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第六話「迷わず進め、乗り換え案内」
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五月十五日、日曜日。午前七時三十分。
集合時間を過ぎた片瀬江ノ島駅のホームは、焦りに染まっていた。
「……え? 運転見合わせ?」
駅員の声を遮るように、紗織のスマートウォッチがバイブした。
「小田急、藤沢―江ノ島間、運転停止中。復旧は未定……!」
彼女の声に、周囲の高校生たちがざわつく。
この日、海辺研究会は湘南港沖の採水地点で“環境データ採取”を行う予定だった。市の研究センターが貸してくれた簡易キットを使い、波高・水温・濁度などを測る、初の本格的なフィールドワーク。
しかもこの日は潮位が最も安定する中潮の日。日程は変更不可、予備日もない。
「マズい……このままじゃ間に合わない!」
悠介が髪をかき上げ、後ろで絢香が唇を噛む。
陽太はスマホを開きながら、集合した7人の顔を見回した。
そのとき、駅前ロータリーの隅に立っていた豊が、ポケットからワイヤレスイヤホンを外した。
「バスに切り替える」
「え?」
「ここから逗子駅経由で、海沿いの134号バイパスに出る。始発バスが5分後にある。そこから乗り継げば、ポイントBに40分前に着ける」
彼はスマホの地図アプリをみせた。経路はすでに複数比較済み。混雑、渋滞、接続の遅延まで予測が添えられている。
「乗るなら、今すぐ移動」
その言葉に、誰も異論を挟まなかった。
「……よし、行こう!」
陽太が声をあげ、全員が駅から走り出す。
豊は最後尾で人数を数えながら、無言でスマホのスクリーンショットをグループLINEに投稿した。ルート案内と到着予想時刻、バス停の地図が一枚の画像にまとめられていた。
途中、一本目のバスは全員が座れず、立ち乗りのまま波打つ坂道を抜けた。
車内で結月が小声で言った。
「……すごい、何もかも計算されてた」
「うん、正直ちょっと感動してる」
絢香が頷くと、紗織がスマホで「神」と打ちかけてやめた。
「さすがに称号は早いか……でも、すごいよね」
だが当の本人、豊は何も言わず、前を見ていた。
やがて二本目のバスが停車し、全員が降りた。
海が広がる丘の上、遠くに目的地の観測杭が見える。
「あと1.2km。平坦。徒歩15分で着く」
そう言い切った豊に、陽太が肩を叩いた。
「ありがとな、豊。助かった」
「当然の選択をしただけ」
それだけ言うと、彼はゆっくりと歩き出した。
結月が陽太の隣に並び、小さく呟く。
「“当然”って……簡単そうに言うけど、あれ、絶対に誰にでもできることじゃない」
「うん。しかも、言わずに全部やってくれた」
そのときだった。
後ろを歩いていた悠介が、ぽつりとつぶやいた。
「今決めた。豊には“遠隔対応係”って名札をつける。勝手に」
「ふふっ」と笑いが起きた。
そのころには、全員がもうリュックを背負い直し、歩調を揃え始めていた。
たどり着いた採水地点は、まだ誰もいない静かな海辺だった。
浜辺に立ち、陽太は手帳に書き記した。
《豊:状況予測+移動再編成→全員を時間内誘導=スキル共有価値あり》
その文字の横に、小さく青いペンで“次の役割検討”と書き添える。
トラブルの朝。誰が指示を出すわけでもなく、最適解を見つけてくれた人がいた。
それは、派手なガッツポーズでもない。けれど全員の“足元”を支えてくれた判断だった。
潮風のなか、彼の無言の貢献が静かに波に溶けていった。
集合時間を過ぎた片瀬江ノ島駅のホームは、焦りに染まっていた。
「……え? 運転見合わせ?」
駅員の声を遮るように、紗織のスマートウォッチがバイブした。
「小田急、藤沢―江ノ島間、運転停止中。復旧は未定……!」
彼女の声に、周囲の高校生たちがざわつく。
この日、海辺研究会は湘南港沖の採水地点で“環境データ採取”を行う予定だった。市の研究センターが貸してくれた簡易キットを使い、波高・水温・濁度などを測る、初の本格的なフィールドワーク。
しかもこの日は潮位が最も安定する中潮の日。日程は変更不可、予備日もない。
「マズい……このままじゃ間に合わない!」
悠介が髪をかき上げ、後ろで絢香が唇を噛む。
陽太はスマホを開きながら、集合した7人の顔を見回した。
そのとき、駅前ロータリーの隅に立っていた豊が、ポケットからワイヤレスイヤホンを外した。
「バスに切り替える」
「え?」
「ここから逗子駅経由で、海沿いの134号バイパスに出る。始発バスが5分後にある。そこから乗り継げば、ポイントBに40分前に着ける」
彼はスマホの地図アプリをみせた。経路はすでに複数比較済み。混雑、渋滞、接続の遅延まで予測が添えられている。
「乗るなら、今すぐ移動」
その言葉に、誰も異論を挟まなかった。
「……よし、行こう!」
陽太が声をあげ、全員が駅から走り出す。
豊は最後尾で人数を数えながら、無言でスマホのスクリーンショットをグループLINEに投稿した。ルート案内と到着予想時刻、バス停の地図が一枚の画像にまとめられていた。
途中、一本目のバスは全員が座れず、立ち乗りのまま波打つ坂道を抜けた。
車内で結月が小声で言った。
「……すごい、何もかも計算されてた」
「うん、正直ちょっと感動してる」
絢香が頷くと、紗織がスマホで「神」と打ちかけてやめた。
「さすがに称号は早いか……でも、すごいよね」
だが当の本人、豊は何も言わず、前を見ていた。
やがて二本目のバスが停車し、全員が降りた。
海が広がる丘の上、遠くに目的地の観測杭が見える。
「あと1.2km。平坦。徒歩15分で着く」
そう言い切った豊に、陽太が肩を叩いた。
「ありがとな、豊。助かった」
「当然の選択をしただけ」
それだけ言うと、彼はゆっくりと歩き出した。
結月が陽太の隣に並び、小さく呟く。
「“当然”って……簡単そうに言うけど、あれ、絶対に誰にでもできることじゃない」
「うん。しかも、言わずに全部やってくれた」
そのときだった。
後ろを歩いていた悠介が、ぽつりとつぶやいた。
「今決めた。豊には“遠隔対応係”って名札をつける。勝手に」
「ふふっ」と笑いが起きた。
そのころには、全員がもうリュックを背負い直し、歩調を揃え始めていた。
たどり着いた採水地点は、まだ誰もいない静かな海辺だった。
浜辺に立ち、陽太は手帳に書き記した。
《豊:状況予測+移動再編成→全員を時間内誘導=スキル共有価値あり》
その文字の横に、小さく青いペンで“次の役割検討”と書き添える。
トラブルの朝。誰が指示を出すわけでもなく、最適解を見つけてくれた人がいた。
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