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第22話_誤算の和議
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王都の北門前――夜明け直前の薄明が、空に赤と灰の筋を引いていた。
帝国軍の先遣隊は、あくまで陣を敷いたまま、王国の出方を待っていた。決して王城へ向かおうとしない。
そんな中、勇は戦装束に着替え、剣を腰に佩きながら練兵場の中央に立つ。そして、軍幕の隙間から静かに現れたのは、帝国の将軍、アンドレだった。
「……ようやく、会えたな。弟よ」
勇が一歩、前へ踏み出す。
「アンドレ兄上。どういうつもりですか? 本当に王城へ攻め入る気だったのか?」
アンドレは肩をすくめ、腰の剣を外して地に置いた。
「そのつもりだった。……だが、今は違う。摂政派の暴走が想像以上に酷い。王都の民を巻き込むのは、本意ではない」
「なら、なぜ先に語ってくれなかった!」
「帝国の決議だ。俺の独断は、いつだって許されない立場だったんだよ……王族としても、将としてもな」
勇は、彼の目に映る“疲れ”を見逃さなかった。
だが、ここで剣を振るうことに意味はない。
ふたりの間にしばし沈黙が落ちた。
その緊張を、すずの柔らかな声が切り裂く。
「じゃあ、いっそ“演じましょう”か。あなたたち二人が、共に戦場に立つ“王子”だったという物語を」
アンドレの眉がぴくりと動く。
「詩人の口から出るとは思わなかったな。だが……悪くない。俺も、この国を“物語の結末”に導きたいとは思っていたんだ」
勇は頷いた。
「その物語、最後まで語る価値があるなら、俺は信じよう。兄上と共に、この国の“誤算”を、和議に変えてみせる」
両軍の幕僚が、戦火を交える代わりに議場の設営に動いた。
地図、軍備、補給線の帳簿、敵味方の位置――あらゆる情報が一夜にして白紙に戻される。
その中心に、勇とアンドレ、そして補佐として立つのは、紗織、巧、友子、裕哉、すず。王国の顔とも呼べる一行だ。
最初の交渉は、帝国側の将官から始まった。
「王国側が正式に摂政派を制圧できる保証は? このままでは和議も画餅でしかない」
紗織が応じる。
「現摂政派の長老は、王位簒奪の未遂により告発済みです。王都では既に勇殿の支持が多数を占めています」
「証拠は?」
すかさず友子が、魔導通信による映像記録を展開する。城門広場での演説、市民の賛同の声、兵士たちの剣の向きが変わっていく様子が記録されていた。
「ご覧の通りです。民意は既に、旧体制から離脱しています」
帝国側が顔を見合わせる。
そこへ、裕哉が静かに口を挟んだ。
「今この瞬間、両国の未来は、あなた方の“解釈”次第です。剣を交えるよりも、意味のある一行を歴史に残してはどうですか?」
アンドレが、机の上に置かれた王国と帝国の古文書を手に取る。
「これは、かつて両国が同盟を結んでいた時代の記録だ。王族間に血縁があったこと、共に異民族を撃退したこと……勇、お前の存在が、両国の“共通項”であるなら、俺は信じよう」
そして彼は立ち上がり、宣言する。
「帝国軍、王都からの撤退を決定する。条件はただ一つ――今後、国境地帯において“両王子”による共同自治を認めよ」
場が静まり返る。
勇がそれに応じたのは、わずか数秒後だった。
「受けましょう。共に始めましょう、“第二の建国”を」
和議はその場で口約束では終わらなかった。
巧が一歩前に出る。
「この和議が、“ただの見せかけ”ではないと証明するため、両軍の協力による民間支援隊を発足させたい。傷ついた町の再建、難民の保護、物資の融通、それを先に形にしましょう」
すずがにこやかに続く。
「歌と詩にもなりますから。争いの後で“支え合う者たち”が登場する物語は、民の心にも火を灯します」
アンドレの部下たちは顔をしかめたが、本人は頷いた。
「……お前たち、本当に変わってるな。戦争を止めるのに“物語”とは」
「物語じゃなく、“信頼の演出”ですよ」
そう言ったのは裕哉だった。
彼は、素早く持ち込んだ契約文書の草案を取り出し、帝国・王国双方の調印場所を記す。
「この書類に調印し、互いの代表者が保証人として立つ形を取れば、後世への“言い逃れ”も潰せます。政治とはそういうもんですから」
アンドレは草案を一瞥し、目を細める。
「ずいぶん手際がいいじゃないか」
「ええ、元・影の外交官ですから。お飾りの役職より、こちらの方が性に合ってまして」
勇が、ふっと笑った。
「変わらないな、お前は。……だが、頼もしい」
和議成立から数刻後、両陣営の兵士たちが共同で城門周辺の瓦礫を撤去し始めた。
砕けた石柱、焼け焦げた家屋、崩れた塀。そこに帝国兵が土嚢を運び、王国兵が指示を出し、子どもたちが手伝いに混ざる。
「なあ、あいつらほんとに戦争してたんだよな?」
「うん。……でも、これが“戦後”ってやつなんだと思う」
少女の問いに、友子がぽつりと答えた。
火の海を抜けてたどり着いた静寂は、まだ不安定な和音だった。けれど、勇とアンドレが並んで歩く背中には、確かな調和が見えていた。
帝国軍の先遣隊は、あくまで陣を敷いたまま、王国の出方を待っていた。決して王城へ向かおうとしない。
そんな中、勇は戦装束に着替え、剣を腰に佩きながら練兵場の中央に立つ。そして、軍幕の隙間から静かに現れたのは、帝国の将軍、アンドレだった。
「……ようやく、会えたな。弟よ」
勇が一歩、前へ踏み出す。
「アンドレ兄上。どういうつもりですか? 本当に王城へ攻め入る気だったのか?」
アンドレは肩をすくめ、腰の剣を外して地に置いた。
「そのつもりだった。……だが、今は違う。摂政派の暴走が想像以上に酷い。王都の民を巻き込むのは、本意ではない」
「なら、なぜ先に語ってくれなかった!」
「帝国の決議だ。俺の独断は、いつだって許されない立場だったんだよ……王族としても、将としてもな」
勇は、彼の目に映る“疲れ”を見逃さなかった。
だが、ここで剣を振るうことに意味はない。
ふたりの間にしばし沈黙が落ちた。
その緊張を、すずの柔らかな声が切り裂く。
「じゃあ、いっそ“演じましょう”か。あなたたち二人が、共に戦場に立つ“王子”だったという物語を」
アンドレの眉がぴくりと動く。
「詩人の口から出るとは思わなかったな。だが……悪くない。俺も、この国を“物語の結末”に導きたいとは思っていたんだ」
勇は頷いた。
「その物語、最後まで語る価値があるなら、俺は信じよう。兄上と共に、この国の“誤算”を、和議に変えてみせる」
両軍の幕僚が、戦火を交える代わりに議場の設営に動いた。
地図、軍備、補給線の帳簿、敵味方の位置――あらゆる情報が一夜にして白紙に戻される。
その中心に、勇とアンドレ、そして補佐として立つのは、紗織、巧、友子、裕哉、すず。王国の顔とも呼べる一行だ。
最初の交渉は、帝国側の将官から始まった。
「王国側が正式に摂政派を制圧できる保証は? このままでは和議も画餅でしかない」
紗織が応じる。
「現摂政派の長老は、王位簒奪の未遂により告発済みです。王都では既に勇殿の支持が多数を占めています」
「証拠は?」
すかさず友子が、魔導通信による映像記録を展開する。城門広場での演説、市民の賛同の声、兵士たちの剣の向きが変わっていく様子が記録されていた。
「ご覧の通りです。民意は既に、旧体制から離脱しています」
帝国側が顔を見合わせる。
そこへ、裕哉が静かに口を挟んだ。
「今この瞬間、両国の未来は、あなた方の“解釈”次第です。剣を交えるよりも、意味のある一行を歴史に残してはどうですか?」
アンドレが、机の上に置かれた王国と帝国の古文書を手に取る。
「これは、かつて両国が同盟を結んでいた時代の記録だ。王族間に血縁があったこと、共に異民族を撃退したこと……勇、お前の存在が、両国の“共通項”であるなら、俺は信じよう」
そして彼は立ち上がり、宣言する。
「帝国軍、王都からの撤退を決定する。条件はただ一つ――今後、国境地帯において“両王子”による共同自治を認めよ」
場が静まり返る。
勇がそれに応じたのは、わずか数秒後だった。
「受けましょう。共に始めましょう、“第二の建国”を」
和議はその場で口約束では終わらなかった。
巧が一歩前に出る。
「この和議が、“ただの見せかけ”ではないと証明するため、両軍の協力による民間支援隊を発足させたい。傷ついた町の再建、難民の保護、物資の融通、それを先に形にしましょう」
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勇が、ふっと笑った。
「変わらないな、お前は。……だが、頼もしい」
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砕けた石柱、焼け焦げた家屋、崩れた塀。そこに帝国兵が土嚢を運び、王国兵が指示を出し、子どもたちが手伝いに混ざる。
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