この人以外ありえない

鳳雛

文字の大きさ
2 / 25

2. 2人は社会人

しおりを挟む
私は依(より)に愛されている。
だからと言って、養ってもらっているわけじゃない。
私も依も立派な社会人だ。

そして、恋人だからといって職場も同じというわけではない。
好きならば一時も離れたくないんじゃないかって?
そういうことじゃないんだよ。

**************************

「この新しい消毒用塩素は、SHIH(シー)駅フィットネスジムに配送予定で」
「はい!」

私は化学工業薬品を販売する会社に勤めている。
大学の専攻が化学系だったから、マンションから近い会社を選んで就職した。
本当は研究とか進学にも興味があったんだけど、そこまで強いこだわりはない。
それに、依がいるからね。

ん、重そうな箱を持ってる子がいる。
そういう時はこの台車使うんだよ。
「よいしょ、わわっ!」
「これ、どこまで運ぶの?」
その子から箱を奪って、持ってきた台車に乗せる。
「え、えっと、I 室まで…」
「 I 室、あぁ、あいつの持ち場か。自分で運べって感じだよね~」ガラガラ
台車を I 室に向かって押し始める。
「い、いえ!というか私運びます!」
「いいよ、ついでにあいつに文句言いに行くから。
キミ名前なんだっけ?」
「唯(ゆい)です」
「あー…」
思い出した。
この人、今年中途採用で入社した人で、私より年上だったわ。
「私は糸(いと)と申します。よろしくお願いします」
「知ってますよ。あと敬語はやめてください!私の方が会社では後輩なんですし!」
「そう?じゃあ遠慮なく」
よかった。
堅いのとか嫌いだからね。

ガラガラ

「あ」
そういえば、ここから I 室まで結構距離ある。
「やば…」
「?、糸さん、どうかしました?」
「何でもない」
終わった。
別に親しくない人と一緒にいるのが気まずいとかではない。
私が何に絶望しているのか、それは帰ればわかる。
「糸さんってなんでいつも長袖なんですか?」
「さぁ、なんでだろうね」
あと、あまり名前で呼ばれると困る。

**************************

「いとちゃ~ん。どうしてこうなってるのかわかるかなぁ~??」
「・・・」
私が今どうなっているのか、説明しよう。
まず帰ってきた瞬間に脱がされて、身にまとうものを今日着てたYシャツ1枚だけにされました。
次に床の上で横になってます。
最後に「動いたら殺す」と言われたので、金縛りみたいになってます。
以上です。

疲れてるし、このまま寝てもいいかな。
「いーとーちゃーん」
「・・・」
「無視しないで」
「っ」
裁縫用の針で左肩を刺された。
「次無視したら肩上がらなくなるツボに刺しちゃうからね」
「わかった」
「で、わかる?なんで自分がこうなっているのか」
「わかんない」
「っ!!」
別の針で左腕を刺された。
針は小さいんだけど、深く刺してくるから普通に痛い。
「わかるでしょ?!
アタシ、いつも糸ちゃんが帰ってきてお風呂に入ってる間、ずっと糸ちゃんが今日着てた服の匂いを嗅いでるんだよ?!」
まずその前提を知らない。
「特にYシャツの脇の辺りとズボンの股の辺りが香ばしくて…」
その情報はいらない。
「なのに今日は違う臭いがしたの。そう、"臭い"が」
やば、寝そう。
「いま着てる糸ちゃんのYシャツから、いつも以上に糸ちゃん『以外』の香りがするの」
嗅覚すごいな。麻薬探知犬かよ。
「なぁに?この香り」
「…会社にある薬品の臭いじゃない?」

ズク

「いっ…」
左手の甲を刺された。
貫通してるかもしれない。
でも今は動いたら殺されちゃうから、私の左手がどうなっているのか確認できない。
「なんで嘘つくの?わかってるんでしょ?私の言いたいこと」
「わからない」
次は指に刺してきそう。
ほら、左手持ち上げられちゃった。
指は痛いんだよね…

「…結婚指輪」

「!?」
「私たちにとって大事な指になると思うんだけど」
「…///」
顔真っ赤。リンゴみたいでかわいい。
「結婚…はぁん…」
うっとりしてないで今刺さってる針抜いてほしいんだけど。
「あのね、女の香りがしたの。そのYシャツから」
私も女なんだけど。
まぁ唯のことだろうな。
「正直に答えて。その女と何してたの?」
「別に何も」
「ハグしたの?チューしたの?エッチしたの?」
「あのさぁ」
「体液飲んだの?髪の毛食べたの?骨の長さ測ったの?」
「そんなことすんのはお前だけだよ」
あ、声に出しちゃった。
まあいいや。
「とにかく何にもしてないよ。一緒に荷物運んでただけ」
「ふーん、そっか…」
ガチャ
依が部屋を出た。
多分、私を殺すために包丁を取りに行ったんだ。
そりゃそうだ。
『一緒に荷物を運んだ』という事実だけで激昂してるんだろうから。
あ、戻ってきた。
予想通り、依の右手には一本の包丁。
「糸ちゃん、好きだよ」
「知ってる」
「だから殺しちゃうね、私の手で…
今までで一番の表情を最期に見せてね…愛してる…」
最期だなんて、物騒な。
もう動いてもいいよね、どうせ殺されちゃうんだし。

ザクッ

「…ぇ?」
刺される瞬間右に避けて、そのまま依を受け止める。
「依、柔らかいね」
「っ!///」
依の背中を揉んだり撫でたりして感触を確かめる。
「抱き心地いいなぁ…前の方も触りたい。いい?」
「や、やめ…///」
ゆっくり前の方に手を伸ばす。
「嘘。本当は触ってほしいんでしょ?」
「そ、そんなこと…」
「依だって嘘つきじゃん。悪い子だね」
「っ///」
「このYシャツについてる臭い、依で上書きさせて?」
「・・・うん///」
さっそく上書き開始したいんだけど、その前にベッドに刺さってる包丁と私に刺さってる針を抜いてもらおう。

そういえば、依の仕事を教えていなかったね。
依はね・・・

**************************

「依ちゃん先生ばいばーい!」
「こーら、さようならでしょ?
高校生なんだからちゃんと挨拶しなさいっ」
「えへへ~、はーい!」
「『はーい』って伸ばさない!」

依は高校の先生。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...