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第3章 夏休み、帝国への旅
第47話 VS『黒の使徒』の教導団
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帝国の辺境の旅も間もなく瘴気の森に差し掛かるかというところまで来た小さな村で、村人が『黒の使途』を名乗る破落戸に食料を強請られている場面に出くわした。
ここは餓死者が出る寸前まで追い詰められていた集落で、帝都に行く途中で保存食を配給したんだよね。
当然のことながら、この村に食料の余裕などないし、今破落戸が奪おうとしているのはわたし達が置いていった保存食だ。
貴重な食べ物を村人から奪おうなんて許せないよね。
私が少し口を挟んだら、
「ふざけるな!
さっきから聞いていれば、帝国皇帝がお認めになった国教である『黒の使徒』の教導団の団長である俺を破落戸呼ばわりとは子供といえども許さんぞ。」
なんて言うし、どう許さないのだろうね?
**********
わたしが、『黒の使徒』の教導団の団長と名乗る破落戸と対峙していると、その部下らしき者が団長に耳打ちした。
「団長、今この村の奴がこの子供を聖女様って言ってましたぜ。
この間から、辺境で食い物を施して回ってるっていう噂の『白い聖女』ってこいつのことじゃないですか。
ほら、こいつ『色なし』ですし。」
なんと迷惑な噂! 『白い聖女』ってそんな恥ずかしい名前をつけないで欲しい。
「言われてみれば、こいつ『色なし』だな。
『白い聖女』なんていうから妙齢の女かと思っていたら、とんだ子供じゃないか。
俺達は、こんなガキに布教活動を邪魔されていたってか。
おい、ガキ!おまえがどんなイカサマを使ったか知らねえが、『色なし』が奇跡の力で人を癒しただの、農作物を育てただのっていう噂のせいで、『黒の使徒』に対する信仰心が薄れて寄進を渋る村が増えてるんだよ。」
はあ?信仰心が薄れているのがわたしのせい?
冗談でしょう、飢餓に苦しむ集落から食べ物を奪うような輩に、どうして信仰心を向けられるの?自業自得でしょ。
飢饉のときこそ、人々に恵みを施すことで信仰心を高めるチャンスなのに反対のことをしてどうするの。
今までは、国から信仰を押し付けられたから、渋々従っていただけでしょうに。
「そんな事ぐらいで揺らぐ信仰心なら、『黒の使徒』への信仰って大したことなかったんだよ。
それに、人々の信仰を集めたければ、あなた方が飢えにあえぐ辺境の人たちに施しをすればいいじゃない。
もしくは、畑作りを手伝ってあげたら、あなた達も魔法を使えるのでしょう?
それとも、ご自慢の黒い髪と黒い瞳は、飾りかしら?」
「このガキが、生意気を言いおって。
高貴な黒を纏う我々に下々の者へ施せだと何を寝ぼけたことを言っている。
下々の者は、黒を纏う人間の言うことに諾々と従っていれば良いのだ。
しかも、言うに事欠いて我々に百姓の真似事をしろとぬかすか。
神の御業である魔法を百姓の道具のように使うとは、神への冒涜であるぞ。」
うわ、このおじさん、八歳のザイヒト王子と同じこと言っているよ。
いい年して、八歳児と同じ思考をしているなんて恥ずかしくないのかな。
「じゃあ、おじさんは魔法をどんなことに使うの?」
「おまえのような上にたて突く奴を懲らしめるために使うに決まっているだろう。」
そう言って団長は、『火の玉』を右手に作り出した。
やることまで、八歳児と同じとは情けない。
(火のおチビちゃんあれの発動を止めて!)
「キャンセル!!」
わたしの体からマナが吸われる感触と共に、団長の手のひらに集まっていた炎が霧散した。
「馬鹿な!俺の魔法の発動を止めただと!!」
団長が狼狽している。
いや、たかが『火の玉』の発動にそんなに時間をかけていれば、いくらでも阻止できるでしょう。
「おお、聖女様!」、「アレこそ、神の御業だ!」、「信じられない団長の魔法が打ち消された。」
周囲の野次馬がざわついているな、だから神様は関係ないって。
「おじさん、ここで黙って村から出て行けば見逃してあげるけどどうします?」
「ふざけるな!誇り高き『黒の使徒』の教導団が、『色なし』などに負けておめおめと帰れるか。
おい、野郎ども、神の名の下にあの異端者のガキを粛清するぞ。」
やれやれ、聖職者が、仲間に『野郎ども』って呼びかけるなんて本当に破落戸と変わらないね。
十人ほどの教導団のメンバーが、わたしを取り囲む。
(先手必勝!光のおチビちゃん達、こいつらを完膚なきまで『浄化』しちゃって!)
その瞬間、わたしを中心に眩い光が周囲に広がる。
「うわ、眩しい!」、「目が!、目が!…」
いけない、やり過ぎたかな?
光が収まったとき、そこにはすっかり白っぽくなった『黒の使徒』のメンバーがいた。
「もう、おじさん達は『黒の使徒』には帰れないね。
これからどうするのかは知らないけど、今までの行いを反省して真面目に生きた方が良いよ。
そうしないと、これからはおじさんたちが虐められることになるからね。」
わたしが声をかけると、我に返った団長が言った。
「おまえは何を言ってる?」
「団長!団長の髪の毛が真っ白です。瞳の色もかろうじてわかる程度の碧です。」
「そう言うお前こそ、真っ白だぞ。」
「嘘だろう!魔法が使えないぞ!」
「何てことだ!」
『黒の使徒』の一団から、悲鳴にも近い声が漏れた。
「お前の仕業か?なんていう事をしてくれたんだ。
俺達を『色なし』に変えるなんて、俺達はこれからどうすればいいんだ。」
団長はわたしに文句があるようだけど、わたし警告したよね。
大人しく帰れば見逃してあげるって。
「おじさんたちが、非道なことばかりしているからそれこそ天罰が当たったんでしょう。
さっき言ったじゃない、これからは真面目に生きていきなさいって。
おじさんたちが、差別していた『色なし』たちの気持ちを、身をもって知ってくださいね。」
『黒の使徒』の一団は、みな座り込んでうな垂れてしまった。立ち上がる気力もないようだ。
さて、わたし達は、畑でも作ろうかな。
*お読みいただき有り難うございます。
土・日は朝8時と20時に各1話の計2話投稿します。
次話は明日の朝8時に投稿します。
よろしくお願いします。
ここは餓死者が出る寸前まで追い詰められていた集落で、帝都に行く途中で保存食を配給したんだよね。
当然のことながら、この村に食料の余裕などないし、今破落戸が奪おうとしているのはわたし達が置いていった保存食だ。
貴重な食べ物を村人から奪おうなんて許せないよね。
私が少し口を挟んだら、
「ふざけるな!
さっきから聞いていれば、帝国皇帝がお認めになった国教である『黒の使徒』の教導団の団長である俺を破落戸呼ばわりとは子供といえども許さんぞ。」
なんて言うし、どう許さないのだろうね?
**********
わたしが、『黒の使徒』の教導団の団長と名乗る破落戸と対峙していると、その部下らしき者が団長に耳打ちした。
「団長、今この村の奴がこの子供を聖女様って言ってましたぜ。
この間から、辺境で食い物を施して回ってるっていう噂の『白い聖女』ってこいつのことじゃないですか。
ほら、こいつ『色なし』ですし。」
なんと迷惑な噂! 『白い聖女』ってそんな恥ずかしい名前をつけないで欲しい。
「言われてみれば、こいつ『色なし』だな。
『白い聖女』なんていうから妙齢の女かと思っていたら、とんだ子供じゃないか。
俺達は、こんなガキに布教活動を邪魔されていたってか。
おい、ガキ!おまえがどんなイカサマを使ったか知らねえが、『色なし』が奇跡の力で人を癒しただの、農作物を育てただのっていう噂のせいで、『黒の使徒』に対する信仰心が薄れて寄進を渋る村が増えてるんだよ。」
はあ?信仰心が薄れているのがわたしのせい?
冗談でしょう、飢餓に苦しむ集落から食べ物を奪うような輩に、どうして信仰心を向けられるの?自業自得でしょ。
飢饉のときこそ、人々に恵みを施すことで信仰心を高めるチャンスなのに反対のことをしてどうするの。
今までは、国から信仰を押し付けられたから、渋々従っていただけでしょうに。
「そんな事ぐらいで揺らぐ信仰心なら、『黒の使徒』への信仰って大したことなかったんだよ。
それに、人々の信仰を集めたければ、あなた方が飢えにあえぐ辺境の人たちに施しをすればいいじゃない。
もしくは、畑作りを手伝ってあげたら、あなた達も魔法を使えるのでしょう?
それとも、ご自慢の黒い髪と黒い瞳は、飾りかしら?」
「このガキが、生意気を言いおって。
高貴な黒を纏う我々に下々の者へ施せだと何を寝ぼけたことを言っている。
下々の者は、黒を纏う人間の言うことに諾々と従っていれば良いのだ。
しかも、言うに事欠いて我々に百姓の真似事をしろとぬかすか。
神の御業である魔法を百姓の道具のように使うとは、神への冒涜であるぞ。」
うわ、このおじさん、八歳のザイヒト王子と同じこと言っているよ。
いい年して、八歳児と同じ思考をしているなんて恥ずかしくないのかな。
「じゃあ、おじさんは魔法をどんなことに使うの?」
「おまえのような上にたて突く奴を懲らしめるために使うに決まっているだろう。」
そう言って団長は、『火の玉』を右手に作り出した。
やることまで、八歳児と同じとは情けない。
(火のおチビちゃんあれの発動を止めて!)
「キャンセル!!」
わたしの体からマナが吸われる感触と共に、団長の手のひらに集まっていた炎が霧散した。
「馬鹿な!俺の魔法の発動を止めただと!!」
団長が狼狽している。
いや、たかが『火の玉』の発動にそんなに時間をかけていれば、いくらでも阻止できるでしょう。
「おお、聖女様!」、「アレこそ、神の御業だ!」、「信じられない団長の魔法が打ち消された。」
周囲の野次馬がざわついているな、だから神様は関係ないって。
「おじさん、ここで黙って村から出て行けば見逃してあげるけどどうします?」
「ふざけるな!誇り高き『黒の使徒』の教導団が、『色なし』などに負けておめおめと帰れるか。
おい、野郎ども、神の名の下にあの異端者のガキを粛清するぞ。」
やれやれ、聖職者が、仲間に『野郎ども』って呼びかけるなんて本当に破落戸と変わらないね。
十人ほどの教導団のメンバーが、わたしを取り囲む。
(先手必勝!光のおチビちゃん達、こいつらを完膚なきまで『浄化』しちゃって!)
その瞬間、わたしを中心に眩い光が周囲に広がる。
「うわ、眩しい!」、「目が!、目が!…」
いけない、やり過ぎたかな?
光が収まったとき、そこにはすっかり白っぽくなった『黒の使徒』のメンバーがいた。
「もう、おじさん達は『黒の使徒』には帰れないね。
これからどうするのかは知らないけど、今までの行いを反省して真面目に生きた方が良いよ。
そうしないと、これからはおじさんたちが虐められることになるからね。」
わたしが声をかけると、我に返った団長が言った。
「おまえは何を言ってる?」
「団長!団長の髪の毛が真っ白です。瞳の色もかろうじてわかる程度の碧です。」
「そう言うお前こそ、真っ白だぞ。」
「嘘だろう!魔法が使えないぞ!」
「何てことだ!」
『黒の使徒』の一団から、悲鳴にも近い声が漏れた。
「お前の仕業か?なんていう事をしてくれたんだ。
俺達を『色なし』に変えるなんて、俺達はこれからどうすればいいんだ。」
団長はわたしに文句があるようだけど、わたし警告したよね。
大人しく帰れば見逃してあげるって。
「おじさんたちが、非道なことばかりしているからそれこそ天罰が当たったんでしょう。
さっき言ったじゃない、これからは真面目に生きていきなさいって。
おじさんたちが、差別していた『色なし』たちの気持ちを、身をもって知ってくださいね。」
『黒の使徒』の一団は、みな座り込んでうな垂れてしまった。立ち上がる気力もないようだ。
さて、わたし達は、畑でも作ろうかな。
*お読みいただき有り難うございます。
土・日は朝8時と20時に各1話の計2話投稿します。
次話は明日の朝8時に投稿します。
よろしくお願いします。
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