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第四十九話
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[第四十九話]
「結局、俺が決着をつけないといけないってことか」
王都南西に居を構える”秘密の工房”の中で”知識の悪魔”に情報提供をしてもらった俺は、ため息を漏らしながら肩の力を抜いた。
どうも奇妙な縁があるな、彼女とは。
「なんだ、やつと因縁があるのか?」
「やつということは、”知識の悪魔”はフォクシーヌのことを知ってるのか?」
「質問に質問で返すな」
ふと漏らした一言に突っかかってきたので、質問し返したら注意された。
魔物のくせに、変なところで礼儀を重んじるんだな。
「まあいい。…『フォクシーヌ』に成った後のことは知らん。幼き頃を知っているというだけだ。やつも魔界代から生きている魔物だからな」
あまりに強いから薄々そうではないかと思っていたが、まさか魔界代を生きていたとは!
それなら、悪魔になるのもある意味必然だった、のか?
いや、必然だったということにしておこう。
決して、俺が『フライドラゴン』を増やしまくって育ったわけではないということにしておけば、皆幸せだ。
「分かった。今のところ俺から聞きたいことは以上…、いや、待った」
「なんだ。いい加減一人にさせてほしいものだが」
「もう一つだけある。ランディール鉱山にある、メカトニカと石室について教えてくれないか?」
もうたくさん、と言いたげに本を開こうとした悪魔に、俺は最後の問いを投げかけた。
『キュウビノヨウコ』を知っているのだから、鉱山のことも知っているに違いない。地下室の騒ぎがあって調べ物ができなかったし、ここで聞いた方が効率的だろう。
「あれに関わったのか、強かったろう。『ゴースト・メカトニカ』は」
「強かったは強かったが、今の時世は知らないのに、どうして俺が『ゴースト・メカトニカ』と戦ったことを知っているんだ?」
「私に訊いてきたことがなによりの証左だ。…それよりも、知りたいんだろう?あのゴーストについて」
「ああ」
心の内を見透かす悪魔の質問に、俺は素直に答える。
もしかして、こいつにもポーカーフェイスをしなければいけないのか?
「あのゴーストは、元は人間だった。それも、私と契約した者だ」
「そうだったのか」
まあ、それほど驚くようなことではないな。
こいつは、俺ともゲラルトさんとも契約を結ぶほどの節操なしだ。
過去に結んだ契約が山ほどあることは想像がつくし、この化け物(”知識の悪魔”)からあの化け物(石室の幽霊)が産まれたってなんら不思議はない。
「あの人間は私との契約条件に、メカトニカの開発方法を知ることを要求してきたんだ」
「なるほど」
元契約者は鉱山の採掘者ではなかったが、エンジニアだったのか。
「私はその契約を呑み、その人間に知識を与えてみせた。そして数十年の後、その人間は見事メカトニカを完成させてみせた」
技術を欲する人間に発明をもたらすとは、なかなか”知識の悪魔”らしいことしてるな。
「しかし、何十年にも渡る開発の末メカトニカが完成した頃には魔界代は終わりを告げ、人間風情が繁栄する古代の時代が幕を開けていた。そして、多くの人間どもはメカトニカの優れた力を欲していた」
ああ、なんとなくこの後の展開が読めてきた。
「そのため、完成から数日も経たないうちに周りの人間どもが共謀して、その人間、つまり私と契約していた者を抹殺したんだ」
「それでメカトニカを奪って、採掘を始めたのか」
「そうだ」
そう短く答えた”知識の悪魔”には、感情は一切こもっていなかった。
人間の欲望が渦巻く様子や生死の変遷ですら、知識に過ぎないということだろうか。
「だが、古代の人々は死霊術に精通していなかった。重い未練を残して死亡した開発者は怨霊となり、メカトニカを我が手に取り戻そうとした。それがあのゴーストの正体だ」
「だから、あの幽霊はメカトニカに憑りついたのか」
なんでもいいから憑依したい、というわけではなかったんだな。
結果的に俺とフランツさんで倒せたからいいものを、もしあれが、『エンシェントゴースト・メカトニカ』が野に解き放たれたらと思うと、ゾッとする。
間違いなく『緊急依頼』になっていただろうという経済的な意味のゾッとする思いと、一番近い街である王都が甚大な被害を受けただろうという感情的な意味のゾッとする思いで、数日間ほど寝込むのは必至だった。
「その後、古代人はメカトニカのパーツをゴーレムに隠し、名のあるエクソシストを呼んで怨霊を石棺に封印した」
そんな俺の胸中もつゆ知らず、”知識の悪魔”が話を続ける。
あの石室はやはり墓だったか。
日本の神を祀る神社のように、祟りを起こさないでくれと願って作られたんだろう。
「ちなみに、パーツを持っていた小さめのゴーレムは、後世の古代人がメカトニカを模して作った粗悪品だ。弱かっただろう」
「ま、まあな」
いや、四人パーティ+先輩たちのお力添えがあっても、割と苦労したんだけどな。
弱みを握られるとなにをされるか分からないので、俺は黙っておく。
「メカトニカとゴーストについてはこれくらいだ。…とにかく、お前は九尾の悪魔に勝てるようにせいぜい頑張るといい」
「言われなくても」
悪魔が話を締め、短いようで長かったご教授が終わった。
聞くべきことは聞いた。ここ数日で溜まっていた疑問点も、おおむねなくなった。
なら俺が次にやることは、行動することだ。
「くれぐれも、メカトやゲラルトみたいになるなよ」
「ん?メカトというのが、話に出てきた昔の契約者か?」
「ああ、そうだ」
メカトニカの開発者はメカトというのか。自分の作品にずいぶん安直な名前をつけるんだな。
まあ昔の話だし、考えても答えは出ないか。
俺は俺にできることを、今やっていこう。
「必ず、フォクシーヌを倒す」
なるべくなら、加護は残す方向で。
そんな新たな決意を胸に抱き、俺は工房を後にするのだった。
「頼むから、騎士団には通報するなよ」
※※※
どこかで言ったかもしれないが、現在の俺のプレイヤーレベルは30、職業レベルは25で、体力と魔力は172、185だ。
時刻は十八時。突然だが、今からレベリングに行こうと思う。
一日でも早く彼女に追いつき、倒す。しばらくはこれを目標にして、[AnotherWorld]を遊んでいこう。
「暗いが、あそこなら関係ないな」
俺は南の大通りに出ると、街の反対側に行くために中央広場を目指す。
これから行うのは、カナリアスケルトンを利用したレベリングだ。
あそこの魔物の大群と戦うことはすなわち死を意味するが、どうせフォクシーヌの『ナインテイル・ワルツ』も似たようなものだ。
たっぷり死んでやる。そして、成長してやる。
「着いたな」
そんなことを考えながら北の大通りまで突っ切り、北門に到着する。
検問は、やっぱりフランツさんだった。外から帰ってくる冒険者で混雑しているというのに、暇そうに壁へと寄りかかってサボっている。
「やあ、一昨日ぶりだったっけ。元気にしてたかい?」
「ええ、おかげさまで」
早速、気兼ねないやり取りを交わす。
『エンシェント・ゴースト・メカトニカ』と共闘した経験もあるので、フランツさんとはある程度の信頼を得られたと思いたい。
「といっても、魔界代の魔物の存在を吹聴して周るくらいの元気はあったようだけど?」
「い、いやあ、なんのことだか」
しかし、二言目からちくちくした言葉が飛んできた。フランツさん、ちょっと怒ってるか?
知らない風を装ってみるが、顔にも出ているからバレただろう。
「カマをかけてみたけど、こりゃあビンゴだね。…安心して、僕は北門防衛隊であって王都防衛隊ではないから、この件でトールを尋問する権利はないんだ」
そ、そうだったのか。まんまと誘導に引っかかってしまった。
ただ、騎士団の規則の関係で俺は捕まらないらしい。
メカトニカの件と言い、この人には助けられてばっかりだ。感謝しかない。
「ありがとうございます」
「まあ、そのことについては非番の日に教えてもらうとするよ」
団長クラスの人に、非番なんてほとんどないだろう。
つまりこれは、この話はなかったことにするという暗示だと思う。
これで、明日非番とかだったら笑えないが。
「今日も鉱山に行こうと思います。…盗掘ではないです。魔物狩りです」
俺は正直に外出理由を言うが、フランツさんに胡乱な目を向けられたので慌てて訂正する。
今はレベル上げに専念したいし、”知識の悪魔”を工房に匿うことになった以上、怪しい言動はしないようにした方がいい。
表立って、はな。
「そ、気をつけてね。どうやら封印されていた幽霊が押さえ込んでいたと思われる、古代の悪霊たちが湧き始めたみたいだから」
どうにかやり過ごせたが、ここで衝撃の新情報が明らかになった。
それはつまり、鉱山に新しい魔物が追加されたってことか?
「…分かりました。魔法はありますが、油断せずに行きたいと思います」
赤紫色をしたメカトの幽霊には水魔法が効果的だった。普通にフィールド中に出現する魔物なら、あれよりは順調に立ち回れると思いたい。
どうか簡単に倒せるような易しい相手でありますようにと願いつつ、俺はフランツさんに感謝して北門を出たのであった。
「結局、俺が決着をつけないといけないってことか」
王都南西に居を構える”秘密の工房”の中で”知識の悪魔”に情報提供をしてもらった俺は、ため息を漏らしながら肩の力を抜いた。
どうも奇妙な縁があるな、彼女とは。
「なんだ、やつと因縁があるのか?」
「やつということは、”知識の悪魔”はフォクシーヌのことを知ってるのか?」
「質問に質問で返すな」
ふと漏らした一言に突っかかってきたので、質問し返したら注意された。
魔物のくせに、変なところで礼儀を重んじるんだな。
「まあいい。…『フォクシーヌ』に成った後のことは知らん。幼き頃を知っているというだけだ。やつも魔界代から生きている魔物だからな」
あまりに強いから薄々そうではないかと思っていたが、まさか魔界代を生きていたとは!
それなら、悪魔になるのもある意味必然だった、のか?
いや、必然だったということにしておこう。
決して、俺が『フライドラゴン』を増やしまくって育ったわけではないということにしておけば、皆幸せだ。
「分かった。今のところ俺から聞きたいことは以上…、いや、待った」
「なんだ。いい加減一人にさせてほしいものだが」
「もう一つだけある。ランディール鉱山にある、メカトニカと石室について教えてくれないか?」
もうたくさん、と言いたげに本を開こうとした悪魔に、俺は最後の問いを投げかけた。
『キュウビノヨウコ』を知っているのだから、鉱山のことも知っているに違いない。地下室の騒ぎがあって調べ物ができなかったし、ここで聞いた方が効率的だろう。
「あれに関わったのか、強かったろう。『ゴースト・メカトニカ』は」
「強かったは強かったが、今の時世は知らないのに、どうして俺が『ゴースト・メカトニカ』と戦ったことを知っているんだ?」
「私に訊いてきたことがなによりの証左だ。…それよりも、知りたいんだろう?あのゴーストについて」
「ああ」
心の内を見透かす悪魔の質問に、俺は素直に答える。
もしかして、こいつにもポーカーフェイスをしなければいけないのか?
「あのゴーストは、元は人間だった。それも、私と契約した者だ」
「そうだったのか」
まあ、それほど驚くようなことではないな。
こいつは、俺ともゲラルトさんとも契約を結ぶほどの節操なしだ。
過去に結んだ契約が山ほどあることは想像がつくし、この化け物(”知識の悪魔”)からあの化け物(石室の幽霊)が産まれたってなんら不思議はない。
「あの人間は私との契約条件に、メカトニカの開発方法を知ることを要求してきたんだ」
「なるほど」
元契約者は鉱山の採掘者ではなかったが、エンジニアだったのか。
「私はその契約を呑み、その人間に知識を与えてみせた。そして数十年の後、その人間は見事メカトニカを完成させてみせた」
技術を欲する人間に発明をもたらすとは、なかなか”知識の悪魔”らしいことしてるな。
「しかし、何十年にも渡る開発の末メカトニカが完成した頃には魔界代は終わりを告げ、人間風情が繁栄する古代の時代が幕を開けていた。そして、多くの人間どもはメカトニカの優れた力を欲していた」
ああ、なんとなくこの後の展開が読めてきた。
「そのため、完成から数日も経たないうちに周りの人間どもが共謀して、その人間、つまり私と契約していた者を抹殺したんだ」
「それでメカトニカを奪って、採掘を始めたのか」
「そうだ」
そう短く答えた”知識の悪魔”には、感情は一切こもっていなかった。
人間の欲望が渦巻く様子や生死の変遷ですら、知識に過ぎないということだろうか。
「だが、古代の人々は死霊術に精通していなかった。重い未練を残して死亡した開発者は怨霊となり、メカトニカを我が手に取り戻そうとした。それがあのゴーストの正体だ」
「だから、あの幽霊はメカトニカに憑りついたのか」
なんでもいいから憑依したい、というわけではなかったんだな。
結果的に俺とフランツさんで倒せたからいいものを、もしあれが、『エンシェントゴースト・メカトニカ』が野に解き放たれたらと思うと、ゾッとする。
間違いなく『緊急依頼』になっていただろうという経済的な意味のゾッとする思いと、一番近い街である王都が甚大な被害を受けただろうという感情的な意味のゾッとする思いで、数日間ほど寝込むのは必至だった。
「その後、古代人はメカトニカのパーツをゴーレムに隠し、名のあるエクソシストを呼んで怨霊を石棺に封印した」
そんな俺の胸中もつゆ知らず、”知識の悪魔”が話を続ける。
あの石室はやはり墓だったか。
日本の神を祀る神社のように、祟りを起こさないでくれと願って作られたんだろう。
「ちなみに、パーツを持っていた小さめのゴーレムは、後世の古代人がメカトニカを模して作った粗悪品だ。弱かっただろう」
「ま、まあな」
いや、四人パーティ+先輩たちのお力添えがあっても、割と苦労したんだけどな。
弱みを握られるとなにをされるか分からないので、俺は黙っておく。
「メカトニカとゴーストについてはこれくらいだ。…とにかく、お前は九尾の悪魔に勝てるようにせいぜい頑張るといい」
「言われなくても」
悪魔が話を締め、短いようで長かったご教授が終わった。
聞くべきことは聞いた。ここ数日で溜まっていた疑問点も、おおむねなくなった。
なら俺が次にやることは、行動することだ。
「くれぐれも、メカトやゲラルトみたいになるなよ」
「ん?メカトというのが、話に出てきた昔の契約者か?」
「ああ、そうだ」
メカトニカの開発者はメカトというのか。自分の作品にずいぶん安直な名前をつけるんだな。
まあ昔の話だし、考えても答えは出ないか。
俺は俺にできることを、今やっていこう。
「必ず、フォクシーヌを倒す」
なるべくなら、加護は残す方向で。
そんな新たな決意を胸に抱き、俺は工房を後にするのだった。
「頼むから、騎士団には通報するなよ」
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時刻は十八時。突然だが、今からレベリングに行こうと思う。
一日でも早く彼女に追いつき、倒す。しばらくはこれを目標にして、[AnotherWorld]を遊んでいこう。
「暗いが、あそこなら関係ないな」
俺は南の大通りに出ると、街の反対側に行くために中央広場を目指す。
これから行うのは、カナリアスケルトンを利用したレベリングだ。
あそこの魔物の大群と戦うことはすなわち死を意味するが、どうせフォクシーヌの『ナインテイル・ワルツ』も似たようなものだ。
たっぷり死んでやる。そして、成長してやる。
「着いたな」
そんなことを考えながら北の大通りまで突っ切り、北門に到着する。
検問は、やっぱりフランツさんだった。外から帰ってくる冒険者で混雑しているというのに、暇そうに壁へと寄りかかってサボっている。
「やあ、一昨日ぶりだったっけ。元気にしてたかい?」
「ええ、おかげさまで」
早速、気兼ねないやり取りを交わす。
『エンシェント・ゴースト・メカトニカ』と共闘した経験もあるので、フランツさんとはある程度の信頼を得られたと思いたい。
「といっても、魔界代の魔物の存在を吹聴して周るくらいの元気はあったようだけど?」
「い、いやあ、なんのことだか」
しかし、二言目からちくちくした言葉が飛んできた。フランツさん、ちょっと怒ってるか?
知らない風を装ってみるが、顔にも出ているからバレただろう。
「カマをかけてみたけど、こりゃあビンゴだね。…安心して、僕は北門防衛隊であって王都防衛隊ではないから、この件でトールを尋問する権利はないんだ」
そ、そうだったのか。まんまと誘導に引っかかってしまった。
ただ、騎士団の規則の関係で俺は捕まらないらしい。
メカトニカの件と言い、この人には助けられてばっかりだ。感謝しかない。
「ありがとうございます」
「まあ、そのことについては非番の日に教えてもらうとするよ」
団長クラスの人に、非番なんてほとんどないだろう。
つまりこれは、この話はなかったことにするという暗示だと思う。
これで、明日非番とかだったら笑えないが。
「今日も鉱山に行こうと思います。…盗掘ではないです。魔物狩りです」
俺は正直に外出理由を言うが、フランツさんに胡乱な目を向けられたので慌てて訂正する。
今はレベル上げに専念したいし、”知識の悪魔”を工房に匿うことになった以上、怪しい言動はしないようにした方がいい。
表立って、はな。
「そ、気をつけてね。どうやら封印されていた幽霊が押さえ込んでいたと思われる、古代の悪霊たちが湧き始めたみたいだから」
どうにかやり過ごせたが、ここで衝撃の新情報が明らかになった。
それはつまり、鉱山に新しい魔物が追加されたってことか?
「…分かりました。魔法はありますが、油断せずに行きたいと思います」
赤紫色をしたメカトの幽霊には水魔法が効果的だった。普通にフィールド中に出現する魔物なら、あれよりは順調に立ち回れると思いたい。
どうか簡単に倒せるような易しい相手でありますようにと願いつつ、俺はフランツさんに感謝して北門を出たのであった。
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