冷凍庫の奥には“夢”がある〜中学生が『働く』で気づいた、見えない価値と未来のバトン〜

乾為天女

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第十話:仕事って、ほんとうに必要なの?

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 発表会を終えた翌日。
  雅也たちは、近くの市立図書館に呼び出されていた。
 地域教育推進課からの依頼で、「仕事について語る中学生代表」として、取材協力の依頼が来たのだ。
  最初に驚いたのは、雅也だった。
「いや、ちょっと待て。俺たち、“まだ働いてもいない”っていうか、体験しただけなのに?」
「でも“本気で体験”した人の声が、いちばん響くって。
  専門家じゃないからこそ、素直な言葉で話せるって言ってたよ」
 恵美がメモを見ながら言う。
「テーマは“仕事って、本当に必要ですか?”か……」
 夏輝が問いを読み上げ、ぽつりと呟く。
「小学生からの質問らしいよ。“働くのって、何のため?”って」
「たしかに、“遊んで暮らせるならそのほうがいい”って思ってた頃、あったな」
 拓馬が後頭部をかきながら笑った。
「“好きなことだけして生きていきたい”って考えるやつ、今でもけっこう多いと思う」
「……でも“好きなことだけ”じゃ、人間ってすぐ退屈すると思う」
 華の冷静な言葉に、雅也が頷く。
「それ、工場でも思った。“同じ作業の繰り返し”って、一見退屈そうだけど、
  実際は“ちょっとずつ違うこと”が起きるんだよな。そこに気づけるかどうかで、全然違った」
 
  控室での話し合いは、取材本番よりもずっと熱を帯びていった。
「仕事って、誰かの“あたりまえ”を支えること、なんじゃないかな」
 と、恵美。
「毎日同じものが買える。電車が動いてる。水が出る。ゴミが片づいてる。
  それって、全部誰かが仕事してるってこと」
「“役に立つ”って、そんなに大きいことじゃない。
  袋詰め一個だって、誰かの“助かった”になってる」
 と、優花。
「俺、冷凍庫で思ったんだ。“守ってるもの”があるって、ちょっとかっこいいなって」
 と、大河。
「……なるほど。“仕事”って、“無くなったら困るもの”かもな」
 夏輝がノートにそう記した。



 取材は、地域広報誌の記者が一人、ノートパソコンを前に構えて進んだ。
「では、みなさんにとって“仕事とは何か”を、一人ずつ教えてください。
  小学生にも伝わるように、なるべく簡単な言葉でお願いします」
 少し間があって──最初に口を開いたのは、華だった。
「……仕事は、“人とつながる方法”だと思います。
  冷凍野菜の袋詰めって、一見誰ともしゃべらなくてもできる作業だけど、
  そこに“誰かが食べる”って意識を持つと、ちゃんと人とつながってるって感じられるから」
 次に、優花。
「私は、“仕事=気づき”だと思ってる。
  毎日同じようにやってても、ちょっとしたズレに気づく人がいるから、ミスが防げる。
  “ちゃんと見てるよ”って、誰かに伝える行為が仕事だと思った」
 拓馬が、明るく手を挙げて言った。
「僕は、“未来の誰かへのプレゼント”みたいなもんだと思う!
  働いた分、誰かが“困らない”状態になる。それってすごくない?」
 大河も続く。
「仕事って、“誰かの代わりにやること”だと思う。
  袋に詰める時間がない人の代わりに詰める。難しい温度管理を代わりに守る。
  代わってあげることで、“時間”を渡してる気がした」
 夏輝は、メモを読み上げた。
「“必要な仕事”なんて、本当は存在しない。
  “必要だって気づいたときに、初めて仕事になる”。
  だから、仕事って、“心のアンテナ”だと思う」
 記者が目を見張って頷いた。
「みなさん、言葉がすばらしいですね……では、リーダーの雅也くん、最後にどうぞ」
 少し照れくさそうに、雅也が口を開いた。
「……俺、もともと“成果”がすべてだと思ってました。
  目に見える結果、数字、評価。そういうのを取るのが仕事だって。
  でも、あの工場で働いて思ったんです。
  “見えないもの”を支えるのが、ほんとうの仕事なんだなって」
 彼は少し間を置き、まっすぐ前を向いて言った。
「だから僕は、“仕事=見えないバトン”だと思います。
  受け取って、走って、誰かに渡す。
  それがどんなに小さな一歩でも、繋がっていくものだから」
 
  沈黙のあと、大きな拍手が起きた。
  その日、図書館の取材室には、冷凍庫のような冷気はなく、
  むしろ誰かの温度が、そっと胸の奥に染み込んでいくようだった。

(第十話 了)

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