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第三十八話
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[第三十八話]
「メカトニカの遺骸を回収してほしいっ!?」
「そう。その通り」
新たな商機を見出した俺とフクキチは”秘密の工房”で話を詰めていると、彼はとんでもないことを言った。
鉱山に放棄されていた古代の掘削用ロボットである『エンシェント・メカトニカ』は、昨日、起動することに成功した。
だが、いきなり壁を崩し始めて危なかったのと、シズクさんがおかしくなってしまったハプニングが相まって、ローズが発動した奥義、[マカイコウタン]で出現した異形によって頭部を切断されたはず。
流石に、修理して再利用することは難しいと思うが…。
それはまた、なんで?
「それはまた、なんで?という顔をしているね。答えは、タメルになるからだよ」
「タメル…。そうか、緊急依頼のときの!」
「そう、実は『フライ・センチピード』の達成報酬がまだ払えていないんだ。期間内にギルドに収めないと面倒なことになる。だから、メカトニカの素材がほしいんだ」
参った、この頼みも断れないぞ。
なんてったって、『フライ・センチピード』を起こした張本人は俺であり、『フライ・コロニー』を殲滅してほしい旨の緊急依頼を発注してくれたのはフクキチなのだから。
経済的な面で言うと、ローズと同じくらいフクキチにも借りがあるというわけだ。
もちろん、迷惑の度合いをライズや他の人と比べることはできないが。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。遺骸といっても、十メートル以上あるロボットだぞ?頭でも二メートルくらいあった。そんなものを一息にアイテム化できるのか?収納できるアイテムの制約に関する仕様が分からない以上、派手なことはできないんじゃ…」
「大丈夫。これで”掘ってきて”もらえばいいから」
フクキチは俺の言葉を遮ると、机の上にあったピッケルを手に取った。
「本来、採掘師じゃないと貴重な鉱物は採取できないんだけど、メカトニカなら多分剥ぎ取り扱いになるから、トールでも行けるんじゃないかな」
なるほど。フクキチはメカトニカに古代の機械としての価値を見出しているのではなく、珍しい素材としての価値を見出しているのか。
だから、鉱山まで行ってきて、このピッケルでメカトニカの遺骸を剝ぎ取ってこい、と。
そういうことか。
「そう。できるかな?」
フクキチが試すような目で、こちらを見てくる。
[AnotherWorld]ではどこまでやってくれるのかとばかりに、俺の価値を値踏みしているのだろう。
俺と彼とは友達だ。友達である月日はまだそこまでないが、俺も彼も末永く仲良くやっていきたいという気持ちは同じなはず。
しかし、ゲーム内ではその関係が少し変わる。
なぜなら、俺は水属性魔法使い、フクキチは商人という職業に就いているからだ。
ときには人のため、タメルのために行動しなくてはならない。
だから、リアルから持ち込んできた関係を過剰に優先して、他をないがしろにするのはナンセンスだと、俺は思っている。
「もちろん。どのみちポーションの件で協力するんだから、やるさ」
「そういってくれると思ったよ。…話はこれで終わり。ああ、ココデ海岸で砂を採取するときはそこのスコップを使ってね」
「分かった」
「あと、余裕があったらココデマツとヤドカリヤシを木こりしてきてほしい。そこにあるハチェットで。なにか質問はある?」
早口でまくしたてるフクキチに、俺も最小限の返事を返す。
話が決まれば、後は行動するだけ。
目的達成のために一秒たりとも時間を無駄にできないという考え方は、俺と彼との共通認識のようだ。
「ない。やってやるよ、完璧にな」
アヤカシ湿原でヨクナレ草の採取に、ココデ海岸で砂の回収。それと、鉱山で『エンシェント・メカトニカ』の遺骸の採掘。
課せられた使命は多いが、一つ一つの難易度はそれほど高いものではない。
湿原と鉱山はもはや勝手知ったる場所だし、採取するだけならば簡単だろう。
ココデ海岸は初見のフィールドだが、魔物を刺激しないように穴を掘ることは造作もない。
木こりはの方は…、刺激しないようにできる自信はないが。
「それじゃあ…」
「うん、がんばって!期限は特にないから、全部終わったら連絡してね」
「分かった」
気分はさながら、映画に登場するシークレット・サービスだ。
俺はフクキチに言われた道具類を壁際の棚から取り出してインベントリにしまい、”工房”を後にするのだった。
※※※
まずは、慣れているところからだな。
アヤカシ湿原に行ってヨクナレ草を取ってこよう。
「えーと…」
マップで位置を確認してみると、工房は街の南東の方にあったので、南門へは比較的スムーズにアクセスすることができた。
時刻は十七時。
まだあと二時間は昼の判定だ。安全に採取できそう。
「よお、坊主。調子はどうだ!」
「ぼちぼちですよ、ガンケンさん」
門にたどり着くと、今日の検問はガンケンさんだった。
というか、出入りのチェックはオミナさんと二人でしかしていないのだろうかっていうくらい、二人としか会っていない。
「今度は北のランディール鉱山で地震が観測されたってよ。センチピードといい、近頃物騒だな!がはは!」
おじさん騎士は、なんでもないことのように王都周辺で起きた出来事の話を振ってくる。
街を出るついでに情報収集できるというのは、意外に便利だ。騎士団がどんなことを把握して、注目しているのかもよく分かるしな。
あと地震というのはおそらく、メカトニカが掘削を始めたときの振動だろう。
心当たりしかないので、俺は口笛を吹いてごまかしておく。
「気いつけろよ。『キュウビノヨウコ』にもな!」
ガンケンさん、『キュウビノヨウコ』はフォクシーヌに進化し、すでに散々痛めつけられましたよ、なんてとても言えない。
またもや渦中の人物である俺は、口笛を吹いてごまかしておく。
「じゃあな、暗くなる前に戻ってきた方がいいぞ!」
「はい、ありがとうございました」
保護者みたいなことを言うガンケンさんと少し世間話をしてから、俺はガルアリンデ平原(南部)に降り立つのであった。
※※※
「よし、大体これくらいでいいだろう」
アヤカシ湿原に到着してから採集に専念していた俺は、最後に百枚くらいのヨクナレ草を収納し、重くなった腰を上げた。
以前と同じく、チョウチンガエルもドラゴンフライもノンアクティブ化していて、襲ってくることがなかったから楽に終わらせられた。
やはり俺はあのとき、フォクシーヌに敗北したあの瞬間、なにかされたとみて間違いない。
「一応確認しておくか」
メニューからインベントリを見てみる。
成果は、ナオレ草×231、アヤカシ葦×196、イッタンモメン×165、ネムレ草×132、ヨクナレ草×104、バクダンホオズキ×36。
結構アイテム枠を消費したが、莫大な量のアイテムを確保することができた。
これで、体力回復ポーションの調薬に必要な分は確保できたとみていいだろう。
「流石に暗いな」
時刻は十九時を回った。
オレンジの夕日が完全に消え失せ、夜の闇がフィールドを閉ざしている。
ここからは探索がより危険なものとなる時間帯であり、彼女が現れる時間でもある。
「きゅるるるるるるっ」
「っ!」
なんて思っていたら、来た。
独特の甲高い鳴き声に、白と朱色の体毛を有する大きなキツネのような容姿。
『キュウビノヨウコ・フォクシーヌ』だ。
ちょうどいい。
今度こそ、彼女と決着をつける!
「……」
なんてことはせず…。
俺はその場にありったけのバクダンホオズキをドロップした。
ちょっともったいない気がするが、命には代えられない。
「きゅううう?」
「今だ」
そして、彼女がそれに気を取られているうちに、俺はそそくさとその場を後にする。
すまんな、フォクシーヌ。
今だけは、アイテムロストできないんだ。
『いつでもいいさ、人の子よ』
「っ!」
彼女に背を向け、抜き足差し足で離れようとしたとき…。
なぜか、そんな声が頭の中に響いたような気がしたのだった。
「メカトニカの遺骸を回収してほしいっ!?」
「そう。その通り」
新たな商機を見出した俺とフクキチは”秘密の工房”で話を詰めていると、彼はとんでもないことを言った。
鉱山に放棄されていた古代の掘削用ロボットである『エンシェント・メカトニカ』は、昨日、起動することに成功した。
だが、いきなり壁を崩し始めて危なかったのと、シズクさんがおかしくなってしまったハプニングが相まって、ローズが発動した奥義、[マカイコウタン]で出現した異形によって頭部を切断されたはず。
流石に、修理して再利用することは難しいと思うが…。
それはまた、なんで?
「それはまた、なんで?という顔をしているね。答えは、タメルになるからだよ」
「タメル…。そうか、緊急依頼のときの!」
「そう、実は『フライ・センチピード』の達成報酬がまだ払えていないんだ。期間内にギルドに収めないと面倒なことになる。だから、メカトニカの素材がほしいんだ」
参った、この頼みも断れないぞ。
なんてったって、『フライ・センチピード』を起こした張本人は俺であり、『フライ・コロニー』を殲滅してほしい旨の緊急依頼を発注してくれたのはフクキチなのだから。
経済的な面で言うと、ローズと同じくらいフクキチにも借りがあるというわけだ。
もちろん、迷惑の度合いをライズや他の人と比べることはできないが。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。遺骸といっても、十メートル以上あるロボットだぞ?頭でも二メートルくらいあった。そんなものを一息にアイテム化できるのか?収納できるアイテムの制約に関する仕様が分からない以上、派手なことはできないんじゃ…」
「大丈夫。これで”掘ってきて”もらえばいいから」
フクキチは俺の言葉を遮ると、机の上にあったピッケルを手に取った。
「本来、採掘師じゃないと貴重な鉱物は採取できないんだけど、メカトニカなら多分剥ぎ取り扱いになるから、トールでも行けるんじゃないかな」
なるほど。フクキチはメカトニカに古代の機械としての価値を見出しているのではなく、珍しい素材としての価値を見出しているのか。
だから、鉱山まで行ってきて、このピッケルでメカトニカの遺骸を剝ぎ取ってこい、と。
そういうことか。
「そう。できるかな?」
フクキチが試すような目で、こちらを見てくる。
[AnotherWorld]ではどこまでやってくれるのかとばかりに、俺の価値を値踏みしているのだろう。
俺と彼とは友達だ。友達である月日はまだそこまでないが、俺も彼も末永く仲良くやっていきたいという気持ちは同じなはず。
しかし、ゲーム内ではその関係が少し変わる。
なぜなら、俺は水属性魔法使い、フクキチは商人という職業に就いているからだ。
ときには人のため、タメルのために行動しなくてはならない。
だから、リアルから持ち込んできた関係を過剰に優先して、他をないがしろにするのはナンセンスだと、俺は思っている。
「もちろん。どのみちポーションの件で協力するんだから、やるさ」
「そういってくれると思ったよ。…話はこれで終わり。ああ、ココデ海岸で砂を採取するときはそこのスコップを使ってね」
「分かった」
「あと、余裕があったらココデマツとヤドカリヤシを木こりしてきてほしい。そこにあるハチェットで。なにか質問はある?」
早口でまくしたてるフクキチに、俺も最小限の返事を返す。
話が決まれば、後は行動するだけ。
目的達成のために一秒たりとも時間を無駄にできないという考え方は、俺と彼との共通認識のようだ。
「ない。やってやるよ、完璧にな」
アヤカシ湿原でヨクナレ草の採取に、ココデ海岸で砂の回収。それと、鉱山で『エンシェント・メカトニカ』の遺骸の採掘。
課せられた使命は多いが、一つ一つの難易度はそれほど高いものではない。
湿原と鉱山はもはや勝手知ったる場所だし、採取するだけならば簡単だろう。
ココデ海岸は初見のフィールドだが、魔物を刺激しないように穴を掘ることは造作もない。
木こりはの方は…、刺激しないようにできる自信はないが。
「それじゃあ…」
「うん、がんばって!期限は特にないから、全部終わったら連絡してね」
「分かった」
気分はさながら、映画に登場するシークレット・サービスだ。
俺はフクキチに言われた道具類を壁際の棚から取り出してインベントリにしまい、”工房”を後にするのだった。
※※※
まずは、慣れているところからだな。
アヤカシ湿原に行ってヨクナレ草を取ってこよう。
「えーと…」
マップで位置を確認してみると、工房は街の南東の方にあったので、南門へは比較的スムーズにアクセスすることができた。
時刻は十七時。
まだあと二時間は昼の判定だ。安全に採取できそう。
「よお、坊主。調子はどうだ!」
「ぼちぼちですよ、ガンケンさん」
門にたどり着くと、今日の検問はガンケンさんだった。
というか、出入りのチェックはオミナさんと二人でしかしていないのだろうかっていうくらい、二人としか会っていない。
「今度は北のランディール鉱山で地震が観測されたってよ。センチピードといい、近頃物騒だな!がはは!」
おじさん騎士は、なんでもないことのように王都周辺で起きた出来事の話を振ってくる。
街を出るついでに情報収集できるというのは、意外に便利だ。騎士団がどんなことを把握して、注目しているのかもよく分かるしな。
あと地震というのはおそらく、メカトニカが掘削を始めたときの振動だろう。
心当たりしかないので、俺は口笛を吹いてごまかしておく。
「気いつけろよ。『キュウビノヨウコ』にもな!」
ガンケンさん、『キュウビノヨウコ』はフォクシーヌに進化し、すでに散々痛めつけられましたよ、なんてとても言えない。
またもや渦中の人物である俺は、口笛を吹いてごまかしておく。
「じゃあな、暗くなる前に戻ってきた方がいいぞ!」
「はい、ありがとうございました」
保護者みたいなことを言うガンケンさんと少し世間話をしてから、俺はガルアリンデ平原(南部)に降り立つのであった。
※※※
「よし、大体これくらいでいいだろう」
アヤカシ湿原に到着してから採集に専念していた俺は、最後に百枚くらいのヨクナレ草を収納し、重くなった腰を上げた。
以前と同じく、チョウチンガエルもドラゴンフライもノンアクティブ化していて、襲ってくることがなかったから楽に終わらせられた。
やはり俺はあのとき、フォクシーヌに敗北したあの瞬間、なにかされたとみて間違いない。
「一応確認しておくか」
メニューからインベントリを見てみる。
成果は、ナオレ草×231、アヤカシ葦×196、イッタンモメン×165、ネムレ草×132、ヨクナレ草×104、バクダンホオズキ×36。
結構アイテム枠を消費したが、莫大な量のアイテムを確保することができた。
これで、体力回復ポーションの調薬に必要な分は確保できたとみていいだろう。
「流石に暗いな」
時刻は十九時を回った。
オレンジの夕日が完全に消え失せ、夜の闇がフィールドを閉ざしている。
ここからは探索がより危険なものとなる時間帯であり、彼女が現れる時間でもある。
「きゅるるるるるるっ」
「っ!」
なんて思っていたら、来た。
独特の甲高い鳴き声に、白と朱色の体毛を有する大きなキツネのような容姿。
『キュウビノヨウコ・フォクシーヌ』だ。
ちょうどいい。
今度こそ、彼女と決着をつける!
「……」
なんてことはせず…。
俺はその場にありったけのバクダンホオズキをドロップした。
ちょっともったいない気がするが、命には代えられない。
「きゅううう?」
「今だ」
そして、彼女がそれに気を取られているうちに、俺はそそくさとその場を後にする。
すまんな、フォクシーヌ。
今だけは、アイテムロストできないんだ。
『いつでもいいさ、人の子よ』
「っ!」
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