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第3章 魔法使いの弟子
第41話 リーナの指示
しおりを挟む私が次の村に行くために馬車に乗ろうとしたときのことです。
女衒が彼の馬車と思われる幌馬車の中からなにやら麻袋をたくさん抱えて出てきました。
ええ、抱えきれないほどの麻袋を持って……。
少し興味を引かれて馬車に乗るのをやめて、女衒の様子を眺めていました。
すると女衒は麻袋を抱えて一見のみすぼらしい家に入っていきました。
しばらくして……。
「馬鹿野郎!騙した金を返したからって赦されると思っているのか!
何が、俺達田舎者が相場も知らん物知らずだから騙しただ!
馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
家の中から怒声が聞こえたかと思うと、女衒が転がり出てきました。
どうやら、叩き出されたようですね。
ここまで聞こえるほどの怒鳴り声でした。当然隣の家にも聞こえています。
「おう、でっけい声を上げてどうした?なんかあったんかい?」
怒声を耳にして出て来た村人が、女衒を叩き出した人物に尋ねました。
「こいつがさっき、金を持ってきたんだ、銀貨一万枚。
何かと思ったら、去年買い取ったうちの娘の本当の代金だって言うんだ。
俺達が物知らずだから騙しても分からんだろうと思ってくすねたんだと。
この野郎、しゃあしゃとぬかしやがった。」
「おい、そりゃ本当か、そりゃあ、てえへんだ。
そいつに娘を売った家はまだ三軒あるぞ、この村にゃ。
俺は三軒回って、声をかけてくるから、そいつが逃げないように見張ってろ。」
そう言って、隣家の男の人は何処かへ駆けて行きました。
しばらくして、先ほど何処かへ駆けて行った男が、数人の村人を伴って戻って来ました。
その頃には他の村人も何事かと思って集まっていました。
「あらあら、大変なことになりそうですね。」
私が馬車に乗らずに村の様子を眺めていると、リーナが馬車を降りてきてました。
「ええ、どうやら。この村にもあの女衒の被害者がいたようですね、四件も。」
私とリーナが会話をしていると、村人の中から怒声があがりました。
どうやら、被害者の中に血の気が多い人がいたようで、女衒に暴行を加え始めたみたいです。
「いけません。
女衒をなぶり殺しにしてしまったら、被害者へお金を届けられないではないですか。」
リーナは慌てて村人の集まるところへ駆け出しました。
当然、私もついて行きます。
**********
「みなさん、暴行をやめないさい。少し落ち着くのです。」
声を発したリーナに注目が集まります。
そこへ、女衒の胸ぐらを掴んだ男が言いました。
「だども、領主様…。
この野郎、俺達を田舎ものだと思って小馬鹿にして……。」
「悔しいのは解ります。
しかし、ここでその男をなぶり殺しにしたらどうなるか冷静に考えるのです。
生きていれば、騙し取ったお金を被害者に返還させることが出来ます。
殺してしまったら、それが出来ないのですよ。」
リーナの言葉を聞いて少しは落ち着いたのか、男は女衒から手を放しました。
「では、あなたに騙された人がここに三人いるようです。
三人に銀貨一万枚ずつ支払っていただきましょうか。」
リーナが女衒に指示すると女衒が顔を腫らして言いました。
「申し訳ございません。
娘一人当たり銀貨千枚でぜいぜい二十人も買い取れないと思い銀貨二万枚と路銀しか持ち合わせがないのです。
さっき一万枚お返ししたので、残り一万枚しかございません。」
「テレーゼ、この者の馬車の中を改めなさい、有り金を全てここへ持ってくるのです。」
女衒の言葉を聞きリーナがテレーゼさんに命じました。
テラーゼさんは他の二名の騎士と共に幌馬車の中を隅々まで探し、麻袋を村人の前に積み上げました。
「うーん、有り金全部で一万二千枚ですか。
では、三人で四千枚ずつ分けて、残り一万八千枚は至急自宅からとって来てもらいましょう。」
「そんな…、有り金全部返還に回したら、俺は飯も食えないです。」
「あなた、どこから来たのですか?」
「へえ、俺はズーリックから来ております。」
「そう、ズーリックならこの馬車でも三日もあれば着くでしょう。
人間三日くらい何も食べなくても死にませんよ。
お腹を空かせるのが嫌なのであれば、大急ぎに家まで帰ることですね。
そして、今まで騙し取った金を被害者へ届けに戻ってくるのです。」
リーナは有り金全部をおいていくことを渋る女衒に冷たく言い放ちました。
すると、今度は村人から不満の声が上がります。
「領主様、そいつは俺達のことを何年も騙していたんだ。
そいつが家に戻って残りの金を持ってくるなんて信じられねぇ。」
私の魔法による強制力が働いていますので、この女衒はなんとしてでも金を持ってくるのですけど…。
村人はそれを知らないのですから、女衒を信じられないのも仕方がないでしょう。
「わかりました。みなさんのいう事はもっともだと思います。
テレーゼ、私の護衛はあなただけで十分です。
他の騎士二名をこの女衒の監視につけてシューネフルトへ行かせなさい。
そこで、衛兵数名を監視役としてズーリックに同行させるのです。
そして、十分な銀貨を持って直ちにこの領地へ戻らせます。
迅速にしませんと冬が来てしまいます。
なんとしても、冬前に被害にあった方へ銀貨一万枚を届けるのです。」
リーナはテレーゼさんにそう命じました。
その後少し思案して、女衒の保有する銀貨が賠償金額に満たない場合に思い至ったようです。
追加で、女衒の全財産を換金するために財務に明るい官吏を一名付ける様に指示を出しました。
そして、村人に向かっていいました。
「今の私の指示を聞いていたと思いますが、この男が逃げないように私が責任持って監視を付けます。
また、この男の全財産を売り払ってでも、被害を受けた人達の許に銀貨を届けさせます。
どうか、私を信じてここは治めてもらえないでしょうか。」
リーナの指示を聞いていた村人は、女衒に対するリーナの対応に納得したようです。
「ご領主様にそこまでして頂けるなんて、思ってもなかったです。
ご領主様の取り計らいに感謝します。」
被害を受けた三人は銀貨四千枚が詰まった麻袋を抱えながらリーナに頭を下げていました。
どうやら、この場はこれでおさまったようです。
その後、女衒は騎士二人に伴われて力ない足取りでこの村を立ち去りました。
リーナのこの村での差配、それに加え、ここ数日の冬越しの準備に困っている家庭を回って下働きとして娘を雇用して歩いたことが領内で好意的に噂されることになります。
そして、領民思いで、慈悲深い領主という評判が定着していくことになるのです。
**********
お読みいただき有り難うございます。
今日も20時にもう1話投稿いたします。
引き続きお読み頂けたら幸いです。
*お願い
9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
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