潮風高校“海辺研究会”へようこそ!拍手でつなぐ僕らの青春航路

乾為天女

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第十三話「名脇役、自分の未来を語る」

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 八月一日、午後。潮風高校・進路相談室。
 冷房の効いた静かな部屋に、紙をめくる音が控えめに響いた。
 机をはさんで向かい合うのは、進路指導担当の佐野先生と――結月。
 窓の外ではセミが断続的に鳴いている。だが、この室内に響くのは、ページをめくる手の音と、キーボードを軽く叩く音だけ。
「……水野さん、心理学科志望?」
 「はい」
 結月の声は小さく、それでもしっかりと芯があった。
 「面白い選択だね。志望理由、もう言語化できてる?」
 彼女はうなずき、膝の上のファイルを開いた。
 一枚目に、手書きの見出しがある。
 《“主役じゃない場所”で支えるということ》
「私は、自分を“名脇役”だと思ってます」
 先生の眉が少し上がる。
「目立たないし、発表も苦手。でも、人の動きを読み取って、足りないところを埋めるのは得意です」
 彼女は、そのまま淡々と語る。
 合宿での進行表作成、クラブ申請の締切管理、写真記録の並列タグ化、スケジュール崩壊時の再構成。
 それらはすべて、彼女が“表に出ずにやってきた仕事”だ。
「主役は、変わる。けど、“脇役”には役割があるんです」
「“変わらない人”がいるから、場が保たれる。それって、心理的にも重要なことだと私は思っていて……」
 彼女はカバンから雑誌の切り抜きを取り出した。
 表紙には、《フィールド心理学最前線》の文字。
 特集の中には、災害ボランティアや地域支援の現場で、裏方の行動が集団の安定性を左右するという研究が載っていた。
「“場を読む力”や、“見えない不安”を察知する視点。それが、心理学で活かせるって知って……この分野に進みたいと思ったんです」
 静かな口調に、佐野先生はしばらく沈黙していた。
 やがて、ファイルをそっと閉じて言った。
「……あなたの言葉は、すごく届くね」
「え?」
「大声じゃない。でも、“覚えていたくなる”話だった」
 結月の肩が、少しだけ緩んだ。
「そう言ってもらえると、ほっとします」
「ところで、その“名脇役”という呼び方、好きなんだね?」
 「はい。自分を過大評価しないで済むし、でも、ちゃんと“舞台に立ってる”感覚はあるので」
 「なるほど。じゃあ、その名脇役、進路志望書にも書く?」
 結月は小さく笑った。
 「……書いてもいいですか?」
 「もちろん。あなたが“どう立っていたか”は、それだけで一つの物語だよ」
 進路相談が終わったあと、結月は図書室に寄った。
 海辺研究会の記録ノートをひらき、前夜のデータ処理の進捗を書き込む。
 そして、ページの余白に小さく記す。
 《“支える”ことは、確かに動かしているという証明》
 その文字に、何も飾りはない。
 けれど、彼女が歩き出す“未来”の輪郭が、はっきりとそこに現れていた。
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