実話怪談・短編集◆とほかみ◆

茶房の幽霊店主

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◆家に棲むもの◆

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※2025年7月30日・赤位狐うどん・≪ナイト・ティー≫にて披露。
※(店主の体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)



【ものまね】


中学生の冬の出来事です。
この頃から、家の一階は父と母が主に使用し、自分は二階で過ごす時間が長くなっていました。
 
『朝よ~!早く起きなさ~い!』
 
母の声が聞こえてきて『え?もう朝?』と飛び起き、時計を見ればまだ四時です。
 
部屋から寒い廊下に出て、その先の暗い階段を見下ろすと再び、
 
『朝よ~!早く起きなさ~い!』
 
階段の下から、確かに知っている声が聞こえます。
 
『六時に目覚ましかけてるから、こんな早くに起こさないで』
 
階段を下りて父と母が寝ている寝室まで行きました。
部屋の中は静まり返っています。さっきまで起きていたように見えません。
 
変だなと思いながら二階の自室に戻り、六時までうまく寝付けず布団の中で目をつぶるだけです。
 
これが一週間続き、本格的な睡眠不足になってきたので強く抗議しました。
 
『おかしなこと言うわね。誰も起こしに行ってないわよ』
 
この家には父と母と私の三人しかいません。
他に誰が起こしに来るというのか。
 
八日目の明け方。
 
『朝だぞ~!起きろ~!早く起きないと遅刻するぞ~!』
 
今回は少し間延びした、父が呼ぶ声が聞こえてきました。
 
時計を見ると同じ時間。四時です。
部屋をそっと出て冷たい廊下を素足で少し進み、
 
『あんた、誰よ?』
 
暗闇の中で問いかけてみました。廊下からは何も見えませんが、階段の中ほどに何者かがいる気配を感じます。
 
“ふっ、ふっ、ふっ、……ふふふ……”
 
男とも女と判断できない、こちらを馬鹿にしているような含み笑いが聞こえてきたのです。
 
驚いて立ちすくみ、心臓がどきどきしましたが、すぐに戻って布団に飛び込んで、何も聞かないようにして六時になりました。
 
人間、本当に怖いと声はでません。
 
その後、明け方四時の呼び声は聞こえなくなりました。


※※※※※


実家では私だけではなく、両親も奇妙な現象に遭うことがありました。

父がトイレに入っている時、屋内ではなく外壁から聞き覚えのない男性の怒号が聞こえたので、すぐに小窓を開けて確認しても外は無人でした。

まだ隣四軒がひしめき合って建っていた頃で、外は小さな子供が入れる程度の隙間しかありませんでした。

母が懐中電灯を携えて夜道を戻り、家を見上げたとき、誰もいないはずの二階の窓、カーテンの引かれた真っ暗な部屋の中、青白い光が動き回っているのを目撃したと聞かされたこともあります。

あまりに日常的にこういったことがあると家族全員が麻痺してしまい、
『またか』のような反応でした。

※※※※※

その後、実家を出てから数年が経過し、家族とは長らく音信不通だったのですが、ある年、母から奇妙な電話がありました。

『あなた、今日、家に来ていたのでしょう?』
『いや、行ってない。仕事をしていたから。これ、何の電話?』

『二階にいたじゃない。嫌がらせしに来たの?うるさいじゃない!』
『……嫌がらせ?』

母は私が実家の二階で走り回っていたと言うのです。

『騒がしくするのはやめてちょうだい』
『いや、帰ってないから』

この頃、車で一時間かかる場所に住んでいましたので、仕事から帰って疲れているのに、わざわざ実家に行って騒ぐでしょうか?

家から出て、一度も帰省していないのに。

母は電灯が点いていない、二階の廊下と部屋を出たり入ったり駆け回る【私】の姿を見たというのです。

『私じゃないから』それだけ言って電話を切りました。


※※※※※


このような内容で、電話はひと月に二回ぐらいかかってきていました。
そのたび、自分ではないと伝えましたが、納得していない様子でした。

最初、若年性の認知症を疑っていたので検査を勧めましたが、父や昼間の客人も、二階からの騒音や階段を下りてくる足音を何度か聞いていましたので、現象については不明のままです。

外部から何者かが侵入、泥棒の仕業とも考えられたので、父と母の二人で見に行ったらしいのですが、二階全体に長年積もったほこりに、足跡や荒らされた様子は見当たらなかったとのことでした。

両親がこの件をどのように解決したのか、放置しているのかは知りません。
今はもう、奇妙な内容の電話はなくなりました。
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