精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
53 / 508
第3章 夏休み、帝国への旅

第52話 王女の夏休み

しおりを挟む
 学園に入って初めての夏休み、私は王宮で暇をもてあましていました。
 本当は、ターニャちゃん達に色々教えてもらおうと思っていたのですけど、ターニャちゃん達はアーデルハイト殿下の願いで帝国へ行ってしまいました。
 私も、王族なんて立場じゃなければ行ってみたかったのですけど、帝国。


 ターニャちゃんがいないから、精霊の術が上達しないかというとそんな事はありません。
 幸い私の傍にいてくれるルナさんに、精霊の術の使い方やコツを教えていただけるし、実際に練習を見てアドバイスもしていただけるので、術の練習は毎日欠かさず行っています。
 ルナさんの評価では、今なら結構大きな怪我も治せそうだし、雨ぐらい降らせそうだとのことです。
私も、結構上達したと実感しています。
 毎日の練習には、お母様も参加しておりルナさんが目を見張るくらい上達しています。
 ルナさんが言うには、お母様に協力してくれる精霊との相性が抜群に良いことに加え、少ないマナを効率的に使うことに長けているらしいです。


 私が、朝の練習を終えて自室で寛いでいると、お母様がやってきて唐突に言いました。

「フローラ、明日から遠方へ出かけます。今日中に用意しなさい。」

 寝耳に水でした。

「えっ、どこへ?」

 とっさのことに私の口からでた言葉はそれだけでした。


 お母様の話を聞くと、精霊神殿の前で行った治療活動は大変評判が良かったとのこと。
なので、私が夏休みの間に、王都以外でも王家と精霊神殿の評判を上げておこうと言うことらしいです。
 『黒の使途』を信仰する人が増えている西の地方へ、人々の治療を行う旅をするとお母様は言いました。
 どうやら、『黒の使途』に対する牽制が旅に目的の一つのようです。


 仮にも皇太子妃が王都を長い時間空けても大丈夫なのかと思いましたが、今まで公務の調整とかに時間を取っていたらしいです。
 結構前からお爺様やお父様と打ち合わせをしていたようで、今日やっと調整がついたのこと。
で、善は急げということで明日出発と、できれば私にも事前に教えて欲しかったのですが。


 王都から西へ向かう一番大きな街道沿いに活動するので、荷物は着替えぐらいで良いらしいです。
宿泊も食事も各町の領主館にお世話になるそうです。


     **********


 明け方七時、まだ眠い目をこすりながら、王都を出発します。
 え、朝七時でそんなに眠いのかですって。
王族が出かけるとなると仕度に時間が掛かるのです。
今日は五時に起こされてしまいました。


 今日は、街道沿いに二つ目の街で治療活動を行います。
ウンディーネ様から賜った新しい魔導車なら、二時間の距離です。
凄いですね、馬車なら二日かかる距離ですのに。
 その代わりと言っては何ですが、それだけの速度を出すためには街道が空いている時間に出ないといけないということで、早朝の出発となりました。


 今回の旅は、行きは街道沿いに王都から数えて偶数番目の町で治療活動をし、二十番目の町で折り返して、帰りは奇数番目の町で治療活動をする予定です。
 途中休日は二十番目の町で一日取るだけという強行軍になるようです。


 魔導車の中は空調が効いていて涼しい上に、殆ど揺れや騒音を感じないというのが救いです。
ソファーも柔らかくて、目的地まで優雅にお茶を飲んで寛げるなど夢のようです。
 これが馬車ですと、暑いし、揺れるし、お尻は痛くなるしで乗っているだけで疲れてしまい治療活動なんか絶対にできません。


 午前九時、今日の目的地に着くとまずは、この町の領主に挨拶です。
なんといっても、今日の宿と食事をお世話になるのですから、挨拶は大事です。

「ようこそいらっしゃいました。皇太子妃殿下、フローラ殿下、お立ち寄りいただき光栄の至りでございます。
 今回は、わが領民に治癒の施しを賜れるという慈悲に心から感謝申し上げます。」

 領主から歓迎の言葉をいただき、お母様が皇太子妃としての挨拶をします。
そして、一言付け足しました。


「民の治療のあと、もしご希望があれば、今日の宿泊のお礼に頭部の治療を施しますがいかがですか?」

 ああ、この領主、髪の毛に不自由してますね。

「王都で評判の髪の再生術ですか?
皇太子妃殿下のお慈悲を賜れるのならば是非お願いします。」

 あれ以来、お母様は王都の貴族の間で支持者を増やしています。
中高年の男性貴族にとって髪の悩みは深刻なようです。


     ***********


 領主の騎士団の人にも手伝ってもらい町の中央広場の一角に治療用の天幕を設置します。
天幕の準備が終わると、早お昼前です。

 お母様が、王族らしくない大きな声で街行く人たちに呼びかけます。

「精霊神殿の奉仕活動で治癒術を施します!
無償で行いますので、病気の方、怪我の方、お気軽にお立ち寄りください!」

 王都からついてきた近衛騎士は、神殿前の治療活動の時もお母様が呼びかけをしたので驚かなかったけど、領主の騎士の方々は吃驚していました。
 まあ、高貴な人は、大きな声を出さないとか民に直接声を掛けないとかが常識ですから。


 王都のときと同様に、最初は遠巻きにこちらを見るだけで誰も寄って来ません。
 最初はこんなモノなので、のんびり待ちましょうと構えていました。

 すると、子供同士で追いかけっこをしていたのか、広場で走り回っていた男の子の一人が勢いよく転びました。
 広場は石畳なので転ぶと痛いです、特に膝を打つと擦り剥いたりして酷く痛いです。
 案の定、男の子は膝を押さえて泣き出してしまいました。


 私が動き出すより早く、お母様が男の子に駆け寄りなにやら宥めていています。
そして、水を出して傷口を洗い流すと、癒しの術を用いて痕も残さず傷を治療しました。

 男の子は傷が治っていく様子に驚いていましたが、痛みが取れると

「おばさん、有り難う。もう痛くないよ。」

と言って立ち上がりました。そして、友達と一緒に走り去って行きました。


 以前、神殿前で行ったときと同じで、これが呼び水となって次々と患者さんが訪れるようになりました。

 今回は、怪我や病気の程度が軽い患者さんをお母様が担当し、程度の重い患者さんをルナさんの指導の下で私が担当しました。

 幸い、今回は瀕死の患者さんとか腕が取れかけた患者さんとかがいなかったので助かりました。

 患者さんが途切れたときには既に夕方になっていました。

 天幕の撤去は騎士さんたちに任せて、領主館に引き上げます。

 お母様は、領主さんの髪の毛の治療です。
王都でだいぶ経験を積んだので手馴れた様子で育毛を行っていました。
この町でもお母様は支持者を一人増やしたようです。


     **********


 二日目以降も、だいたい同じような感じで旅は進みました。

 どの町でも、病気や怪我をしても創世教の治癒術を受けるお金がない人が結構いるようで、私達の治療活動はきわめて盛況でした。

 そして、十日後、休みなく治療活動を行った私はへとへとに疲れていました。


「さあ、これで折り返しよ!
一日休んだら、気合を入れて頑張りましょう!」

 なんで、お母様はあんな元気なんでしょう?

 気勢を上げているお母様を見て、げんなりしている私に聞き覚えのある声が掛けられました。


「あれ、フローラちゃん、それにミルトおばさまも、こんなところで何しているの?」


しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「祈るより、殴る方が早いので」 ひとりの脳筋聖女が、本人にまったくその気がないまま、緻密に練られたシリアスな陰謀を片っ端から台無しにしていく痛快無比なアクションコメディ。 ■あらすじ 聖女セレスティアは、その類稀なる聖なる力(物理)ゆえに王都から追放された。 実は彼女には前世の記憶があって、平和な日本で暮らしていたしがないOLだった。 そして今世にて、神に祈りを捧げる乙女として王国に奉仕する聖女に転生。 だがなぜかその身に宿ったのは治癒の奇跡ではなく、岩をも砕く超人的な筋力だった。 儀式はすっぽかす。祈りの言葉は覚えられない。挙句の果てには、神殿に押し入った魔物を祈祷ではなくラリアットで撃退する始末。 そんな彼女に愛想を尽かした王国は、新たに現れた完璧な治癒能力を持つ聖女リリアナを迎え入れ、セレスティアを「偽りの聖女」として追放する。 「まあ、田舎でスローライフも悪くないか」 追放された本人はいたって能天気。行く先も分からぬまま彼女は新天地を求めて旅に出る。 しかし、彼女の行く手には、王国転覆を狙う宰相が仕組んだシリアスな陰謀の影が渦巻いていた。 「お嬢さん、命が惜しければこの密書を……」 「話が長い! 要点は!? ……もういい、面倒だから全員まとめてかかってこい!」 刺客の脅しも、古代遺跡の難解な謎も、国家を揺るがす秘密の会合も、セレスティアはすべてを「考えるのが面倒くさい」の一言で片付け、その剛腕で粉砕していく。 果たしてセレスティアはスローライフを手にすることができるのか……。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

処理中です...