追放冒険者と勘当王子と悪役令嬢、ときどき天才幼女──誤解だらけの王道物語

乾為天女

文字の大きさ
12 / 39

第12話_漂う忍び手紙

しおりを挟む
 塔を後にし、氷壁を下った一行は、王都へ戻る道中にある高原の宿場町〈グリーフェルド〉で一夜を明かしていた。
  陽が落ち、宿の食堂には旅人や商人が集まり、暖炉の前で互いの旅路を語り合っている。
 「……で、勇の叔父上は協力はできないが“見てはいる”ってとこかな」
  裕哉がパンの切れ端をかじりながら言った。
  勇はその言葉にわずかに頷く。
 「うん。でも、“見ている”なら十分だ。あとは俺たちが……」
  そのとき、食堂の窓を軽く叩く音がした。
  ぽとり、と、窓の隙間から小さな巻物が転がり落ちる。
  誰よりも早くそれに気づいたのは、紗織だった。立ち上がって巻物を拾い、封蝋を見る。
 「……これは、王宮の侍女章印。しかも、旧王妃付きのもの。間違いなく本物よ」
 「まさか。こんな辺境まで、どうやって」
 「送り主は“イザベル”だと名乗っているわ。かつての女官で……確か、王家と帝国両家に通じていた家の出身」
  紗織は、慎重に巻物を開いた。紙は特製の魔導繊維で、魔力でしか開封できない仕様だ。友子が解読用の魔眼鏡を取り出すと、映されたのは──
 「“帝国側の内通者リスト”……⁉」
  裕哉の声が、かすかに震えた。
  巻物には、王国内の数名の高官や貴族の名が連ねられていた。その中には、かつて王宮の財政を預かった重鎮や、軍の副将の名すらある。
  そして──
 「……王国情報院の現・院長」
  すずが小さく声を漏らした。
 「こいつ……王国に内通者がいるって情報、まさか本当だったのか」
  巧の手が拳を握る。
  裏切り、腐敗、陰謀。それらが現実の名で記されていた。
 「これが本当なら、王国は中から崩れかけている」
  勇は歯を噛んだ。
 「この文書を持って王都に戻るべきだ。──このリストがあれば、摂政派の正体を暴ける」
 「だが、王都は今、緊急軍令で検問が強化されている。帝国との国境線も封鎖中。下手に動けば、この文書ごと燃やされるぞ」
  裕哉が冷静に忠告したが──
 「なら、戻り方を考えよう」
  巧が静かに言った。
  目に宿る光は、迷いのない剣のようだった。
 「俺たちには理由がある。王都に戻る“道理”が」
 「“迷宮”……だな?」
  すずが、薄く笑った。
  そう。彼らには、まだやり残したことがある。
  地下迷宮の最終層。その奥に封じられた、王統の“証”。
  それこそが、勇を王として認めさせる最後の鍵。そして、この文書は、その真実への道を開く。
 「よし、次の目的地は決まったな」
  裕哉が椅子を蹴って立ち上がる。
  その背に、全員が立ち上がる気配が重なる。
  まるで、何かの序章が始まるかのように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

処理中です...