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第20話_王都決戦前夜
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迷宮最終層で得た〈王家の紋章コア〉──その輝きは、王位を正統に継ぐ資格を持つ者にのみ反応する。
勇はそれを胸に抱え、沈黙の転移陣から地上への帰還を果たした。転送先は、王都西の外縁にある廃神殿。その光が失われた瞬間、地下の旅が終わったことを告げる風が吹き抜ける。
だが、休む間もなく、戦は迫っていた。
「もう、王都決戦なのか……」
廃神殿の崩れた回廊に腰を下ろし、巧が低くつぶやく。
遠く、城壁の向こうからは緊迫した鐘の音が響いてくる。それはまるで、王都そのものが鼓動しているかのようだった。
「摂政派が動く気配があるわ。最後の切り札を手に入れた今、私たちが仕掛けるしかない」
紗織が、きりりと眉を上げる。すでに元婚約者である摂政派の重鎮・リドルト卿から、最後の通告が届いていた。
「“帰る場所などない貴族娘が、王都の未来に口を出すな”……か」
彼女はその文を手の中でくしゃりと握り潰す。
そんな彼女を見て、勇が静かに言う。
「俺が王となる。そして、お前たち全員の帰る場所を……この王国を、俺が守る」
紗織がふっと目を細め、だが目の奥に確かな光を宿す。
「……ならば、私も立つわ。未来の王の、最初の側近として」
「よぉし! ならば俺は――とびきりカッコいい登場の仕方、考えとくわ!」
そう息巻いたのは裕哉だ。すでに手には劇場で用いる煙幕玉と、変装用の小道具が山盛り。
「演出は任せて。混乱の渦中でこそ、“真実を魅せる舞台”ってやつが燃えるからな」
「それ、戦場で言うセリフじゃないと思うけど……」
すずが困ったように笑うが、彼女の胸元には新しく書かれた歌詞の一節が収まっていた。王都の広場での演説──勇の決意を詩として届ける準備は整っている。
「で、わたしは? ……うん、たぶん非殺傷装備の調整かな。あと、弾道の軌道演算式を描いて、砲台を使えないようにしとく」
友子はぼそぼそと、だが確かな口調で自分の役目を告げた。
誰もが“できること”を知っていた。そして、“自分にしかできないこと”を見つけていた。
「巧。あんたは、どうするの?」
すずの問いに、巧は静かに立ち上がった。
「俺は、前に立つ。勇の盾として。誰が相手でも、そこは譲らない」
それは、誰よりも感情を伝えるのが苦手だった男の、最も明確な意思表示だった。
「──明日、夜明け。王城南門より、決戦を開始する」
勇が静かに告げる。
「摂政派の陰謀を暴き、王家の名にかけて、民の前に真実を示す」
仲間たちはうなずき、今一度、決意を固めた。
夜の帳が降りる。だがその闇の中に、確かに小さな光が灯る。
それは、“仲間”と呼べるものたちが、信じて支えあう光だった。
翌未明。王都では、各所に不審な動きが広がっていた。
巡回兵の姿が消え、兵舎の灯りが落ち、食料庫には鍵がかけられたまま補充がない。摂政派が自軍のみに物資を回し、反抗の芽を摘もうとしているのは明らかだった。
「情報院の連中、まだ動いてるな。……あーあ、仕事が増える」
裕哉は溜息まじりに言いながら、上水道の地図を広げる。市街に残した諜報網が集めた情報によれば、摂政派は地下からの侵入を警戒し、三層すべてに封鎖魔術を設置していた。
「でも、対策済み。旧水路の“反転式弁”を再起動すれば、古い通気口が開く」
「……その弁、どうやって起動するの?」
すずが問うと、友子が背中の道具箱から金属板の束を取り出した。
「これ。王立学院時代に作ったの。油圧式だから、魔法妨害関係ない」
「まさか、その頃から反乱想定してたのか?」
巧の疑問に、友子は首を横に振る。
「違う。“必要になりそうなもの”を作るのが研究者。実験の七割は無駄。でも、それでいいの」
幼い声に、全員が一瞬、沈黙した。
だが次の瞬間、勇が力強く言う。
「お前がいてくれてよかった、友子」
「……あんまり褒めないで。期待されると胃が痛くなるから」
そう言ってそっぽを向いたが、耳だけが赤かった。
すずはその様子を微笑ましく見つめつつ、肩に提げたリュートの弦を爪弾いた。
「じゃあ、演説用の音響はこの歌で調整ね。“王が民の名を呼ぶ”……そんな構成にしておくわ」
「さすがすず。詩の構造に場の空気を合わせる才能、尊敬する」
紗織が真顔でそう言うと、すずは思わず目をぱちぱちと瞬かせた。
「え? い、今、初めて褒められた気がするんだけど!?」
「気のせいじゃないわ。明日を信じたいもの、私も」
その声は確かに、決意を帯びていた。
「……じゃ、最後にひとつ」
巧が皆を見渡して言った。
「今夜だけは、よく寝ておけ」
驚いたような顔で全員が彼を見る。
「……寝坊したら、置いていくからな」
そして、にやりと口元だけを歪めた。
それが冗談とも本気ともつかないからこそ──仲間たちは、静かに笑った。
夜が明ける。
全てが動き出す、決戦の朝が来る。
勇はそれを胸に抱え、沈黙の転移陣から地上への帰還を果たした。転送先は、王都西の外縁にある廃神殿。その光が失われた瞬間、地下の旅が終わったことを告げる風が吹き抜ける。
だが、休む間もなく、戦は迫っていた。
「もう、王都決戦なのか……」
廃神殿の崩れた回廊に腰を下ろし、巧が低くつぶやく。
遠く、城壁の向こうからは緊迫した鐘の音が響いてくる。それはまるで、王都そのものが鼓動しているかのようだった。
「摂政派が動く気配があるわ。最後の切り札を手に入れた今、私たちが仕掛けるしかない」
紗織が、きりりと眉を上げる。すでに元婚約者である摂政派の重鎮・リドルト卿から、最後の通告が届いていた。
「“帰る場所などない貴族娘が、王都の未来に口を出すな”……か」
彼女はその文を手の中でくしゃりと握り潰す。
そんな彼女を見て、勇が静かに言う。
「俺が王となる。そして、お前たち全員の帰る場所を……この王国を、俺が守る」
紗織がふっと目を細め、だが目の奥に確かな光を宿す。
「……ならば、私も立つわ。未来の王の、最初の側近として」
「よぉし! ならば俺は――とびきりカッコいい登場の仕方、考えとくわ!」
そう息巻いたのは裕哉だ。すでに手には劇場で用いる煙幕玉と、変装用の小道具が山盛り。
「演出は任せて。混乱の渦中でこそ、“真実を魅せる舞台”ってやつが燃えるからな」
「それ、戦場で言うセリフじゃないと思うけど……」
すずが困ったように笑うが、彼女の胸元には新しく書かれた歌詞の一節が収まっていた。王都の広場での演説──勇の決意を詩として届ける準備は整っている。
「で、わたしは? ……うん、たぶん非殺傷装備の調整かな。あと、弾道の軌道演算式を描いて、砲台を使えないようにしとく」
友子はぼそぼそと、だが確かな口調で自分の役目を告げた。
誰もが“できること”を知っていた。そして、“自分にしかできないこと”を見つけていた。
「巧。あんたは、どうするの?」
すずの問いに、巧は静かに立ち上がった。
「俺は、前に立つ。勇の盾として。誰が相手でも、そこは譲らない」
それは、誰よりも感情を伝えるのが苦手だった男の、最も明確な意思表示だった。
「──明日、夜明け。王城南門より、決戦を開始する」
勇が静かに告げる。
「摂政派の陰謀を暴き、王家の名にかけて、民の前に真実を示す」
仲間たちはうなずき、今一度、決意を固めた。
夜の帳が降りる。だがその闇の中に、確かに小さな光が灯る。
それは、“仲間”と呼べるものたちが、信じて支えあう光だった。
翌未明。王都では、各所に不審な動きが広がっていた。
巡回兵の姿が消え、兵舎の灯りが落ち、食料庫には鍵がかけられたまま補充がない。摂政派が自軍のみに物資を回し、反抗の芽を摘もうとしているのは明らかだった。
「情報院の連中、まだ動いてるな。……あーあ、仕事が増える」
裕哉は溜息まじりに言いながら、上水道の地図を広げる。市街に残した諜報網が集めた情報によれば、摂政派は地下からの侵入を警戒し、三層すべてに封鎖魔術を設置していた。
「でも、対策済み。旧水路の“反転式弁”を再起動すれば、古い通気口が開く」
「……その弁、どうやって起動するの?」
すずが問うと、友子が背中の道具箱から金属板の束を取り出した。
「これ。王立学院時代に作ったの。油圧式だから、魔法妨害関係ない」
「まさか、その頃から反乱想定してたのか?」
巧の疑問に、友子は首を横に振る。
「違う。“必要になりそうなもの”を作るのが研究者。実験の七割は無駄。でも、それでいいの」
幼い声に、全員が一瞬、沈黙した。
だが次の瞬間、勇が力強く言う。
「お前がいてくれてよかった、友子」
「……あんまり褒めないで。期待されると胃が痛くなるから」
そう言ってそっぽを向いたが、耳だけが赤かった。
すずはその様子を微笑ましく見つめつつ、肩に提げたリュートの弦を爪弾いた。
「じゃあ、演説用の音響はこの歌で調整ね。“王が民の名を呼ぶ”……そんな構成にしておくわ」
「さすがすず。詩の構造に場の空気を合わせる才能、尊敬する」
紗織が真顔でそう言うと、すずは思わず目をぱちぱちと瞬かせた。
「え? い、今、初めて褒められた気がするんだけど!?」
「気のせいじゃないわ。明日を信じたいもの、私も」
その声は確かに、決意を帯びていた。
「……じゃ、最後にひとつ」
巧が皆を見渡して言った。
「今夜だけは、よく寝ておけ」
驚いたような顔で全員が彼を見る。
「……寝坊したら、置いていくからな」
そして、にやりと口元だけを歪めた。
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夜が明ける。
全てが動き出す、決戦の朝が来る。
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