騎士爵とおてんば令嬢【完結済】

弓立歩

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本編

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「ハァーハァーハァー」

息を整えてその瞬間に備える。勝負は一瞬。そして一撃といいたいが、おそらくカール副団長ならその次を用意するはず。その瞬間を突く。

「行きます!」

「はぁ!」

俺の突きがカール副団長の左胸を狙う。それを見越していたかのように剣を使ってずらし、左手の短剣を突き出してくる。

「そう来るかぁ!」

俺は両手を使って無理やりずらされた剣を短剣側に持ってきて致命傷にならないよう軌道を変えさせる。

「まだまだ甘いな」

カール副団長はさらに短剣を持ち替えさらに別の軌道から襲ってくる。まずい―。そう思った瞬間俺は剣を放り出して身をかがめる。一瞬遅く短剣が頭をかすめる。そして、放り投げた剣が手元に来るタイミングで再び俺は突きを繰り出した。眼前には同じく突きを繰り出すカール副団長の顔が見える。お互いの剣が斜めに突き出され激しい音とともに次の行動に移る。俺は再び突きを、カール副団長は剣と短剣の2刀流だ。

「これでっ!」

「はっ!」

「それまで!……勝者カイラス!」

わあぁあぁぁぁ

勝者の名が告げられると会場からは割れんばかりの歓声に包まれた。

「ふっ、まさか負けてしまうとは。団長に言って少し仕事量を減らさないといけません」

「ありがとうございました」

俺はカール副団長に礼を言い控室に向かう。勝負は確かにほぼ互角だった。最後の瞬間も俺の剣はカール副団長の脇腹に当たる位置に、相手の短剣は肩口に届くところだった。しかし、身震いする。戦場では待ったはない。俺の剣がいくら脇腹をとらえても即、命に関わることはないだろう。だが、あのまま肩口を越えて首まで届いていたら…。戦場で散るのは確実に俺だっただろう。

「ルールに助けられる形だった。次こそは勝てるように成らんとな」

「おめでとうカイラス」

「ガーランド…ありがとうと言いたいところだが、試合形式でなければ勝ててはいなかったな。相変わらず桁が違う」

そして、俺と入れ替わりにギルバート団長が出ていく。その背中には敗北という事からは程遠い覇気が感じられる。



「第2回戦、最終戦初め!」

審判の合図とともにギルバート団長と第三騎士団副団長との戦いが始まる。先ほどの試合に感化されて、観客も選手にも高揚感が残っている。どうやら剣豪といえども例外ではないようだ。

「次の試合が待ち遠しいのでな。手は抜かん!」

「望むところです」

お互い切り結ぶ。しかし、実力差は歴然で1合ごとに相手は壁へと押しやられていく。体格は同じようだが一撃の重さが違うことが決定的に表れた形だ。

「ここまでだな。はぁ!」

ギルバート団長が剣を一閃すると相手の剣を遠くへとはじく。さしもの騎士も得物がなくては戦えぬという事で勝負はついた。

「勝者、ギルバート!」

わあぁぁぁぁ

大きな歓声とともに勝者の名を告げる。これで第2回戦の勝者が決定した。


「それではこれより本戦への小休止をはさむ。選手もしばしの休憩を取るがよい。開始は20分後とする!」

それが告げられると、観客は今がチャンスとばかりに売店やトイレへと向かう。こういうところは本当に切り替えが早い。

「ガーランドお前は休憩時間どうするんだ?」

「そうだな…せっかく来ているしティアナに会ってくる」

「左様ですか。俺はこのままここにいるよ」

「じゃあ、また後でな」

「できれば決勝で」

そう言ってカイラスと別れた。休憩時間だという事で観客席のティアナの元へと向かう。途中に様々な視線が向けられるが、知人でもない選手に直接声をかけることは禁止されているので逆に居心地が悪い。

「あら、あの人だかりは何かしら?」

「どうやら選手の方のようですわね。ルミナリア様」

そう話をしている皆さんと一緒に人だかりの方を見るとガーランド様がこちらに歩いてくるのが見えた。

「…さっきは応援ありがとうティアナ」

ちょっと照れ臭そうに言われるガーランド様に私も照れてしまう。

「そんな…次期妻としては当然です」

「そう言ってもらえると嬉しい。おかげでもっと手を抜く予定だったが力を抜けなくなってしまった」

「あらあら、ガーランド様はもっと真面目な方だと思っていましたのに、ここ数日でプレイボーイになられましたの?」

「サーラ様。そのようなことは…」

「ふふふっ。分かっております。でも、私嬉しいですわ。これで子爵家の長女が騎士爵に嫁がされたなどというつまらないうわさもなくなりますもの。きっと明日には前途有望な騎士を見初めた目利きの令嬢といわれますわ」

「ええ、そうですわね。優勝ともなれば同格の家に嫁ぐよりももっと名誉なことかと思いますわ」

「皆さま、そのように言ってはガーランド様が緊張してしまいます」

「ティアナも言うようになったわね。数か月前のあなたに見せてあげたいわ」

「もう!」

ぷくっとふくれっ面を作る。サーラもルミナリア様たちもさっきから揶揄って。

「気にするなティアナ。どこまで行けるか判らないがやれるところまでやるだけだ」

「ほう、それは楽しみなことだ」

ガーランド様の後ろから声がすると思ったらそこにはいつの間には次の対戦相手であるガイザル様が立っていた。

「これはガイザル団長殿。次の試合はよろしくお願いします」

「警備隊の貴様程度がいい気になるなよ」

そうだそうだとおそらく第2騎士団の一団が騒ぎ立てる。彼らも騎士団としてのプライドがあるのだろうがそんなに寄ってたかって言うことではないと思うのだけど。

「やめよ!貴様らの実力でこ奴と戦うつもりか?己にプライドがあるならば実力をつけ示してみせい」

「…はっ、も、申し訳ございません」

「すまぬなガーランドよ。ただのあいさつのつもりであったが…」

「いえ構いません。それよりも次の試合、噂通りの剛剣を楽しみにしております」

「ふっ、久しぶりに心が躍る戦いができそうだ」

「お知らせいたします。次の試合まで後5分となりました。皆さまお席へとお戻りください」

「どうやら時間のようだな」

「そうですね。それではティアナ、後でまた会おう」

そう言ってガーランド様は控室へと戻られていった。私が遠めに見ても身のすくむ思いのする方と対峙される。改めて私はすごい方に嫁ぐのだなと思った。


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