最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

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第3章 魔法使いの弟子

第46話 彼女も空を飛びたいと言いました

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「ねえ、ロッテ、私の気のせいで無ければアリィシャちゃん、浮いてるわよね。」

 村々を回って少女達を保護してから一週間ほど経ってリーナが私の許を訪れました。
 そして、館の前の庭で私と一緒に魔法の練習をしているアリィシャちゃんを見て、開口一番に言った言葉がこれです。
 よほど驚いたのでしょう、挨拶も抜きでした。
 
「ええ、浮いているわね。浮くように私が教えたのだもの。
 でもダメよ、リーナ。あなたには教えないわよ。」

 目は口ほどに物を言う、リーナの目は私にも教えろと言っています。
 期待を込めた目で私を見るリーナに、私は先回りして釘をさしました。

「えぇ~、何で!アリィシャちゃんだけずるい!」

「ずるいも何も、光の魔法を教えたときにこれだけよって念押ししたじゃない。
 前にも言った通り、今でも裏では魔女狩りが行われているのよ。
 リーナもミシェル神父を見ていたでしょう、あんなイカレタ奴に目を付けらたら困るでしょう。」

「ううっ…、だって浮いているのよ。あれって空を飛ぶ前段階でしょう?
 アリィシャちゃん、あの練習を続けていれば飛べるようになるのでしょう。
 いいな~、空を飛べるなんて憧れちゃうな~。」

 やはり、誰しも大空に憧れるものなのですね。
 でも、ダメなものはダメです。
 魔女狩りのことはおいておいても、空を飛ぶ魔法は転落の危険を伴います。
 だから、アリィシャちゃんの様に常に目が届くところにいる人にしか教えられないのです。
 私が幼少の頃も、空を飛ぶ魔法を覚えるときは母が付っきりで指導をしてくれました。
 私の目の届かない所で練習をしてリーナが怪我でもしたら大変です。

 私がそのことを説明するとリーナは渋々納得してくれました。

「でも、空を飛びたいだけであれば、リーナが魔法を使う必要はないわ。
 今度、私がリーナを連れて飛んであげる。
 リーナも見ていたでしょう、私がアリィシャちゃんを連れて空を飛んだところを。
 あんな風に連れて行ってあげるから、それで我慢してね。」

「本当?うれしい!
 ロッテに空へ連れて行ってもらうの楽しみにしているね!」

 ションボリしているリーナを見ていると気の毒になってしまいました。私も甘いですね…。
 私の提案にリーナは機嫌を直してくれたようで子供のように目を輝かせました。


     **********


「ところで、リーナ。今日は何か用があったのではないの?
 別に遊びに来てくれたのでも、リーナなら歓迎するのだけど。」

 リーナが訪ねて来てすぐに魔法の話しになってしまったので、用件も聞いていないことを思い出しました。

「ごめんなさいね。つい、アリィシャちゃんの魔法に気を取られてしまったものだから。
 実はね、先日雇い入れた十人の教育のことでロッテにお願いがあるの。」

 雇い入れた十人は、それぞれ下働きを必要としているところに割り当てて、仕事の慣れさせている最中だと言います。
 全員が一通り仕事に慣れたら読み書き計算の教育を始める予定にしているそうです。

 それで、教師役はリーナが王宮でお世話になった家庭教師の方にお願いしたそうです。
 貴族の未亡人の方らしいのですが、広く平民に読み書きを教えたいというリーナの試みに関心を示してくれたそうです。
 冬前にはシューネフルトに来てもらうことになったそうです。

 それで、リーナからのお願いというのは……。

「文字の読み書きを覚えるのはやはり何度でも書いて覚えるのが一番だと思うの。
 それで、アリィシャちゃんに与えた黒い石版と滑石の棒、あれを譲ってもらえないかと思って。」

 アリィシャちゃんとカーラが文字の学習用に使っている石版と棒は商人から買える物ではありません。
 大地の精霊ノミーちゃんが術で作ってくれたものですから。

「ノミーちゃん、ちょっといいかしら。」

「はい、喜んで!」 

 私の傍らにポンと現われたノミーちゃんの明るい声が響きます。 

「この間作ってもらった石版と滑石の棒、あれを少したくさん作ってもらえるかな。
 そうね、予備を含めて二十人分くらい、お願いできる?」

「そのくらいは簡単だよ。いくらでも作ってあげる!」

 ノミーちゃんは快く引き受けてくれました。

「じゃあ、後でまた呼ぶからそこで作ってもらえるかな?」

 私は肩の上に腰掛けたノミーちゃんに焼き菓子を一つ渡してお願いしました。
 あれ、結構な重さがあります。二十人分もリーナに持ち帰ることは出来ないでしょう。
 私がリーナの館を訪ねてそこでノミーちゃんに作ってもらうつもりです。

「合点承知だよ!」

 お菓子を受け取りながら気風良く答えたノミーちゃんに、リーナはとても喜びました。

「ノミーちゃん、ありがとう。とても助かるわ、今度館に来たときはたっぷりもてなすわね。」

「わ~い。楽しみにしてるね!」

 ノミーちゃんの嬉しそうな返答に、リーナはだらしなく相好を崩していました。
 こうして、後日、私がリーナを訪ねてノミーちゃんにその場で石版を作ってもらうことになりました。


「ちょうど良かったわ。私からも一つお願いがあったの。
 実はカーラのことなのだけど。」

 私は、カーラの指導をヘレーナさんに頼みたい旨をリーナに話しました。
 私では侍女の仕事の指導が出来ないので、優秀な侍女であるヘレーナさんにお願いしたいと。

「もちろん、謝礼はするわ。
 出来れば冬の間、カーラを預かってもらってみっちり鍛えて欲しいの。  
 ですから、冬の間の食費やらなにやらも別途支払うことにしますわ。
 どうかしら?」

「ええ、そういう事ならもちろんお引き受けするわ。
 冬の間に一人前の侍女に育てるから任せてちょうだい。」

 リーナならそう言ってくれると思っていましたが、快い返事を聞けて安心しました。


     **********


「うわ~!高い!高い!
 ねえ、ねえ、あれ、あそこに見えるのが私の町、シューネフルトなの?」

 リーナがわたしの隣で子供のようにはしゃいでいます。
 今、私達は私の館の上空をかなり高い場所を飛んでいます。

 リーナとの話し合いが思ったより早く終わったものですから、早速リーナにせがまれて空を飛ぶことになったのです。
 私とリーナは先日旅に持って行った大きなトランクの上に横に並んで腰掛けています。
 アリィシャちゃんを乗せた時、二人で飛ぶのであればこの大きさがちょうど良いと思ったのです。

 雲ひとつない秋の空を、私の館を中心に大きく円を描くように飛びました。
 はるか彼方にはアルム山脈の四千ヤードを越える峰々が連なり、その麓には美しいシューネ湖が青い水を満々と湛えています。

 そして、シューネ湖の畔にあるそこそこ大きな町、シューネフルトの町並みがはっきりと見渡せます。
  
「凄いわ、世界って、空から見るとこんな風に見えるものなのね。
 私、シューネフルトの町って結構大きいと思っていたの。
 たしかに、ズーリックや王都に比べれば随分と小さいけど。
 でも、馬車で移動したり、歩いて移動したりすると凄く広く感じたの。
 それは、多分、今まで私が離宮の中しか知らなかったから。
 離宮から出て初めて、世の中の広さを知った気になっていたの。
 でも、こうして空から見るとシューネフルトなんてここから見える世界のほんの一部に過ぎない。
 世界ってなんて広いのかしら。
 ねえ、あの山脈の向こうにセルベチアがあるのよね。
 そして、その更に向こう、海を越えた先にあるのがアルビオン。
 行きましょう、ロッテ。
 アルビオンに、私、もっと広い世界を知りたいわ。」

 空を飛んでいたのはそんなに長い時間ではありませんでした。
 でも、リーナが世界の広さを認識するのには十分な時間だったようです。
 
 
      **********

 お読みいただき有り難うございます。

 *お願い
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