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第15話_黒幕の影
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王都の夜は静かだった。だがその静けさは、まるで水面に張った氷のように薄く、脆い。
「……情報院長、宰相ルードヴィヒ=フェンネル。これが黒幕の名だ」
裕哉が持ち帰った密書を、巧が読み上げる。手元には、友子が設計した“魔眼装置”が稼働していた。金属製の球体に彫られた魔道式回路が、淡い紫光を帯びながら回転している。
「これで“真実の痕跡”が見える……はずだけど」
「おおっ、なんか出たぞ!? その書棚の奥……光ってる!」
すずが叫び、友子が微調整レバーを弾く。金属球の中央に開いた瞳状の窓から、宙に浮かぶ霧のような映像が現れる。
「……隠し金庫だ。しかも、封印術式つき」
裕哉が目を細めた。金庫は壁面の装飾に巧妙に隠され、通常の視覚では見えない。しかも、その周囲には過去の操作履歴が、魔力の痕跡として浮かび上がっている。
「数日前……院長自ら開けてる。中身の魔力反応も記録されてるな。これは……“金晶石”?」
友子が眉をひそめた。
「金晶石は、国家予算規模の結晶。数粒で軍一個旅団を動かせるエネルギー源……それが個人金庫に?」
「──つまり、王国予算の横流しってわけか」
すずが呆れたようにため息をつく。
紗織は黙って金庫に近づき、手にした封蝋ナイフで丁寧に結界を切り裂いた。青白い光が弾け、瞬時に封印が解除される。
「わたくし、婚約破棄された時にこれで結構鍛えましたの。裏切り者の文通を解読するのが日課でしたから」
「それは、なんか……すごいけど、悲しい」
すずが苦笑し、勇も顔をしかめる。
「だがその経験が今、役に立っている。ありがとう、紗織」
「……っ、礼を言われる筋合いはありませんわ。ですが……」
彼女は金庫を開け、光り輝く金晶石の束と、分厚い帳簿の束を手に取った。
「これで──証拠は揃いましたわね」
そのとき、館内に鈍い響きが伝わる。誰かが外の扉を破ろうとしている。
「時間切れか。逃げ道は確保済みだ、あとはこれを持って──」
裕哉が金晶石を分け、皆の荷物に忍ばせる。
「で、これどうするの? このまま証拠持って評議会に持ち込む?」
「……その前に、院長本人を“炙り出す”必要がある」
巧の言葉に、全員が黙る。
「黒幕を告発するだけじゃ意味がない。奴が“国の敵”であると、民に理解させる必要がある」
「つまり、“見せしめ”ね」
紗織が冷ややかに言い、勇が首を縦に振る。
「正々堂々と、法の場で裁く。それが王たる者の責任だ」
「じゃあ、ひと芝居打つか」
裕哉が不敵に笑う。
「王都演劇組合の仮面舞踏会──奴が贔屓にしてる劇場の支配人に手を回すさ。観客の前で、化けの皮を剥がしてやる」
「“舞台で暴く悪事”って、まさに物語ね……!」
すずの目が輝いた。
仲間たちはそれぞれ荷物を背負い、最後の確認を交わす。
「次の行き先は“劇場”。仮面の裏に潜む悪を、白日のもとに引きずり出す──」
仮面舞踏会が開かれる劇場〈セレナーデの扉〉は、王都の中央広場に面していた。公爵家の庇護を受ける格式高い演劇場で、院長ルードヴィヒのような上層貴族も頻繁に訪れる社交の場でもある。
「問題は、“どうやって舞台に院長を引きずり出すか”だけど……そこは俺の腕の見せ所だな」
裕哉がロビー裏の通用口をノックすると、老いた支配人が顔を覗かせた。銀髪に黒マント、腰のペンケースが妙に似合っている。
「……おお、久しいな裕哉坊。今夜は“特別枠”で頼まれていたぞ。“覆面劇作家の新作”って話でな」
「ああ、その演出を俺たちでやる。主役は《仮面の宰相》、観客は……その本物、ってやつだ」
支配人は一瞬沈黙し、そして笑った。
「なんともお前らしい。舞台の神がついてるといいな」
こうして仲間たちは役割を振り分け、舞台裏で急ごしらえの演出を整えた。巧は衛兵役、すずはナレーションと語り部、紗織は貴族令嬢、友子は照明と効果操作。勇は──主役、《告発する騎士》役だった。
開幕の鐘が鳴り、観客席に煌びやかな貴族たちが集まり始める。
「来てるわよ、最前列のボックス席。あれが……」
すずが囁き、舞台袖から見ると、重厚な黒衣を着た中年男が銀の仮面をかぶって座っている。彼こそがルードヴィヒ=フェンネル。王国情報院の長であり、宰相、そして今回の黒幕だ。
「“芝居”を楽しんでもらおう。──俺たちの真実ってやつをな」
勇が剣を抜き、ゆっくりと舞台の中央に歩を進めた。
「──ああ、我が王よ。貴方は何を恐れ、民の声を封じたのか」
朗々と響く声が、観客の沈黙を切り裂く。照明が当たり、舞台には荘厳な裁判所を模したセットが浮かび上がる。証人席には紗織が座り、帳簿と金晶石を掲げた。
「この者の名は、ルードヴィヒ。王の補佐を騙り、国の富を私してきた裏切り者!」
会場がざわめく。仮面の貴族たちの一部は笑い、また一部は不穏な視線を走らせる。そして、その中心に座る“本物”が、眉一つ動かさず見ていた。
「証拠なら、ある。これが、貴族院長の金庫から出た帳簿……!」
紗織が本を開き、客席中央の投影幕に魔眼装置が“中身”を映し出す。金晶石の流通記録、不正予算の捻出ルート。王家に報告されていない機密費──すべてが暴かれていく。
ついに会場の空気が凍りついた。
ルードヴィヒが立ち上がる。仮面を外し、深くため息を吐く。
「くだらん芝居だ。よくここまで用意したものだ。だが……観客の前で私を告発すれば、君たちも無事では済むまい?」
「済まなくても構わない。これは王国を──未来を救うための告発だ!」
勇が剣を掲げる。観客席から誰かが拍手を打った。すずが音頭をとり、歌に乗せて告発の言葉を広げる。
「真実は、沈黙ではなく、光にこそ宿る──!」
観客席の一部から、にわかには信じ難いといった表情で立ち上がる者も出始めた。情報院長が──あの厳格なルードヴィヒが──不正を?
それは王国貴族社会全体を揺るがす事実だった。
「これは……偽造だ!」
ルードヴィヒが叫ぶ。しかし次の瞬間、天井の装飾がわずかにずれ、そこから黒衣の衛兵が舞台裏へ飛び降りた。王都近衛隊。かつて巧が所属していた古参部隊の制服だ。
「王宮よりの緊急勅命により、ルードヴィヒ・フェンネルの身柄を拘束する」
舞台に立つ巧が前へ進み出た。
「……あんたの部下だった兵士は今、王宮の地下牢にいる。すでに自白も取れてる。“証拠を燃やせ”ってな。けど、全部──友子が複製してたんだよ」
舞台裏の制御卓で、小さな影が手を挙げた。「はい!一応コピー十七部あります!」
観客からどよめきが走る。紗織が立ち上がる。
「王国の未来を預かるこの場で、これ以上沈黙するわけには参りません。貴族として、そして一市民として。ルードヴィヒ様、貴方の責任は明白です!」
「貴様ら……どこまで読んでいたのだ!」
ルードヴィヒが吠える。が、その時すでに彼の背後には、近衛の剣が突きつけられていた。
「すべて、じゃない。ただ……お前が“国の名を騙っていた”ってこと、それだけは見逃せなかった」
勇が剣を納める。その刹那、劇場全体に拍手が湧き上がった。
市民たちはただの“演劇”を観に来たつもりだった。だが、真実の暴露とそれに立ち向かう若き騎士たちの姿は、心を打った。
──舞台が終わる。だが、本当の“幕”は今、上がったのだ。
その夜の劇は、後に“正義の一夜”と語られることになる。
「……情報院長、宰相ルードヴィヒ=フェンネル。これが黒幕の名だ」
裕哉が持ち帰った密書を、巧が読み上げる。手元には、友子が設計した“魔眼装置”が稼働していた。金属製の球体に彫られた魔道式回路が、淡い紫光を帯びながら回転している。
「これで“真実の痕跡”が見える……はずだけど」
「おおっ、なんか出たぞ!? その書棚の奥……光ってる!」
すずが叫び、友子が微調整レバーを弾く。金属球の中央に開いた瞳状の窓から、宙に浮かぶ霧のような映像が現れる。
「……隠し金庫だ。しかも、封印術式つき」
裕哉が目を細めた。金庫は壁面の装飾に巧妙に隠され、通常の視覚では見えない。しかも、その周囲には過去の操作履歴が、魔力の痕跡として浮かび上がっている。
「数日前……院長自ら開けてる。中身の魔力反応も記録されてるな。これは……“金晶石”?」
友子が眉をひそめた。
「金晶石は、国家予算規模の結晶。数粒で軍一個旅団を動かせるエネルギー源……それが個人金庫に?」
「──つまり、王国予算の横流しってわけか」
すずが呆れたようにため息をつく。
紗織は黙って金庫に近づき、手にした封蝋ナイフで丁寧に結界を切り裂いた。青白い光が弾け、瞬時に封印が解除される。
「わたくし、婚約破棄された時にこれで結構鍛えましたの。裏切り者の文通を解読するのが日課でしたから」
「それは、なんか……すごいけど、悲しい」
すずが苦笑し、勇も顔をしかめる。
「だがその経験が今、役に立っている。ありがとう、紗織」
「……っ、礼を言われる筋合いはありませんわ。ですが……」
彼女は金庫を開け、光り輝く金晶石の束と、分厚い帳簿の束を手に取った。
「これで──証拠は揃いましたわね」
そのとき、館内に鈍い響きが伝わる。誰かが外の扉を破ろうとしている。
「時間切れか。逃げ道は確保済みだ、あとはこれを持って──」
裕哉が金晶石を分け、皆の荷物に忍ばせる。
「で、これどうするの? このまま証拠持って評議会に持ち込む?」
「……その前に、院長本人を“炙り出す”必要がある」
巧の言葉に、全員が黙る。
「黒幕を告発するだけじゃ意味がない。奴が“国の敵”であると、民に理解させる必要がある」
「つまり、“見せしめ”ね」
紗織が冷ややかに言い、勇が首を縦に振る。
「正々堂々と、法の場で裁く。それが王たる者の責任だ」
「じゃあ、ひと芝居打つか」
裕哉が不敵に笑う。
「王都演劇組合の仮面舞踏会──奴が贔屓にしてる劇場の支配人に手を回すさ。観客の前で、化けの皮を剥がしてやる」
「“舞台で暴く悪事”って、まさに物語ね……!」
すずの目が輝いた。
仲間たちはそれぞれ荷物を背負い、最後の確認を交わす。
「次の行き先は“劇場”。仮面の裏に潜む悪を、白日のもとに引きずり出す──」
仮面舞踏会が開かれる劇場〈セレナーデの扉〉は、王都の中央広場に面していた。公爵家の庇護を受ける格式高い演劇場で、院長ルードヴィヒのような上層貴族も頻繁に訪れる社交の場でもある。
「問題は、“どうやって舞台に院長を引きずり出すか”だけど……そこは俺の腕の見せ所だな」
裕哉がロビー裏の通用口をノックすると、老いた支配人が顔を覗かせた。銀髪に黒マント、腰のペンケースが妙に似合っている。
「……おお、久しいな裕哉坊。今夜は“特別枠”で頼まれていたぞ。“覆面劇作家の新作”って話でな」
「ああ、その演出を俺たちでやる。主役は《仮面の宰相》、観客は……その本物、ってやつだ」
支配人は一瞬沈黙し、そして笑った。
「なんともお前らしい。舞台の神がついてるといいな」
こうして仲間たちは役割を振り分け、舞台裏で急ごしらえの演出を整えた。巧は衛兵役、すずはナレーションと語り部、紗織は貴族令嬢、友子は照明と効果操作。勇は──主役、《告発する騎士》役だった。
開幕の鐘が鳴り、観客席に煌びやかな貴族たちが集まり始める。
「来てるわよ、最前列のボックス席。あれが……」
すずが囁き、舞台袖から見ると、重厚な黒衣を着た中年男が銀の仮面をかぶって座っている。彼こそがルードヴィヒ=フェンネル。王国情報院の長であり、宰相、そして今回の黒幕だ。
「“芝居”を楽しんでもらおう。──俺たちの真実ってやつをな」
勇が剣を抜き、ゆっくりと舞台の中央に歩を進めた。
「──ああ、我が王よ。貴方は何を恐れ、民の声を封じたのか」
朗々と響く声が、観客の沈黙を切り裂く。照明が当たり、舞台には荘厳な裁判所を模したセットが浮かび上がる。証人席には紗織が座り、帳簿と金晶石を掲げた。
「この者の名は、ルードヴィヒ。王の補佐を騙り、国の富を私してきた裏切り者!」
会場がざわめく。仮面の貴族たちの一部は笑い、また一部は不穏な視線を走らせる。そして、その中心に座る“本物”が、眉一つ動かさず見ていた。
「証拠なら、ある。これが、貴族院長の金庫から出た帳簿……!」
紗織が本を開き、客席中央の投影幕に魔眼装置が“中身”を映し出す。金晶石の流通記録、不正予算の捻出ルート。王家に報告されていない機密費──すべてが暴かれていく。
ついに会場の空気が凍りついた。
ルードヴィヒが立ち上がる。仮面を外し、深くため息を吐く。
「くだらん芝居だ。よくここまで用意したものだ。だが……観客の前で私を告発すれば、君たちも無事では済むまい?」
「済まなくても構わない。これは王国を──未来を救うための告発だ!」
勇が剣を掲げる。観客席から誰かが拍手を打った。すずが音頭をとり、歌に乗せて告発の言葉を広げる。
「真実は、沈黙ではなく、光にこそ宿る──!」
観客席の一部から、にわかには信じ難いといった表情で立ち上がる者も出始めた。情報院長が──あの厳格なルードヴィヒが──不正を?
それは王国貴族社会全体を揺るがす事実だった。
「これは……偽造だ!」
ルードヴィヒが叫ぶ。しかし次の瞬間、天井の装飾がわずかにずれ、そこから黒衣の衛兵が舞台裏へ飛び降りた。王都近衛隊。かつて巧が所属していた古参部隊の制服だ。
「王宮よりの緊急勅命により、ルードヴィヒ・フェンネルの身柄を拘束する」
舞台に立つ巧が前へ進み出た。
「……あんたの部下だった兵士は今、王宮の地下牢にいる。すでに自白も取れてる。“証拠を燃やせ”ってな。けど、全部──友子が複製してたんだよ」
舞台裏の制御卓で、小さな影が手を挙げた。「はい!一応コピー十七部あります!」
観客からどよめきが走る。紗織が立ち上がる。
「王国の未来を預かるこの場で、これ以上沈黙するわけには参りません。貴族として、そして一市民として。ルードヴィヒ様、貴方の責任は明白です!」
「貴様ら……どこまで読んでいたのだ!」
ルードヴィヒが吠える。が、その時すでに彼の背後には、近衛の剣が突きつけられていた。
「すべて、じゃない。ただ……お前が“国の名を騙っていた”ってこと、それだけは見逃せなかった」
勇が剣を納める。その刹那、劇場全体に拍手が湧き上がった。
市民たちはただの“演劇”を観に来たつもりだった。だが、真実の暴露とそれに立ち向かう若き騎士たちの姿は、心を打った。
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