追放冒険者と勘当王子と悪役令嬢、ときどき天才幼女──誤解だらけの王道物語

乾為天女

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第23話_双王子の会談

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 王都・西側城門近くの仮設詰所に、二人の王子が並んで座っていた。
  一人は王国の勘当王子・勇。
  一人は帝国の将軍にして外交使節・アンドレ。
  彼らの間には血の絆があった。それも、まさかの「父違い」ではなく「母違いの兄弟」——。
  会談は非公開ながら、すでに重臣たちには共有済み。摂政派にとっては怒り狂うような事実だったが、これを伝えたのはアンドレ自身だった。
 「言っておくが、隠していたつもりはない。ただ、“伝える時期”がなかっただけだ」
 「同感だ。お互い、ややこしい血筋に生まれたもんだな」
  勇が苦笑しながら言うと、アンドレは「ややこしい?」と片眉を上げた。
 「王位継承権が重なる兄弟が、敵味方として戦場で再会してる時点で、ややこしいを超えてるさ」
 「……ふん、確かに」
  微笑を返したその瞬間、扉の外でわずかな気配が揺れた。
  巧がすぐさま剣に手をかけ、会議室の壁を背に立ち上がる。
 「来たか」
  続いて裕哉が窓の外を確認し、耳打ちした。
 「南棟屋根から弓兵、三名。内一名、国王専属だった狙撃手“赤翼”」
 「誰を狙う?」
 「……両方だ。勇とアンドレ、同時に殺すつもりだよ」
 「話にならんな」
  アンドレが立ち上がり、外套を翻した。
 「王族が一緒に死ねば、誰が得をするか。摂政派に決まっている」
 「仕掛けるぞ」
  勇の一声で、巧と裕哉が一斉に動き出す。
  その瞬間、天井の梁が音を立てた。
  ──放たれた矢が、勇の肩をかすめ、アンドレの頬を裂いた。
 「っ……舐めるなよ!」
  巧の投擲短剣が、見事に屋根裏の一人を仕留め、裕哉が仕込んでいた火薬弾で狙撃手の退路を封じる。
  煙の中から現れたのは、黒装束の短剣使い。目元だけを晒し、王家の紋章を逆さに刻んでいた。
 「“裏紋”か……」
  アンドレが呟き、勇がそのまま言葉を継いだ。
 「この国の“影”が動き出したってわけか」

 混乱の中、狙撃手の一人が煙幕に紛れて逃走を図った。
  しかし、逃げ道は一つしかない——詰所の裏手の小路。
 「友子、いけるか!」
  巧が叫ぶと、部屋の隅で煙を吸わないよう伏せていた友子が、手元の金属球を跳ね上げた。
 「三秒後、まばゆい光と轟音が出る! 目、閉じて!」
  数秒後、小路の入口が白光に包まれ、耳を裂くような爆音が響いた。
  逃げていた狙撃手がよろめき、足を滑らせて転倒。そこをすかさず勇が追いつき、剣の柄で相手の手首を打ち落とす。
 「どうせお前は“末端”だ。だが口を割らせるには十分だ」
  男はうめきながらも目を伏せ、何も語らない。だが、口元には薄く毒の匂いが漂っていた。
 「自害用の歯……くそ、間に合わない!」
  アンドレが舌打ちとともに男の口をこじ開けたが、もう遅かった。
 「……死んだ」
 「情報はゼロか……いや、待て」
  裕哉がしゃがみ込み、男の袖口から小さな紙片を引き抜いた。
 「これは……“リスト”?」
  その紙には、いくつかの名前が記されていた。
  最上段にはこう書かれている。
  ──『暗殺対象:勇』『副目標:アンドレ』
  次に並ぶのは、王国摂政派の高官たち。そして……
 「……すず、紗織、巧、友子……俺たちの名前まである」
  勇の声が、低く沈んだ。
 「全員だ……この国を変えようとしてる奴らを、すべて排除するつもりなんだ」
 「逆に言えば、それだけ“脅威だと認識された”ってことよ」
  すずがやや震える声でそう言い、紗織がそれに続いた。
 「ならば、こちらも“応じる時”ですわね。王都に残された“膿”を、今こそ一掃しましょう」
  その決意に満ちた言葉に、友子がぽつりとつぶやく。
 「なんかこう、もう……国の歴史変わっちゃう感じするね……」
 「変えるんだよ、友子」
  勇が、しっかりと前を見据えて言った。
 「俺たちが、未来を選ぶ」

 翌朝、王都郊外の旧狩猟館——
  ここはかつて、王家の子弟たちが“共に育つ”ことを目的とした特別な場所だった。
  いまや使われなくなった石造りの館に、勇とアンドレは向かい合って座る。
 「まさかこの場所で、お前とこうして話すことになるとはな」
  アンドレが、懐かしげに天井を見上げる。
 「昔、母がよく話してくれた。『あなたには兄がいるのよ』って。だが、王家にそんな話はなかった」
 「父は、王妃以外の女性との子を公にできなかった。それだけのことだ」
  勇は、静かに湯を注いだ。
 「……それでも俺たちは、血を分けた兄弟だ」
  その言葉に、アンドレは目を細めた。
 「その兄弟が、今は敵軍の将と王位継承者として対立している。皮肉なものだな」
  しばらく沈黙が続いた。
  だが、二人は湯の湯気の向こうで、互いをまっすぐに見ていた。
 「提案がある」
  先に言葉を発したのは勇だった。
 「この戦を止めるため、国境地帯を“自治領”として新設しよう。王国でも帝国でもない、第三の中立地。そこを“希望の旗”として掲げる」
 「なるほど……“どちらかが勝つ”のではなく、“共に治める”という選択か」
 「お前と俺、両方が署名する。民のために剣を取ったのなら、今こそその剣を置く時だ」
  アンドレは、数秒だけ目を閉じて深く息を吐いた。
  そして立ち上がり、勇へ手を差し出す。
 「いいだろう、兄弟。共にこの地を守るために」
  がっしりと交わされたその握手の背後では、壁にかけられた古びた紋章が揺れていた。
  同じ狼の横顔が、二つ並んで刻まれていた——
  ──双狼の紋章。
  勇とアンドレ、双王子の誓いが、ここに結ばれた。
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