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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第285話 王族のお仕置きを始めるよ!

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 おいら達が様子を窺っていると、会議中にノックもせずに入室してきた王子のセーオン。
 小太りで、二重アゴ、加えて脂性の汗っかきと、その容貌がキモいのもさることながら。
 民のことを顧みない身勝手なセリフに、何とも言えない嫌悪感を搔き立てられたんだ。

 オランなんかセーオンのセリフを聞いてキレちゃって、説教をしてやるとか言い出しちゃった。
 アルトも聞くに耐えない発言の数々にウンザリしちゃって、おいらに害虫駆除をするように告げたんだ。

 おいらは勿論引き受けたよ、民に寄生するあんな害虫共を野放しにしておく訳にはいかないからね。
 
 アルトは、おいらが了解するとタイミングを見計らっておいらとオランを会議室に降ろしたんだ。
 音も立てずに『積載庫』から出された場所はというと…。

「グワッ!」

「悪く思わないで欲しいのじゃ。
 これも、ロクでなしの護衛など任された我が身の不幸だと思って諦めるのじゃ。」

 王太子セーヒの後ろで護衛に立つ二人の騎士の両足をへし折りながらそんな言葉をもらすオラン。
 そう、おいら達が現れたのは護衛の騎士の背後。
 先ずは武器を携えている騎士を不意打ちで無力化することにしたんだ。

 勿論、おいらも協力したよ、国王ヒーナルの後ろにいた騎士二人の足を砕いたよ。
 オランは、騎士を巻き添えにするのは気の毒だと思っているようだけど。
 この国の騎士だからね、どうせロクでもない人だと思うよ、良心の呵責を感じる必要無いくらいに。

 突如、背後で上がった悲鳴に振り向いたヒーナルとセーヒ。

「おい、ガキ、いったい何処から入りやがった!」

 おいら達と床に転がる四人の騎士を目にして、王太子セーヒが声を荒げたよ。

 一方のヒーナルはと言うと…。

「二人組の幼女!
 もしや、栗毛色の髪の娘、貴様、マロンか?」

 おいらとオランを凝視して、おいらの髪の色に目を止めたんだ。
 おいらの本当の母ちゃんキャロット姫は、栗毛の髪をした美人と評判だったらしいからね。

「うん、そうだよ。
 この十日くらい、おいらを捜してたんでしょう。
 さっきも草の根をかき分けてでも見つけろと命じていたもんね。
 ご要望に応えて、おいらの方から来てあげたよ。」

「よくもぬけぬけと…、小癪な事を言いやがって。
 だが、貴様がマロンだと言うのなら都合が良いぜ。
 飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな。
 貴様らを捕えて、色々と聞かせてもらおうじゃねえか。」

 そう言うと、ヒーナルはテーブルに置いてあったハンドベルを手に取り鳴らしたんだ。

 すると、壁に掛けてあったヒーナルの等身大の肖像画が床に落ちて、その後ろから騎士が飛び出してきたの。
 小太りで醜い肖像画なんて良く描かせたなとある意味感心してたけど、隠し部屋の出入口だったんだね。
 でも…。

「まったく忍者屋敷かよ。こんな手の込んだギミックを作りやがって。
 しかし、オメーら、馬鹿じゃないか。
 こんな狭い出入口じゃ、一人づずつしか出てこれねえじゃん。。
 幾ら大人数を揃えたって一列に並んで出て来るんじゃ一対一だぜ。」

 すかさずアルトは、隠し部屋の入り口を塞ぐような形で、タロウを『積載庫』から降ろしたの。
 タロウは、隠し部屋から飛び出そうとした瞬間の騎士を、鞘に納めたままの剣で殴り倒していたよ。
 隠してあった出入口は狭くて、飛び出してくるのは一人ずつだし、剣を振り被って出てくることも出来ないの。
 ただでさえまともな鍛錬をしているか疑問なこの国の騎士だもの、その状態じゃタロウの敵じゃなかったよ。

       **********

 国王ヒーナルの頼みの綱ともいえる騎士を一猛打時にされて、ヒーナルも、セーヒも呆然としてたの。
 そんな中でただ一人、肝が据わっているのか、単に考えなしなのかセーオンだけだけ平静を保ってたの。

 そして。

「けっ、ホント、ダサダサだな。
 爺、うちの騎士共、てんで役立たずじゃねえか。
 こいつら、一から鍛え直した方が良いんじゃねえか。
 こんなガキ相手に苦戦しやがってよ。」

 セーオンは剣を鞘から抜き放つと、一番近くにいたオランに斬り掛かったんだ。

「ふむ、確かに喧嘩っぱやくて、殺しを躊躇しないのじゃな。
 そなたこそ、矯正施設に行って根性を叩き直して来れば良いのじゃ。」

 オランはそんなセーオンに臆することなく懐に飛び込むと、きつい一撃を鳩尾に叩き込んだの。
 もんどりうって床に転がったセーオンは、鳩尾を抱えて苦しそうに悶えていたよ。

「おぬしには、少々言わねばならぬことがある故、手荒な事は控えておくのじゃ。
 しばらくはそうして苦しんでいれば良いのじゃ。」

 オランは説教をする気満々で、床に転がるセーオンに吐き捨てるように言ったの。
 温厚なオランも、こいつの傲慢なセリフには相当腹に据えかねるものがあったんだね。 

「何だ、何だ、いったい何処からネズミが入り込んだんだ。
 おい、親父、王宮を出入りする者のチェック体制はどうなってるんだ。
 担当の奴ら、少し弛んでるんじゃないか。
 粛清しちまうか、矯正施設送りにした方が良いんじゃねえか。」

 王太子セーヒは、おいら達が王宮の出入口から忍び込んだと思ってるみたいだ。
 そんなセーヒの苦言を無視するように、国王ヒーナルはおいらに向かい。 

「おい、マロンとやら、貴様、前の王族の生き残りなのか?
 ここへやって来たということは、親の仇でも討つつもりか。」

 おいらの素性とここへ来た目的を尋ねてきたんだ。
 意外と冷静だったよ。
 こいつも分別無さそうだから、可愛い孫を打ちのめされて逆上するかと思ってた。

「おいらの父ちゃんは当時の第三王子らしいから王族になるのかな。
 正直、王族として生きた記憶なんか無いから、王族かと言われてもピンとこないや。
 別に、記憶にも残っていない両親の仇討ちなんてする気はないよ。
 おいらがここにやって来たのは、オッチャンに御仕置するためだよ。
 おいらと義理の母ちゃん、それに妹が誘拐されそうなったから。」

「何だ、ガキが国王の俺をお仕置きするだと、ふざけたことを言いがって。
 第一、俺はお前を探し出して連れて来いと懸賞金を掛けたが。
 おまえの義理の母親や妹を誘拐しろなんて指示は出していねえぞ。」
  
 ヒーナルは義理の母ちゃんを普通の人間だと思ってるみたい。
 ヒーナルの起こした反乱で親を失ったおいらを育ててくれた人だと。
 まさか、耳長族だとは思いもつかないみたい。

「うん? 誘拐しに来たのはこいつらだよ。
 こいつら、おいらのことをお触れ書きの娘だとは気付いてなかったよ。
 おいらは、母ちゃんと妹の巻き添えになって誘拐されたんだ。」

 おいらがそう告げると、アルトが部屋の空いてる場所に十人の誘拐犯を出してくれたの。
 全員、おいらに手足を砕かれたままで、食事も最低限しか与えてないから憔悴しきってたよ。
 
「なんだ、この小汚い連中は。
 こんな浮浪者みたいな者、儂に見覚えは無いぞ。」

 かれこれ二ヶ月、アルトの『積載庫』、しかも『獣舎』に放り込んだままだったからね。
 その間、体を清拭すらしてないから小汚いし、すえた臭いもすると思うよ。

 その時。

「申し訳ございません、偉大なる将軍様。
 近衛騎士団、第九、第十合同小隊、耳長族の娘の捕縛に失敗しました。」

 衰弱し切った騎士の一人が、蚊の鳴くような声でヒーナルに謝罪をしたんだ。
 謝罪されたヒーナルはその男の顔を凝視してたけど、やがてハッとした表情を浮かべ…。

「お前、近衛第九小隊の小隊長か?
 四ヵ月前、耳長族の娘の捕縛を命じた?
 ということは…。
 貴様の義理の母親というのは、耳長族だったのか。」

 自分が耳長族の娘の捕縛を命じた騎士だと気付いたの。
 と同時に、そこからおいらの義理の母親がどんな存在かも思い至ったみたいだよ。

「そうだよ、パターツさんからおいらを託された父ちゃん。
 その父ちゃんが貰ったお嫁さんが耳長族なんだ。
 オッチャン、耳長族の捕縛を命じたんでしょう。
 うちの国の王様にも耳長族を差し出せと言ったみたいだし。
 シタニアール国にも何度も捕縛隊を送り込んでいるよね。
 中々、諦めないみたいだから、キツイお灸を据えておこうかとおもってね。
 また、おいらの母ちゃんや妹が誘拐されたら大変だもん。」

 だから、おいらはここへやって来た一番の目的を明かしたんだ。


  **********

 お詫び。
 前話でウエニアール国の王族の名前がごっちゃになっていました。
 お詫び申し上げます。なお、既に前話は訂正済みです。
 王族の血縁関係は次の通りです。

 ヒーナル・ド・キーン(国王、謀反を起こし王位を簒奪した。王位に就く前は国中の騎士団を束ねる大将軍)
 セーヒ・ド・キーン(王太子、ヒーナルの長男、凶暴な性格で人殺しを躊躇わない。大の女好き。)
 セーナン・ド・キーン(セーヒの隠し子、母親は美人女優、形式的には嫡子、ワンフェス系のフギュアオタク)
 セーオン・ド・キーン(セーヒの三男、残忍で自己中な性格、王位を狙い実兄を殺害、セーナン暗殺も企む)
 
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