召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

14話

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 切っ掛けは10年前、元同胞である国境でオレに負けた召喚者達を買ったのが原因だったそうだ。
 ユキの件が夫婦の間で尾を引いていた中、正式な死亡通知がエルディーから届く。
 ユキは一人っ子という訳ではないが、追放された当時はまだ幼いと言っても良い歳だったはず。それを家を守る為とはいえ、切り捨てるような対応しか出来なかったのは心を引き裂かれる思いだったそうだ。
 領主だが迷惑を掛けた相手より格が低く、家臣がおり、先祖伝来の土地があり、守っていかねばならないという事を考えればしかたない部分もあるのだが、ユキが受けた仕打ちを考えると肯定も出来ない…

 そんな夫婦の心の傷を埋めるかのようにやって来た元同胞たち。勤勉でよく働き、忠実だったそうだ。
 それがどうして今回の事態を招いたのか。
 オレたちと同胞であるという事で、非常に期待をされてしまった事が理由だ。当然ながら魔法の知識はなく、歳もバニラより下であること、特別な教育や技術もない者たちに、バニラのようにという期待は重すぎた。
 にも関わらず、エルディーと同水準になれるという誘惑に勝てない領主が多く、迂闊にもそれに乗ってしまったようである。エルディー北部で広まり欠けた模倣品の出所はここだったようだ。
 模倣品とは言え、無いよりは全然マシだったらしく、それが勢力拡大に繋がってしまったのも不幸な事である。

 政治体制の変化も元同胞の入れ知恵のようだ。
 厳しい土地にも関わらず、各地との連携が薄く、貯め込んだ食糧を腐らせる地域があることが悩みの種だったそうで、それを解消させるのが当初の目的だったらしい。
 その為に中央で一元管理し、各地の人口に合わせて分配を目論んだようだが、そもそも北部の流通を熟知する役人や商人がいない状況では、絵に描いた餅だとバニラがぼやいた。

 勢力拡大、政権奪取までは上手くいったが、そこまで。後は何をやっても上手くいかず、今日に至る。

 不満を溜めに溜めた民衆、領主の爆発は夜明けと共に起きた。




愚鈍ぐどんなる簒奪者さんだつしゃ愚昧ぐまいなる賊徒ぞくとよ!これより我ら北部解放軍が」
「開門!開門!」
「なんだと…」

 門が開くと、大口を開けた解放軍の指揮官と義母殿(名前を聞き忘れた)が対峙する。
 大軍を背に威圧する指揮官と、大きな袋を担いだエルフの騎士と他数人だけを伴う義母殿。
 その姿は昨日のまま、手も服も顔も血に染まったままだ。
 向こうも後方に兵は控えているが、遥か後方の為、攻撃されたら間に合わない。

「我々は無闇な殺生を望みません。退去された前総領閣下に政権を返上いたします。
 その証として…」

 横に居た騎士が、麻のような植物で編まれた袋を投げた。
 門前の緩やかな坂を転がり落ちる袋。近くの雑兵が中身を確認する。

「こっ、これはっ…!?」
「夫で御座います。最早、ここに愚鈍なる簒奪者はおりません。居るのは安寧を求めるか弱き民のみ。これ以上、余計な血を流すことなく元総領様に統治権の返上をいたします。」

 深々と義母殿が頭を下げる。
 この潔さをなぜもっと早く出せなかったのか。それが惜しい。
 袋に入れられた義父殿の亡骸はその場で晒されることもなく、奥へと移動させられた。

「ハッ!そんな都合の良い要求…な…ど…っ!?」

 ミニ串販売以来定着したヒガン一家の印が描かれた旗が翻る。
 白閃法剣モードの遥香と、アリスが義母殿の側に姿を表した。
 ちなみに旗はアクアとアリスが10分で用意した物。優秀な特技に頭が下がる。

「この戦、私たちヒガン一家が仲裁するわ!」

 アリスが魔法で大きくなった声で堂々と宣言する。
 一方的な宣言だが、この宣言を蹴る勇気は指揮官に無いようだ。
 兵も不満を溜めた民衆が大半で、専門的な訓練を受けた者は少ない。恐らく、強気に出たら負けると踏んでいるのだろう。
 良くも悪くも一家のヤバさが知れ渡った事を、今回はしっかり利用する。

「ぐっ…何を勝手なことを…だが…」
「では、解放軍側の仲裁役はワシが担おう!」

 夜通し走ってきたのだろう。薄汚れたフェルナンドさんが現れて宣言した。
 その横には、ライトクラフトを装備した威厳のある北方エルフと、ユキに似た雰囲気の男女が居た。

「勇士たちよ聞くが良い!
 我ら東方エルフは北方エルフを見捨てぬ!良き隣人、良き同胞、亜人連合の同志として、北方の発展に協力を惜しまぬ!」

 大きな歓声と、多くの安堵の声が上がる。

「ぐっ…これでは…!」

 指揮官が非常に気まずそうな表情になる。
 戦わずして終結ムードになっている状況は、極めて不本意なのだろう。
 名声を高める貴重な機会を逸する。それは望むところではないはずだ。
 今度はフェルナンドさんの横の北方エルフが前に出る。

「勇士らよ聞けぃ!
 結果として望まぬ形になったものの、互いに北部の発展を願ったのは紛れもない事実!
 だが、今、大いなる聖樹の元で東部総領殿が協力を誓ってくださった。発展の助力を約束してくださった。そして、簒奪者は既にない!
 ワシら解放軍の戦いはもう終わった!終わったのだ!」
「そ、総領様…」

 宣言に指揮官が戸惑い始める。
 威厳のある北方エルフは前の総領様だったか。
 この人を再び立てる為の反乱だ。それに終結を宣言されてはもう戦えまい。
 この先の戦いに大義はなく、テロ、暴徒となってしまったわけである。

 昨晩、バニラが念話でフェルナンドさんに伝えてからの急展開。方針を話し合ってから、互いのやり取りはほぼアドリブのようだが、流石は総領。オレたちだけでこの状況は無理だ…

「そんなの認められるか!」
「私の家族は餓えて死んだ!その無念を晴らさずに帰れない!」
「門の向こうの家畜を殺せ!殺せぇっ!」

 だが、その扇動に乗る気運は生まれない。
 もう終わってしまったのだ。勇士たちはもう兵ではない。農民に、商人に、職人に戻っていた。

「う、うわああああ!」

 一人が戦列から飛び出し、義母殿に向かう。だが、途中で勢いよく転ぶ。立ち上がって駆け出そうとするが、バランスを崩して転ぶ。再び、立ち上がったところで体ごと爆発した。
 自爆攻撃を自らに仕込んだのは、元同胞の内の一人である。ユキの影からの妨害に足を取られ、一人で醜態を晒しながら死んだ。哀れである。
 こんな形でも、命を懸ければ追随する者が現れる等とでも思ったのだろうか?

「ジジイがぁ!」

 更に二人、総領の二人に襲い掛かるが、

『ヌゥン!!』

 一人はフェルナンドさんに天高く投げ飛ばされ、もう一人も元総領に杖で投げ飛ばされた。あの高さと速さじゃ無事では済まないだろう…
 エルフの総領を甘く見すぎた報いだ。

 少なくとも3人、もしかすると更に多くの元同胞が居そうだが、反応が弱すぎてわからないな。

「全員兜を脱げぃ!これより我らは北方防衛軍と名を改め、聖都及び各地の防護を担う事とする!各隊は各方面へ帰還せよ!
 遠方の部隊は指示あるまで待機だ!」

 完全に主導権を失った指揮官が哀れである。
 オレも中華鍋のような兜を脱ぐと、ディモスだったからか近くの北方エルフが驚いた顔をした。だが、頑なに脱がないのが何人かいる。そして、それは明らかに狼狽していた。
 裏であれこれ好き勝手やってたようだからな。年貢はしっかり納めてもらうぞ。

「どうした?早く兜を脱げよ。もう戦う必要はないんだ。」

 素早く服に『ビーコン』を仕掛けておく。
 異常な魔力が発せられる、バニラが作った追跡用の信号だ。
 既に追討部隊は編成してあるそうで、こいつの命は風前の灯だ。

「こんなはずじゃ…こんなはずじゃなかったのに…!」

 そう言って、元同胞の女は走り去る。その先は地獄だぞ。
 脱走兵かつ脱走奴隷扱いとなるヒュマス系亜人。兜を被っていた連中の姿はもうなかった。

「ヒガン殿、これでよろしいか?」

 フェルナンドさんがやって来て、周囲の雑兵という名の農民衆が驚愕の表情になっていた。そりゃ、総領様が気軽に話し掛けてきたらビビるよな。

「良いかどうかは、北方の総領様に聞いてくださいよ。オレは何も出来ないんですから。」

 実際、何もしなかったからな。

「英雄殿、お初にお目に掛かる。ワシは元北方総領のパヴェル・サイドフ。」
「ヒガン一家のヒガンです。」

 手を差し出すが、首を傾げて困惑された。
 そうだった。こっちは握手の文化が無かったな。

「パヴェル殿、手を握り返せば良いのだよ。」

 フェルナンドさんに説明され、ようやく握手が成立する。立場はこちらが下だから助かる。

「これが貴殿らの挨拶か…」

 そう言って、自分の手を見ながら笑みを浮かべた。感触は悪くないようだ。

「こちらからも何か支援をすると思いますが、詳細はアリスから聞いてください。
 今のオレは、農民衆ですからね。」
「貴殿のような農民が居てたまるか。だが、感謝する。」

 深々と頭を下げるパヴェルさん。

「貴殿の事だ、何か理由があっての事だから詮索はせぬぞ。」
「ありがとうございます。ノエミたちにも会ってやって下さい。」
「言われるまでもないわ。ワハハ!」

 フェルナンドさんは豪快に笑い、オレの背をバンバン叩いた。
 痛くはないが、衝撃でビックリする。

「では、後の事を決めてくる。また会おう。」

 そう言って、二人は意気消沈した指揮官を伴って街に入って行った。

「オッサン、総領様たちによく堂々としてられんなぁ…」
「まったくだぁ。あっしはチビりそうだったぜ…」

 総領の二人が見えなくなると、近くの農民衆がオレを囲んで好き勝手に話し出す。
 
「東の総領様とはちょっと縁があってな。
 色々と取引させてもらった事がある。」

 実は娘を娶っている、などとは言えない。本当の事を言っても面倒になるだけだろう。

「はー、それであんなに親しくしてたわけかー」
「あっしも頑張って総領様の目に留まるものを作るぞ!」
「オイラも!」

 だが、すぐにそれはタメ息に変わった。

「だけど、うちん所は土地が弱くてロクに育たねぇんだ…」
「オイラんとこもだぁ…」

 それが全員の悩みの種のようだ。
 イグドラシルの加護がないとチラッと聞いた気がするし、それだけでもないようでもある。

「まあ、総領様を信じるしかない。オレたちも学び、変えていくことが求められるかもしれないがな。」
「学びかぁ…」
「そうだよなぁ。東のもんはそれで対処が上手くなったって聞いたかんなぁ。」
「東の土地は確かに良いが、それだけじゃあない。
 雨が続く時、気温が上がらない時、その逆の時にと多くの対処法を経験し、共有している。
 冬の落ち着いている期間は、勉強会をやっていたそうだぞ。」
『へぇー』

 農民衆が声を揃えて返事をした。

「うちはもう、どうにでもなれーってみんな寝ちまうなー」
「うちんとこは秘伝の薬を撒いて祈るんだ。まあ、効果は半々だな。」

 諦めとオカルトが混じっており、非常に危うい事が分かる。
 雪深いエルディーと比べても更に長い冬が、間違いなく発展を阻害しているな…

「北東方面の部隊は集合だ!遅れるな!」
「オイラんとこだ。」
「あっしらもだ。」
「じゃあ、ここでお別れだな。」

 ここから北東方面は農業地帯で、最前列に配置された農民衆はそこから来たようである。
 見ていると全員が全員という訳でもないようだが、純朴で気の良い北方エルフ達を見送ってから周囲を見渡すと、3割が既に移動を開始し、この場から撤収をしていた。
 義父一人の命で済んだ事に、安堵のタメ息が漏れる。
 強引に攻め入るようなら、指揮官の闇討ちを狙う為に紛れ込んでいたが、その必要もなく終わった。

 だが、街にいる連中にとっての戦いはこれからで、交渉を重ね、妥協点を探る戦いは既に始まっているのだろう。
 様々な思惑が動き続けてはいるが、町で多くの血が流れる大惨事だけは阻止できたのは確かだった。
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