潮風高校“海辺研究会”へようこそ!拍手でつなぐ僕らの青春航路

乾為天女

文字の大きさ
10 / 25

第十話「波に揺られて、即席の補修」

しおりを挟む
 六月二十六日、由比ガ浜。
 朝九時の海は、思いのほか荒れていた。
 南からの風が浜辺に波を打ち寄せ、干潮時間にもかかわらず水位は不安定に上下していた。
「……これ、まずいんじゃない? 観測機、波に持ってかれそうだよ?」
 紗織が測定キットを海から急いで引き上げながら、眉をひそめた。
「この波だと、GPSブイが流される可能性ある。風速、予測より強い……」
 豊がスマホを見ながら、短く言う。
 陽太が全体を見回す。
「このままだと、観測中断するしかないか……でも、せっかく来たのに……」
 そのときだった。
 「んー……じゃあ、こうするか」
 悠介が、濡れた測定スタンドを片手に立ち上がった。
 手には、何やら長めの竹棒と、ガムテープ。それに、近くのベンチ脇から拾ってきた廃材のプラスチック板。
「即席だけど……“波よけガード”つくる」
「え、今ここで?」
 「つーか今しかないだろ。波が当たる側に竹を組んで、固定。横流れの角度はこれくらいで……」
 悠介は、メジャーも使わず感覚で棒の長さを測り、手早く器材の脚部を補強していく。
 数分後、測定装置の前には、簡易なガードができていた。まるで竹の骨組みに、ガムテープで盾を貼りつけたようなつくり。
 「見た目はアレだけど、意外と丈夫そう……」
 絢香が驚いたようにつぶやく。
「波圧は“受け止める”より“そらす”方が壊れにくい。たぶん、これで十分」
 悠介は手を止め、腰ポーチから小さな防水ノートを取り出した。
 そこには既にこう書いてあった。
 《波衝撃に対する装置保護の暫定対策(案)》
 《素材:竹、ガムテ、ペット板。重量バランス注意》
 《次回:軽量防水パネル導入?》
「……もう考えてたの?」
 陽太が思わず聞く。
「うん。トラブる可能性、予測してた」
「でもさ、それなら昨日のうちに言ってくれても……」
「いや、言うほどのことじゃなかったし、“どうなるか見てから”でもよかったし」
 その答えに、陽太は思わず笑った。
「相変わらずだな、悠介は。“粗いけど光る”って、ホントに君の代名詞になりそうだよ」
 「んー、むしろ“とりあえず間に合わせる係”でいいけどな」
 紗織が笑いながら言った。
「それ、マジで名札作るよ? “補修番長”ってやつ」
「番長って……」
 そんなやりとりをよそに、再び計測作業が再開された。
 波の音は変わらず強かったが、装置は倒れなかった。
 むしろ、メンバー全員の集中力が以前より増していた。
 それぞれが、さっきまで悠介が作業していた様子を目の奥に焼きつけていたからだ。
 誰かが黙って“チームのための選択”をしたとき、その場にいた者は自然と変わる。
 風の中で、陽太がそっとメモを取る。
 《悠介:即応力→試行と観察の交差点に立てる人材。+事前想定あり》
 その文字の横に、ペンで丸をつけてから、もう一言。
 《間に合わせる力=挑戦の持続条件》
 そう書いた瞬間、海の上で風が止み、一瞬だけ太陽が雲間から差した。
 海とチームの両方にとって、“一時的な補修”が、希望の灯をつなぐ手段になることもある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

処理中です...