冷凍庫の奥には“夢”がある〜中学生が『働く』で気づいた、見えない価値と未来のバトン〜

乾為天女

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第十二話:誰かの「いない場所」をきれいにする

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 木曜日の午後、雅也たちははじめての「模擬バイト」へと向かった。
  場所は、駅の裏手にある「南西清掃センター」。
 住宅街のごみ収集、資源ゴミの仕分け、破損品の搬出など、
  誰かが見ていないところで、まちを支える人たちが働いている場所だった。
「こんにちは! 本日から模擬実習でお世話になります!」
 雅也が代表して挨拶すると、現場主任の矢吹さんが笑って迎えてくれた。
「元気がいいな。よし、今日はまず“見て・触って・体験する”がテーマだ。
  “臭い”“汚い”“きつい”の三拍子揃ってるけど──その中に“意味”を見つけてくれたらうれしいな」
「“意味”……」
 優花がぽつりとつぶやく。
「“片付け”って、“無になる作業”に思えるけど、
  “元の形に戻す”って意味もあるんだよ」
 
  まず案内されたのは、資源ゴミの仕分け所。
  缶、びん、ペットボトル、ダンボール、古布──その一つひとつが、重く、汚れていた。
「これが、“リサイクル可能資源”。でも、汚れがひどいと再利用できない。
  誰かが“ちょっと洗う”か、“分ける”かで、資源になるかゴミになるかが決まる」
 そう言われながら手渡されたのは、手袋とトング。
  そして──思っていた以上に“くさい”作業だった。
「……こりゃあ、地味じゃないな。むしろ、強烈だ」
 拓馬が鼻をおさえながら笑う。
「けど、“この仕事がない世界”って、きっともっと臭いよ」
 夏輝がつぶやくと、みんなが同時にうなずいた。
 
  中には、分別されずに出された“燃えるごみに混じった金属”や、“ペットボトルに入ったままの液体”もあった。
「これ、誰かがちゃんとやってたら、別の誰かが苦労しなくて済んだのに」
 雅也が手を止める。
「“やらなくていいこと”をやるのが、仕事なのかな」
「あるいは、“誰かがやらなかったこと”を、引き取るのが仕事」
 華が静かに答えた。



 後半は、町内の公園清掃へ同行することになった。
  班は二つに分かれ、雅也・恵美・拓馬は駅前の遊歩道へ。
  優花・華・夏輝・大河は、住宅街の奥にある広場へと向かった。
 落ち葉、空き缶、割れたガラス片、風で飛ばされたコンビニ袋。
  それらは、毎日誰かの足元で静かに積もっていた。
「見て。このベンチの下──古いガム、何枚あると思う?」
「……数えたくない」
「“見えないところほど、人は雑になる”。それが街の真理かもしれない」
 恵美が皮肉っぽく言うと、雅也が思いがけず真剣に返した。
「でも、“見えないところまで手を伸ばす”のが、プロの仕事って気もする」
「うん。しかも、それを“やってると気づかれないように”やるのが、本物かも」
 公園の隅で、小さな花壇を整えていたスタッフがぽつりと呟いた。
「こうして花のまわりの雑草抜くのも、ほんの数時間でまた伸びるよ。
  でも、“誰かが手をかけた場所”って、通る人の歩き方も変わるんだ。不思議だけど」
 その言葉に、雅也は黙ってガムを削り取りながら──心の中で何かが腑に落ちた。
 
  夕方、作業場に戻ると、主任の矢吹さんがにこやかに迎えた。
「おつかれさん。今日やった仕事、ほとんど“誰にも感謝されない類”のやつばっかだったろ?」
「はい……でも、嫌じゃなかったです」
 雅也が正直に言うと、矢吹さんが静かにうなずいた。
「仕事ってのはな、“見返りのない行動”にこそ魂が宿る。
  それを知ってる人間が、街の骨組みを支えてるんだよ」
 
  帰り道。
  雅也は、制服のポケットにしまった軍手を握りしめた。
「なあ、“誰かのいない場所をきれいにする”って、めちゃくちゃ“かっこいい”よな」
 そうつぶやいたその横で、恵美がふっと笑う。
「うん。“仕事に名前がつかなくても”、大切なことは、あるんだね」

(第十二話 了)

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