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2. 2人は社会人
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私は依(より)に愛されている。
だからと言って、養ってもらっているわけじゃない。
私も依も立派な社会人だ。
そして、恋人だからといって職場も同じというわけではない。
好きならば一時も離れたくないんじゃないかって?
そういうことじゃないんだよ。
**************************
「この新しい消毒用塩素は、SHIH(シー)駅フィットネスジムに配送予定で」
「はい!」
私は化学工業薬品を販売する会社に勤めている。
大学の専攻が化学系だったから、マンションから近い会社を選んで就職した。
本当は研究とか進学にも興味があったんだけど、そこまで強いこだわりはない。
それに、依がいるからね。
ん、重そうな箱を持ってる子がいる。
そういう時はこの台車使うんだよ。
「よいしょ、わわっ!」
「これ、どこまで運ぶの?」
その子から箱を奪って、持ってきた台車に乗せる。
「え、えっと、I 室まで…」
「 I 室、あぁ、あいつの持ち場か。自分で運べって感じだよね~」ガラガラ
台車を I 室に向かって押し始める。
「い、いえ!というか私運びます!」
「いいよ、ついでにあいつに文句言いに行くから。
キミ名前なんだっけ?」
「唯(ゆい)です」
「あー…」
思い出した。
この人、今年中途採用で入社した人で、私より年上だったわ。
「私は糸(いと)と申します。よろしくお願いします」
「知ってますよ。あと敬語はやめてください!私の方が会社では後輩なんですし!」
「そう?じゃあ遠慮なく」
よかった。
堅いのとか嫌いだからね。
ガラガラ
「あ」
そういえば、ここから I 室まで結構距離ある。
「やば…」
「?、糸さん、どうかしました?」
「何でもない」
終わった。
別に親しくない人と一緒にいるのが気まずいとかではない。
私が何に絶望しているのか、それは帰ればわかる。
「糸さんってなんでいつも長袖なんですか?」
「さぁ、なんでだろうね」
あと、あまり名前で呼ばれると困る。
**************************
「いとちゃ~ん。どうしてこうなってるのかわかるかなぁ~??」
「・・・」
私が今どうなっているのか、説明しよう。
まず帰ってきた瞬間に脱がされて、身にまとうものを今日着てたYシャツ1枚だけにされました。
次に床の上で横になってます。
最後に「動いたら殺す」と言われたので、金縛りみたいになってます。
以上です。
疲れてるし、このまま寝てもいいかな。
「いーとーちゃーん」
「・・・」
「無視しないで」
「っ」
裁縫用の針で左肩を刺された。
「次無視したら肩上がらなくなるツボに刺しちゃうからね」
「わかった」
「で、わかる?なんで自分がこうなっているのか」
「わかんない」
「っ!!」
別の針で左腕を刺された。
針は小さいんだけど、深く刺してくるから普通に痛い。
「わかるでしょ?!
アタシ、いつも糸ちゃんが帰ってきてお風呂に入ってる間、ずっと糸ちゃんが今日着てた服の匂いを嗅いでるんだよ?!」
まずその前提を知らない。
「特にYシャツの脇の辺りとズボンの股の辺りが香ばしくて…」
その情報はいらない。
「なのに今日は違う臭いがしたの。そう、"臭い"が」
やば、寝そう。
「いま着てる糸ちゃんのYシャツから、いつも以上に糸ちゃん『以外』の香りがするの」
嗅覚すごいな。麻薬探知犬かよ。
「なぁに?この香り」
「…会社にある薬品の臭いじゃない?」
ズク
「いっ…」
左手の甲を刺された。
貫通してるかもしれない。
でも今は動いたら殺されちゃうから、私の左手がどうなっているのか確認できない。
「なんで嘘つくの?わかってるんでしょ?私の言いたいこと」
「わからない」
次は指に刺してきそう。
ほら、左手持ち上げられちゃった。
指は痛いんだよね…
「…結婚指輪」
「!?」
「私たちにとって大事な指になると思うんだけど」
「…///」
顔真っ赤。リンゴみたいでかわいい。
「結婚…はぁん…」
うっとりしてないで今刺さってる針抜いてほしいんだけど。
「あのね、女の香りがしたの。そのYシャツから」
私も女なんだけど。
まぁ唯のことだろうな。
「正直に答えて。その女と何してたの?」
「別に何も」
「ハグしたの?チューしたの?エッチしたの?」
「あのさぁ」
「体液飲んだの?髪の毛食べたの?骨の長さ測ったの?」
「そんなことすんのはお前だけだよ」
あ、声に出しちゃった。
まあいいや。
「とにかく何にもしてないよ。一緒に荷物運んでただけ」
「ふーん、そっか…」
ガチャ
依が部屋を出た。
多分、私を殺すために包丁を取りに行ったんだ。
そりゃそうだ。
『一緒に荷物を運んだ』という事実だけで激昂してるんだろうから。
あ、戻ってきた。
予想通り、依の右手には一本の包丁。
「糸ちゃん、好きだよ」
「知ってる」
「だから殺しちゃうね、私の手で…
今までで一番の表情を最期に見せてね…愛してる…」
最期だなんて、物騒な。
もう動いてもいいよね、どうせ殺されちゃうんだし。
ザクッ
「…ぇ?」
刺される瞬間右に避けて、そのまま依を受け止める。
「依、柔らかいね」
「っ!///」
依の背中を揉んだり撫でたりして感触を確かめる。
「抱き心地いいなぁ…前の方も触りたい。いい?」
「や、やめ…///」
ゆっくり前の方に手を伸ばす。
「嘘。本当は触ってほしいんでしょ?」
「そ、そんなこと…」
「依だって嘘つきじゃん。悪い子だね」
「っ///」
「このYシャツについてる臭い、依で上書きさせて?」
「・・・うん///」
さっそく上書き開始したいんだけど、その前にベッドに刺さってる包丁と私に刺さってる針を抜いてもらおう。
そういえば、依の仕事を教えていなかったね。
依はね・・・
**************************
「依ちゃん先生ばいばーい!」
「こーら、さようならでしょ?
高校生なんだからちゃんと挨拶しなさいっ」
「えへへ~、はーい!」
「『はーい』って伸ばさない!」
依は高校の先生。
だからと言って、養ってもらっているわけじゃない。
私も依も立派な社会人だ。
そして、恋人だからといって職場も同じというわけではない。
好きならば一時も離れたくないんじゃないかって?
そういうことじゃないんだよ。
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「この新しい消毒用塩素は、SHIH(シー)駅フィットネスジムに配送予定で」
「はい!」
私は化学工業薬品を販売する会社に勤めている。
大学の専攻が化学系だったから、マンションから近い会社を選んで就職した。
本当は研究とか進学にも興味があったんだけど、そこまで強いこだわりはない。
それに、依がいるからね。
ん、重そうな箱を持ってる子がいる。
そういう時はこの台車使うんだよ。
「よいしょ、わわっ!」
「これ、どこまで運ぶの?」
その子から箱を奪って、持ってきた台車に乗せる。
「え、えっと、I 室まで…」
「 I 室、あぁ、あいつの持ち場か。自分で運べって感じだよね~」ガラガラ
台車を I 室に向かって押し始める。
「い、いえ!というか私運びます!」
「いいよ、ついでにあいつに文句言いに行くから。
キミ名前なんだっけ?」
「唯(ゆい)です」
「あー…」
思い出した。
この人、今年中途採用で入社した人で、私より年上だったわ。
「私は糸(いと)と申します。よろしくお願いします」
「知ってますよ。あと敬語はやめてください!私の方が会社では後輩なんですし!」
「そう?じゃあ遠慮なく」
よかった。
堅いのとか嫌いだからね。
ガラガラ
「あ」
そういえば、ここから I 室まで結構距離ある。
「やば…」
「?、糸さん、どうかしました?」
「何でもない」
終わった。
別に親しくない人と一緒にいるのが気まずいとかではない。
私が何に絶望しているのか、それは帰ればわかる。
「糸さんってなんでいつも長袖なんですか?」
「さぁ、なんでだろうね」
あと、あまり名前で呼ばれると困る。
**************************
「いとちゃ~ん。どうしてこうなってるのかわかるかなぁ~??」
「・・・」
私が今どうなっているのか、説明しよう。
まず帰ってきた瞬間に脱がされて、身にまとうものを今日着てたYシャツ1枚だけにされました。
次に床の上で横になってます。
最後に「動いたら殺す」と言われたので、金縛りみたいになってます。
以上です。
疲れてるし、このまま寝てもいいかな。
「いーとーちゃーん」
「・・・」
「無視しないで」
「っ」
裁縫用の針で左肩を刺された。
「次無視したら肩上がらなくなるツボに刺しちゃうからね」
「わかった」
「で、わかる?なんで自分がこうなっているのか」
「わかんない」
「っ!!」
別の針で左腕を刺された。
針は小さいんだけど、深く刺してくるから普通に痛い。
「わかるでしょ?!
アタシ、いつも糸ちゃんが帰ってきてお風呂に入ってる間、ずっと糸ちゃんが今日着てた服の匂いを嗅いでるんだよ?!」
まずその前提を知らない。
「特にYシャツの脇の辺りとズボンの股の辺りが香ばしくて…」
その情報はいらない。
「なのに今日は違う臭いがしたの。そう、"臭い"が」
やば、寝そう。
「いま着てる糸ちゃんのYシャツから、いつも以上に糸ちゃん『以外』の香りがするの」
嗅覚すごいな。麻薬探知犬かよ。
「なぁに?この香り」
「…会社にある薬品の臭いじゃない?」
ズク
「いっ…」
左手の甲を刺された。
貫通してるかもしれない。
でも今は動いたら殺されちゃうから、私の左手がどうなっているのか確認できない。
「なんで嘘つくの?わかってるんでしょ?私の言いたいこと」
「わからない」
次は指に刺してきそう。
ほら、左手持ち上げられちゃった。
指は痛いんだよね…
「…結婚指輪」
「!?」
「私たちにとって大事な指になると思うんだけど」
「…///」
顔真っ赤。リンゴみたいでかわいい。
「結婚…はぁん…」
うっとりしてないで今刺さってる針抜いてほしいんだけど。
「あのね、女の香りがしたの。そのYシャツから」
私も女なんだけど。
まぁ唯のことだろうな。
「正直に答えて。その女と何してたの?」
「別に何も」
「ハグしたの?チューしたの?エッチしたの?」
「あのさぁ」
「体液飲んだの?髪の毛食べたの?骨の長さ測ったの?」
「そんなことすんのはお前だけだよ」
あ、声に出しちゃった。
まあいいや。
「とにかく何にもしてないよ。一緒に荷物運んでただけ」
「ふーん、そっか…」
ガチャ
依が部屋を出た。
多分、私を殺すために包丁を取りに行ったんだ。
そりゃそうだ。
『一緒に荷物を運んだ』という事実だけで激昂してるんだろうから。
あ、戻ってきた。
予想通り、依の右手には一本の包丁。
「糸ちゃん、好きだよ」
「知ってる」
「だから殺しちゃうね、私の手で…
今までで一番の表情を最期に見せてね…愛してる…」
最期だなんて、物騒な。
もう動いてもいいよね、どうせ殺されちゃうんだし。
ザクッ
「…ぇ?」
刺される瞬間右に避けて、そのまま依を受け止める。
「依、柔らかいね」
「っ!///」
依の背中を揉んだり撫でたりして感触を確かめる。
「抱き心地いいなぁ…前の方も触りたい。いい?」
「や、やめ…///」
ゆっくり前の方に手を伸ばす。
「嘘。本当は触ってほしいんでしょ?」
「そ、そんなこと…」
「依だって嘘つきじゃん。悪い子だね」
「っ///」
「このYシャツについてる臭い、依で上書きさせて?」
「・・・うん///」
さっそく上書き開始したいんだけど、その前にベッドに刺さってる包丁と私に刺さってる針を抜いてもらおう。
そういえば、依の仕事を教えていなかったね。
依はね・・・
**************************
「依ちゃん先生ばいばーい!」
「こーら、さようならでしょ?
高校生なんだからちゃんと挨拶しなさいっ」
「えへへ~、はーい!」
「『はーい』って伸ばさない!」
依は高校の先生。
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