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第十話「波に揺られて、即席の補修」
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六月二十六日、由比ガ浜。
朝九時の海は、思いのほか荒れていた。
南からの風が浜辺に波を打ち寄せ、干潮時間にもかかわらず水位は不安定に上下していた。
「……これ、まずいんじゃない? 観測機、波に持ってかれそうだよ?」
紗織が測定キットを海から急いで引き上げながら、眉をひそめた。
「この波だと、GPSブイが流される可能性ある。風速、予測より強い……」
豊がスマホを見ながら、短く言う。
陽太が全体を見回す。
「このままだと、観測中断するしかないか……でも、せっかく来たのに……」
そのときだった。
「んー……じゃあ、こうするか」
悠介が、濡れた測定スタンドを片手に立ち上がった。
手には、何やら長めの竹棒と、ガムテープ。それに、近くのベンチ脇から拾ってきた廃材のプラスチック板。
「即席だけど……“波よけガード”つくる」
「え、今ここで?」
「つーか今しかないだろ。波が当たる側に竹を組んで、固定。横流れの角度はこれくらいで……」
悠介は、メジャーも使わず感覚で棒の長さを測り、手早く器材の脚部を補強していく。
数分後、測定装置の前には、簡易なガードができていた。まるで竹の骨組みに、ガムテープで盾を貼りつけたようなつくり。
「見た目はアレだけど、意外と丈夫そう……」
絢香が驚いたようにつぶやく。
「波圧は“受け止める”より“そらす”方が壊れにくい。たぶん、これで十分」
悠介は手を止め、腰ポーチから小さな防水ノートを取り出した。
そこには既にこう書いてあった。
《波衝撃に対する装置保護の暫定対策(案)》
《素材:竹、ガムテ、ペット板。重量バランス注意》
《次回:軽量防水パネル導入?》
「……もう考えてたの?」
陽太が思わず聞く。
「うん。トラブる可能性、予測してた」
「でもさ、それなら昨日のうちに言ってくれても……」
「いや、言うほどのことじゃなかったし、“どうなるか見てから”でもよかったし」
その答えに、陽太は思わず笑った。
「相変わらずだな、悠介は。“粗いけど光る”って、ホントに君の代名詞になりそうだよ」
「んー、むしろ“とりあえず間に合わせる係”でいいけどな」
紗織が笑いながら言った。
「それ、マジで名札作るよ? “補修番長”ってやつ」
「番長って……」
そんなやりとりをよそに、再び計測作業が再開された。
波の音は変わらず強かったが、装置は倒れなかった。
むしろ、メンバー全員の集中力が以前より増していた。
それぞれが、さっきまで悠介が作業していた様子を目の奥に焼きつけていたからだ。
誰かが黙って“チームのための選択”をしたとき、その場にいた者は自然と変わる。
風の中で、陽太がそっとメモを取る。
《悠介:即応力→試行と観察の交差点に立てる人材。+事前想定あり》
その文字の横に、ペンで丸をつけてから、もう一言。
《間に合わせる力=挑戦の持続条件》
そう書いた瞬間、海の上で風が止み、一瞬だけ太陽が雲間から差した。
海とチームの両方にとって、“一時的な補修”が、希望の灯をつなぐ手段になることもある。
朝九時の海は、思いのほか荒れていた。
南からの風が浜辺に波を打ち寄せ、干潮時間にもかかわらず水位は不安定に上下していた。
「……これ、まずいんじゃない? 観測機、波に持ってかれそうだよ?」
紗織が測定キットを海から急いで引き上げながら、眉をひそめた。
「この波だと、GPSブイが流される可能性ある。風速、予測より強い……」
豊がスマホを見ながら、短く言う。
陽太が全体を見回す。
「このままだと、観測中断するしかないか……でも、せっかく来たのに……」
そのときだった。
「んー……じゃあ、こうするか」
悠介が、濡れた測定スタンドを片手に立ち上がった。
手には、何やら長めの竹棒と、ガムテープ。それに、近くのベンチ脇から拾ってきた廃材のプラスチック板。
「即席だけど……“波よけガード”つくる」
「え、今ここで?」
「つーか今しかないだろ。波が当たる側に竹を組んで、固定。横流れの角度はこれくらいで……」
悠介は、メジャーも使わず感覚で棒の長さを測り、手早く器材の脚部を補強していく。
数分後、測定装置の前には、簡易なガードができていた。まるで竹の骨組みに、ガムテープで盾を貼りつけたようなつくり。
「見た目はアレだけど、意外と丈夫そう……」
絢香が驚いたようにつぶやく。
「波圧は“受け止める”より“そらす”方が壊れにくい。たぶん、これで十分」
悠介は手を止め、腰ポーチから小さな防水ノートを取り出した。
そこには既にこう書いてあった。
《波衝撃に対する装置保護の暫定対策(案)》
《素材:竹、ガムテ、ペット板。重量バランス注意》
《次回:軽量防水パネル導入?》
「……もう考えてたの?」
陽太が思わず聞く。
「うん。トラブる可能性、予測してた」
「でもさ、それなら昨日のうちに言ってくれても……」
「いや、言うほどのことじゃなかったし、“どうなるか見てから”でもよかったし」
その答えに、陽太は思わず笑った。
「相変わらずだな、悠介は。“粗いけど光る”って、ホントに君の代名詞になりそうだよ」
「んー、むしろ“とりあえず間に合わせる係”でいいけどな」
紗織が笑いながら言った。
「それ、マジで名札作るよ? “補修番長”ってやつ」
「番長って……」
そんなやりとりをよそに、再び計測作業が再開された。
波の音は変わらず強かったが、装置は倒れなかった。
むしろ、メンバー全員の集中力が以前より増していた。
それぞれが、さっきまで悠介が作業していた様子を目の奥に焼きつけていたからだ。
誰かが黙って“チームのための選択”をしたとき、その場にいた者は自然と変わる。
風の中で、陽太がそっとメモを取る。
《悠介:即応力→試行と観察の交差点に立てる人材。+事前想定あり》
その文字の横に、ペンで丸をつけてから、もう一言。
《間に合わせる力=挑戦の持続条件》
そう書いた瞬間、海の上で風が止み、一瞬だけ太陽が雲間から差した。
海とチームの両方にとって、“一時的な補修”が、希望の灯をつなぐ手段になることもある。
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