実話怪談・短編集◆とほかみ◆

茶房の幽霊店主

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◆演劇・「カチカチ山」戦争◆

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※(店主の戦友たちとの体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
☆当時のクラスメイトたちの行先が不明のため、個人特定できないように編集しています。
 


【大人と子供の「ヒトコワ話」】
 
 
小学校2年生で視力が一気に低下し、眼鏡をかけるようになったのですが、背が低く物静かで大人しく見えたためか、イジメの対象にされかけた時期がありました。見た目で判断し、マウントを取りやすいと思われたのでしょう。
 
自分としては、単に人間と話すのが面倒くさいと思っていたのです。
 
ただ、一方的なイジメに発展する前に、ハンムラビ法典・復讐法「目には目を、歯には歯を」言葉の暴力には言葉で、物理的な暴力には同じやり方で報復をして、無言で馬乗りになり往復ビンタを喰らわせる。
 
ヒートアップすると拳を行使することもあり、流血もいとわず相手を滅多打ちにするので「近寄るとヤバいやつ」認定されてイジメのターゲットから外されました。
 
バーサク状態で相手の顔が腫れあがるまで殴りつけたので、自制を学ぶため剣道の道場へ入れられたのもこの時期です。
 
「運動靴の色、私と同じにするのやめてくれない?」そんな意味不明な因縁をつけてきた女子にさえ、男女平等、「みぞおち」へ容赦なく渾身のパンチするような子供でした。
 
報復にその女子の「給食袋」をくすねて、学校の帰りに水の入った田んぼに探せない距離まで思いっきり投げて「夕焼けがきれいだな」とスッキリしていました。

そんな蛮族でも友達はいました。
味方になってくれる変わり者の大人も数人。数は少なくても良き理解者たちは側にいたのです。かなり脳筋寄りですが、それなりの小学生時代でした。

3年生になったときクラス替えが行われ、イジメをしていたグループは1人1人別のクラスに入れられバラバラになりました。

この3年生に結成されたクラスは4年生まで同じメンバーで変更なく固められ、2年間をともに過ごしました。

これは、過去に私が体験した小学校のクラスメイトたちとのお話です。

 
※※※※※


クラス委員長、副委員長は今までの成績であらかじめ担任の先生が指名して3年生がスタートしました。

「委員長」は成績も良く運動神経も群を抜いていたので、自然とクラスのリーダー的存在になっていきました。

しかも、かなり弁が立つ。大人顔負けの雄弁さなので、先生たちにとっては「子供だと思って迂闊なことは言えない」そう思わせるような生徒でした。

幼いながらもすでに嫌味なくユーモア混じりで会話するなどカリスマ性があり、一部の先生からは「扱いにくい」と煙たがられていましたが、クラスをまとめるのが上手かったので、注意すればするほど騒ぎたがる「粗暴なごんたくれ」グループも、「委員長」が出てくると話を聞く姿勢になっていました。

なんか……委員長、ちょっと怖いな。

自分はそんな印象を持っていました。今もその評価は変わりません。

「副委員長」の母親は学校の教師で、この学校ではない他の小学校で教鞭を振るっていました。「副委員長」は常に努力する秀才型で「長い物には巻かれろ」をこの年齢から実行していました。

学校の先生からは「問題のない模範的な優等生」と見られていたようです。
 
一緒に下校する時、副委員長に 
『〇〇ちゃんは「思春期」なんだね』と言われたことがあり、 
小学3年生の私は『ししゅんきってなんや?』の状態でした。

『子どもから大人へなっていく途中の時期』 
『へぇ~!副委員長は物知りなんだね』

当時、パソコンはまだビジネスマンや大人の持ち物で、ネットカフェも今のように全国にはない時代でした。子供が手軽に調べるとしたら、図書館で本を借りて知識を得るのが一般的な手段だったのです。

「思春期」の説明をされても、副委員長は「賢くありたいのだな」とぼんやり感じたぐらいです。

塾に行って、図書館以外の本でも勉強しているのもあるだろうけど、お母さんが学校の先生だから「自分は賢くないとダメだ」と思っているのかな?

1日1冊。何があっても必ず読書するよう母親に言われていると告げられたので、親も「副委員長」に「優秀な子供」であることを期待していたのだと思います。
 
「副委員長」の自宅にはパソコンがあったらしく、母親の厳しい監視のもと、時間制限付きでインターネットを使っていると聞きました。

先生の子供もいろいろ大変なんだなぁ。

頭ではそう受け取っていましたが、副委員長には言いませんでした。 
自分も少なからず大人の顔色を読むことはありましたから。

 
※※※※※

 
マフラーを小物に使っていたので、冬だったと思います。

クラスの出し物で「演劇」をすることになり、いくつかの「日本昔話」や「童話」の候補があがりましたが、多数決で「カチカチ山」に決まりました。

その時、クラスの人数が多かったので、おじいさんとおばあさん役は各1人ずつ、ウサギ役は2人、タヌキ役は2人の構成にしようと担任の先生から提案がありました。

何人かが候補に挙げられ、次々配役が決まる中、台詞の多いウサギ役が1人しか決まらず、なぜか私に白羽の矢が立ったのです。

正直「めんどくさい」としか思えず、速攻で断ったのですが、先にウサギ役に決まっていた「お嬢さん」からお願いされて、渋々もう1匹のウサギ役をすることになりました。

「お嬢さん」は身長がクラスで一番高く、自分は一番低かったので、身長差から「委員長」がアイデアを出し、「もう1人のウサギはリスに変えよう」と話が勝手に進み、「お嬢さん」が着けて登校してきていたクリーム色のマフラーをウエストの後ろに挟んでリスのしっぽに見立て、ヘアバンドに紙の耳を接着して「ウサギとリス」VS「2匹のタヌキ」の図が完成しました。

正直、人間に関わるのが一番の厄介事だと常々思っていましたので、まったくやる気が出なかったのですが、「お嬢さん」は数少ない私の友達でしたから、友達を助けないという選択はしなかったわけです。

 
※※※※

 
「おじいさん役」と「おばあさん役」のクラスメイトは本当に名演技で、仲の良い老夫婦の姿をゆっくりとした口調で表現していました。

『はて、何を話していたかの?』『もう、おじいさん、畑の話ですよ』

など、コミカルな台詞もクラスの中からの声で付け加えられ、「アレンジありのカチカチ山」はどんどん肉付けされていきました。

※(「おばあさん役」の子はあまりに演技が上手だったので、後の演劇でも常連になりました。「花咲か爺さん」(おばあさん役)・「白雪姫」(鏡の女王役))

私は言うと、ウサギ役の「お嬢さん」がほとんどの台詞を言ってくれるので、無表情にタヌキの背中に塗る「辛子入り味噌」を作り、2匹いるタヌキの内1匹の背中へカチカチと火打石で火を点けたり、「そうだ!そうだ!」と「お嬢さん」を応援する大根役者として、ウサギの補助をするリスに徹していました。
 

※※※※※

 
3年生の「演劇・カチカチ山」がお披露目される日があと1週間に迫ったので、みんなが一丸となって「ここの移動タイミングをもう少し早くしよう」など、配役以外のクラスメイトの意見も取り入れて調整していました。
 
おばあさんが2匹のタヌキに杵(きね)で撲〇されるシーンも、スローモーションで再現し、結構、刺激的な仕上がりになっています。
 
それを見ていた担任のY先生が、
 
『そこのシーン残酷すぎるから、ライトの暗転を早めにしておばあさんが殴られているのを隠すのはどう?』
 
そう言い出したのです。クラス全員顔を見合わせています。
 
『は? なんで? 何してるのか分からないじゃん。ここで、タヌキがどんな悪事をしたかしっかり見えてないと、おじいさんとウサギが復讐する意味が薄れます』

「委員長」は間髪入れずそう言い返しました。カウンターを喰らったY先生は黙り込み、『みんなはどう思う?』と生徒たちに意見を仰ぎました。

結果は「副委員長」だけがY先生の意見に賛同し、私を含めた他の生徒たちは「委員長」の言葉の方が自分たちの意志に沿っていることを伝えました。

『わかった。みんながそうしたいなら』

Y先生は納得していない表情をしていましたが、生徒たちは本番前の打ち合わせに気持ちを戻しました。

 
※※※※※

 
発表前日、頭からエンディングまでの通し・ゲネプロを終えた直後、みんなは拍手しながら『明日はこれで大丈夫!』と満足げにしていました。
 
そのとき、Y先生が強く手を打ち鳴らし『みんなに話があるの!』と割って入ってきました。
 
『最後にタヌキが泥船で沈んでいくところを、タヌキは反省したから助けてあげるに変更します』
 
空気が一瞬で凍り付きます。
 
『え?先生、何言ってんの?』ざわめきが広がり、「委員長」が先生の前へ出ました。
 
『明日、発表なのに変更ですか?』
『そうよ。反省した者を〇すのは道徳的にどうかと思うの』
 
『原作のタヌキは反省していません。しかも、おばあさんを〇して「ばばあ汁」をおじいさんに食べさせているんです。悪いことをした者は逃れられず必ず裁かれる。「カチカチ山」はそれを伝えているのだと思います』
 
『これはアレンジした「カチカチ山」なのだから、エンディングがハッピーエンドでもいいじゃない。そうだ!おばあさんも生き返ってくる。それも付け加えましょう』
 
あまりの言葉に絶句するしかありません。
 
え。じゃあ、人を〇しても反省してたら罪にはならんの?
〇された人は生き返ってはこないのに?
おじいさん、かわいそうすぎやろ……。
 
『それはおかしいでしょう!』
 
「委員長」は大声でY先生に詰め寄りましたが、先生は冷ややかな視線で「委員長」を見下ろしています。
 
『これは命令です。言うことを聞かないのなら明日、このクラスの「演劇・カチカチ山」を披露させません!』
 
『はあぁぁぁ!?なにそれ!!』クラス全体にに驚愕の波が広がり、ウサギ役の「お嬢さん」は混乱して青ざめ、タヌキ役2人もポカーンとしています。リスの私も「なんだそりゃ」状態でした。
 
シナリオの大幅変更を宣言したY先生は、職員室へ向かうため廊下に出ていきました。「委員長」は後を追いかけて2人は廊下を移動しながら、激しく言い合っています。
 
『どーするんだよ、これ』『さすがに話がご都合主義すぎだろ』
 
しばらくワイワイ各々騒いでいましたが「副委員長」が発言しました。
 
『先生に従いましょう。大人の言うことだから』
 
Y先生がその場にいなくなったのもあり、感情を爆発させた生徒の何人かが「副委員長」に怒声を浴びせ始めました。
 
『先生の言う「カチカチ山」おかしいやん!』
『大人だから子供に命令するとかありえんやろ!?』
『ゴメンで済んだら警察いらんわ』
 
一斉に集中放火された「副委員長」は体を強張らせて両手を握りしめていましたが、自ら火に油を注いでしまったのです。同情はできませんでした。
 
今の自分がここにいたのなら、「副委員長」の火消しもできたかもしれませんが、当時は感情よりも「反射」や「合理性」を重んじていた時期でした。表向きは冷徹な子供だったのです。

 
※※※※※

 
職員室に行っていた先生は「委員長」と一緒に戻ってきました。 
新しい台本が配役へ配られます。

Y先生は改変した台本をすでに作っていたのです。

不信感の高まった教室の中は静まり返り、みんな「委員長」の発言を待っていました。

『タヌキがおばあさんを〇すシーン、おじいさんが「ばばあ汁」を口にしてしまう所はそのままにしてもらった。……泥船で沈んだタヌキは、ウサギとリスに助けられる。おばあさんは生き返らない。最後の役者全員のあいさつのときに「元気な姿で現れる」。タヌキは2匹とも許されて生き残る』

『それでええんか?委員長』

口火を切ったのはタヌキ役のひとりでした。

『最後の役者全員のあいさつのとき、タヌキの頭に「天使の輪」をつけようって輪っか作ったやん?アレをなかったことにして、悪タヌキそのまま生きとるとか。それ、さすがにエグないか?』

『悪タヌキにもチャンスを与えた方がいいでしょう?』

『先生、決めたことを都合のいいように変えるのは、そう簡単なことちゃうで』

〇ぬはずのタヌキ役が、生き残るというストーリー改変を望んでいない。
タヌキはタヌキなりの役になりきっていたのでしょう。
 
『俺は原作通りが、見ている他の生徒の教訓になると思ってる』

『ほな、なんでそんな話になったん?』

『先生が、教頭先生に注意されたって。「カチカチ山」を原作そのままでは見ている生徒に悪影響になるらしい』

タヌキは大きな溜め息を吐きました。

『なんや、しょーもない。結局は先生ら大人の都合やん。がっかりや』

「委員長」は奥歯を食いしばっているのか険しい顔のまま、先ほどの「副委員長」と同じように拳を握りしめています。

しかし、改変された「カチカチ山」は最初に先生が言っていたような「〇んだ〔おばあさん〕が生き返ってくる」部分は赤ペンで修正されていましたので、「委員長」はひとりだけで必死に戦ったのだと思います。

Y先生の表情はよくわかりません。

勝った。生徒たちを自分の言う通りに操作できた。
そんな勝利者の顔ではありませんでした。

重々しい空気のまま、正午を知らせるチャイムが鳴り響きます。
 
『給食の時間です!給食係は準備をして』

急かすように指示され、生徒たちは無言でのろのろと机の移動を開始しました。

 
※※※※※

 
結局、3年生による「カチカチ山」はタヌキが反省したという理由で、ウサギとリスに助けられました。

船の櫂(かい)の代わりに掃除道具入れに入っているホウキを使い、溺れるタヌキはそれにつかまって助かりました。

タヌキ:『今後は悪いことはしないで、いいことだけをします(棒読み)』

「おばあさん」は紙で作った白い翼だけを背負って、最後に「おじいさん」の隣へ寄り添いエンディングを迎えたのです。

ウサギ役の「お嬢さん」は微妙な表情で、同じくリス役の私もすっきりしない気分のまま3カ月頑張った練習と本番は終わりました。
 

※※※※※

 
教室に戻って後は家へ帰るだけ。 
不完全燃焼。生徒たちは憮然とした雰囲気で帰り支度を始めていました。

『先生、もし、俺が先生の旦那さんを〇したらどうします?俺が心から反省していると言ったら許してくれますか?』

『……………』

『きっと、許しませんよね。大人が考える理想や幻想を、自分ができもしないことを、子供に押し付けないでください。あなたが今後、子供を産んで育てるなら、原作通りの「カチカチ山」を読み聞かせてあげてください』

「委員長」の言葉にY先生は返事をしませんでした。 
同じ土俵に乗らないことで、先生は逃げ切ったのです。

4年生になり、Y先生は担任ではなくなりましたが、自ら辞表を出して教師を辞めたと他の先生から聞きました。

その後、いろいろな「演劇」を同じクラスメイトと演じましたが、あの大改変された「カチカチ山」は、深く刺さって燻ぶりながら心に残っています。


 
【あとがきのようなもの】

後に、この生徒たちと再び別の先生が論争することになります。 
機会があったら、またそのお話をしたいと思います。
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