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第11話_帝国への書状
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凍てついた蒼氷山脈を越えた先にある、旧王国の天文塔。その最上階に、ひっそりと残された観測室があった。
鋼鉄の壁と浮遊水晶の内壁に囲まれ、満天の星が塔内に投影される幻想的な空間。そこに、巧たちは腰を下ろしていた。
苦難の末に手に入れた“王家の儀式槍”は今、慎重に布に包まれ、紗織の傍らに置かれている。
吹き抜ける寒風が、どこか緊張感を煽っていた。
「さっきの、槍の力……あれは紋章術に近い構造だね」
友子が巻き上げた外套をかぶりながら、目を輝かせて言った。
「浮遊式の魔源融合技術。帝国でも未解析の類いだよ。下手すると、世界初の再発現じゃない?」
「感動するのはいいが、凍死はごめんだぞ」
裕哉が肩をすくめながら、塔の管制盤を調べていた。
「制御端末はまだ使える。たぶん、帝国宛の幻影通信も通ると思う」
「帝国……母上の縁者か」
勇が低く呟いた。
この部屋には、彼の母方の叔父である“アンドレ”宛に通信を送るという、重大な目的がある。
帝国は今や、王国との一触即発の状態にある。だが、アンドレだけは中立的な立場に立っていた──勇の記憶では。
巧がその気配を察し、静かに口を開いた。
「勇、お前が話すべきだ。敵か味方か、それを確かめるにも、自分の言葉が要る」
頷き、勇は制御台の前に立つ。
「幻影通信、起動」
友子が結晶盤に魔力を送り込む。蒼白の光が拡がり、空中に光像が投影された。
しばらくのノイズの後、映し出されたのは、壮年の男の姿だった。
「久しいな、勇」
「……アンドレ叔父上。お久しぶりです」
アンドレは、帝国軍高官でありながらも、王国に対しては長らく介入を控えていた理性の人。その厳格な面差しは、今も変わっていなかった。
「こうして通信を寄越すとは、ただ事ではあるまい」
「はい。単刀直入に申し上げます。──王国は今、摂政派によって腐敗の極みにあります。あなたに願いたいのは……和平の提案です」
数秒の沈黙。
やがてアンドレが口を開いた。
「……それが、私に届くとでも思ったか?」
「思ったからこそ、送ったのです。王家の血を継ぐ者として、私はあなたを信じたい」
その言葉に、アンドレの眉が僅かに動く。
そして──
「残念だ。帝国は既に王国奪取を決断した。今更、誰が止めようと、軍は動き出している」
言葉が、氷の刃のように空間を凍らせた。
全員の顔色が変わる。
「だが」
アンドレが続けた。
「お前が……この戦火を超えて“証”を見せたときには、私もまた、帝国の中で己の立場を示そう。──それまでは、口も剣も、貸せない」
通信が途切れる寸前、彼はかすかに目を細めた。
「……お前の父に、似てきたな」
幻影が消える。
冷たい静寂の中で、勇は肩を落とした。
だがその背を、巧が無言で支える。
「信じさせたんだ。次は、行動で応えるだけだろ」
勇は小さく、しかし確かに頷いた。
鋼鉄の壁と浮遊水晶の内壁に囲まれ、満天の星が塔内に投影される幻想的な空間。そこに、巧たちは腰を下ろしていた。
苦難の末に手に入れた“王家の儀式槍”は今、慎重に布に包まれ、紗織の傍らに置かれている。
吹き抜ける寒風が、どこか緊張感を煽っていた。
「さっきの、槍の力……あれは紋章術に近い構造だね」
友子が巻き上げた外套をかぶりながら、目を輝かせて言った。
「浮遊式の魔源融合技術。帝国でも未解析の類いだよ。下手すると、世界初の再発現じゃない?」
「感動するのはいいが、凍死はごめんだぞ」
裕哉が肩をすくめながら、塔の管制盤を調べていた。
「制御端末はまだ使える。たぶん、帝国宛の幻影通信も通ると思う」
「帝国……母上の縁者か」
勇が低く呟いた。
この部屋には、彼の母方の叔父である“アンドレ”宛に通信を送るという、重大な目的がある。
帝国は今や、王国との一触即発の状態にある。だが、アンドレだけは中立的な立場に立っていた──勇の記憶では。
巧がその気配を察し、静かに口を開いた。
「勇、お前が話すべきだ。敵か味方か、それを確かめるにも、自分の言葉が要る」
頷き、勇は制御台の前に立つ。
「幻影通信、起動」
友子が結晶盤に魔力を送り込む。蒼白の光が拡がり、空中に光像が投影された。
しばらくのノイズの後、映し出されたのは、壮年の男の姿だった。
「久しいな、勇」
「……アンドレ叔父上。お久しぶりです」
アンドレは、帝国軍高官でありながらも、王国に対しては長らく介入を控えていた理性の人。その厳格な面差しは、今も変わっていなかった。
「こうして通信を寄越すとは、ただ事ではあるまい」
「はい。単刀直入に申し上げます。──王国は今、摂政派によって腐敗の極みにあります。あなたに願いたいのは……和平の提案です」
数秒の沈黙。
やがてアンドレが口を開いた。
「……それが、私に届くとでも思ったか?」
「思ったからこそ、送ったのです。王家の血を継ぐ者として、私はあなたを信じたい」
その言葉に、アンドレの眉が僅かに動く。
そして──
「残念だ。帝国は既に王国奪取を決断した。今更、誰が止めようと、軍は動き出している」
言葉が、氷の刃のように空間を凍らせた。
全員の顔色が変わる。
「だが」
アンドレが続けた。
「お前が……この戦火を超えて“証”を見せたときには、私もまた、帝国の中で己の立場を示そう。──それまでは、口も剣も、貸せない」
通信が途切れる寸前、彼はかすかに目を細めた。
「……お前の父に、似てきたな」
幻影が消える。
冷たい静寂の中で、勇は肩を落とした。
だがその背を、巧が無言で支える。
「信じさせたんだ。次は、行動で応えるだけだろ」
勇は小さく、しかし確かに頷いた。
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