実話怪談・短編集◆とほかみ◆

茶房の幽霊店主

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◆S川先輩◆

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※(店主の高校生時代の体験です) 
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
 


【赤い人のようなもの】


高校生の時、美術部に入って放課後は絵を描いて時間を過ごしていました。 

部員は十五人ほど。 一年生から三年生まで各学年が所属していました。 

S川先輩は美術部の部長で、顧問の先生と部員たちの意見をうまく取りまとめ、どちらからも信頼される存在でした。 


※※※※※ 


自分がいつも通り部室に足を踏み入れた時、 

『ごめん、〇〇(店主の名字)さん。ちょっといい?』 

こちらを見て、少し驚いた表情の先輩に呼び止められました。 

『気が付いてる?』 
『……え?』 
『いや、どうなのかな?って』 
『どうと言われましても』
 
そのまま、腕をつかまれ隣の美術準備室に連れて行かれました。

『他の人に聞かれたら気まずいから、ここで話すね』
『はい。わかりました』

『結構前からなんだけど、〇〇さんの後ろに頭から血を流した二十代後半ぐらいの男の人が、張り付いているのよね』
『……はい……』

 驚かなかったのは、何となく身に覚えがあったからです。
 
下校中、タイヤ痕が残る交差点を通っていたとき、後ろに引っ張られる感覚で一度だけ振り返り、そのまま帰宅しました。

その夜から、“赤い人のような”ものが寝ている頭の上の方でウロウロしていたのです。
何かをしてくるわけでもなく、畳を擦るような音が微かにするだけで、ゆっくりと左右に繰り返し移動しているようでした。


※※※※※


『昨日ぐらいから、無表情だったその男の人が、〇〇さんが誰かと楽しそうに話していると、その相手に対して凄い形相をするの。それが気になって』

『ずっと、顔の赤い大きなさるがいると思っていました』
『いやいや、違うから』
 
先輩はこちらの両肩を手でポンポンと軽くたたきます。
 
『この人、〇んだばかりでまだ【痛い】と思ってるんだね。でも、〇〇さんの近くにいると【痛み】が和らぐみたい』
『鎮痛剤代わりってことですか?』 

『生きていたら友達になれるぐらい相性良かったんだろうけど、もう、〇んじゃってるしなぁ。楽しそうに話してる相手がうらやましいんだろうね』 

『どうしたらいいですか?』 
『そうだねぇ……』 

しばらく考えてから先輩は、『今から寄り道しながら帰ろう!』と言いました。


  ※※※※※


準備室から出てくると、部員たちの視線が突き刺さります。

恐らく、温和な部長と気の強い私が何かしら部活のことで衝突したのだろうという空気でした。部室に来たばかりでしたが、副部長と顧問もいましたので、

『今日は帰ります。お疲れ様でした。お先に失礼します』

二人で挨拶をして部室を後にしました。

その後、駅に向かい駐輪場で自転車を止めてから、帰宅し始めた人たちに紛れて歩き、言われたとおり一駅分だけ切符を買います。
到着した電車に乗り込むと、乗客をかき分けながら、車両をいくつか移動して次の駅に到着しました。

改札口を通過して、戻るための切符を買ってから駅前のアイスクリーム屋さんで少し休憩することにしました。

『バイクで事故に遭ってから、それまでの記憶がなくなって、家までの帰り方が分からなくなっていたみたい。知っている駅の名前が近かったから』
『帰れたのでしょうか』
『ここから近いみたいだし、何とかなるんじゃない?』

その後、“顔の赤い大きな猿”だと思い込もうとしていた者が、部屋に再び現れることはありませんでした。

※(交差点でバイクとトラックの接触事故は実際に起こっていました)


※※※※※


S川先輩は最初私を見ても、何も言いませんでした。 

しかし、背後の様子が変わったので、声をかけたのでしょう。 同じ美術部員として気を遣ってくれたのだと思います。

S川先輩は、母親も祖母も代々女性だけが【拝み屋】をしている家系で、小さな町の中を限定とし、相談事に耳を傾けたりアドバイスをするなど、訪ねてくる人だけに力を貸していました。

S川先輩も同様に、鋭さを受け継いでいるのは噂で聞いていました。

ただ、先輩は【拝み屋】をしたくないと、はっきり家の者に伝えていて、成人したら家をでて普通に暮らすと言っていました。

女性ばかりに受け継がれていた「感の鋭さ」が、先輩の弟さんに色濃く出たそうで、家の中で【拝み屋】基準の序列ができてしまい、血の影響を受けていない婿養子のお父さんが一番下っ端扱いになってしまったとか……。

先輩はこれに反発して、お父さんと一緒に家を出る決心をしたようです。


これ以降、先輩とこういった会話を交わすことはなく、同じ美術部員として、お互い描くことを楽しんで、卒業していきました。
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