最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは

第499話 また、とんでもない奴らが出て来ました…

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 私は最初のアジトを潰したその足で、箒に跨り次のアジトに向かことにしました。
 次なるアジトは、悪臭漂う王都の東地区の中にありました。
 切り裂き魔が出ると噂されるこの地区は、非常に治安と衛生状況が悪いのです。
 なるべくなら近寄りたくはないのですが、今回は仕方ありません。
 メルクスさんの話では、ここにある倉庫の一つが協産党の一大拠点になっているとのことで。
 今日あたりは、大決起集会を控えて周辺各国から幹部連中が集まっているはずとのことでした。

 時は既に夜の帳が降り、倉庫街を歩く人の姿はありません。
 真っ暗な倉庫街の中で、明かりが灯る倉庫が一棟、不自然極まりないです。
 その倉庫の回りには、何人かの人が周囲を警戒するように徘徊しており怪しさ爆発ですね。

 私は箒に跨ったまま、赤レンガ倉庫の屋根に近い明かり採りの窓から中の様子を窺いました。
 夜だというのに、三十人近い男達がテーブルを囲んで活発に議論を交わしています。

 どうやら、自分が担当している国における労働者の組織率や巻き上げた資金の状況などを報告しあっているようでした。

「機関紙ってのは、本当にちょろい集金手段だよな。
 見出しに派手な煽り文句を入れて、後は適当な事を書いておけば。
 労働者連中、有り難がって高い金を出してくれるんだから。
 どうせロクに字なんて読めやしないのにバカじゃねえかと思うぜ。」

「それで良いアルネ。
 バカな奴、操り易くて良いアルヨ。
 適当な機関紙バンバン売るヨロシ。
 アタシたち、ガッポ、ガッポアルヨ。」

 などと、ロクでもない言葉が漏れ聞こえてきました。
 相変わらず、あくどく儲ける算段をしていますね。

 明かり採りの窓は小さくてとても侵入できそうもありません。
 私は高度を下げて、鉄格子の嵌った人が入れる大きさの窓から侵入することにしました。

「サラちゃん、この窓吹き飛ばしちゃってくれる。
 シャインちゃん、サラちゃんの爆風で中のランプが消えちゃうかもしれないから。
 シャインちゃんの力で、倉庫の中を明るく照らしてもらえるかしら。」

「やっと、アタシの本領発揮ね。
 任せて、こんな鉄格子、壁ごと消し飛ばしてやるわ。」

 私の依頼に応えて、火の精霊サラちゃんがやる気満々の声を上げます。

「はい、サラさんが窓を破壊すると同時に、倉庫の天井付近に光の玉を作ります。」

 光の精霊シャインちゃんが控えめな声で、私のお願いに答えてくれます。

「それじゃ、いっくよー!」

 サラちゃんの掛け声と共に『ダーン!』という大音響を上げ吹き飛ぶ鉄格子の窓。
 窓を壊したというより、壁を粉砕したと言った方が正確なようです。

    **********

「なんだ、なんだ、敵対セクトの襲撃か!」

「いや、今この王都に敵対勢力はいないはず。
 この国にいる反動主義者どもは、全て粛清したはずだからな。」

 なんか、またロクでもない言葉が聞こえました。

 メルクスさんの言葉によると、この『協産党』と名乗るならず者の集団。
 同志と呼ぶ仲間たちの間で、意見の対立があると相互に相手のことを。
 『反動主義者』とか、『日和見主義者』とか、『転向者』と呼び罵りあうとのことで。
 最後は必ず、暴力で決着を付けることになるそうです。

 それだけ聞くと、うちの工房にいる村の悪ガキ共みたいですが。
 うちの悪ガキ共はこぶしで殴り合うだけなのでまだ許せます。

 こいつらときたら、一時は同志と呼んだ仲間内で、銃や刃物を持ち出して本当に殺し合うそうです。
 こいつら、権力者や資本家に対する抵抗組織のはずなのに。
 権力者との闘争で命を落とした人より、『粛清』の名の下に『内ゲバ』で落命した方が多いと聞きました。
 人の命が掛かっている事なので笑えませんが、いったいどんな喜劇かと突っ込みたくなります。
 
「こんばんは。
 もう夜も更けてきましたし、そろそろお休みなったらいかがですか。」

 そんな声を掛けながら、奴らの前に降り立つと。

「きさま、何者アル?
 空から降ってくる、怪しい奴アルネ。」

 怪しい口調で、肥満体形の男が私に誰何してきました。
 あなたみたいな怪しい人に、怪しい奴扱いされたくないです。
 この男、黒髪に、濃茶の瞳と、私とそっくりの髪や瞳で、こんな時でなければ親しみを感じるのでしょうが…。
 ですが、この男、今回、私が単独でこんなことをしている理由の一つがこいつの捕縛にあります。

 実は、今回、こいつらを一網打尽にすることは、ミリアム首相に相談してあります。
 当たり前ですよ、他国で勝手に騒動を起こすことは出来ませんから。
 ですが、この倉庫の回りに警戒役の男達が徘徊していたことでも分かるように。
 こいつら異常に警戒が厳しいのです。
 大勢の官憲を動員しようものなら、即座に嗅ぎ付けて蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまいます。
 しかも、こいつら、仲間に対しても疑心暗鬼なので、アジトを相互に監視しているのです。
 ですから、他のアジトに官憲の摘発が入ろうものなら、即座に伝わってしまいます。
 先程のアジトを官憲が摘発に入ったら、こちらのアジトの者を逃がすハメになりかねなかったのです。

 ですから、ミリアム首相、というよりアルビオン政府から、私が摘発を請け負ったのです。
 私なら、奴らに気取られずに侵入できますから。
 報酬は、こいつらの持っている活動資金、判明したものは全て私が持ち去って良いと言う約束になっています。
 政府としても、扱いに困るお金だそうですから。
 何と言っても、周辺各国から違法に集められた資金ですので、帰属を言い出したら収拾がつかないようです。
 こっそり、私に持ち出してしまえと言うのです。

 で、その際に絶対に逃がさないで欲しいと言われたのが三人。
 そのうちの一人が目の前の怪しい言葉を話す肥満の中年です。
 名を『モー・タクサン』と言い、アルビオン王国の植民地の住民だそうです。
 反アルビオン運動の煽動者のようですが、人民を煽ってアルビオン王国の施設に破壊活動を仕掛けるそうです。
 煽動された人民が捕縛されても、煽った当人は、あっさりと人民を見捨てて、いの一番に逃げのびるそうです。
 他にも、要人の暗殺とか、やりたい放題で、主犯はこいつだと分かっているそうです。
 にもかかわらず、逃げ足が速くて捕まえられないと言います。
 ミリアム首相と同席していた内務卿が、「こいつに振り回されるのは、『もう・たくさん』だ」と笑えないシャレを言ってました。

「私はシャルロッテ・フォン・アルムハイム。
 アルムの魔女でございます。
 どうせ、もう会うことはございませんし、よろしくしなくとも結構ですよ。」

 こんな、無法者共には二度と関わりあいになりたくありません。
 すると、モーの後ろから。

「何かと思えば、まだ小娘じゃねえか。
 おっ、俺達と同じ黒髪に、黒目か、こりゃ良いわ。
 金髪娘も良いとは思ってたが、二十年も西洋にいると故郷の女が懐くしくてな。
 ちょうど良い、こいつ俺達の奴隷にして回しちまおうぜ。」

 四十過ぎの痩せた小男が、そんなおぞましいことを言いました。
 やはり私と同じ黒髪なのですが、その髪はもう薄く、テカテカと脂ぎっている広い額がやに目立ちます。
 また、似合わないちょびヒゲがいやに嫌悪感を誘います。

 そして、

「兄貴、それは良い考えだ。
 俺も、金髪の娘を拉致って来てオモチャにするのは飽きてきたところだぜ。
 そろそろ、黒髪の女を頂きてえと思ってたところだ。
 こう言うのを『飛んで火にいる夏の虫』って言うんだろうな。」

 がっしりとした熊のような体格の四十過ぎの男が同調します。
 短く切った黒髪をオールバックにし、太い眉と鼻下に蓄えたヒゲが印象的な、粗野な雰囲気の大男です。

 この二人も、内務卿から絶対に捕まえて欲しいと頼まれたテロリストです。
 大陸で暴れ回った後、ここ数年、アルビオン王国に渡って来て無差別テロを繰り返している困ったちゃんだそうです。

 小男の方が『裏染流ウラシミル 黎仁レイニン』、大男の方が『廃林スタリン村の吉夫ヨシフ』と言うそうです。
 この二人は、なんとメルクスさんの弟子になった俊平太青年が良く知っていました。

 私が、メルクスさんから、アジトや幹部について聞き出していると。
 メルクスさんの隣に座っていた俊平太青年が言ったのです。

「な、なんと、『裏染流 黎仁』と『廃林村の吉夫』で御座いますか。
 あのお尋ね者、捕まらないと思っていたら、こんなところまで参っておりましたか。」

「あら、俊平太さん、お知り合いですか。」

「拙者が、あんな無法者と知り合いのはずが無いで御座いましょう。
 その二人は、『打ち壊し騒動』の首謀者として公儀からお尋ね者となっているでござる。
 出島奉行所にも人相書きが張ってあったのでよく存じております。」

 何でも、俊平太さんの故国瑞穂の国では二十年ほど前に大飢饉があったそうです。
 コメと言う名の穀物が大凶作で多くの餓死者を出したと言います。
 当然、コメの価格が上がって、民衆の生活が苦しくなるのですが。
 この二人が生活に困窮する町民を煽って、幾つもの大店を襲撃するという事件を起こしたそうです。

 何でも、『コメの価格が上がっているのは大店の連中が結託してコメの売り惜しみをしてるからだ』と声高に叫んで民衆を煽ったそうです。
 その頃から、この二人は結託していたようです。
 黎仁が言葉で民衆を煽動し、吉夫が先頭に立って手にした大槌で店の戸を打ち壊して民衆を鼓舞して見せたそうです。

 因みに瑞穂の国では平民にファミリーネームは無いそうで、草履職人の息子の吉夫にはファミリーネームがありません。
 指名手配がされるときには、人物を特定するため人相書きに出身地が記されるそうです。
 『廃林村』というのがそうですね、それで一般には『廃林村の吉夫』と呼ばれているそうです。

 黎仁の方は武士と呼ばれる支配階級の息子だそうですが、若い頃から『公儀転覆運動』に傾倒しお尋ね者になっていたそうです。
 その時の飢饉に際しては、『打ち壊し騒動』の前にも農村を訪れ、凶作に手を差し伸べない公儀が悪いと煽動したそうです。
 自らを『勤農の志士』と名乗り、農民の味方を自称して農民を煽動して一揆を起させたそうです。
 その時に黎仁と吉夫は出会い、一緒に民衆の煽動活動をするようになったのはないかと俊平太さんは言ってました。

 その時の煽り文句が、

「農民よ、鎌をとれ、鍬をとれ、俺は槌をとって戦うぞ!
 刀が無くとも、農民が力を併せ、一致団結すれば、公儀なんて何するものぞ!」

 だそうで、例によって吉夫が大槌を振るって代官所の襲撃などを行ったそうです。
 その時掲げた旗印が、真っ赤に染めた布地に鎌と槌を交差させて描いたものだそうで。
 今でも、この二人はその旗をトレードマークとして使っているそうです。

「で、そいつらなんですが…。
 農民や町民を煽るだけ煽っておいて、旗色が悪くなるとドロンなのです。
 公儀が送った鎮圧隊の相手を、農民や町民にさせておいてあ奴らはいつの間にか消えているんです。
 二十年もの間逃げおおせていると思いきや、まさか、西洋まで来て悪さを働いているとは…。」

 俊平太さんの国では、一揆に加担した者は全員死罪だとのことです。
 気の毒に、飢饉で食べるに事欠いた人達は藁にもすがる思いだったでしょうに。
 『裏染流 黎仁』と『廃林村の吉夫』と言う悪党に上手く乗せられて、その命を散らせてしまったそうです。

 俊平太さんの言葉を聞いてメルクスさんが言っていました。

「革命の指導者は、自分さえ生き延びれば、革命の火は消えないと口癖のように言うのだ。
 そのために流した人民の血は、革命のための尊い犠牲だとな。
 儂も冷静になって思い起こすと、尊い犠牲にされる方は堪ったもんではないな。
 やはり、主導者こそ、失敗したら責任をとって首を差し出さねばならないのであろうな。」

 帝都大学の教授のポストを得て、やっと真人間になったメルクスさんが過去を振り返って言いました。
 そう言って、素直に反省できるのは良いことだと思います。

 ということで、『モー・タクサン』、『裏染流ウラシミル 黎仁レイニン』、『廃林スタリン村の吉夫ヨシフ』、この三人には過去の償いをしてもらいます。

  
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