最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

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第3章 魔法使いの弟子

第47話 とっておきの魔法を披露します

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 リーナに石版を依頼されてから数日後、私はシューネフルトに向かってフヨフヨと空を飛んでいます。

「風さん、風さん、私の言葉を聞いて~!
 冷たい風さん少し除けてくださいな、私の前を空けてちょうだいな♪」

 私の肩の上で、鼻歌交じりに風の精霊のブリーゼちゃんが風を操ります。
 もうすぐ十月、上空を吹く風は身を切るように冷たいのです。

 今日はブリーゼちゃんに防風してもらっているのです。
 ブリーゼちゃんのおかげで、私は見えない膜に包まれたように全く風の抵抗を感じずに飛ぶことが出来ます。
 でも、寒いことは寒いですね、厚着をしてきて良かったです。

 例によってシューネフルトの手前、小麦畑の辺りで地上に降りて一マイルほどを歩きます。
 小麦畑は種蒔きを終えて発芽を待つ状況、朝のこの時間帯に人目はなく安心して着地できます。

 ブリーゼちゃんにはそのまま風除けを続けてもらいます。この時期、地上を吹く風も冷たいのです。

 屋根付の橋を渡って町の入り口に立つ衛兵のお爺ちゃんに挨拶をしたら、そこはもうシューネフルトの町。 
 目指すリーナの館は、男爵領には不釣り合いな荘厳な石造りの建物です。

 リーナはいつも通り、私室で私を迎えてくれました。

「ごきげんよう、リーナ。
 今日は先日の依頼の石版を渡そうと思ってお邪魔したわ。」

「おはよう、ロッテ。わざわざ来てもらって申し訳ないわね。」

「良いのよ、それだけで来た訳ではないから。」

「あら、何か他にあったかしら?」

「ふふ~ん、それはあとのお楽しみ。」

 私達は、最初に石版の件を済ましてしまうことにします。

「ノミーちゃん、お願いできる。」

「はい、喜んで!」

 私の傍らにポンと現われた大地の精霊ノミーちゃんの明るい声が響きます。   

「この間お願いした、黒い石版と滑石の棒ここに出してもらえるかな。
 二十セットお願い、滑石の棒の大きさはカーラの時と一緒でいいわ。」

「承り!
 黒い石を削りましょう~、平らな、平ら~な、板状に~♪
 白い石を削りましょう~、持ちやすいような~、棒状に~♪」

 ノミーちゃんが先日と同じ気の抜けた鼻歌交じりに術を振るいます。
 すると、部屋の片隅、指定した場所に石版が次々と重ねられていきます。
 石版が終ると続いて滑石の棒が大量に転がり出てきました。 
 
「ノミーちゃん、ありがとう。助かったわ。」

「このくらいは簡単、簡単。気にしないで良いよ。」

 私が焼き菓子を渡しながらお礼を言うとノミーちゃんは気安く言葉を返してくれます。

「ノミーちゃん、有り難う。約束通りたくさんご馳走するわ。
 こっちに来て。」

「わ~い、リーナ大好き!」

 リーナの誘いを受けてノミーちゃんは嬉しそう。さっそくリーナの肩に飛び乗ってしまいました。
 完全に餌付けされていますね…、余りの仲の良さに嫉妬してしまいそうです。


    **********


 ティールームのテーブルの上、山盛りのお菓子に囲まれて嬉しそうに頬張るノミーちゃん。
 ノミーちゃんと一緒に、リーナの契約精霊のシアンちゃんも仲良くお菓子を頬張っています。
 二人の精霊の微笑ましい姿を見てリーナが顔を綻ばせます。

 ノミーちゃん達が愛らしいのはわかりますが、こちらの用事がまだ済んでいないのです。

「リーナ、だらしなく顔を緩めていないで、私の話を聞いてもらえるかしら?」

「ごめんなさい。二人が余りも可愛いものだから、つい夢中になってしまったわ。
 それで、なにかしら?」

 リーナは私が別の用事もあると言ったのをすっかり忘れてしまったようです。
 いけませんね、むしろこっちの用件の方が大事ですのに。

「今日は面白いものを持ってきたのよ。
 これをどこかリーナ以外の目に付かない場所に置かせて欲しいの。」

 私は手に持った一ヤード四方ほどの厚手の布地を広げて見せました。
 羊毛で織られたそれは緻密な柄が描かれており、一目で高価な物だとわかります。

「あら、きれいな敷物ね。
 とっても緻密な柄織り、まるで花が本物のようだわ。
 それ、高価な物よね。私の部屋において良いの?」

「あっ、これ、敷物に偽装しているけど、魔法の発動媒体なの。
 これこそ、私の家に伝わる最も高度な魔法の一つよ。」

 魔法と聞いてリーナの目が輝きました。興味津々のようです。

「えっ、なに、なに。魔法ってどんなもの?」

「これはね、こうやって私の魔力を通すと魔法の紋様が浮かび出すの。
 この紋様の、この部分にリーナの指を当てて魔力を込めてもらえる。」

 私は浮かび上がった紋様の一ヶ所を指差し、リーナに魔力を込めるように指示しました。

「えっと、ここに私の魔力を通せば良いの?」

 そう良いながら、リーナが魔力を込めると紋様が青白く光りました。
 どうやら、上手く魔力を流せたようです。

「これはね、転移魔法の紋様なの。
 二つ一組になっていて、紋様と紋様の間を相互に行き来できるようになっているの。
 普段は買い物などのためにモノだけを一方通行で送れる簡易なモノを持ち歩いているわ。
 だけど、これは特別製、なんと人も転移させることが出来るのよ。」

 この魔法の紋様は非常に緻密で作るのに三日もかかってしまいました。
 もちろん、生き物を送っても大丈夫なのは実験済みですし、館で私自ら転移して安全性を確認しています。
 さすがにこれは人に盗まれて悪用されると非常に拙いので、幾重にも盗用防止の工夫がなされています。

 最初の一つが使用者の認識です。
 今、リーナにしてもらったのが使用者の登録で、あらかじめ紋様の中に魔力を登録した者しか使うことができません。
 二つ目、使用者を登録するための紋様は、作成者である私にしか浮かび上がらせることが出来ないのです。
 更に、転移魔法を発動させるためには、登録した使用者が指定の場所に魔力を流す必要があるのです。 

「もう一枚は、私の寝室に置いて来たわ。
 これを使えば、私の館とリーナの館を相互に一瞬で行き来できるの。」

「なに、それ、すごい!
 ねえ、ねえ、一回使って見せて。」

 私はリーナにせがまれて、一度実際に体験させてみることになりました。
 リーナは、館の使用人が勝手に入らない部屋ということで、リーナの書斎に敷物を敷きました。

「じゃあ、狭いけど、私と一緒にこの敷物の上に立ってちょうだい。
 それで、あなたの足から敷物全体に魔力を行き渡らせるように魔力を流して。」

 この敷物、使用者に魔力が伝わっていることが確認できるように、ちゃんと魔力が通ると仄かに光るようにしてあります。
 リーナは中々優秀で、初回にもかかわらずすぐに敷物に魔力を込めることが出来ました。
 敷物全体に魔力が満ちて、紋様がはっきり浮かび上がります。

「リーナ、魔法が発動するわよ!」

 私が声を発してまもなく目の前の光景が切り替わりました。

「えっ、ここがロッテの寝室?」

 目の前に私のお気に入りの天蓋付の大きなベッドが置いてあります。
 まごうことない私の寝室です。

「ええ、そうよ。凄いでしょう」

 極上の笑顔を見せたリーナが飛びついてきました。
 余りの勢いに、私はリーナを抱きとめきれずにそのまま二人でベッドに倒れこみます。

「ロッテ、あなたって最高!本当に凄いわ!
 魔法ってこんなことも出来るのね。
 それで、私の部屋に一つ置いたと言うことは、あれを使って遊びに来ても良いと言う事なの?」

「もちろん、そのつもりで持って行ったのよ。
 この家にリーナを拒む扉はないわ、いつでも遊びに来て。」

 もうすぐ厳しい冬が訪れます。
 アルム山脈の麓に位置するこの辺りは、毎年最低でも十フィートの積雪があります。
 冬の初めころはまだ自分の住む集落と周辺の集落の行き来が出来ますが、年越しの頃にはどこの集落も孤立してしまうのがこの辺りでは当たり前のことなのです。

 今までは、冬の間は母と二人で過ごしていました。
 でも、今度の冬は母はもういません。
 アリィシャちゃんが一緒にいますけど、流石に子供と二人で雪に閉ざされるのは心細いです。
 それで、リーナの館に転移魔法の発動体を置かせてもらうことにしたのです。

 通常であれば冬の間、三ヶ月から四ヵ月は近隣の町や村に住む人との交流が出来なくなります。
 せっかくリーナと仲良くなれたのに、三ヶ月以上会えなくなるのは寂しいです。

 私がそのことを話すとリーナはベッドの上に寝転んだままで言いました。

「ロッテ、有り難う!
 そう言ってもらえてとても嬉しいわ。
 私も冬の間、ロッテに会えないのは寂しいと思っていたの。
 館には話し相手もいないし、どうやって冬を過ごそうかと頭を悩ませていたところなの。
 冬の間、ロッテと行き来できるのなら、色々な事が出来るわね。
 以前、ロッテが言っていたアルビオン語を教えてもらおうかしら。」

 そう言ったリーナの表情はとても輝いていました。


    **********

 お読みいただき有り難うございます。
 今日も20時にもう1話投稿いたします。
 引き続きお読み頂けたら幸いです。

 *お願い
 9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
 応援してくださる方がいらっしゃいましたら、本作品に投票して頂けるととても嬉しいです。
 ぶしつけにこのようなお願いをして恐縮ですが、よろしくお願いします。
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