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14話 決着!ミスティ・ヒドラ!
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あたしは本当に戦いに向かない。
大剣を振り回していたこともある。だが、それはかつてあったヒュマス(ヒトに最も近い種族)の国のおとぎ話に憧れたからであり、適性とかそんなものなどお構いなしで強がりたかったからだ。
色んな方に師事させていただいたが、戦う度に恐怖や後悔を振り払うのに時間が掛かるのはどうしようもない。多分、この後もそうなる。そう鳥肌が教えてくれている。
「い、いきますよ…」
口が渇いているのを感じながら自分に言い聞かせる。
中身は空っぽだが、わりと気楽に会えるこの地を見守る神を出したのだ。負けたら次会う時に何言われるか分かったもんじゃない。
【グングニール】
オーディンが杖を振ると、強烈な光芒が放たれる。
強いのは眩さだけではない。首1本分とはいえ、ヒドラの巨体が転倒し、身体のモヤが殺がれるくらいの威力もある。
やれる!あたしの魔力でだってやれるんだ!
だが、恐らく本体である目の前のヒドラは復帰も早い。両手を使って転がりながらもすぐに起き、地を蹴って突進してきた。
【ミョルニル】
それはまともに受けてはやれない。
オーディンが杖を振ると、ハンマー状の雷がヒドラの頭を叩く。
だけど、止まらない!あたしだって逃げられない!
「まだ!まだ出し切ってない!」
右手をオーディンに向け、魔力を更に注入する。
旅立つ前に余力は残せと言われていたが、どうも私ではそんな余裕は許されないらしい。
ここで倒れてもまだ大丈夫。皆様がきっとなんとかしてくださる。
「だから!」
更に魔力を振り絞る。
こんなものに、クレアさんの仕事を中断させ続けるわけにはいかないんだ!
『グゥゥオオオオオオッ!!』
それは自分も同じだとばかりに咆哮し、【ミョルニル】を弾き、オーディンを8本足の馬ごと吹き飛ばした。
「それでも!」
亜空間収納から大剣を出す。
イグドラシル攻略で使っていたもので、長年眠っていたものだ。
【エンチャント・ホーリー】
ただ、弾く。その為に選んだ光属性の魔法を大剣に纏わせる。
渾身の一突きはヒドラを半歩下がらせたが、それだけ。オーディンの攻撃ほどの効果が無かった。
『ギャアアアオオオオッ!』
至近距離での咆哮に弾き飛ばされ、何度も転がって止まる。
大丈夫。まだバリアが
〈告知。スタン、麻痺状態に陥りました。〉
なんで?どうして?
あたしは1発しか
ようやく気付く。
オーディンを弾き飛ばした咆哮が私にも効いていたのだ、と。既にバリアは消え、無防備で突っ込んでいたのだ、と。
「うっ……うぅ……うごけ……うごいて……」
突っ伏したまま身体が動かない。ヒドラが何処にいて、手から離れた剣が何処にあるのかも確認できない。
ただ、足音が近づいてくる音だけが聞こえて来る。
そして、私の身体が宙を舞う。その下には大口を開いたヒドラがいて――
【グングニール】
光芒がヒドラを弾き飛ばし、そのまま私は仰向けに地面へ落ちた。
痛い。痛いがまだ生きている…
『絵描きよ。我を召喚して負けるなど許さぬ。』
えっ。どういうこと?
ただの絵だと思っていたオーディンが私に語り掛ける。
『もっと上手く使え。ただの撃ち合いだけで済ますな。』
仰向けになったおかげでオーディンの姿が目に入る。
姿はそのままだが、左手には更に燃える剣のような物が握られていた。
知らない。私はその武器を知らないのだ……
『グゥゥオオオォォッ!!』
再び、ヒドラがオーディン目掛けて体当たりを仕掛ける。
【ミョルニル】
それを再び雷撃で相殺するが、それで終わらない。
雷撃が広がってヒドラは帯電し、纏っていたモヤが消え去った。
再び露わになる核心。
【レーヴァテイン】
鋭く突き出した炎の剣が、安々と核心を貫いた。
断末魔もなく崩れ去るミスティ・ヒドラ。
私をボロボロにした相手の最後は、とても呆気ないものだった……
炎の剣だと思っていたものは杖で、炎が消えたおかげで形が鮮明になる。
『今回だけと心得よ。』
「は、はい。」
そう言って私を抱き上げるオーディンの顔は壮年の男性の顔で…
「アクアー!!」
私を呼ぶアズサ様に視線を移す。他の皆様も無事に戻って来る。
良かった…無事にミスティ・ヒドラを討伐出来たようだ。
再び、オーディンの顔を見るとのっぺらぼう。さっきのはいったいなんだったんだろう…
「ごめんね。いっくら斬っても倒れなくて…」
「私もですわ。こんなに厄介な相手だと思いませんでした。」
「きっとダミーの分体だったんだろうねー。本体はアクアが倒したヤツ。」
ハルカ様が両手を伸ばすと、オーディンが私を渡す。
役目を終えたかのように、その姿は消え去った。
「あれ?子爵は?」
「あっ!」
すっかり忘れていた。
「私が棒に引っ掛けて帰りますわ。火遊びの反省にはちょうど良いので。」
「あはは…」
身体に力が全く入らない。スタンや麻痺とはこういうものなのだろうか…
「アクアは私が運んでおくね。クレアちゃんにはギリ無事だって伝えておいて。」
「そうするー」
「すみません…」
「今度はしっかり休むように。クレアさんのお世話はジゼルと私で引き継ぎますので。」
「ありがとう、ござい、ます…」
疲労困憊、とは違う理由で急激に眠気が襲ってくる。
あれ?HPがとても低くてMPがゼロのまま…
目が覚めたら、何度目か忘れた使用人室のベッドの上だった。
「よく頑張りましたね。」
目を開けるなり、そばにいたカトリーナさんに頭を撫でて褒められる。
「あ、ありがとうございます…」
事態や状況が掴めないがそう答えておく。
まだ眠い上に身体も重い…
「起きなくて良いですよ。もう面倒事は片付きましたので。」
「いえ、でも、まだ護衛は…」
「その状態じゃ逆に護衛される側になります。」
「えっ!?いたた…」
身体を捩るだけでもあちこち骨や筋肉が痛む。
ヒドラに放り投げられ、受け身もまともに取れなかったのに、よく最後に踏ん張れたと我ながら感心する。
「出発前に薬を飲みましたよね。」
「はい。24時間効くヤツですね。」
「魔力を消費し、ダメージを肩代わりするものだそうですよ。」
「えぇ…それならそうと…」
動くたびに入っていたダメージを肩代わりしていた影響か、MPが減り続けてはいた。これが、肩代わりではなく、回復だったら無茶は出来なかったと思う。
いや、それでも無茶するしかなかった気はするが……
「ぁいたっ!?」
不意に指で額を弾かれ、いい音が頭に響いた。
「怪我人が無理して動くからですよ。箱の件は後日、私や旦那様を伴っても良かったのに。」
「あっ…あぁ…」
一気にまとめて片付けようと思ったのは否めない。
手元にあることは報告し、中身を知った上で戦闘ができるメンバーを増やして対処すればよかったのだ…
「あなたは本当に仕事に抜けが出ますね。でも、懸命に対処しようとしてだと思いますが。」
「すみません…」
「情けない声ばかり出さない。まあ、今回は慣れない仕事だったので及第点とします。」
「は、はい。」
返事をすると頭を撫でられる。
思わず身構えてしまったが、違うと分かってむしろ申し訳なくなった。
「もう大人なのでしょう?しっかり物事を見極められるようになりなさい。」
「はい…」
されるがままに頭を撫でられていると、今度はドアを静かに開けて旦那様が現れた。いたのは魔力で分かっていたが、強大さのわりにこういう気遣いをされる方だ。
「おっ。起きてたか。」
「はい。今さっき。」
私の頭を撫でながらカトリーナさんがやって来た旦那様に答える。そろそろやめてもらわないと頭がペシャンコになりそうだ。
「男爵も活躍を褒めていた。大々的に褒賞を与えたいと言っていたが」
「だめだめだめ!だめですからね!?」
褒められるのは嬉しいが、それは困る!
私は奴隷上がりのメイドというポジションに留まっていたい!大陸全土に厳つい二つ名を轟かせたい訳ではないのだ!
「そう言うと思って断っておいた。その代わり」
「なんです…?」
「お前が好きに描いた絵を1枚飾ってもらう事になった。」
「まあ、それでしたら…」
クレアさんとそんな話をした気がするし、悪い条件ではない。
それに、この数日でこの窓から薄っすら見える風景にも、なんだか愛着も湧いてしまった。
「工事の方はどうです?」
「距離が長いからな。あと3日は掛かるそうだ。」
「十分速いですよ…」
「アクア、あなたは既に3日寝ていたのですよ。」
「えっ!?」
いやいやいや。3日経ってるのにこの痛みは信じられない。
いつもなら1日寝れば治っているのだが…
「リザを掛けてないのもあるが、薬の代償だ。ここからようやくスキルが機能する。」
「そ、そうですか…」
「戦いのおおよその流れは聞いた。まあ、下が柔らかい土とはいえ、建物の5階くらいの高さから落ちたわけだからな。」
「ヒィィ…」
サラッと説明されるが、なんだか急にあちこちがむずむずズキズキしてきた。
我ながら生きているのが不思議である…
「ゆっくり休め。それが許されるだけの活躍をしたんだ。」
「文句を言う輩がいたら、私が腕をねじ切ってやりましょう。」
「やめてくださいね!?」
私の反応にお二人が笑う。
冗談なのだろうが冗談に聞こえないし見えない!
私の上司のユーモアは怖すぎるのだ!
でも、このお二人が並んで笑っているのはすごく良い。なんだかんだ問題は起きるけど、それでも今がとっても穏やかな時期なのだと分かる。
親戚の叔父や叔母みたいなお二人には、このまま穏やかに過ごしてもらいたいものだ…
「さて、騒動も落ち着いたから一足先にルエーリヴへ戻る。依頼が溜まってそうだからな。」
「そう、ですか…」
「私はもう少しこちらに居ます。アリスとジュリア、ココアに伝えてください。」
「わかった。」
「アクア。」
「はい…」
「よく頑張ったな。」
旦那様に頭を撫でられ、そのまま眠ってしまう。
私の身体は思った以上に無理を重ねていたようだ。
大剣を振り回していたこともある。だが、それはかつてあったヒュマス(ヒトに最も近い種族)の国のおとぎ話に憧れたからであり、適性とかそんなものなどお構いなしで強がりたかったからだ。
色んな方に師事させていただいたが、戦う度に恐怖や後悔を振り払うのに時間が掛かるのはどうしようもない。多分、この後もそうなる。そう鳥肌が教えてくれている。
「い、いきますよ…」
口が渇いているのを感じながら自分に言い聞かせる。
中身は空っぽだが、わりと気楽に会えるこの地を見守る神を出したのだ。負けたら次会う時に何言われるか分かったもんじゃない。
【グングニール】
オーディンが杖を振ると、強烈な光芒が放たれる。
強いのは眩さだけではない。首1本分とはいえ、ヒドラの巨体が転倒し、身体のモヤが殺がれるくらいの威力もある。
やれる!あたしの魔力でだってやれるんだ!
だが、恐らく本体である目の前のヒドラは復帰も早い。両手を使って転がりながらもすぐに起き、地を蹴って突進してきた。
【ミョルニル】
それはまともに受けてはやれない。
オーディンが杖を振ると、ハンマー状の雷がヒドラの頭を叩く。
だけど、止まらない!あたしだって逃げられない!
「まだ!まだ出し切ってない!」
右手をオーディンに向け、魔力を更に注入する。
旅立つ前に余力は残せと言われていたが、どうも私ではそんな余裕は許されないらしい。
ここで倒れてもまだ大丈夫。皆様がきっとなんとかしてくださる。
「だから!」
更に魔力を振り絞る。
こんなものに、クレアさんの仕事を中断させ続けるわけにはいかないんだ!
『グゥゥオオオオオオッ!!』
それは自分も同じだとばかりに咆哮し、【ミョルニル】を弾き、オーディンを8本足の馬ごと吹き飛ばした。
「それでも!」
亜空間収納から大剣を出す。
イグドラシル攻略で使っていたもので、長年眠っていたものだ。
【エンチャント・ホーリー】
ただ、弾く。その為に選んだ光属性の魔法を大剣に纏わせる。
渾身の一突きはヒドラを半歩下がらせたが、それだけ。オーディンの攻撃ほどの効果が無かった。
『ギャアアアオオオオッ!』
至近距離での咆哮に弾き飛ばされ、何度も転がって止まる。
大丈夫。まだバリアが
〈告知。スタン、麻痺状態に陥りました。〉
なんで?どうして?
あたしは1発しか
ようやく気付く。
オーディンを弾き飛ばした咆哮が私にも効いていたのだ、と。既にバリアは消え、無防備で突っ込んでいたのだ、と。
「うっ……うぅ……うごけ……うごいて……」
突っ伏したまま身体が動かない。ヒドラが何処にいて、手から離れた剣が何処にあるのかも確認できない。
ただ、足音が近づいてくる音だけが聞こえて来る。
そして、私の身体が宙を舞う。その下には大口を開いたヒドラがいて――
【グングニール】
光芒がヒドラを弾き飛ばし、そのまま私は仰向けに地面へ落ちた。
痛い。痛いがまだ生きている…
『絵描きよ。我を召喚して負けるなど許さぬ。』
えっ。どういうこと?
ただの絵だと思っていたオーディンが私に語り掛ける。
『もっと上手く使え。ただの撃ち合いだけで済ますな。』
仰向けになったおかげでオーディンの姿が目に入る。
姿はそのままだが、左手には更に燃える剣のような物が握られていた。
知らない。私はその武器を知らないのだ……
『グゥゥオオオォォッ!!』
再び、ヒドラがオーディン目掛けて体当たりを仕掛ける。
【ミョルニル】
それを再び雷撃で相殺するが、それで終わらない。
雷撃が広がってヒドラは帯電し、纏っていたモヤが消え去った。
再び露わになる核心。
【レーヴァテイン】
鋭く突き出した炎の剣が、安々と核心を貫いた。
断末魔もなく崩れ去るミスティ・ヒドラ。
私をボロボロにした相手の最後は、とても呆気ないものだった……
炎の剣だと思っていたものは杖で、炎が消えたおかげで形が鮮明になる。
『今回だけと心得よ。』
「は、はい。」
そう言って私を抱き上げるオーディンの顔は壮年の男性の顔で…
「アクアー!!」
私を呼ぶアズサ様に視線を移す。他の皆様も無事に戻って来る。
良かった…無事にミスティ・ヒドラを討伐出来たようだ。
再び、オーディンの顔を見るとのっぺらぼう。さっきのはいったいなんだったんだろう…
「ごめんね。いっくら斬っても倒れなくて…」
「私もですわ。こんなに厄介な相手だと思いませんでした。」
「きっとダミーの分体だったんだろうねー。本体はアクアが倒したヤツ。」
ハルカ様が両手を伸ばすと、オーディンが私を渡す。
役目を終えたかのように、その姿は消え去った。
「あれ?子爵は?」
「あっ!」
すっかり忘れていた。
「私が棒に引っ掛けて帰りますわ。火遊びの反省にはちょうど良いので。」
「あはは…」
身体に力が全く入らない。スタンや麻痺とはこういうものなのだろうか…
「アクアは私が運んでおくね。クレアちゃんにはギリ無事だって伝えておいて。」
「そうするー」
「すみません…」
「今度はしっかり休むように。クレアさんのお世話はジゼルと私で引き継ぎますので。」
「ありがとう、ござい、ます…」
疲労困憊、とは違う理由で急激に眠気が襲ってくる。
あれ?HPがとても低くてMPがゼロのまま…
目が覚めたら、何度目か忘れた使用人室のベッドの上だった。
「よく頑張りましたね。」
目を開けるなり、そばにいたカトリーナさんに頭を撫でて褒められる。
「あ、ありがとうございます…」
事態や状況が掴めないがそう答えておく。
まだ眠い上に身体も重い…
「起きなくて良いですよ。もう面倒事は片付きましたので。」
「いえ、でも、まだ護衛は…」
「その状態じゃ逆に護衛される側になります。」
「えっ!?いたた…」
身体を捩るだけでもあちこち骨や筋肉が痛む。
ヒドラに放り投げられ、受け身もまともに取れなかったのに、よく最後に踏ん張れたと我ながら感心する。
「出発前に薬を飲みましたよね。」
「はい。24時間効くヤツですね。」
「魔力を消費し、ダメージを肩代わりするものだそうですよ。」
「えぇ…それならそうと…」
動くたびに入っていたダメージを肩代わりしていた影響か、MPが減り続けてはいた。これが、肩代わりではなく、回復だったら無茶は出来なかったと思う。
いや、それでも無茶するしかなかった気はするが……
「ぁいたっ!?」
不意に指で額を弾かれ、いい音が頭に響いた。
「怪我人が無理して動くからですよ。箱の件は後日、私や旦那様を伴っても良かったのに。」
「あっ…あぁ…」
一気にまとめて片付けようと思ったのは否めない。
手元にあることは報告し、中身を知った上で戦闘ができるメンバーを増やして対処すればよかったのだ…
「あなたは本当に仕事に抜けが出ますね。でも、懸命に対処しようとしてだと思いますが。」
「すみません…」
「情けない声ばかり出さない。まあ、今回は慣れない仕事だったので及第点とします。」
「は、はい。」
返事をすると頭を撫でられる。
思わず身構えてしまったが、違うと分かってむしろ申し訳なくなった。
「もう大人なのでしょう?しっかり物事を見極められるようになりなさい。」
「はい…」
されるがままに頭を撫でられていると、今度はドアを静かに開けて旦那様が現れた。いたのは魔力で分かっていたが、強大さのわりにこういう気遣いをされる方だ。
「おっ。起きてたか。」
「はい。今さっき。」
私の頭を撫でながらカトリーナさんがやって来た旦那様に答える。そろそろやめてもらわないと頭がペシャンコになりそうだ。
「男爵も活躍を褒めていた。大々的に褒賞を与えたいと言っていたが」
「だめだめだめ!だめですからね!?」
褒められるのは嬉しいが、それは困る!
私は奴隷上がりのメイドというポジションに留まっていたい!大陸全土に厳つい二つ名を轟かせたい訳ではないのだ!
「そう言うと思って断っておいた。その代わり」
「なんです…?」
「お前が好きに描いた絵を1枚飾ってもらう事になった。」
「まあ、それでしたら…」
クレアさんとそんな話をした気がするし、悪い条件ではない。
それに、この数日でこの窓から薄っすら見える風景にも、なんだか愛着も湧いてしまった。
「工事の方はどうです?」
「距離が長いからな。あと3日は掛かるそうだ。」
「十分速いですよ…」
「アクア、あなたは既に3日寝ていたのですよ。」
「えっ!?」
いやいやいや。3日経ってるのにこの痛みは信じられない。
いつもなら1日寝れば治っているのだが…
「リザを掛けてないのもあるが、薬の代償だ。ここからようやくスキルが機能する。」
「そ、そうですか…」
「戦いのおおよその流れは聞いた。まあ、下が柔らかい土とはいえ、建物の5階くらいの高さから落ちたわけだからな。」
「ヒィィ…」
サラッと説明されるが、なんだか急にあちこちがむずむずズキズキしてきた。
我ながら生きているのが不思議である…
「ゆっくり休め。それが許されるだけの活躍をしたんだ。」
「文句を言う輩がいたら、私が腕をねじ切ってやりましょう。」
「やめてくださいね!?」
私の反応にお二人が笑う。
冗談なのだろうが冗談に聞こえないし見えない!
私の上司のユーモアは怖すぎるのだ!
でも、このお二人が並んで笑っているのはすごく良い。なんだかんだ問題は起きるけど、それでも今がとっても穏やかな時期なのだと分かる。
親戚の叔父や叔母みたいなお二人には、このまま穏やかに過ごしてもらいたいものだ…
「さて、騒動も落ち着いたから一足先にルエーリヴへ戻る。依頼が溜まってそうだからな。」
「そう、ですか…」
「私はもう少しこちらに居ます。アリスとジュリア、ココアに伝えてください。」
「わかった。」
「アクア。」
「はい…」
「よく頑張ったな。」
旦那様に頭を撫でられ、そのまま眠ってしまう。
私の身体は思った以上に無理を重ねていたようだ。
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