悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~

Kore

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境界線の向こう側

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櫂理君とキスをしてしまった。

正確には、間接キスだけど。

でも、今までで一番距離が近くて、指一本の隔たりはあったけど本当にキスをしているみたいで、今でもドキドキが収まらない。


どうしよう。
櫂理君の顔、まともに見れない。




「おーい。莉子、もう授業とっくに終わってるよ?」  


意識が遥か彼方へと飛んでいく中、突如美南に頬を軽く叩かれ、そこで私はふと我に返る。

「これまた随分と向こうの世界に浸ってたね。昼休みとっくに始まってるけど」

そう言われて教室にある壁掛け時計に目を向けると、なんと昼休み開始から既に五分も経過しているようで、私は慌てて教材を机にしまった。

「そんなに弟君とのデート良かったの?もしかして、ついに姉弟の境界線超えたとか?」

すると、鋭いところをぐさりと突かれ、思わず動かしていた手が止まる。


間接キスは、境界線を超えたことになるのだろうか?

でも、普通の姉弟きょうだいはそんなことはしないし、弟にここまでときめく姉なんていない。


つまり、それって……


「ごめん、美南!私ちょっと具合悪いから保健室行ってくる!」

段々と頭の中が混乱してきた私はパニックに陥り、気付けば教室を飛び出していた。



私は一体いつから彼のことをこんなに意識し始めていたのだろう。

櫂理君がいつもと違う服装に着替えた時から?

それとも、女の子に囲まれていた時から?

もしくは、お化け屋敷に入った時から?

あるいは、間接キスをされた時から?


………………違う。


あのデートは、ただ自分の気持ちを再認識しただけ。

おそらく、ずっと前から私は、櫂理君に対する気持ちを見て見ぬふりしていたのかもしれない。



再び頭の中がパンクしそうになる手前。
私は保健室の扉を思いっきり開くと、中はがらんとしていた。

お昼休みの保健室は大体生徒達の寝床になっていると聞くけど、今日は誰一人としておらず、なんとも好都合な状況に私は窓際のベッドへと向かう。

本当は美南にデートの話をしたかったけど、今は櫂理君のことで頭がいっぱいいっぱいで、気持ちを落ち着かせるためにここへ逃げてしまった。


とりあえず、少しだけ休んでから戻ろうと私は仕切りのカーテンを開く。

「…………え?」

すると、誰もいないと思っていたのに、そこには既に先客が居て、思わず間の抜けた声を出してしまった。


「……ん。……ああ、なんだ。莉子か」

カーテンの音で起こされた先客はうっすら瞼を開くと、視線だけをこちらに向けてきて、虚な目で私を見てくる。

「あ、雨宮君起こしてごめんね。人がいるとは思わなかったから」

まさか、ここで雨宮君に遭遇するとは。
私はようやく保健室がガラ空きな意味を理解すると、即座に頭を下げて場所を変えようと踵を返す。

その直後、雨宮君に突然腕を掴まれてしまい、何事かと後ろを振り返った直後。
起き上がった雨宮君の隣に有無を言わさず座らされ、わけが分からずその場で固まった。

「あ、あの雨宮君?これは一体……」

「……で、何があったんだ?」

なんと。
まだ何も話してないのに、まるで超能力者の如くすべてを見透かされてしまい、私はたじたじになる。

果たして彼に話してもいいのかよく分からない。
けど、聞こうとしてくれる姿勢はありがたいので、私はお言葉に甘え、昨日起きた出来事をポツリポツリと雨宮君に話し始めた。




「それでね、黒いジャケット姿の櫂理君がかなり萌えたっていうか。あと、お化け屋敷の時の櫂理君が凄く格好良かったの。ずっと私のこと守ってくれてて、最後に脅かし役の人を殴ろうとしたのは頂けないけど、その姿がナイトみたいでキュンとしたっていうか。それから……」

「悪い。俺帰るわ」

「待って、雨宮君!ここからが大事なの!」

あまり多くを語るつもりはなかったのに、気付けば口が止まらなくなり、この場から逃げようとする雨宮君の腕を私は必死で掴む。

それから、げんなりとした表情をする彼にはお構いなしと。私は間接キスをされたくだりまで全て話し終えてから、ようやく雨宮君の腕を離した。


「つまるところ、あんたらもう付き合えばいいだろ」

そして、暫しの沈黙後。
吐き捨てるように言われた雨宮君の一言に、私は一瞬体の動きが止まる。

「い、いや!でも、心の準備が出来ていないっていうか。そもそも、櫂理君のことが好きかもって自覚したばかりで、まだ混乱してるというか……」

「あー。宇佐美姉弟ってマジでめんどくせー」

話を聞いてくれると言うから、包み隠さず打ち明けたのに。

何だか最後はとても投げやりな態度を取られてしまい、納得がいかない私は頬を膨らませる。

「ひどい、雨宮君。私本当に困ってるのに。昨日から櫂理君の顔見てるとドキドキが止まらなくて、まともに話せてないの」

間接キスをする前はどんなに好意を寄せられても、まだだ“弟”として見れた。 

けど、今ではどうやって接すればいいのか分からないくらい、彼を意識してしまっている。

それに、果たしてこれが本当に“恋”なのかよく分からない。

もしかしたら、ただ流されているだけかもしれないし、自分の気持ちをしっかり確かめるまでは、軽はずみな態度をとってはいけない気がして。

だから、色々と頭の中で整理していきたいけど……。


「あーあ。なんか授業出たくないなあ」

こんな状態じゃ内容なんてまともに入ってこないし、今は何もしたくない。
かといって家に帰る勇気もないし……。

「それなら、旧校舎の屋上使えば?」

「……は?」

すると、唐突に提案された意味がよく分からず首を横に傾げる。

「あそこは誰も来ないからサボるには最適だし。丁度俺も行こうとしてたから」

「いや、私サボるなんて言ってないけど」

何やら話が勝手に進もうとするので慌てて否定するも、雨宮君は人の話を聞こうともせず、私の腕を引いて急にベッドから立ち上がった。

「あ、雨宮君待って!私まだお昼も食べてないし……」

「じゃあ、旧校舎の入り口で待ってるから取りに行ってこいよ」

結局拒否権は与えられず。
私は一旦教室に戻り、美南に事情を話すと「あとは私に任せて行ってきなよ」と快く送り出された。

何やらここの人達はサボりに関してえらく寛容的な気がするけど、せっかくなので私は二人に甘えて人生初のサボりをするために旧校舎へと向かう。


◇◇◇


「うわー、すごい!屋上ってこんなに眺めがいいんだー」

雨宮君に連れられ、最上階部屋の裏手にある階段を登り扉を開けると、目の前には街一面が広がり、思わず歓喜の声が漏れた。

基本屋上は怖い人達の溜まり場なので、これまで一切来たことがなく、初めての場所に気分が一気に上昇してくる。

「この景色が独り占め出来るなんて、雨宮君達の権力って凄いね」

「それはよく分かんねーけど、まあ色々と便利ではあるな」

どうやら彼が言うには、ここは最上階部屋の延長らしく、あの部屋に立ち入る人しか使用してはいけないという暗黙のルールがあるらしい。

他にも色々と特権があるみたいで、この学校の人達がこぞって最上階部屋を狙う理由がここでようやく分かった気がした。


「じゃ、俺は適当にしてるから。あんたも好きなことやってて」

そう言うと、雨宮君は入り口脇にある小さな物置まで足を運び、そこから白いキャンパスと画材道具を取り出してきた。

「もしかして、雨宮君がたまにサボるのって絵を描くためだったの?」

「まあ。授業受けるより楽しいし」

転校して早々。既に何度かサボり始めている彼は相変わらず自由奔放だなと思っていたけど、まさか趣味に没頭していたとは。

それで授業に出ないのはいかがなものかと思うけど、そこまで自分の好きなことに真っ直ぐいられるのは何だか羨ましいと思う。


「ねえ、もし雨宮君が良ければ絵を描いてるところ見ててもいい?私は特にやることないし」

このままぼーっとしているのも良かったけど、せっかくの機会だし、私は期待を込めた目を向けると、雨宮君は嫌な顔をせず一つ返事で頷いてくれた。




「雨宮君の絵凄い綺麗!色使いも繊細だし、人は見掛けによらないんだね!」

「なあ。お前褒めているようで全力でディスってね?」

それから、A3くらいのキャンパスを見せてもらうと、そこには写真のようにリアルな街の風景が描かれていて、完成度の高さに率直な感想述べたら、何故か軽く睨まれてしまった。

でも、本当にあの雨宮君がこんな絵を描けるだなんて、正直今でも信じられない。

キャンパスには目の前に広がる街並みがそのまま描き写されているけど、色が実際とは全然違う。

暖色系が多めで、陽の光がもっと強調されていて、見ていると心がホッとするような優しい絵。

芸術はその人の心を表すっていうけど、きっと雨宮君は私が思っている以上に暖かい人なんだというのが、この絵を見てなんとなく分かった気がした。


「ねえ、雨宮君ってよく人から勘違いされたりしない?」

普段は棘があって、粗暴で、あまり喋らないから彼を怖がる人は沢山いる。

それが何だか勿体なく思って、余計なお世話だと分かってはいるけど、つい口を挟んでしまった。

「さあ。周りからどう見られてるとか別にどうでもいいし。俺は俺だから勘違いしてるなら勝手にすれば」

けど、雨宮君は全く気にすることはなく、マイペースに作業を続けていく姿は流石だなと思う。

始めの時もそうだけど、彼は猪突猛進型なだけで中身は大人な気がする。

大事な絵を壊されても殴ればそれでいいと潔く割り切れるし、やり方は強引だけど、こうして私に付き合ってくれるしで。

「雨宮君ってなんか頼れるお兄ちゃんみたいだね」

普段から”姉”という立場を意識していた分、弱音を吐ける人を無意識に求めていたのか。気付けば思ったことを口にしていた。

すると、雨宮君の手の動きが止まり、突然振り向かれ、肩がびくりと小さく跳ね上がった。

「……え、えっと。私なんか変なこと言っちゃった?」

しかも、何やら真顔で凝視されてしまい、恐る恐る尋ねてみた直後。不意に伸びてきた雨宮君の手がぽすりと頭の上に置かれ、ゆっくりと頭を撫でてきた。

「あの……雨宮君?」

何故頭を撫でられているのか分からず混乱していると、雨宮君はふと口元を緩ませる。

「それなら遠慮なく頼れよ。莉子が妹なのも悪くない」

そして、普段の姿からは想像もつかない程の優しい笑顔と甘い言葉に、まんまと心を撃ち抜かれてしまった。


ずるい、雨宮君!
それは反則技です!

そう訴えたかったけど、流石に恥ずかしいので、私は動揺する気持ちを悟られないように笑って誤魔化してみる。


それからは持ってきたお弁当を食べて、その後も雨宮君の絵を隣でずっと眺め続けていたら、食後のせいか徐々に睡魔に襲われ、気付いたら意識を失っていた。

 

◇◇◇




……なんだろう。


体がふわふわする。


ハンモックみたいに揺ら揺らしてて、まるで宙に浮いているような…………


…………もしかして。


私誰かに運ばれてる!?





「やめて!殺さないで下さい!」

「…………は?」

目を覚ました瞬間、一気に押し寄せて来た危機感に思わずそう叫ぶと、視界には呆気にとられた表情でこちらを見下ろす櫂理君の姿が映っていた。

「なんだ櫂理君か。てっきり変質者に拉致されているのかと思った……」

「なんでそういう思考になるんだ?」

ひとまず身内であることに安心すると、櫂理君は益々怪訝な目で私を見てくる。

「……というか、なんで櫂理君がいるの?」

確かついさっきまで雨宮君の隣にいたはずなのに。
何故かいつの間にか彼に運ばれていて、状況が理解出来ず頭の中が混乱し始める。

「莉子があいつの肩借りて寝てたから回収してきた」

「ええ!?そうなの!?」

すると、すこぶる不機嫌な顔で言われた櫂理君の衝撃的な一言に、思わず大きな声を出してしまった。


なんと。
意識を失ってから私はずっと雨宮君の肩で寝ていたなんて。

無意識とはいえ、恥ずかしい以上に雨宮君に申し訳なさ過ぎる!


「櫂理君、私雨宮君に謝ってくるから今すぐ下ろし……」

「ダメだ」

一刻も早く彼の元へ戻ろうと櫂理君に催促したところ。
食い気味に拒否されてしまい、何故?と私は首を傾げる。

しかも、いつの間にやら空き部屋みたいな場所に運ばれ、部屋にある棚の上に下ろされた途端、扉の鍵を閉められてしまった。

「櫂理君?どうしたの?」

何やら先程からずっと険しい表情に、私は恐る恐る彼の顔を覗き込むと、突然両手首を掴まれ、体を壁に押さえ付けられてしまった。

「好きな女が他の男と一緒に授業サボって、挙げ句の果てに肩借りて寝てるなんて、普通怒るだろ」

それから、不貞腐れた目で気持ちをストレートにぶつけられ、恥ずかしさのあまりつい視線を逸らしてしまう。

好意を向けられるのはいつものことなのに。
真っ直ぐに“好き”と言われてしまうと、再び昨日のことを思い出してしまい、櫂理君の顔を直視出来ない。

すると、不意に櫂理君の指が顎に触れた瞬間、無理矢理引き上げられ、視線を元に戻されてしまう。

「俺の顔そんなに見たくない?もしかして、あいつが好きなのか?」 

そして、今度はこれまでにない程の弱々しい表情を見せられ、居た堪れなくなった私は無言で首を横に振った。

「違う。そうじゃなくて、まだ混乱しているというか……ひゃ!」

話が拗れる前に今の心境を正直に話そうとしたのに。
それを遮るように櫂理君は突然私の首筋に唇を滑らせてきて、思わず体がぞくりと震えた。

「それなら、余計なことを考えさせないくらい愛せば、もっと俺のこと見てくれる?」

そう耳元で囁く櫂理君の声は、体の芯からとろける程に甘く響き、私から思考を奪っていく。

このままだと、また彼のペースに呑まれそうで。
なんとか抵抗しようにも、両腕を掴まれているせいで何も出来ない。

もし、このまま彼を受け入れたら。

好きだと伝えたら、私は櫂理君にとことんなまでに壊されてしまうかもしれない。

姉弟の境界線を越えた向こう側の世界。
その先に触れたいような、触れたくないような。

これまで振り子のようにゆらゆら動いていた糸は、気付けばかなり脆くなって、彼の行動一つで今にも千切れてしまいそうになる。

そんな弱った心に追い打ちをかけるよう、櫂理君は私の額に自分の額をくっ付けてきて、妖しくも美しい目で捉えてくる。

「莉子、好きだ。絶対誰にも渡さない」

その上、まるで図ったようなタイミングで囁いてくる執着的な言葉が更に私を縛り付けて、もう何も考えられない。


すると、突然櫂理君のスマホの着信音が鳴り出し、はたと我に返った私は慌てて彼から顔を背けた。

けど、それを許さないと言わんばかりに、櫂理君の手が私の頬を掴み、強制的に視線を戻されてしまう。


「櫂理君、電話出ないの?」

「鳴らせとけばいいだろ」

一向に出ようとする気配がないので一応尋ねてみたら、やっぱり即座に跳ね除けられてしまい、綺麗な顔が再び接近してくる。

「ダメ!早く出てあげて!」

これ以上踏み込まれたら本当に取り込まれてしまいそうで。
そんな危機感に襲われた私は、咄嗟に空いている手で櫂理君の胸を押しのけ、強い口調で促した。

圧に押された櫂理君は軽く舌打ちすると、ようやく私から離れ、ポケットからスマホを取り出し、渋々電話に出る。


「なあ、わざとか?毎回お前はタイミング悪いんだよ」

怒りを露わにしているところを見た限りだと、どうやら電話の相手は圭君で間違いなさそう。

それから、暫く会話をしていると徐々に櫂理君の表情が険しくなってきて、通話を終了させた途端深い溜息を一つ吐いた。

「どうしたの?何かあった?」

何だか只事ではないような雰囲気に恐る恐る尋ねてみると、櫂理君の表情は直ぐにほぐれ、首を横に振る。

「いや、何でもない。悪いけど、ちょっと用が出来たから俺行くわ。続きはまた家でな」

そして、私の頭に優しく手を置いてから、最後に妖しく微笑んできた。

「え?続きって何……」


バタン。

その先に何があるのか、少し不安になって問いかけたら、逃げるようにさっさと部屋を出て行かれ、一人取り残された私は暫く呆然とその場で佇む。



一体何があったのか気になるところだけど、それよりも、家に帰って何をされるのかそっちの方が気になり過ぎて、今でも鼓動が鳴り止まない。

ただでさえ頭がパンクしそうなのに、これ以上櫂理君に触れたら、私はもう抗えないかもしれない。

そんな不安に駆られていると、次の授業が始まる予鈴が鳴り、ふと部屋の隅にある壁掛け時計に目を向けた。

結局サボったのは一限分だけだったようで。これ以上一人で居ることも嫌になり、私は大人しく部屋を後にする。

それから美南にメッセージを送って、教室に戻ろうと足早に廊下の突き当たりを曲がった時だった。


「いた!」

丁度向かいから来た男子生徒の肩にぶつかり、私は慌てて頭を下げる。

「すみません、私の不注意で」

「……いや。俺の方こそ」

特に文句を言うことなく、男子生徒は軽く会釈してからこの場を去って行った直後。
足元に転がっている茶封筒がふと視界に入り、拾おうと手を伸ばす。

すると、突然スマホの着信音が鳴り出し、急いでポケットから取り出すと、画面には美南の名前が表示されていた。

「もしもし。……うん、もう大丈夫。ごめんね、迷惑かけて。今から戻るから」

どうやら私のメッセージに直ぐ反応してくれたようで、申し訳ないと思いながらこれまでの経緯を話し、通話を終了させてからポケットにスマホをしまう。

そして、改めて床に落ちていた封筒を拾い、来た道を駆け足で引き返した。


「……やっぱり、もういないよね……」

案の定。通路には男子生徒の姿は見当たらず、私は小さく息を吐いて肩を落とす。

おそらく、この茶封筒の落とし主はあの人で間違いないと思うけど、生憎どこの誰なのかまったく分からない。

このまま持っていても仕方ないので、後で先生に落とし物として届けることにして。
私は茶封筒を一旦自分のポケットにしまい、教室へと戻っていった。


◇◇◇



「…………宇佐美、これどんな生徒が落としたんだ?」

「え?」


授業が終わり早速拾った茶封筒を担任の先生に届けると、中を確認された後、何やら神妙な顔で尋ねられ、私は一瞬目が点になる。

「……あ、えっと……確か髪は黒色で身長は平均的で、目が細かったような気がします」

一先ず、一時間前の記憶を掘り起こしてみるもこれといった印象がなく。

黒髪男子はこの学校では珍しい方なので特徴になるかもしれないけど、それ以外はあまりパッとせず、先生は再び渋い顔をしてしまった。

「あの、それってそんなにまずいものなんですか?」

「いや、何でもない。お前は気にするな。もし落とした生徒が分かったら直ぐに教えてくれ」

まさかこの茶封筒一つでここまで深刻な雰囲気になるとは思いもよらず。
恐る恐る尋ねてみても、先生は私の質問に答えようとせず、そう言い残すと足早に職員室の奥へと行ってしまった。

一体あの封筒の中には何が入っていたのか。
こんなことになるなら中身を確認すればよかったかな……。

そんな考えがふと過ったけど、このまま何も知らない方がいいような気がして。

とりあえず目的は果たしたので、私は職員室を出てから教室に戻ろうと踵を返した時だった。

「あっ!」

目の前にはあの男子生徒が立っていて、思わず声をあげてしまった。


__その次の瞬間。

突如腕を掴まれ、そのまま教室とは反対方向に無理矢理引き摺られる。

「ちょっと何なんですか!?離してください!てか、あなたが落とした封筒さっき先生に届けましたけど!?」

何故急に連行されているのか意味が分からず抵抗を試みるも、男子生徒の手はびくともせず、どんどんと人気がない通路へと引き連れていく。


一体私が何をしたというのだろう。

いくら問いかけてみても男子生徒は一向に口を開こうとせず、状況が全く理解出来ないまま恐怖心がどんどんと募り始めていく。

そして、誰もいない空き教室に押し込められた途端、背後から何者かに口を塞がれ、激しく抵抗する。

けど、強い力で体を押さえつけられてしまい、徐々に体力が消耗していく中、段々と意識が朦朧とし始め、いつの間にか記憶がプツリと途絶えてしまったのだった。

 
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