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第22章:陽炎の中の小さな約束(00)
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日差しが照り返すアスファルトに、屋台のビニールの幌がぱたぱたと揺れていた。鎌倉駅前はすでに祭り客でごった返し、金魚すくいに並ぶ子どもたちの声や、たい焼きの香ばしい匂いが空気を彩っていた。
その屋台通りの一角――「射的&わたあめセット屋台」と染め抜かれた布の前で、望愛が頭を抱えていた。
「……ない。……ないないない、どこ行ったの……っ!」
テーブルの下、機材箱の隙間、紙ナプキンの束の中――慌てて探しているのは、今日の売上を入れた釣銭箱だった。
それは、祭りスタートの20分前に彼女が確かに持っていたはずのもの。小さな銀色の箱で、中には両替したばかりの紙幣と硬貨がきっちり仕分けされていた――はず、だった。
祭り開幕のアナウンスが流れる。
「ちょっと、もう始まるってば……!」
望愛は唇をかみ、屋台の裏で段ボールの山をひっくり返した。額には汗が浮かび、胸の奥がキュッと詰まる。
そのとき。
「こっちにはなかったか?」
聞き慣れた声が、背後から優しく降ってきた。
恭平だった。学生自治会の法被を着たまま、汗をかきながらも、笑顔はいつもの通りだった。
「……ごめん。釣銭箱、たぶん……私が置きっぱなしにした。どこかの屋台に」
小さくなって告げる彼女に、恭平は「うん」と頷いてから、淡々と口を開く。
「わかった。じゃあ、一緒に探そ。時間、あと5分あるし」
「……でも、恭平は? 自治会の本部、戻んなくていいの?」
「俺は“困ってる人がいたら助ける部”の部員でもあるからね」
冗談めかして言う恭平に、望愛は思わず鼻を鳴らして笑った。だがすぐに、真剣な表情に戻る。
「……本当にごめん。これ、たぶん私のミス。どっかで適当に置いて……」
「いいよ。あやまるのは、見つけてからにしよ。よし、全部の屋台、順番に回ってみよう」
その言葉を皮切りに、恭平と望愛は、駅前の屋台を一軒ずつ巡り始めた。
お好み焼き屋の裏。ジュース屋のベンチ。わらび餅屋のテーブル下。
「……なかったか」
「こっちも、違った……」
望愛は焦りと後悔で胸がいっぱいだった。
(また、途中で抜けたようなことになった……)
小さく、でも確かに自分を責める気持ちが込み上げてきた。
だが。
「――あった」
声の方を見ると、焼きそば屋台の裏で、恭平が釣銭箱を手にしていた。銀色のふたには、確かに「軽音部屋台」のシールが貼られていた。
「わ、……見つかった、ほんとに……!」
望愛はその場にぺたりと座り込み、ほっと息を吐いた。
恭平は笑ったまま、その釣銭箱を差し出す。
「紐でもつけとこうか。ほら、小学生の財布みたいに」
思わず吹き出してしまいそうになった。でも、恭平の優しさに、その目が少し潤んだ。
「……ありがとう。ほんとに、ありがと」
「大丈夫だよ、望愛がちゃんと“最後まで探した”から、見つかったんだし」
「……ううん、私、また途中で投げ出すとこだった。ほんと……」
その言葉に、恭平は黙って少しの間、彼女を見た。
そして、ふわっと笑った。
「でも、今日は途中で逃げなかったよ。立派です」
その言葉に、望愛はゆっくりと頷いた。
その屋台通りの一角――「射的&わたあめセット屋台」と染め抜かれた布の前で、望愛が頭を抱えていた。
「……ない。……ないないない、どこ行ったの……っ!」
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それは、祭りスタートの20分前に彼女が確かに持っていたはずのもの。小さな銀色の箱で、中には両替したばかりの紙幣と硬貨がきっちり仕分けされていた――はず、だった。
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望愛は唇をかみ、屋台の裏で段ボールの山をひっくり返した。額には汗が浮かび、胸の奥がキュッと詰まる。
そのとき。
「こっちにはなかったか?」
聞き慣れた声が、背後から優しく降ってきた。
恭平だった。学生自治会の法被を着たまま、汗をかきながらも、笑顔はいつもの通りだった。
「……ごめん。釣銭箱、たぶん……私が置きっぱなしにした。どこかの屋台に」
小さくなって告げる彼女に、恭平は「うん」と頷いてから、淡々と口を開く。
「わかった。じゃあ、一緒に探そ。時間、あと5分あるし」
「……でも、恭平は? 自治会の本部、戻んなくていいの?」
「俺は“困ってる人がいたら助ける部”の部員でもあるからね」
冗談めかして言う恭平に、望愛は思わず鼻を鳴らして笑った。だがすぐに、真剣な表情に戻る。
「……本当にごめん。これ、たぶん私のミス。どっかで適当に置いて……」
「いいよ。あやまるのは、見つけてからにしよ。よし、全部の屋台、順番に回ってみよう」
その言葉を皮切りに、恭平と望愛は、駅前の屋台を一軒ずつ巡り始めた。
お好み焼き屋の裏。ジュース屋のベンチ。わらび餅屋のテーブル下。
「……なかったか」
「こっちも、違った……」
望愛は焦りと後悔で胸がいっぱいだった。
(また、途中で抜けたようなことになった……)
小さく、でも確かに自分を責める気持ちが込み上げてきた。
だが。
「――あった」
声の方を見ると、焼きそば屋台の裏で、恭平が釣銭箱を手にしていた。銀色のふたには、確かに「軽音部屋台」のシールが貼られていた。
「わ、……見つかった、ほんとに……!」
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恭平は笑ったまま、その釣銭箱を差し出す。
「紐でもつけとこうか。ほら、小学生の財布みたいに」
思わず吹き出してしまいそうになった。でも、恭平の優しさに、その目が少し潤んだ。
「……ありがとう。ほんとに、ありがと」
「大丈夫だよ、望愛がちゃんと“最後まで探した”から、見つかったんだし」
「……ううん、私、また途中で投げ出すとこだった。ほんと……」
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そして、ふわっと笑った。
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