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第13話_陽炎の国境線
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〈グリーフェルド〉を出発して三日後の午後、巧たちは国境検問所〈ザルト峠の関門〉へとたどり着いていた。王国と帝国の境界をなすこの高地では、陽炎が揺らぎ、空気の向こう側が歪んで見える。
しかし、そこに掲げられている旗が問題だった。
「帝国旗……?」
裕哉が望遠鏡を引っ込め、目を細めた。
「おかしい。ここは王国側の関門だ。帝国がこんなあからさまに旗を上げてるってことは、偽旗作戦の可能性が高い」
「ということは……帝国の内通者部隊が関門を掌握してるってこと?」
すずが言いながら、横目で勇を見る。
勇は何も言わず、ただ頷いた。
「どうする? 正面突破は無理。だが、あそこを通らずに王都へ戻る道は他にない」
友子が、地図を睨みつける。
「谷間の裏ルートはあるけど、雪崩で通行不能だよ。魔導車両じゃなければ崖も越えられない」
「じゃあ──変装と潜入しかないわね」
紗織の一言に、巧が微かに口元を緩めた。
「よし、計画立てよう。まず俺と裕哉が先行して内部の様子を探る。その間、友子は煙幕装置を作ってくれ。あの霧で混乱を起こす」
「了解」
友子はさっそく資材袋を開き、煙結晶と銀粉を取り出す。見事な手つきで小さな筒型の装置を組み立て始めた。
「私たち三人は?」
すずが尋ねると、勇が短く答えた。
「俺が身分を使う」
「え?」
その言葉に一同が驚いた。
「王子の身分は、もはや裏目にしかならないはず……」
「そうでもない」と勇は言った。
「敵の中に、かつての王都を知る者がいれば、俺の顔と声は有効な“秤”になる。たとえ偽旗部隊でも、俺の登場は動揺を誘うはずだ」
「つまり、“陽炎を裂く光”になると」
すずが呟くように言い、頷いた。
夜──。
闇に紛れ、巧と裕哉が衛兵の制服を身にまとい、検問所の裏口へと滑り込んだ。
衛兵を気絶させ、食料庫に火をつけ、逃げ惑う者が出た頃、霧のような煙幕が広がる。
その白い幕の向こうから──
「第三王子、勇である!」
叫びが響いた。
勇が姿を現し、軍服を正して正面から進み出る。腰には王印の佩剣。その後ろには、外交文書の形式に則った書状を手にした紗織が続く。
「貴殿らの行動は、王国に対する反逆と見做す!」
偽旗部隊の兵らがざわめく。
その場を制したのは──
「撤収命令、確認……! 本物だ……!」
兵士の一人が書状を見て、狼狽を露わにした。
誰かが「やはり第三王子は生きていた」と呟き、全体に動揺が走る。
数刻ののち、検問所は無血で王国側に返還された。
そして巧たちは、再び王都へ向けて歩を進める。
陽炎の国境線を越え、いよいよ、物語は終盤の局面へと突入し始めていた。
しかし、そこに掲げられている旗が問題だった。
「帝国旗……?」
裕哉が望遠鏡を引っ込め、目を細めた。
「おかしい。ここは王国側の関門だ。帝国がこんなあからさまに旗を上げてるってことは、偽旗作戦の可能性が高い」
「ということは……帝国の内通者部隊が関門を掌握してるってこと?」
すずが言いながら、横目で勇を見る。
勇は何も言わず、ただ頷いた。
「どうする? 正面突破は無理。だが、あそこを通らずに王都へ戻る道は他にない」
友子が、地図を睨みつける。
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「じゃあ──変装と潜入しかないわね」
紗織の一言に、巧が微かに口元を緩めた。
「よし、計画立てよう。まず俺と裕哉が先行して内部の様子を探る。その間、友子は煙幕装置を作ってくれ。あの霧で混乱を起こす」
「了解」
友子はさっそく資材袋を開き、煙結晶と銀粉を取り出す。見事な手つきで小さな筒型の装置を組み立て始めた。
「私たち三人は?」
すずが尋ねると、勇が短く答えた。
「俺が身分を使う」
「え?」
その言葉に一同が驚いた。
「王子の身分は、もはや裏目にしかならないはず……」
「そうでもない」と勇は言った。
「敵の中に、かつての王都を知る者がいれば、俺の顔と声は有効な“秤”になる。たとえ偽旗部隊でも、俺の登場は動揺を誘うはずだ」
「つまり、“陽炎を裂く光”になると」
すずが呟くように言い、頷いた。
夜──。
闇に紛れ、巧と裕哉が衛兵の制服を身にまとい、検問所の裏口へと滑り込んだ。
衛兵を気絶させ、食料庫に火をつけ、逃げ惑う者が出た頃、霧のような煙幕が広がる。
その白い幕の向こうから──
「第三王子、勇である!」
叫びが響いた。
勇が姿を現し、軍服を正して正面から進み出る。腰には王印の佩剣。その後ろには、外交文書の形式に則った書状を手にした紗織が続く。
「貴殿らの行動は、王国に対する反逆と見做す!」
偽旗部隊の兵らがざわめく。
その場を制したのは──
「撤収命令、確認……! 本物だ……!」
兵士の一人が書状を見て、狼狽を露わにした。
誰かが「やはり第三王子は生きていた」と呟き、全体に動揺が走る。
数刻ののち、検問所は無血で王国側に返還された。
そして巧たちは、再び王都へ向けて歩を進める。
陽炎の国境線を越え、いよいよ、物語は終盤の局面へと突入し始めていた。
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