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第三章「体育祭の応援団長決定戦(ガチ)」
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――それはある日の朝、突然に告げられた。
「今年の体育祭、応援団長は“決定戦”で決めます!」
始業チャイムの鳴る1分前。教室の前に現れたのは、またしても生徒会副会長・麗真だった。
「というわけで、みなさん!今日の6時間目、体育館に集合!『応援団長決定戦』、開幕で~す!」
「いや開幕しないで!!」
「説明がいる!詳細を寄越せ!!」
「そもそも何と戦うんだよ!!」
教室中がざわつく中、麗真は淡々と続けた。
「ちなみに対決内容は、①応援演説、②団長っぽさ審査、③運だめし、の三本立てです。文武運そろった真の団長を決めます!」
「三つ目だけ雑すぎない!?」
「いやもう『運』って……!」
「“団長っぽさ”って誰基準!?」
「生徒会基準です!」
全員が納得しかけたその時――
「はい質問!」
手を挙げたのは、菜緒だった。
「これ、立候補制ですか?それとも強制参加ですか?」
「立候補制です。でも立候補しない人には、逆指名があります!」
「だから強制じゃん!!」
混乱と動揺のうねりの中、栄徳だけが腕を組み、しみじみと言った。
「……ついに来たか、俺が花とラップするための、応援団長への第一歩が……」
「そんなのないよ!?」
「むしろ最終目標がバグってる!」
「いやでも、応援ってつまり“声を届ける”ってことだろ?花の声を聞いた俺が、今度は“届ける番”ってことじゃないか?」
「納得しかけてる自分が怖い」
そのころ、哲哉はノートを見ながら「記憶の花」についてのメモを黙々と取っていた。だがその耳には、しっかりと「応援団長決定戦」というワードが届いていた。
「……またなんか、騒がしいことになってきたな」
6時間目。体育館。
全学年が集められた中、壇上にはなぜか花の着ぐるみを着た麗真がいた。しかも中央で、思いっきり両手を広げている。
「さあ!学年の代表を決める時が来たッ!!応援団長決定戦、開幕です!!」
「お前が一番ノってるじゃねえか」
「なんで着ぐるみ着てんの?」
「お花の精霊っぽいでしょ?」
「お前、まだ引っ張ってたのその設定……」
隣では、体育教師の山城先生がマイクを握っていた。見た目はガチムチ。中身は思ったより繊細。
「えー、みんな静かにー。では、まず応援演説から始めます。立候補者は……」
「はーい!!」
元気に手を挙げたのは、華也子だった。
「応援団って、演出やパフォーマンスも大事ですよね!私、舞台照明と構成に関しては一家言あるんです!」
「それ演劇部の話じゃない!?」
「むしろ応援そっちのけになりそう!」
「でもビジュアル面は期待できそう……!」
続いて、誰かが腕をぶんぶん振って名乗り出た。
「はいはーい!!私、菜緒です!」
「ええ!?お前やんの!?」
「うん、なんとなく!何かこう、感じたの!」
「花に!?」
「花にじゃないよ!!直感!!」
ざわめく中、悠里が後ろでぽつりと呟く。
「これって、もしかして俺の出番だったのでは……」
「なにしれっと主役ヅラしてんの」
そしてもう一人、誰よりも自然に、誰よりも「もう立候補済み」みたいな顔で壇上に上がったのが――
「哲哉!?お前、いつ立候補してた!?」
「いや、なんかさ。お前ら見てたら、やらない方が逆に気になってきたんだよ」
「それが“やらされてる”ってことなんだけどな」
「でも……まあ、お前が団長でも悪くないかも」
「えっ、なに今の?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
(沈黙)
(全員が“それ以上追及しないでください”という顔)
そして残る一枠、栄徳が手を挙げようとしたその瞬間――
「では、ここからは団長っぽさ審査!生徒会が独自に決めた“団長っぽいオーラ”の持ち主を一名選出します!」
「は!?オーラ!?完全に適当だなこれ!?」
「では……推薦するのは……苑夏!」
「えええええっっっっ!?」
ステージ下から、驚きすぎて持ってた水筒落とした苑夏が叫んだ。
「な、なんで!?私!?無理無理無理、団長とか絶対ムリ!」
「でも君、先週の合唱コンクールのとき、クラス全体に『ピッチずれてる』ってストレートに言ってたじゃない?」
「いやあれはっ!!あれはそのっ!我慢できなくてっ!!」
「つまり、全体を見て、冷静に指導できる素質がある!」
「ない!!私にその自覚、まったくないから!!」
全員からの「説得力ある~」という視線に囲まれ、苑夏は震えながらステージに引っ張られていった。
「……おわった」
「でもたぶん、応援団長ってそういうもんだよ」
そして、最後の種目。
「ではラスト、運だめし!!」
ステージに、巨大ガラポンが運ばれてくる。
「ルールは簡単。この中に“金の玉”が1個だけあります。それを引いた2人が、最終的な団長に決定です!」
「ええ!?じゃあ今までのは何!?」
「応援演説も、団長っぽさ審査も、前フリ!?」
「完全に“持ってる奴が勝つ”ってことじゃん!」
どよめきの中、全員が順にハンドルを回す。
ガラガラガラ――コロン。
白。
ガラガラガラ――カラン。
赤。
ガラガラガラ――コロン。
青。
そして――
「……金、出た!!!」
一人目、哲哉。
「やっぱりなぁああああ!!」
「フラグの神に愛されてる!」
さらに続く。
「……あ……出た……」
二人目、苑夏。
「やああああああああああ!!!!!」
悲鳴が体育館にこだました。
「ということで、団長は哲哉と苑夏に決定!!」
「やったぜ!」
「終わった……」
こうして、“絶対にやるつもりがなかった二人”による応援団長体制が決定したのであった。
「……なんで、私なの……」
放課後、誰もいない教室で、苑夏は小さく、机に突っ伏したまま呻いた。
「団長だなんて、キャラじゃないのに……」
「団長っぽさ審査で選ばれたらしいぞ」
隣の席から、ぼそっと哲哉が言う。団長のもうひとり、まさかの相方だ。
「私、どっちかっていうと『命令されるほう』の人間なのに……」
「いや、あの合唱コンのときは完全に『命令する側』だったけどな」
「そ、それは例外中の例外で……!」
「でもまあ、俺としては助かるけどな。苑夏となら、ちゃんとした応援になるかもしれないし」
「……へ?」
「俺、こういう役柄、苦手なんだ。人前で声張るのとか。だから、ちゃんと引き締めてくれそうな苑夏と一緒で、正直、ちょっとホッとしてる」
「あ、あああ、あの、その……それ、プレッシャーでは……」
「俺がしっかりするから、苑夏は苑夏のままでいいよ」
「な、な、なにその!安心とプレッシャーを同時に与える系発言……!」
苑夏は顔を真っ赤にして、両手で頬を挟んだ。
(なにこの人……いちいち主人公っぽい……!ずるい!)
「……で、とりあえず、練習は明日からでいいの?」
「いや、もう今日からやるって麗真が」
「早くない!?」
「ていうか麗真、花の着ぐるみでグラウンド走ってたぞ」
「なにやってんのあの人!」
というわけで、グラウンド。
そこでは、すでにカオスな応援練習が始まっていた。
「はい!じゃあこの列は“ラップ応援隊”として、俺と一緒に“YO!”の練習ね!」
栄徳が勝手に設立した「ラップ応援支部」が、すでに8人の信者を獲得していた。
「YO!YO!この勝負に!YO!悔いなし!YO!」
「誰が勝つのか知らねぇけど!俺らの声が!地を揺らすYO!」
「やめて!!地面が本当に揺れたらそれはもう地震だから!!」
華也子は横で、謎の巨大旗を設計中。
「やっぱり旗は、花の形をしていて、しかもライトで光って……いや、火を使ってもいいかな?ちょっと燃える感じで……」
「ダメ!ダメです!!光るのは良くても燃えるのはアウト!!」
「でも演出としては完璧だと思うの」
「ここ体育祭!!劇場じゃない!!」
そしてその奥では――
「さあ、声を出していこー!!」
麗真が花の着ぐるみで音頭を取っていた。なぜ脱がないのか誰にもわからない。
「せーのっ!フラワー!!」
「ファイトー!!」
「フラワー!!」
「ファイトー!!」
「いいぞーその調子だー!花も応援してるぞー!!」
「誰も応援してないわ!!」
「お前しか花じゃない!!」
一方、団長ペアのふたりはというと、コーンを立てて並べる作業に集中していた。
「ちょっと右ズレてる……あ、そっち持ってて」
「あいよ。っていうか、これ、誰の指示?」
「私が勝手にやってる。整ってないと落ち着かなくて……」
「……それ、すごい“団長っぽさ”出てるけどな」
「出てない出てない出てない!!」
(落ち着け私……このままだとまた勝手に“団長オーラ”を纏ってしまう……!)
その日の応援練習、結果として「団長がコーンを丁寧に並べ、着ぐるみがYO!を叫び、旗が一部発火しかける」という、前代未聞の状況で終了した。
「ええと……思ってたのと、だいぶ違う」
「なんなら“応援”じゃなかったまである……」
「むしろ花に謝ってほしいレベル……」
練習後のミーティングで、哲哉が口を開いた。
「……俺たち、やっぱり本気でやらないとまずいな」
「え、今まで本気じゃなかったの?」
「そういう意味じゃなくて……なんか、空回りしてるっていうか。みんな楽しんではいるけど、これじゃ“応援”にならない」
「でも、どうすればいいの……?」
「まずは“応援される側の気持ち”を考えないと、じゃないか?」
その言葉に、一瞬だけ、静けさが戻った。
(応援されるって、どういうことだろう)
(ただの声じゃなくて、気持ちを届けること?)
(……それって、どこかで聞いたような)
菜緒は、思わず花のことを思い出していた。
あの花。なにかを伝えようとしていた。
私たちが、ちゃんと“受け取ろう”とするなら。
もしかして、“応援”もそれと似てるのかもしれない。
そのとき。
「……あれ、今、花、しゃべった気がする」
栄徳が言った。
「またそれ!?何て言ってたの?」
「『コーン、あと2センチ右』って」
「完全に苑夏の意志じゃねーか!!」
「ていうか見てたの!?」
「ずっと見てた。お前らが青春してる隙に、オレは“花の使い”になってたんだ……」
「黙れ!」
全員の総ツッコミがグラウンドに響いた。
そしてそのとき、確かに、花がほんの少しだけ揺れた。
風は吹いていなかった。
それでも、誰かがそっと背中を押してくれている気がした。
【章終】
「今年の体育祭、応援団長は“決定戦”で決めます!」
始業チャイムの鳴る1分前。教室の前に現れたのは、またしても生徒会副会長・麗真だった。
「というわけで、みなさん!今日の6時間目、体育館に集合!『応援団長決定戦』、開幕で~す!」
「いや開幕しないで!!」
「説明がいる!詳細を寄越せ!!」
「そもそも何と戦うんだよ!!」
教室中がざわつく中、麗真は淡々と続けた。
「ちなみに対決内容は、①応援演説、②団長っぽさ審査、③運だめし、の三本立てです。文武運そろった真の団長を決めます!」
「三つ目だけ雑すぎない!?」
「いやもう『運』って……!」
「“団長っぽさ”って誰基準!?」
「生徒会基準です!」
全員が納得しかけたその時――
「はい質問!」
手を挙げたのは、菜緒だった。
「これ、立候補制ですか?それとも強制参加ですか?」
「立候補制です。でも立候補しない人には、逆指名があります!」
「だから強制じゃん!!」
混乱と動揺のうねりの中、栄徳だけが腕を組み、しみじみと言った。
「……ついに来たか、俺が花とラップするための、応援団長への第一歩が……」
「そんなのないよ!?」
「むしろ最終目標がバグってる!」
「いやでも、応援ってつまり“声を届ける”ってことだろ?花の声を聞いた俺が、今度は“届ける番”ってことじゃないか?」
「納得しかけてる自分が怖い」
そのころ、哲哉はノートを見ながら「記憶の花」についてのメモを黙々と取っていた。だがその耳には、しっかりと「応援団長決定戦」というワードが届いていた。
「……またなんか、騒がしいことになってきたな」
6時間目。体育館。
全学年が集められた中、壇上にはなぜか花の着ぐるみを着た麗真がいた。しかも中央で、思いっきり両手を広げている。
「さあ!学年の代表を決める時が来たッ!!応援団長決定戦、開幕です!!」
「お前が一番ノってるじゃねえか」
「なんで着ぐるみ着てんの?」
「お花の精霊っぽいでしょ?」
「お前、まだ引っ張ってたのその設定……」
隣では、体育教師の山城先生がマイクを握っていた。見た目はガチムチ。中身は思ったより繊細。
「えー、みんな静かにー。では、まず応援演説から始めます。立候補者は……」
「はーい!!」
元気に手を挙げたのは、華也子だった。
「応援団って、演出やパフォーマンスも大事ですよね!私、舞台照明と構成に関しては一家言あるんです!」
「それ演劇部の話じゃない!?」
「むしろ応援そっちのけになりそう!」
「でもビジュアル面は期待できそう……!」
続いて、誰かが腕をぶんぶん振って名乗り出た。
「はいはーい!!私、菜緒です!」
「ええ!?お前やんの!?」
「うん、なんとなく!何かこう、感じたの!」
「花に!?」
「花にじゃないよ!!直感!!」
ざわめく中、悠里が後ろでぽつりと呟く。
「これって、もしかして俺の出番だったのでは……」
「なにしれっと主役ヅラしてんの」
そしてもう一人、誰よりも自然に、誰よりも「もう立候補済み」みたいな顔で壇上に上がったのが――
「哲哉!?お前、いつ立候補してた!?」
「いや、なんかさ。お前ら見てたら、やらない方が逆に気になってきたんだよ」
「それが“やらされてる”ってことなんだけどな」
「でも……まあ、お前が団長でも悪くないかも」
「えっ、なに今の?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
(沈黙)
(全員が“それ以上追及しないでください”という顔)
そして残る一枠、栄徳が手を挙げようとしたその瞬間――
「では、ここからは団長っぽさ審査!生徒会が独自に決めた“団長っぽいオーラ”の持ち主を一名選出します!」
「は!?オーラ!?完全に適当だなこれ!?」
「では……推薦するのは……苑夏!」
「えええええっっっっ!?」
ステージ下から、驚きすぎて持ってた水筒落とした苑夏が叫んだ。
「な、なんで!?私!?無理無理無理、団長とか絶対ムリ!」
「でも君、先週の合唱コンクールのとき、クラス全体に『ピッチずれてる』ってストレートに言ってたじゃない?」
「いやあれはっ!!あれはそのっ!我慢できなくてっ!!」
「つまり、全体を見て、冷静に指導できる素質がある!」
「ない!!私にその自覚、まったくないから!!」
全員からの「説得力ある~」という視線に囲まれ、苑夏は震えながらステージに引っ張られていった。
「……おわった」
「でもたぶん、応援団長ってそういうもんだよ」
そして、最後の種目。
「ではラスト、運だめし!!」
ステージに、巨大ガラポンが運ばれてくる。
「ルールは簡単。この中に“金の玉”が1個だけあります。それを引いた2人が、最終的な団長に決定です!」
「ええ!?じゃあ今までのは何!?」
「応援演説も、団長っぽさ審査も、前フリ!?」
「完全に“持ってる奴が勝つ”ってことじゃん!」
どよめきの中、全員が順にハンドルを回す。
ガラガラガラ――コロン。
白。
ガラガラガラ――カラン。
赤。
ガラガラガラ――コロン。
青。
そして――
「……金、出た!!!」
一人目、哲哉。
「やっぱりなぁああああ!!」
「フラグの神に愛されてる!」
さらに続く。
「……あ……出た……」
二人目、苑夏。
「やああああああああああ!!!!!」
悲鳴が体育館にこだました。
「ということで、団長は哲哉と苑夏に決定!!」
「やったぜ!」
「終わった……」
こうして、“絶対にやるつもりがなかった二人”による応援団長体制が決定したのであった。
「……なんで、私なの……」
放課後、誰もいない教室で、苑夏は小さく、机に突っ伏したまま呻いた。
「団長だなんて、キャラじゃないのに……」
「団長っぽさ審査で選ばれたらしいぞ」
隣の席から、ぼそっと哲哉が言う。団長のもうひとり、まさかの相方だ。
「私、どっちかっていうと『命令されるほう』の人間なのに……」
「いや、あの合唱コンのときは完全に『命令する側』だったけどな」
「そ、それは例外中の例外で……!」
「でもまあ、俺としては助かるけどな。苑夏となら、ちゃんとした応援になるかもしれないし」
「……へ?」
「俺、こういう役柄、苦手なんだ。人前で声張るのとか。だから、ちゃんと引き締めてくれそうな苑夏と一緒で、正直、ちょっとホッとしてる」
「あ、あああ、あの、その……それ、プレッシャーでは……」
「俺がしっかりするから、苑夏は苑夏のままでいいよ」
「な、な、なにその!安心とプレッシャーを同時に与える系発言……!」
苑夏は顔を真っ赤にして、両手で頬を挟んだ。
(なにこの人……いちいち主人公っぽい……!ずるい!)
「……で、とりあえず、練習は明日からでいいの?」
「いや、もう今日からやるって麗真が」
「早くない!?」
「ていうか麗真、花の着ぐるみでグラウンド走ってたぞ」
「なにやってんのあの人!」
というわけで、グラウンド。
そこでは、すでにカオスな応援練習が始まっていた。
「はい!じゃあこの列は“ラップ応援隊”として、俺と一緒に“YO!”の練習ね!」
栄徳が勝手に設立した「ラップ応援支部」が、すでに8人の信者を獲得していた。
「YO!YO!この勝負に!YO!悔いなし!YO!」
「誰が勝つのか知らねぇけど!俺らの声が!地を揺らすYO!」
「やめて!!地面が本当に揺れたらそれはもう地震だから!!」
華也子は横で、謎の巨大旗を設計中。
「やっぱり旗は、花の形をしていて、しかもライトで光って……いや、火を使ってもいいかな?ちょっと燃える感じで……」
「ダメ!ダメです!!光るのは良くても燃えるのはアウト!!」
「でも演出としては完璧だと思うの」
「ここ体育祭!!劇場じゃない!!」
そしてその奥では――
「さあ、声を出していこー!!」
麗真が花の着ぐるみで音頭を取っていた。なぜ脱がないのか誰にもわからない。
「せーのっ!フラワー!!」
「ファイトー!!」
「フラワー!!」
「ファイトー!!」
「いいぞーその調子だー!花も応援してるぞー!!」
「誰も応援してないわ!!」
「お前しか花じゃない!!」
一方、団長ペアのふたりはというと、コーンを立てて並べる作業に集中していた。
「ちょっと右ズレてる……あ、そっち持ってて」
「あいよ。っていうか、これ、誰の指示?」
「私が勝手にやってる。整ってないと落ち着かなくて……」
「……それ、すごい“団長っぽさ”出てるけどな」
「出てない出てない出てない!!」
(落ち着け私……このままだとまた勝手に“団長オーラ”を纏ってしまう……!)
その日の応援練習、結果として「団長がコーンを丁寧に並べ、着ぐるみがYO!を叫び、旗が一部発火しかける」という、前代未聞の状況で終了した。
「ええと……思ってたのと、だいぶ違う」
「なんなら“応援”じゃなかったまである……」
「むしろ花に謝ってほしいレベル……」
練習後のミーティングで、哲哉が口を開いた。
「……俺たち、やっぱり本気でやらないとまずいな」
「え、今まで本気じゃなかったの?」
「そういう意味じゃなくて……なんか、空回りしてるっていうか。みんな楽しんではいるけど、これじゃ“応援”にならない」
「でも、どうすればいいの……?」
「まずは“応援される側の気持ち”を考えないと、じゃないか?」
その言葉に、一瞬だけ、静けさが戻った。
(応援されるって、どういうことだろう)
(ただの声じゃなくて、気持ちを届けること?)
(……それって、どこかで聞いたような)
菜緒は、思わず花のことを思い出していた。
あの花。なにかを伝えようとしていた。
私たちが、ちゃんと“受け取ろう”とするなら。
もしかして、“応援”もそれと似てるのかもしれない。
そのとき。
「……あれ、今、花、しゃべった気がする」
栄徳が言った。
「またそれ!?何て言ってたの?」
「『コーン、あと2センチ右』って」
「完全に苑夏の意志じゃねーか!!」
「ていうか見てたの!?」
「ずっと見てた。お前らが青春してる隙に、オレは“花の使い”になってたんだ……」
「黙れ!」
全員の総ツッコミがグラウンドに響いた。
そしてそのとき、確かに、花がほんの少しだけ揺れた。
風は吹いていなかった。
それでも、誰かがそっと背中を押してくれている気がした。
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