冷凍庫の奥には“夢”がある〜中学生が『働く』で気づいた、見えない価値と未来のバトン〜

乾為天女

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第十三話:制服のない“プロフェッショナル”

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 十一月のある朝、校内放送で一つの呼び出しが流れた。
「1年A組、雅也・恵美・拓馬・優花・華・大河・夏輝──以上7名は、昼休みに校長室前に集合してください」
 クラスメイトたちがざわつくなか、呼ばれた本人たちは顔を見合わせた。
「……何かやらかした?」
「ちがうと思う。たぶん、また“地域学習関係”じゃない?」
 恵美の予想は正しかった。
 昼休み。校長室で待っていたのは、校長と地域教育推進課の担当者、それから──一人の見慣れない女性だった。
「君たちの活動記録を見て、ぜひ一度会いたいと思ってね。
  私は“民生委員”という地域の相談役をしています」
 女性──山内さんは、落ち着いた口調で語り始めた。
「実は今、“家で療養中の高齢者”のお宅で、ちょっとした“手伝い”を必要としている方がいましてね。
  食材の配達や、話し相手、ゴミ出し……“仕事”とは言えない、でも“助け”になる行動を、探しているんです」
「それって……ボランティアってことですか?」
 雅也が聞くと、山内さんは微笑んで頷いた。
「でも、“ボランティア=タダ働き”ではありません。
  “その人のために、自分の時間を使う”。それは、立派な“働く”の一つです」
 
  後日、7人は班を分け、山内さんの案内でそれぞれのお宅を訪れることになった。
  雅也と優花は、ひとり暮らしの男性・小林さん宅へ向かうことになった。
「いやー、中学生が来てくれるなんてなぁ。うちの孫と、そんなに変わらん歳で……」
 小林さんは、片足が少し不自由で、外出が困難だった。
  買い物もままならず、生活用品のストックや、冷蔵庫の中も心細い状態だった。
「でもまぁ……誰かに頼るの、あんまり好きじゃなくてな……つい、我慢しちまう」
「それ、わかる気がします」
 雅也がぽつりと言う。
「“自分でできるうちは頼らない”って思っちゃうけど、
  誰かが“頼ってもいいですよ”って先に言ってくれたら、助けやすいですよね」
 その言葉に、小林さんがゆっくりとうなずいた。



 小林さん宅では、雅也が買い物リストを作り、優花が冷蔵庫の中身を整理していた。
「牛乳、卵、レトルトごはん、インスタント味噌汁──これ、重たいですね。自分で買いに行くの、大変だったと思います」
「ほんとだね。あと、日用品で買い足すなら、ティッシュと──これ、ガスレンジの掃除道具もあった方がいいかも」
「え? あー、そこ見るなよぉ……」
 小林さんは、照れくさそうに頭をかいた。
「いや、なんか、掃除って“誰かが来る前”にやるもんだと思っててさ。
  来てくれる人が“掃除しに来る”って、ちょっと恥ずかしい気がするんだよな」
「でも、“誰かのために掃除する”って、“誰かが来てくれる準備”ってことですよね」
 優花がまっすぐに言った。
「自分で全部できる人なんて、いないし。
  だから“頼れる誰かがいる”ってことが、いちばん安心すると思うんです」
 
  作業を終え、雅也たちが帰ろうとしたとき、小林さんがそっと言った。
「……なぁ、“これって仕事か?”って聞いてもいいか?」
「もちろん、仕事です」
 雅也が即答した。
「お金はもらってないけど、“信頼をもらった”。
  それって、“責任ある行動”ってことだと思うから」
「……“責任ある行動”か。
  それができる人間は、もう“子ども”じゃないんだな」
 小林さんはそう言って、深く、何度もうなずいた。
 
  一週間後。
 班ごとに別れていた7人が再び集まり、体験を報告しあった。
「一緒に犬の散歩をしたよ。普段家から出ない人だったから、ものすごく感謝された」
「おばあさんの昔のアルバムを見せてもらって、戦争の話を聞いた」
「俺、初めて“使い終わった医療用の器具”を片づける手伝いをした。“命に関わる仕事”って、こういう形もあるんだなって」
 
  恵美が最後に言った。
「“制服を着てない人”も、立派な“プロ”なんだと思う。
  “誰かのために時間を使える人”は、もう“働いてる”ってことなんだよね」
 
  その言葉に、全員が深くうなずいた。
  “おしごと”とは、収入ではなく、“関わり”のこと。
 その確信が、彼らのなかに静かに根を下ろしていった。

(第十三話 了)
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