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第九話:制服を着た“先輩”たち
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夏休みが終わり、二学期が始まってから一週間。
中学一年の教室は、久しぶりの定期テストにざわついていた。
だがそのざわめきのなかで、雅也はプリントではなく、あるメールを何度も読み返していた。
『フロスパック広島・職業体験関係者 各位
地域実習レポート優秀者として、次回説明会の“ゲスト発表者”に選出されました。』
「……マジかよ。俺らが“話す側”?」
放課後の教室に集まった七人。
雅也の一言に、華が笑った。
「今度は“働く”んじゃなくて、“伝える”役割ってわけね」
「ゲスト発表者って……中学生なのに、えらそうに聞こえない?」
優花がぼそっとつぶやく。
「いや、“えらそう”じゃなくて、“先輩”だよ」
恵美がすぐに返す。
「実際に現場に入って、汗かいて、トラブルも経験して、それを“語れる側”になったんだもん」
「ちょっと緊張するなぁ……。僕、あんまり人前で話すの得意じゃないのに」
夏輝がポケットのタブレットをもてあそびながら、珍しく弱気な声を漏らした。
「でも、伝え方は一つじゃないだろ? 話すだけが“発表”じゃない。
俺たち七人いれば、それぞれのやり方で“見せられる”はず」
雅也の言葉に、みんなが顔を上げた。
「よし、それぞれ得意分野でプレゼン作ろう。恵美は全体の構成、俺は現場映像の編集、優花は観察レポート……」
「大河と拓馬は、実演担当?」
「もちろん。俺ら、“動いて見せる”のが一番性に合ってるし」
「じゃあ私は、“働くってどういうこと?”って質問コーナー作る。
今から体験する子が不安にならないように、寄り添えるように」
「俺は……詩でも書くか。“働くって、何?”って、言葉で響かせたい」
夏輝のその発言に、全員が少しだけ驚きながらも、笑顔になった。
「お前、ほんとそういうとこぶれないな」
発表会当日。
地域の公民館ホールには、これから職業体験を迎える中学生たちとその保護者、関係者がずらりと並んでいた。
その前に立つ雅也たち七人の顔には、ほどよい緊張と、それ以上の決意がにじんでいた。
「ようこそ。“フロスパック工場での3週間”を経験した僕たちから、ちょっとだけ“現場の話”をお届けします」
雅也がマイクを持って言うと、スクリーンに映像が流れる。
袋詰めのライン。
異物検査の真剣な目。
冷凍庫のなかでのやりとり。
そして──あの言葉。
『成果って、見えないときほど、ほんとの力が出るんだよな』
恵美が指し棒を掲げながら話す。
「私たちが学んだのは、“完璧な仕事”じゃありません。
“うまくいかなかったこと”が、たくさんありました。
でも、“その後どうしたか”が、私たちを成長させました」
大河と拓馬が、ライン作業の真似を軽く実演する。
ミスが出たときの止め方、確認の仕方、チームで支え合う空気──その場の緊張と安心感が伝わってくる。
華が登壇し、質問パネルを掲げた。
「“間違えたらどうしよう”って不安だった人、手を挙げて」
ちらほらと手が挙がる。
「わたしも、最初そうでした。
でも“ミスを隠さないこと”がいちばん大事だって、現場の人が教えてくれました」
その隣で優花が笑って言う。
「黙ってると、仕事はできる。でも、しゃべると、チームになるよ。私は、それを覚えた」
最後に、夏輝が一枚の詩を読み上げた。
>「働く」は、手を動かすことじゃない
>「働く」は、誰かを想像すること
>冷たい野菜の向こうに
>「いただきます」の声が聞こえた
>だから、僕たちは動けた
>たった三週間でも、「誰かのため」は、ちゃんと胸に残った
静寂のなかで拍手が起こった。
それは、ただの称賛ではなく、“想いが届いた”という確かな共鳴だった。
発表後、後輩たちが声をかけてくる。
「なんか、怖くなくなった」
「“働くってカッコいい”って、ちょっと思った」
「……俺、冷凍庫入ってみたい」
雅也は、少しだけ照れながらも笑って言った。
「大丈夫。最初はみんなそうだった。
でも、“ちゃんと向き合えば”……君も、きっと誰かの“先輩”になれるよ」
(第九話 了)
中学一年の教室は、久しぶりの定期テストにざわついていた。
だがそのざわめきのなかで、雅也はプリントではなく、あるメールを何度も読み返していた。
『フロスパック広島・職業体験関係者 各位
地域実習レポート優秀者として、次回説明会の“ゲスト発表者”に選出されました。』
「……マジかよ。俺らが“話す側”?」
放課後の教室に集まった七人。
雅也の一言に、華が笑った。
「今度は“働く”んじゃなくて、“伝える”役割ってわけね」
「ゲスト発表者って……中学生なのに、えらそうに聞こえない?」
優花がぼそっとつぶやく。
「いや、“えらそう”じゃなくて、“先輩”だよ」
恵美がすぐに返す。
「実際に現場に入って、汗かいて、トラブルも経験して、それを“語れる側”になったんだもん」
「ちょっと緊張するなぁ……。僕、あんまり人前で話すの得意じゃないのに」
夏輝がポケットのタブレットをもてあそびながら、珍しく弱気な声を漏らした。
「でも、伝え方は一つじゃないだろ? 話すだけが“発表”じゃない。
俺たち七人いれば、それぞれのやり方で“見せられる”はず」
雅也の言葉に、みんなが顔を上げた。
「よし、それぞれ得意分野でプレゼン作ろう。恵美は全体の構成、俺は現場映像の編集、優花は観察レポート……」
「大河と拓馬は、実演担当?」
「もちろん。俺ら、“動いて見せる”のが一番性に合ってるし」
「じゃあ私は、“働くってどういうこと?”って質問コーナー作る。
今から体験する子が不安にならないように、寄り添えるように」
「俺は……詩でも書くか。“働くって、何?”って、言葉で響かせたい」
夏輝のその発言に、全員が少しだけ驚きながらも、笑顔になった。
「お前、ほんとそういうとこぶれないな」
発表会当日。
地域の公民館ホールには、これから職業体験を迎える中学生たちとその保護者、関係者がずらりと並んでいた。
その前に立つ雅也たち七人の顔には、ほどよい緊張と、それ以上の決意がにじんでいた。
「ようこそ。“フロスパック工場での3週間”を経験した僕たちから、ちょっとだけ“現場の話”をお届けします」
雅也がマイクを持って言うと、スクリーンに映像が流れる。
袋詰めのライン。
異物検査の真剣な目。
冷凍庫のなかでのやりとり。
そして──あの言葉。
『成果って、見えないときほど、ほんとの力が出るんだよな』
恵美が指し棒を掲げながら話す。
「私たちが学んだのは、“完璧な仕事”じゃありません。
“うまくいかなかったこと”が、たくさんありました。
でも、“その後どうしたか”が、私たちを成長させました」
大河と拓馬が、ライン作業の真似を軽く実演する。
ミスが出たときの止め方、確認の仕方、チームで支え合う空気──その場の緊張と安心感が伝わってくる。
華が登壇し、質問パネルを掲げた。
「“間違えたらどうしよう”って不安だった人、手を挙げて」
ちらほらと手が挙がる。
「わたしも、最初そうでした。
でも“ミスを隠さないこと”がいちばん大事だって、現場の人が教えてくれました」
その隣で優花が笑って言う。
「黙ってると、仕事はできる。でも、しゃべると、チームになるよ。私は、それを覚えた」
最後に、夏輝が一枚の詩を読み上げた。
>「働く」は、手を動かすことじゃない
>「働く」は、誰かを想像すること
>冷たい野菜の向こうに
>「いただきます」の声が聞こえた
>だから、僕たちは動けた
>たった三週間でも、「誰かのため」は、ちゃんと胸に残った
静寂のなかで拍手が起こった。
それは、ただの称賛ではなく、“想いが届いた”という確かな共鳴だった。
発表後、後輩たちが声をかけてくる。
「なんか、怖くなくなった」
「“働くってカッコいい”って、ちょっと思った」
「……俺、冷凍庫入ってみたい」
雅也は、少しだけ照れながらも笑って言った。
「大丈夫。最初はみんなそうだった。
でも、“ちゃんと向き合えば”……君も、きっと誰かの“先輩”になれるよ」
(第九話 了)
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