あの校庭の花は、全部知っている。

乾為天女

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第10章「誰かが、消えた」

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 朝の教室。
 ガラッ――
「……あれ?」
 哲哉が入ってきた瞬間、目を細めた。
「なんか……静かじゃね?」
「いつも静かだろ、朝ってそんなもん……って、あれ?」
 教室には妙な“空白”があった。
 “そこ”に、いつもなら絶対いるはずの人物が、いない。
「……佐々木、来てなくない?」
 そう。クラスメイト、佐々木(通称・自称“みんなの監視塔”)の姿がない。
「え、珍しい。あの人、遅刻どころか“自習に早出”するレベルなのに」
「昨日も“明日の提出物チェック用カンペ”くれたよな?」
「提出物にカンペが存在するってどういうことだよ」
「“自習プリントの模範解答カンニング”って、倫理バグってんだよ」
 ――だが、今日はその“勤勉の権化”が、いない。
「まさか……寝坊……!?」
「いや、あの佐々木が寝坊?それ、地球が逆回転してなきゃ無理だろ」
「ってことは、誘拐!?」
「ちょ、話飛躍しすぎ!」
「UFO!」
「その前に警察挟んで!」
 やがて始業のチャイムが鳴った。
 そして担任・内藤先生が教室に入ってくるなり言った。
「佐々木、今日は欠席です」
「……」
「……」
「……ッ!? ほんとにいないのかよーーーーッ!!」
 騒然となる教室。
「やっぱりUFOじゃん!」
「ちがうわ!!」
 だが――その時、気づいた。
 佐々木の机の上に。
 一枚の、白い――花びらが、落ちていた。
「…………は?」
「なにこれ……花……?いや、あの白い……」
「校庭のやつ……と、同じだよな……?」
「まさか、佐々木も“花に呼ばれた”ってやつ……!?」
「え、まって、それってつまり……“花界(はなかい)召喚”?」
「異世界召喚の“植物カテゴリ”!?進化したチュートリアル!?何のRPG!?!?」
 さらに机の中から、小さく折りたたまれた紙が見つかった。
 哲哉がそっと広げる。
『まだ間に合うと思う。だから、花の記憶を辿って。
   私、ちょっと取り戻したいことがあるの。――佐々木』
「……これ、完全に……花経由のメッセージだな」
「ちょっと待って!?取り戻したいことって何!?プリント!?記憶!?YO!?」
「最後の選択肢だけ明らかに違う!」
 教室内が完全に“軽くパニック”になったところで、華也子がぽつりと言った。
「……実は、私、昨日の夕方、佐々木が校庭の花の前に立ってるの、見た」
「うそ!?」
「うん。“しばらく話してなかったけど、やっぱり変わらないね”って、言ってた気がする」
「え、花に!?それとも幽霊に!?それとも過去の自分に!?」
「どれでも重いわ!」
 だが、ここで急に空気を読まずに悠里が割り込んできた。
「……つまり、“記憶を辿って花の謎を解け”ってことだな……!」
「いや、お前それ、だいたいのゲームで出てくるセリフだろ!」
「オレ、いま、“本格調査チーム”の副団長ってことでいい?」
「いつから団ができたのかも不明だし、お前副団長なの!?いつの間に!?」
「団長は花な」
「意思持ちすぎだろ!」
 そのとき、ふいにチャイムが鳴った。
「とりあえず、今日は“全員で校庭行こう”」
「放課後な!」
「フェス準備もあるし、調査もあるし、テンションも混乱もMAXだし!」
「落ち着け俺たち、まずは授業だ!英語の前置詞から逃げるな!」

 放課後――
 例によって校庭に集まった面々。
 夕焼けに照らされる白い花は、今日も静かに、ただ咲いていた。
「……佐々木は、この前に立って、何を思ってたんだろう」
「もしかしたら……“記憶の中”に入ったとか?」
「入場自由!?ログイン制!?」
「誰でも行けちゃう系異世界怖い!!」
 拓毅が真剣な表情で、花を見つめる。
「でも、もしかすると……今まで花が“見せてくれてた記憶”、あれは“こっち側に向けてた映像”だったけど」
「もし花が、逆に“向こう側に連れてく”力を持ってたら……」
「まさかの“記憶転送型ワープ花”……!?」
「なにそのジャンル!?新しすぎて棚に並ばないよ!!」
 その時。
 また、風もないのに、花が――揺れた。
 そして、誰かの耳元で、確かに声が囁いたような気がした。
『――君たちは、まだ足りない。』
「えっ!?」
「今、しゃべった!?花!?お前しゃべった!?初セリフ!?」
「急にボイス付きになった!!DLCかよ!!」
「でもこれ、“本当に向こうと繋がってる”証拠じゃ……」
「……佐々木を、迎えに行く?」
「異世界遠足か!?はぐれた子を全力で追うの!?先生の引率つけた方がいいレベルだよねこれ!」
 それでも、みんなの表情はどこか真剣だった。
 花の秘密。
 記憶の正体。
 そして、いなくなった佐々木。
 全部が、きっとひとつの線で繋がっている。
「行こう」
「“花が選んだ”ってことは、意味がある」
「……私たちが、今まで見てきたこと、無駄じゃなかったってことだよ」
「うん、行こう。“謎の転送花”、お前の中に全てがあるんだな……!」
「なんで最後だけ雑な愛称にしてんの!?」
 次回――境界、開く。
【章終】
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