冷凍庫の奥には“夢”がある〜中学生が『働く』で気づいた、見えない価値と未来のバトン〜

乾為天女

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第十八話:教わること、伝えること

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 三月初旬。卒業式の準備が始まる中、在校生の一部に新しい役割が割り振られた。
「“ありがとうプロジェクト”?」
 雅也が首をかしげると、生活指導の先生がうなずいた。
「三年生に、“ありがとう”を伝える方法を、自分たちで考えてもらうプロジェクトだ。
  よくある花道や合唱じゃなくて、“後輩たちが受け取ったこと”を、自分の言葉で返す形式にしたいんだ」
 それを聞いて、恵美の目が光る。
「“伝えること”そのものが、“自分の仕事になる”ってことか……」
「やろうよ」と、拓馬が即答する。
「“教わったこと”って、気づいたら全部、“自分を変えてくれたもの”だった。
  それを返すって、すごく意味がある気がする」
 こうして始まった「ありがとうプロジェクト」。
 七人のメンバーは、それぞれの視点から“卒業生に伝えたいこと”を掘り起こしていった。
 
  ある日。図書館で華が広げていたのは、昨年の卒業アルバム。
  一人ひとりの写真の下に、将来の夢が書いてある。
「この人、“幼稚園の先生”って書いてる」
「この人は“料理人”。──あ、俺、この人に包丁の持ち方教わった」
 大河が静かに言った。
「今思えば、三年生って、“何気なく関わってたけど、立派な先生だったんだな”って思うよ。
  “教える”って、別に“教員免許”がある人だけじゃないんだな」
 雅也が頷く。
「うん。“先に経験した人”が“次の誰か”を導くってことそのものが、仕事かもしれない」



 「ありがとうプロジェクト」の本番は、卒業式の前日、三年生を招いて行われた。
  体育館の舞台上に立ったのは、1年A組の七人。会場には三年生、先生方、保護者の姿もある。
 雅也がゆっくりとマイクを持った。
「ぼくたちは、この一年で“働くこと”をたくさん考えてきました。
  でもその前に、教えてくれた人がいました。
  “挨拶の大切さ”も、“人の気持ちを想像すること”も、“失敗のあとにどうするか”も──
  みんな、三年生から教わったことでした」
 続いて、恵美が言葉をつなぐ。
「“先生”って、教科書のことを教えてくれる人だけじゃない。
  “前に進んでる人”が、“少し後ろにいる人”の手を引く。
  それが、私たちがこの一年で学んだ“教えるという仕事”です」
 華が言う。
「今日、私たちは“教わったことを返す”という形で、はじめて“教える側”になれたかもしれません。
  それは、まだ未熟な“伝える仕事”かもしれません。
  でも、“学んだことを次につなぐ”ことができたら──それだけで立派な“おしごと”だと思います」
 拍手の中、三年生の何人かは静かに目頭を押さえていた。
 
  発表が終わってから、舞台裏に三年の女子生徒が来た。
「……あなたたち、本当に変わったね。
  一年前、“何をしたらいいかわからない”って顔してたのに。
  今は、“誰かに伝えよう”としてる。──それって、すごいことだよ」
「ありがとうございます」
 雅也は少し照れながらも、まっすぐ頭を下げた。
 
  その夜、雅也はノートにこう記した。
 ──「教えるって、“仕事”なんだ」
  ──「自分の経験を、次の誰かに託すこと。それも立派な働き方なんだ」

(第十八話 了)

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