冷凍庫の奥には“夢”がある〜中学生が『働く』で気づいた、見えない価値と未来のバトン〜

乾為天女

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第十一話:雅也、バイトを考える

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 二学期の中頃。雅也は、教室の窓際で一人、進路希望調査の紙を見つめていた。
「“中学生のうちは、まだ何も決められない”って、先生は言うけど……。
  俺、けっこう決めたいこと出てきたかもしれない」
 ふと、隣の席から声が飛ぶ。
「就職する気? それとも進学?」
 それは恵美だった。彼女も同じく、調査票を見つめている。
「んー、進学はすると思う。でもさ、やっぱ“働く”って実感、夏で掴んだし。
  アルバイト、やってみたいって思ってる」
「中学生のうちは許可制だけど、家庭や学校の条件が合えばできるよね。
  それで、やってみたい仕事は?」
「……また、工場」
 その答えに、恵美は一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。
「へえ。てっきり“もっと自分の成果が出せる職場”を選ぶかと思った」
「最初はそうだった。でもさ、冷凍工場で“見えない成果”ってやつに出会ってから、
  “結果が残らなくても意味がある仕事”に、ちょっと惹かれてる」
 雅也の声には、以前のような焦りはなかった。
「地味だけど、大事。目立たないけど、誰かを支える。
  そういう仕事、俺、ちょっと好きになったかもしれない」
 恵美は微笑みながら言った。
「成長したね」
「……“自分で言うな”って言うかと思った」
「今の雅也なら、“ちゃんと理由がある”って思えるから」
 
  放課後、図書館の学習室で集まった七人。
  きっかけは、雅也の「バイトって、ありだと思う?」という一言だった。
「え、中学生ってバイトできるの?」
 拓馬が目を丸くして聞き返す。
「例外的に、保護者と学校の許可があれば、“職場体験型”や“地域就労支援型”で一部可能。
  ただし、条件は厳しい」
 と、恵美。
「なにそれ、ちょっと面白そう」
 優花が珍しく前のめりになった。
「“バイト”って、“お金のため”じゃなくて、“知るため”にやるって感じだな。
  社会の中に、少しだけ“自分の足”で踏み込むっていうか」
 華のその言葉に、夏輝がメモを取りながら呟いた。
「“おしごと”って、見学じゃなくて、“参加”だもんね。
  ……じゃあ、次は“バイトしながら考える話”にしようよ。物語として」
 
  七人の中で、“働くこと”を自分の時間の中に入れ始めた雅也。
  その行動は、また小さな波紋を広げていく。



 数日後。放課後の家庭科室に、校外学習担当の教諭・森下先生が七人を集めた。
「中学生のアルバイトは原則禁止だけど、今回は“地域連携特例”での申請ということで、教育委員会と協議しました。
  ──条件付きで、週に一度、夕方2時間だけ“模擬バイト”を許可します」
 ざわつく教室。
「模擬バイト?」
「報酬は発生しないけど、勤務記録と評価、業務訓練の実践は“実社会と同様”。
  学校と家庭、地域が共同で“仕事の場”を提供する仕組みだ」
 雅也の目が真剣になる。
「行き先は……“地域清掃・回収センター”。
  環境衛生の基本と、“裏方の価値”を知ってもらいたい」
 
  工場とちがって、今度の現場は“もっと見えにくい仕事”だった。
  ゴミの選別、可燃・不燃の区分、資源の洗浄と仕分け、重さの測定。
「俺たち、“成果”も“感謝”も見えにくい場所に行くんだな……」
 雅也がポツリとつぶやいた。
 でも、彼はもう逃げなかった。
「いいじゃん、やろうよ。あの冷凍庫の奥より、“地味で地道”かもしれないけど、
  そこに何があるか、見てみたい」
 拓馬がまっすぐに笑う。
「“おしごと”って、“見られてるかどうか”じゃなくて、“やるかどうか”なんだよね」
 夏輝の言葉に、全員がうなずいた。
 
  その日、雅也は自分のノートの最初のページに、こう書き加えた。
 ──「成果が見えない仕事も、やらなきゃ始まらない。」

(第十一話 了)

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