム。4倍近くの増幅量ながら現在のところデメリットなしとは。超希少品というのも頷ける話だ。戦う前から勝負が決まっているようなものだ。
「ここまでのものとは思ってなかったわ。とりあえず、使う時はとにかく注意して。普段も身に着けて離さないようにするか、絶対に見つからないところに隠しておきなさい」
「そうだね。あんなに強い魔法を使えるようになるって危ないよね」
「分かりました。どうにかして首にでもかけられるようにします」
「そうね。何があるか判らないからそうしている方がいいでしょ。じゃあ、今度来るときには良さそうなもの選んできてあげる」
「ほんとうですか!」
「ええ」
「わたしも一緒に選ぶ!」
「そうね。エミリーのセンスには期待しているわ」
一旦は魔光玉を預かり、小屋で保管することになった。持っていても大丈夫とは思うが、玉の魔力が暴走したり最悪無くなった場合を考えてだ。それと、小屋を破損させたことを謝りに長老のところにもカリンと一緒に行く。
「…という訳でして、考えが甘く壊してしまいました。申し訳ありません」
「いやいや、ティア殿でさえ予測できないことだったわけじゃから、仕方ないでしょう」
事情を説明すると長老は特に問題ないと言ってくれた。
「まあ、しかし、ここにいる間は使われるでしょうし、村のものを修繕に出しましょう」
「お手数をおかけします。該当の場所さえ取り除けば、木の張替えなどはこちらでやりますので」
「では、準備ができたら声をかけてください。村のものには伝えておきます」
「ご迷惑おかけします」
「良いのです。それよりその玉のことですが、そこまで強くなるのですかな?」
「長老様信じてないの?」
「そういう訳ではない、カリン。ただな、あの子がそこまで強くなるとはな」
「強くなるわけではありません。持ち主の力を増幅するだけですから。もっとも、あまりにその幅が大きく通常のものとは桁外れですが」
「こんなことをいうのはあれですが、もし何かあった場合に止めることはできますかな」
「正直言ってあの玉と彼女を離さない限り、難しいでしょう。今なら彼女自身の知識が不足しているため大丈夫ですが、このままだとすぐに私たちでは敵わなくなります」
「そんなにですか」
「一度見たらびっくりするよ。カリンだって最初見たときは言葉が出てこなかったもん」
「幸い、セイラちゃんは素直でいい子です。彼女にしか使えないという事が村にとってもいいことだと思います」
誰かが村にきて取ってしまっても使い道が殆どないですからと続ける。確かに魔力増幅のアイテムとしては値が付くだろうが、重量があるのを魔法使いは嫌うためそこまでにはならない。
それなら少しぐらい安価でも、付与師の作った魔道具の方が実用的で高く売れるだろう。
「ですが、本当に頂いてもよろしいのですかな?」
「カークスたちとはまだ話してませんが、彼らも自分たちにとって無用なものであれば納得するでしょう。この村にはお世話になっていますし」
「そう言って頂けるとありがたい。村を助けていただいたというのに」
長老とはその後は扱いにだけ注意するように伝え、家を後にした。なんにせよ今はカークスたちに伝えなければ。
そう思っていたが、みんなは今日も出先からそのまま料理の手伝いに行ったようで、小屋には帰ってこなかった。
「エミリーも食事の手伝いに行ってしまったし、帰ってから改めて話しましょう」
とりあえず、話が長くなりそうなので今のうちに日記をつける。それと―。
「これは確実に更新事項よね」
エリアの書を取りだすと、今日起きたことをまとめて最後の方のページに書いていく。まだまだ不明な点が多いけれど、取り扱い注意と書いて注意事項を並べていく。いつかこの書を持った人が、魔光玉を持った時に手に余ることがないようにと。
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「なろう」さまにも、以前、投稿させていただいたお話です。
ペンネームもタイトルも違うし、かなり書き直したので、別のお話のようなものですけれど。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
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【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
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