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第十二話「割れた円陣、再定義のホワイトボード」
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七月十七日、江の島灯台のふもとにある市の研修施設。
その夜、海辺研究会は集中合宿の真っ只中にあった。
二泊三日、全日程フル稼働。フィールド観測、試料の初期処理、機材点検、成果の中間整理――やるべきことは山のようにあった。
時刻は深夜0時を回ったばかり。
海の近くとはいえ、会議室の空気は熱く、いや、重かった。
ホワイトボードの前では、紗織が腕を組み、絢香はノートを睨みつけ、悠介は机に肘をついたまま、指先をトントンとリズムなく叩いている。
「……つまり、作業の割り振りが偏ってるってこと?」
結月の声は冷静だったが、その目には疲労と戸惑いがにじんでいた。
「偏ってるっていうか……みんな、自分の“やりたいこと”だけ持ちすぎてる気がする」
紗織がため息混じりに言う。
「うち、科学研究会じゃないんだよね。イベントと報告資料と、時間調整と、SNSも必要なのに……」
「俺は科学やってんだけどな……」
ぽつりとつぶやいたのは裕之。ノートパソコンの画面に向かったまま、誰も見ない。
「ねえ、誰か決めてよ、どれを優先すべきか」
絢香の声が少しだけ強くなる。
「じゃないと、また誰か倒れるよ。今度は別の誰かが」
室内に沈黙が落ちた。
そのとき――陽太がゆっくりと立ち上がった。
彼は誰とも目を合わせず、ホワイトボードのペンを取った。
「……“得意”で、もう一回並び直してみよう」
「え?」と絢香が言いかけたが、陽太は手を止めずに書き出す。
《・計測/記録→裕之・結月》
《・時間管理→紗織》
《・現場対応→悠介》
《・進行設計→絢香》
《・判断・修正→豊》
《・調整/仕切り→陽太》
《・全体ログ化→ミズキ(希望待ち)》
「名前の横に“役職”を書かないのは、まだ柔らかくいたいから」
「これって……」
「係じゃなくて、“視点”としての再配置。みんなが見る角度を変えれば、同じ作業でも“意味”が違ってくる」
陽太は、背後のメンバーを振り返った。
「たとえば、“記録を取る人”が、数字だけじゃなく“誰が何をやってたか”も記録してくれたら、次に託すとき楽になるよね」
結月が、ゆっくりうなずいた。
「“イベント準備”も、“時間管理”と“現場対応”で視点が違う。でも両方いなきゃ機能しない」
紗織が口を開き、隣の悠介と目を合わせた。
「“やること”を分けるんじゃなくて、“見てる方向”をそろえるんだね」
豊が小さく言った。
陽太は、ふっと笑ってホワイトボードの下のスペースに小さく書き加えた。
《※方向が揃えば、速さは自然と生まれる》
「それ、どっかの名言?」
「いや、今思いついた」
「雑だなぁ……」
「でも、ちょっとかっこいいかも」
小さな笑い声が、部屋に広がる。
その夜、七人はホワイトボードの前に円をつくった。
誰かが輪を離れても、誰かが内側から手を伸ばす。
そういう“再定義されたチーム”が、そこにはあった。
眠い目をこすりながら、結月が記録メモに一行を書き加えた。
《今日:得意の再発見。混乱を、視点のちがいで読み解く夜》
その夜、海辺研究会は集中合宿の真っ只中にあった。
二泊三日、全日程フル稼働。フィールド観測、試料の初期処理、機材点検、成果の中間整理――やるべきことは山のようにあった。
時刻は深夜0時を回ったばかり。
海の近くとはいえ、会議室の空気は熱く、いや、重かった。
ホワイトボードの前では、紗織が腕を組み、絢香はノートを睨みつけ、悠介は机に肘をついたまま、指先をトントンとリズムなく叩いている。
「……つまり、作業の割り振りが偏ってるってこと?」
結月の声は冷静だったが、その目には疲労と戸惑いがにじんでいた。
「偏ってるっていうか……みんな、自分の“やりたいこと”だけ持ちすぎてる気がする」
紗織がため息混じりに言う。
「うち、科学研究会じゃないんだよね。イベントと報告資料と、時間調整と、SNSも必要なのに……」
「俺は科学やってんだけどな……」
ぽつりとつぶやいたのは裕之。ノートパソコンの画面に向かったまま、誰も見ない。
「ねえ、誰か決めてよ、どれを優先すべきか」
絢香の声が少しだけ強くなる。
「じゃないと、また誰か倒れるよ。今度は別の誰かが」
室内に沈黙が落ちた。
そのとき――陽太がゆっくりと立ち上がった。
彼は誰とも目を合わせず、ホワイトボードのペンを取った。
「……“得意”で、もう一回並び直してみよう」
「え?」と絢香が言いかけたが、陽太は手を止めずに書き出す。
《・計測/記録→裕之・結月》
《・時間管理→紗織》
《・現場対応→悠介》
《・進行設計→絢香》
《・判断・修正→豊》
《・調整/仕切り→陽太》
《・全体ログ化→ミズキ(希望待ち)》
「名前の横に“役職”を書かないのは、まだ柔らかくいたいから」
「これって……」
「係じゃなくて、“視点”としての再配置。みんなが見る角度を変えれば、同じ作業でも“意味”が違ってくる」
陽太は、背後のメンバーを振り返った。
「たとえば、“記録を取る人”が、数字だけじゃなく“誰が何をやってたか”も記録してくれたら、次に託すとき楽になるよね」
結月が、ゆっくりうなずいた。
「“イベント準備”も、“時間管理”と“現場対応”で視点が違う。でも両方いなきゃ機能しない」
紗織が口を開き、隣の悠介と目を合わせた。
「“やること”を分けるんじゃなくて、“見てる方向”をそろえるんだね」
豊が小さく言った。
陽太は、ふっと笑ってホワイトボードの下のスペースに小さく書き加えた。
《※方向が揃えば、速さは自然と生まれる》
「それ、どっかの名言?」
「いや、今思いついた」
「雑だなぁ……」
「でも、ちょっとかっこいいかも」
小さな笑い声が、部屋に広がる。
その夜、七人はホワイトボードの前に円をつくった。
誰かが輪を離れても、誰かが内側から手を伸ばす。
そういう“再定義されたチーム”が、そこにはあった。
眠い目をこすりながら、結月が記録メモに一行を書き加えた。
《今日:得意の再発見。混乱を、視点のちがいで読み解く夜》
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