37 / 44
◆桜は咲いていますか◆
しおりを挟む
※2025年9月12日・秋の聲。≪ナイト・ティー≫にて披露。
※(店主の体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
【桜は散らず】
山の中にあるN県の病院へ入院している親戚を見舞うため、母とともに早朝、電車を乗り継ぎながらようやく昼過ぎに到着しました。
季節は春の終わりで、雨が降る中、傘を差しながら中央のエントランスを進み、広いフロアの案内を見てから、受付を済ませて階数と部屋を確認します。
この総合病院を訪れた時、古い病棟の後ろに新しい病院が建設中でした。
電気もすでに一部止められているようで旧棟の受付以外は薄暗く、一階にあるトイレの電灯は点かないので、新しい棟にあるトイレを使用するよう言われました。
手術を終えてようやくリハビリを始めた親戚は、病室のベッドで横になっていましたが、母に個人的な話があるというので、大きなガラスで囲まれた、外の風景がよく見える一角で待っていました。
いくつか間隔を開けて置かれたソファには、何人かが腰かけて読書をしたり、各々風景を眺めています。
ペットボトルのお茶しか手元になかったので、それで口を湿らせていると、声をかけてくる人がいました。
『外の桜は咲いていますか?散ってしまいましたか?』
一人用の席に腰かけていたので首を回して見ましたが、その人はまだもう少し後ろの方で立っているようです。
『八重桜はまだ咲いていますよ』
雨に打たれると桜餅のにおいがする八重桜は、春の終わりでもまだ頑張っていて、風が吹けば重なった花弁を豪快に落とします。
点滴スタンドのキャスターがカラカラと鳴って、声の主が真横に並びました。
こちらは座った状態ですので、下げられた左手が見えます。
骨ばった男性の手。
その手首には【入院患者識別バンド】らしきものが無数に巻かれていて、点滴スタンドを持っている方の手首も同様だったのです。
患者識別以外でも、投与された薬の確認用があると思えば、この人は病状が重く、長期間治療を続けているのでしょう。
“でも、さすがにこの数は多すぎではないか“
見ていて不安になるほどだったのです。
※※※※※
ソメイヨシノと遅咲きの吉野山の話を少しして、『桜、見られないんですよ』誰に言うでもなく呟いた後、
『一階で飲み物を買ってきます。失礼しました。自分の代わりに桜を見てきてください』
『はい、お気をつけて。桜はまだ見られますよ』
あまり噛み合っていない会話を終えて、
エレベーターに吸い込まれていく痩せた後ろ姿を見送り、何とも言えない気持ちになっていました。
小一時間経過しても、男性は戻ってきませんでした。
その時、入院している親戚が【女性】であり、本人の希望により女性患者だけの病棟へ移動していたことを思い出しました。
女性患者専用の病棟に【治療中の男性患者】がいるのを、不審に感じる人もいるはずです。
別棟へ散策目的で移動するのを病院側が許可しているとは考えにくいです。そもそも自分の病床がある棟から出ることはできないと思いますが……。
同じ場所でくつろいでいる人が誰ひとり、男性に奇異な目を向けることもなく、まるで見えていないようだったので、違和感しかありませんでした。
桜の話をしていたあの男の人は、まぼろしだったのでしょうか?
※(店主の体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
【桜は散らず】
山の中にあるN県の病院へ入院している親戚を見舞うため、母とともに早朝、電車を乗り継ぎながらようやく昼過ぎに到着しました。
季節は春の終わりで、雨が降る中、傘を差しながら中央のエントランスを進み、広いフロアの案内を見てから、受付を済ませて階数と部屋を確認します。
この総合病院を訪れた時、古い病棟の後ろに新しい病院が建設中でした。
電気もすでに一部止められているようで旧棟の受付以外は薄暗く、一階にあるトイレの電灯は点かないので、新しい棟にあるトイレを使用するよう言われました。
手術を終えてようやくリハビリを始めた親戚は、病室のベッドで横になっていましたが、母に個人的な話があるというので、大きなガラスで囲まれた、外の風景がよく見える一角で待っていました。
いくつか間隔を開けて置かれたソファには、何人かが腰かけて読書をしたり、各々風景を眺めています。
ペットボトルのお茶しか手元になかったので、それで口を湿らせていると、声をかけてくる人がいました。
『外の桜は咲いていますか?散ってしまいましたか?』
一人用の席に腰かけていたので首を回して見ましたが、その人はまだもう少し後ろの方で立っているようです。
『八重桜はまだ咲いていますよ』
雨に打たれると桜餅のにおいがする八重桜は、春の終わりでもまだ頑張っていて、風が吹けば重なった花弁を豪快に落とします。
点滴スタンドのキャスターがカラカラと鳴って、声の主が真横に並びました。
こちらは座った状態ですので、下げられた左手が見えます。
骨ばった男性の手。
その手首には【入院患者識別バンド】らしきものが無数に巻かれていて、点滴スタンドを持っている方の手首も同様だったのです。
患者識別以外でも、投与された薬の確認用があると思えば、この人は病状が重く、長期間治療を続けているのでしょう。
“でも、さすがにこの数は多すぎではないか“
見ていて不安になるほどだったのです。
※※※※※
ソメイヨシノと遅咲きの吉野山の話を少しして、『桜、見られないんですよ』誰に言うでもなく呟いた後、
『一階で飲み物を買ってきます。失礼しました。自分の代わりに桜を見てきてください』
『はい、お気をつけて。桜はまだ見られますよ』
あまり噛み合っていない会話を終えて、
エレベーターに吸い込まれていく痩せた後ろ姿を見送り、何とも言えない気持ちになっていました。
小一時間経過しても、男性は戻ってきませんでした。
その時、入院している親戚が【女性】であり、本人の希望により女性患者だけの病棟へ移動していたことを思い出しました。
女性患者専用の病棟に【治療中の男性患者】がいるのを、不審に感じる人もいるはずです。
別棟へ散策目的で移動するのを病院側が許可しているとは考えにくいです。そもそも自分の病床がある棟から出ることはできないと思いますが……。
同じ場所でくつろいでいる人が誰ひとり、男性に奇異な目を向けることもなく、まるで見えていないようだったので、違和感しかありませんでした。
桜の話をしていたあの男の人は、まぼろしだったのでしょうか?
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる