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第三章

わがまま王子

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「それで?私は長い事この村に滞在することになっているのだが、どこに泊まればいいんだ?」

 工事の内容と今後の方針があらかた決まったところで、会議の間ずっと黙って聞いていた王子が口を開いた
 彼は端正な顔を退屈そうに歪めている
 この会議の間、放していたのは王宮からきた文官だ
 王子は口出しもせずに、ただ黙って聞いて、時たま頷いていただけである
 会議を仕切っていた文官の女性がその質問に答える

「この村の宿をご用意しております」
「どこにある?」
「この村の酒場の隣です」
「何?」

 王子は不満そうである

「酒場の近くだということは、夜には客が来るだろうな?」
「・・・ええ、そうなりますね
 工事が始まれば、工員たちも通うでしょう」
「私は早く寝るようにしているのだ、うるさくて寝れないかもしれないじゃないか!」
「は・・・?」
「それにその宿には他にも客が泊まることだろう?私の護衛とかは大丈夫なのか?」

 会議に参加した一同は絶句する
 この村は地方にあるので、誰も王子を見たことが無かった
 凛々しく、周りの声に耳を傾け、我儘を言うことなど無い
 皆、王子とはこんな感じだろうと想像していた

 しかし目の前にいるのは、端正な顔を歪め、自分が嫌だと思ったことは嫌だと言う
 そんな男だった・・・

「はぁ・・・
 王子、我儘を言わないでください」

 文官の女性がため息交じりに王子に言う
 だが王子はそっぽを向いてしまった

(こ、子供っぽい・・・)

 集まった一同、誰もが思う

 文官の女性が説得を試みるが王子は頑として、その宿は嫌だと言い続ける
 会議はいつまでも終わらない
 二人の言い争いで、この会議の終了予定が伸びていく
 一部はソワソワしたりして、帰りたさを露わにするも、王子と文官は気付かずに言い合いを続ける

 ・・・30分ほど経っただろうか
 いつまでも意見を変えない王子に、怒りが爆発したのだろう文官の女性が、部屋を出ていこうとする
 王子も不機嫌になり、彼女を引き止めない様子だ
 一番最初の会議で、監督官とこの場をほぼ仕切っている文官が仲違い
 こんな調子では、この先の温泉工事どうなるか分かったもんじゃない
 スムーズに工事が進まない
 なんてことになったら、温泉の開業が遅れたり、最悪の場合、王様から何か処罰を受けるかもしれない
 そんなことを考えただろう村長が文官の女性を引き留め、一つの案を出した

「でしたら、儂の家に泊まったらどうですじゃ?」
「ほう?君の家の方は静かなのか?」
「儂が朝早く農業をすることくらいで、夜は静かですじゃ
 部屋もいくつか、余っとりますしのう」
「・・・わかった、村長の家に厄介になろうじゃないか」

 (朝の農業・・・あっ)

 集められた村人たちは皆、考えた
 この村の名物爺さんのことを・・・
 だけど、王子が乗り気なので誰も何も言わない
 それに王子が早く寝るということは、早く起きるのだろう
 あの声で飛び起きるなんてことは無いだろうし、村長も説明くらいするだろう

 こうして、王子は村長の家に滞在することとなったのだった




「そうだったのか・・・」

 僕は王子が爺ちゃんの家に泊まる経緯を、ここで初めて知ったのだ
 ・・・今まで聞いていた監督官、もとい王子の話では、割と話が分かる人だと聞いていたんだけどなぁ
 こんな人だったのか・・・

「王子って・・・サンスケさん達の話の通り、めんどくさそうですね・・・」
「いや、確実にめんどくさい人でした」

 サンスケさんが腕を組み、うんうんと頷いている
 ロウリュさんが彼の頭をはたいて、反省を促す
 表情はにっこりしたままなのが、ちょっと怖い
 サンスケさんは完全にロウリュさんの尻に敷かれているようだ
 ユキはそんな両親の様子を見て、ケラケラとわらっている

「以上が会議での王子の様子です、私はこれ以外で王子とちゃんと会うことはありませんでした」
「ありがとうございましたロウリュさん」

 僕はロウリュさんにお礼を言う
 王子がどんな人だったのか、最初の印象くらいが分かってきた気がする
 ・・・そういえば、爺ちゃんと婆ちゃんからしっかりと話を聞いていない
 身内だからと、話を聞かないでいたのか
 それとも久しぶりの帰省で安心しきっていて、家の中では気が抜けていたのか
 一番工事に関わっていたのはサンスケさんだが、王子に関わっていたのは僕の祖父母なのだ
 爺ちゃんと婆ちゃんから、王子の話を聞いてみよう

「三人とも、ありがとうございました
 また、何か聞きに来ることがあると思いますのでよろしくお願いします」
「ええ、忙しくなければいつでも話しますよ」
「マーク兄ちゃん、また来てねぇ~」
「では、失礼します」

 僕はジェーンを連れて、サンスケさんの家を後にする
 そろそろニーナも書類の整理が終わっただろうか

「お腹すいたなー」

 ・・・ジェーンもこう言ってることだし、ついでにお昼も食べようか
 爺ちゃんと婆ちゃんも家にいるだろう
 二人から王子に関しての話を聞こう

 僕達は爺ちゃんの家へと向かった
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