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第3章「500円の行方と、光るクラゲ」(01/End)
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自販機前のベンチに座って、恭平はふたつの缶を手にしていた。
自分の分と、望愛が渡してくれたもの。冷たい缶コーヒー。きっといつもの、それ。
少しして、望愛が戻ってきた。息を整えながら、ぶっきらぼうに言った。
「砂糖、多めのやつしかなかったけど、それでいい?」
「甘いの、好き。ありがと」
恭平は缶を受け取って、一口飲む。いつもなら苦めのブラックだけど、今夜はこれでいい気がした。
自販機の灯りが静かな青白さを放ち、二人の影を足元にぼやけさせる。
「……今日、初日だったんだよね?」
「うん。研修も含めて、ね。全然覚えられてないけど」
「でも、最後まで残ってたよ」
「……残っちゃっただけ。間違えて、テンパって、見つからなくて。投げ出すとこだった」
「でも、投げ出してない」
恭平はそう言って、缶を軽く掲げた。
「これ、証拠」
望愛は一瞬きょとんとして、それからふっと吹き出した。
「なんかさ。あんた、笑顔うまいよね」
「うまい……って?」
「ずるくないの。笑ってても。でも、なんか本気で人のこと見てるなって、思った」
「それって、褒めてる?」
「たぶん。珍しく」
クラゲの水槽の向こう、夜の海が静かにうねっていた。
ここには音楽もSNSも、照明もない。ただ、働く場所としての“水族館”だけがあって、そこに偶然、彼と彼女がいる。
「名前、恭平だよ」
「……知ってる。名札見たし」
「じゃあ、俺も見るべきだったな。名前、聞いていい?」
「望愛」
「のあ、か。いい名前だね」
「初対面の人、みんなそう言う」
「俺も、初対面じゃない?」
「……まあ、そうだね」
望愛は立ち上がり、缶をゴミ箱に放った。カコン、と乾いた音。
「じゃ、また。明日、バイトでしょ?」
「うん。たぶん、レジの奥まで見とくよ」
「また落とす前提かよ」
そう言って歩き出した彼女の背中を、恭平は見送った。
数歩進んだあと、望愛がふいに振り返る。
「ありがとうね、今日。ほんとに」
その声は、素直で、飾り気がなくて。
それがなぜか、恭平の胸にやさしく沈んだ。
バックヤードの静けさに、クラゲの光がゆらめいている。
──ここから、始まったのかもしれない。
500円の行方と、笑顔と、途中放棄の予感と、ほんの少しの予感だけを手がかりに。
自分の分と、望愛が渡してくれたもの。冷たい缶コーヒー。きっといつもの、それ。
少しして、望愛が戻ってきた。息を整えながら、ぶっきらぼうに言った。
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「……今日、初日だったんだよね?」
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「でも、最後まで残ってたよ」
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「でも、投げ出してない」
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