潮風高校“海辺研究会”へようこそ!拍手でつなぐ僕らの青春航路

乾為天女

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第三話「初顔合わせ、まだ空気は探り合い」

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 潮の匂いが肌にまとわりつく、土曜の午前九時。
 片瀬西浜の波打ち際に、七人の高校生が立っていた。名前だけは登録していたものの、この日が「海辺研究会」の初めての全員集合日だった。
 海岸清掃イベントは自治体の主催で、近隣の高校からもボランティアが集まっていたが、彼らだけは別の目的を持っている。
 それは、クラブ設立のための「初回活動記録」の取得。そしてもうひとつ、「海辺研究会」という名前の意味を確かめる、最初の一歩だった。
「……えーっと、じゃあ今日集まってくれたみんな。改めて、ありがとう」
 陽太は、海を背にして輪の中心に立った。右手には参加者カード、左手には小さなホワイトボード。
「まずは自己紹介……も考えたんだけど、たぶん言葉より行動の方が早いと思うから、さっそくこれやってみようか」
 そう言って陽太が掲げたのは、一枚のプリントだった。
《ビーチゴミ分類テスト:上級編》
 結月が事前に準備したものだ。写真付きで、ペットボトル・漁網・貝殻・プラスチック破片などを並べ、それぞれの「漂着ゴミ」分類と発生源を当てさせる内容。
「一人ずつやってもいいけど……チームでやってみよう。話しながら、お互いの考え方も見えるし」
 輪の中に、ふわりと戸惑いの空気が漂った。
 先に手を挙げたのは、紗織だった。というより、彼女は腕時計を見ながらすでにしゃがみ込み、分類表のプリントを開いている。
「じゃあ、Aグループは私と……えっと、そこの無口くん! 一緒にやろ!」
 無口くん――裕之はちらりと彼女を見て、口元を引き結ぶと黙ってうなずいた。
 二人はそのまま、分類表を前に真剣な顔になる。
「これは……ペットボトルのラベルが韓国語。漂着物としては外国起源。分類は“海外由来・生活ごみ”」
「よし、じゃあそっちは“国内起源・漁業系”! ほら、このナイロン網、地元の船のタグある!」
 紗織の声が勢いよく響く一方で、絢香は少し距離を置いたところでしゃがみ込み、慎重に拾った貝殻を見つめていた。
「これ……分類外かな。でも、殻口の形が変。養殖場から流れた?」
 彼女の小さな独り言に、後ろから悠介がのぞき込んだ。
「え、貝殻? どれどれ……まあ、海洋生物系ってことでいいんじゃね? 分類番号4で」
「それ、雑すぎる」
「へへ。大枠は合ってるっしょ」
 そう言いながらも、悠介は手帳に「貝殻→養殖場?」とメモを取っていた。
 一方その頃、豊は黙々とゴミ袋をまとめ、拾ったごみの種類をスマホに入力していた。誰に何を言われるでもなく、時間通り、一定のペースで。
 陽太はそんな様子を見渡しながら、静かに笑った。
 誰もがまだ探り合っていて、名前も呼び慣れていない。
 でも、言葉よりもずっと雄弁に、彼らの“得意”が姿を見せていた。
「じゃあ、そろそろ写真、撮りますか」
 結月がスマホを手に立ち上がった。
「作業風景と集合写真。初回活動の証明に使うから、こっち向いてくださーい」
「ちょ、ちょっと待って髪直す!」と紗織が前髪を整え、
「目、つぶらないようにしなきゃ……」と悠介がつぶやく。
 そして、ぱしゃり。
 初めての集合写真。
 その一枚には、まだ距離感がある。でも、共通の目的に向かって立っている姿が確かに写っていた。



 海岸清掃が一段落したのは、正午を少し過ぎたころだった。
 火ばさみは回収箱へ、ビニール袋は重量ごとに分別。自治体の担当者からは「ご協力ありがとうございました」と丁寧な礼があった。参加証明のスタンプが押された紙を受け取りながら、メンバーたちはそれぞれに小さな達成感を味わっていた。
「ふぅ……よく拾ったよね、私たち」
 紗織が腰に手をあてて伸びをする。
 結月は、その横で撮影した記録写真をクラウドに保存しながら言った。
「分類テストの結果も、全体として正答率は約84%。正直、想像以上です」
「特に……この分類表」
 彼女は裕之の手作りのメモを取り出し、全員に見せた。図解付きでごみの出所や状態まで分析されており、自治体の職員が思わず「これ、貸してもらえますか」と言ったほどだ。
「うちの科学部より詳しい……」と呟いたのは絢香だった。
 そのとき。
 「じゃあ、ここでひとつ、やりますか!」
 と、陽太が拍手しながら前に出た。
「いま、僕らが集まって、初めてひとつのことに取り組んで……小さいかもしれないけど、ちゃんと成果を出せた。だから――」
 彼は自分のリュックから、小さなメダル型の紙を取り出した。銀色の折り紙に、マジックでそれぞれの名前とひと言が書かれている。
「これ、表彰メダルです。即興で作ったやつだけど、一人ひとりに渡します!」
「え……えぇ?!」と紗織が目を丸くする。
「まずは――『即時入力賞』、紗織さん!」
 陽太が渡すと、彼女は照れながらそれを受け取る。
「つ、ついに私も受賞者に……! ありがとうございます!」
「続いて、『分類精度最高賞』、裕之くん! 正答率、文句なしの90%!」
 裕之は照れたように一歩前に出て、無言でメダルを受け取った。
「そして『冷静判断賞』、豊くん。作業効率と安定感、すごかった!」
 「……どうも」とだけ言って、豊が礼をした。
 「『現場即応賞』、悠介くん。あのクラゲ踏んだときのよけ方、ナイス判断!」
 「いや、あれは本能だけどな」
 「『観察力賞』、絢香さん。細かいところ、誰より気づいてた」
 「ありがと……でも、私、まだまだ反省点あるから」
 「そして『記録管理賞』、結月さん! カメラも、進行も、完璧でした!」
 「……いえ、当然の役割ですから」
 結月は受け取りながらも、手帳に「表彰メダル:写真化要」とメモした。
 陽太は最後に、残ったひとつを掲げて笑った。
「で、これは自分に――『言い出しっぺ賞』!」
 みんなが笑った。
 初めて、全員が同じテンポで笑った瞬間だった。
 誰が主役でもなく、誰が目立つでもなく。
 けれどそれぞれが、それぞれの“得意”を認め合った。
 拍手が自然に生まれる。最初は小さかったけれど、次第にひとつのリズムになっていく。
 太陽が雲間から差し込み、七人の影が、ゆっくりと砂に伸びていった。
 その日。まだ名前も覚えきれていない仲間たちの間に、初めての“称え合う”文化が芽を出した。
 風はやさしく、潮の音がどこか遠くで答えるように響いていた。
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