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第二章 ゴミスキルとおいらの平穏な日常

第28話 真の『勇者』かも知れないよ…、フッ(ため息)

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 タロウを連れて早々にお風呂から退散したんだけど…。

「おい、マロン、おまえ、また俺の事を病気扱いしやがって。
 風呂にいた連中、みんな、おまえの言う事を信じちまったじゃねえか。
 特に、最初のババア、あのタイプは近所中に言い触らすぜ。
 どうすんだよ、俺は心を病んだ残念な男として知れ渡っちまうじゃないか。」

 見当違いの文句を付けてるタロウ、元はと言えばこいつが奇声を上げたせいじゃないか。
 おかげで、おいらもゆっくりお湯に浸かれなかったじゃない。
 文句を言いたいのはおいらの方だよ。

 だいたい、女の人をジロジロ見たらルール違反だってあれほど言ったのに。
 近くに来た美人に姉ちゃんに目が釘付けになってたよ。
 あげく、姉ちゃんの透けた裸に興奮して、奇声を上げるんだもの。
 おいらがかばってあげなきゃ、お風呂の立ち入りを禁止されてたよ。
 むしろ、おいらに感謝して欲しいくらいだ。

 でも、タロウの心配通り、次の日にはタロウのことがご近所中に知れ渡っていたの。
 心を病んだ可哀想な人として。

 タロウの故郷でも、ご近所にいたんだってあんな感じのおばさん。
 他人に知られたくない事情でも、その人に知られると翌日にはご近所中に広まっちゃうって。
 人間拡散器って呼ばれてたらしいよ。

 でも、それは悪い事じゃなかったみたい。
 ご近所に住む人は気の良い人ばかりだから、タロウのことを温かい目で見てくれているようなの。

 タロウが道を歩いてると、近所のお婆ちゃんに声を掛けられたんだって。

「あんた、心を患ってるんだって。
 若いのに大変だね。
 病なんかに負けずに、頑張って生きるんだよ。
 生きてりゃ、そのうち良いこともあるから。」

 そんな風に励ましてもらったみたい。

 見知らぬ人に声を掛けられてビックリしたって、タロウが言ってた。
 タロウは恥ずかしくて道を歩けないって言ってたけど。
 アブない人として、ご近所から爪弾きにされるよりはずっとましだと思うよ。
 多少のおかしな言動は、『病気なんだから仕方がないね』で見逃してもらえそうだしね。

 ただ、あれからお風呂に行っても、若い女の人は気味悪がって近寄らなくなったよ。
 タロウは「若い女と知り合う機会が確実に減った。」って嘆いてたけど。
 それ、自業自得だから。
 それが嫌なら、まずは変な言動を改めないと。

     ********

 それからは、あまりタロウに煩わされることも無くなったの。
 タロウが困っていると色々と近所の人が教えてくれるようになったから。

 心を病んだ可哀想な子供と言うことで、近所の人が労わってくれるの。
 人情溢れるこの町の人に感謝しなきゃね。 

 その日、おいらがシューティング・ビーンズを狩っていると。
 森の中から、スライムを詰めた布袋をしょったタロウが出て来たんだ。

 まだ、日はかなり高い時間で、仕事を終えるには早いんだけど。

「タロウ、今日はスライム捕りお終いなの?
 まだ昼過ぎだよ、もうひと稼ぎした方が良いじゃない。」

 おいらが尋ねるとタロウは。

「おう、マロンのおかげで、順調に金が貯まってるからな。
 この辺で、一つ、知識チートを披露しようかと思ってよ。
 今日は早めに切り上げて来たんだ。
 今日だって千匹近く捕まえたから十分だと思ってな。」

 『知識チート』が何だかは知らないけど。
 千匹も捕まえたなら十分な稼ぎだ、おいらが口を出すこともないね。

「あ、そう。余計なことを言ってゴメンね。」

「そうだ、マロン、鳥の卵が欲しいんだけど。
 この辺で、卵が捕れる鳥の棲み処をしってるか?」

 また、おかしなことを…。

「鳥の卵なら、市場の露天に幾らでも売ってるよ。
 取るのはけっこう大変だから買った方がお得だよ。」

「俺も市場は探したぜ。
 茹で卵とか、卵焼きとかは見つけたんだ。
 でもよ、生卵が何処を探してもねえんだよ。
 塩と酢と油はあったんで、後必要なのは生卵だけなんだ。」

「タロウ、生卵を食べるの?」

「そのまま、食う訳じゃないぞ。
 そりゃ、炊き立ての米の飯があれば、卵かけご飯をやるけどな。
 こっちで、米は見かけねえからな。 
 マヨネーズって言う、生卵から作るとっておきの調味料を作るんだ。
 うめぇんだぞ、マヨネーズ。
 俺も大好物だし、売りに出せばウケること間違いなしだ。
 マヨネーズで一儲けしようと思ってな。」

 おいらの問い掛けに、何時になく饒舌に答えるタロウ。
 どうやら、『マヨネーズ』とやらは、タロウの大好物らしい。

「ねえ、確認するけど。
 マヨネーズってのは、作る途中、さもなきゃ食べる時に火を通す?」

「うん?
 肉や魚のマヨネーズ焼きとか、マヨピザとか、トーストなんかも火を通すか。
 料理を作る時の調味料として使う時は火を通すけど。
 俺、料理男子じゃねえし、たいてい生野菜やパンにつけてそのまま食べるかな。」

 ここに『勇者』がいたよ…。
 それをやったら、肉屋のおっちゃん以上の笑い者になること間違いなしだよ。

「タロウが物知らずなのは知ってたけど。
 卵は生じゃ食べられないよ、…」

「ふ、ふ、ふ、マロン、物知らずなのどっちだ。
 おまえ、俺のことを物知らずだといつもバカにするけどな。
 どうせ、卵を生で食うと腹を壊すって言うんだろう。
 だから、未開の世界の知恵ってのはたかが知れてるんだ。
 いいか、よく聞け、生卵を食うと腹を壊すと言うのはな。
 卵の殻にサルモネラ菌という菌が繁殖しるからなんだ。
 そんなもの、『泡泡の実』を使って良く洗えば除菌できるぜ。
 良く洗ってから、使えば良いんだよ。」

 おいらの話を途中で遮って、タロウは自慢気に言ったんだ。
 なんか、凄く偉そうに言って、イヤな感じ…。

「いやだな、生卵を食べても、お腹なんか壊さないよ。
 生卵を食べると一時間くらいで指先が痙攣して…。
 その痙攣の範囲が指先から徐々に広がっていくんだよ。
 三日くらいで、心臓まで止まっちゃうの。
 『マヒ毒』って言うらしいよ、父ちゃんが言ってた。」

 生卵は絶対に食べちゃダメってのは、それこそ子供でも知ってることだよ。
 この『マヒ毒』は高熱に弱くて、じっくり火を通すと分解して旨味に変わるんだって。
 それには熱の通し加減が大事で、中途半端に熱を通しても毒は分解し切れないって。
 だから、素人料理は危ないってことで、生卵は市場で売ってないんだ。
 
「なに、それ、怖い。」

 おいらの話を聞いて顔を青くするタロウ。

「おいらには難しくて、父ちゃんの話が良く分かんなかったけど。
 なんでも、『しんかろん』ってのあって。
 その中で、環境に適応したものが生き残るって言われてるんだって。
 そんでもって、生き物が一番無防備なのが卵の時。
 当たり前だけど、卵って抵抗できないでしょう。
 だから、進化の流れの中で、捕食されないように毒を持つ卵が広まったらしいよ。」

 まあ、父ちゃんの受け売りだから、おいらの説明が正しいかは分からないけど。
 とにかく、鳥の卵に限らず、卵は毒持ちなのは物心つくとすぐに教えられる常識だ。
 うっかり口にすると命に関わるからね。

「ちくしょう、妙なところで合理的だなこの世界。
 こんなガキんちょから進化論なんて言葉が出るとは思わんかったぜ。
 それじゃあ、異世界チートの定番、マヨネーズが作れねえぞ。
 マヨネーズで一儲けして、ハーレムを作るという夢が…。」

 あれれ、さっきは鼻高々だってのに、急に萎んじゃったよ。
 タロウは『マヨネーズ』とやらを作るのを諦めたみたい。

 『勇者』の称号はお預けだね。
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