精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第135話 今年の夏休みは?

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 フィナントロープさんの協力を取り付けたミルトさんは、最近忙しく飛び回っているようで、あまり顔を見せなくなった。
 国で治癒術師を育成する計画を前倒しするため、色々な部署に根回しをしているみたい。
 今のところ王家の森の開発を狙っている人たちの動きが鎮静化しているので、これ幸いにと治癒術師の件にかかりきりになっているそうだ。


 四の月も終盤に差し掛かった日の放課後、わたし達はエルフリーデちゃんのサロンにお邪魔している。

「夏休みですか?」

「そう、夏休みは何かご予定はありまして?
 もし時間が許すのなら、ターニャさんとミーナさんのお二人を私の領地にご招待しようと思いますの。」

 北部地方か、行ってみたいとは思っているんだよね。
 北部には山岳地帯があり山と湖が織り成す景色が凄くきれいらしい。
 特にエルフリーデちゃんの領地にはこの国でも人気の避暑地があり、夏場は避暑に来た貴族で賑わうみたいだ。

「あら、私は誘ってくださらないの?」

 フローラちゃんが拗ねた振りをして言った。

「フローラ様ったら、意地悪なご質問ですわね、わかっていらっしゃるくせに。
 わたし達の立場で王族の方を気安く誘えるわけないじゃございませんか。」

「それはそうですけど、声をかけていただけないと仲間外れにされているようで悲しいですわ。」

 フローラちゃんが大げさに悲しい振りをして言うと、エルフリーデちゃんは苦笑している。


 それはそうと、もう夏休みの計画は決めてあるんだよね。
 エルフリーデちゃんのお誘いは凄く魅力的なんだけどね……。

「せっかく魅力的なお誘いなのに断ってごめんね。
 夏休みはミーナちゃんのご両親のお墓参りにノイエシュタットに行く予定なんだ。
 それで、そのまま帝国の東部辺境の様子を見に行くつもりなの。」

 わたしの返答にエルフリーデちゃんが意外な顔をして言った。

「あら、また帝国へ行くつもりですの?大丈夫ですの?
 命を狙われているようなことを言ってませんでした?」

「ええ、そうなんだけど、帝都まで行くわけじゃないから。
 辺境地域で刺客が待ち構えているとは思えないんだよね。
 昨年作ってきた農地や林がどうなっているか確認しておきたいんだ。」

 昨年やっつけ仕事で作ってきた農地、おチビちゃん達の力で昨年は収穫できたはずだけど、瘴気が濃い場所なので今年どうなっているかわからないんだ。

 瘴気の影響を確認したいのでこの夏はどうしても行きたいってミーナちゃんに相談したんだよね。
 ミーナちゃんも、ノイエシュタットへお墓参りに行きたかったようで一も二もなく賛成してくれた。
 お墓参りに行きたかったのに、遠慮して自分からは言い出せなかったみたい。


     **********


「あらそうですの?
 もしよろしかったら、私とお母様もノイエシュタットまでご一緒させていただけませんか?」

 わたしの話を聞いたフローラちゃんがそう尋ねて来た。一緒に行くのは別に構わないけど…。

「わたし達は夏休みの初日に王都を発つ積もりなんだけど日程があうの?
 ミルトさんは例の件で忙しいんじゃない?」

 ミルトさんは治癒術師の養成所を作る件で忙しいはずだ、ノイエシュタットまで行っている暇なんてあるの?


「お母様がどうしても西部地方の様子を見たいと言ってぎりぎりの日程調整をしましたの。
 ちょうど私達も夏休みの初日に出発する予定でしたのよ。
 今年の夏はノイエシュタットを中心に診療活動をするんですって。
 私は民衆に対する点数稼ぎも王族の大切な仕事だと思うので診療活動をするのは良いのですけど、どうせなら暑くて瘴気の濃い西部地区より涼しい北部地区でしたかったですわ。」


 ミルトさんは帝国に近く商隊の出入りを通して帝国の影響を受けやすい西部地方を見ておきたいそうだ。
 確かに、元王族が治めるノイエシュタットでさえ『色なし』のミーナちゃんに対する仕打ちは酷かったものね。
 あの町のお役人さんはミーナちゃんに親切で偏見がないようだったけど、普通の町の人の方が『色なし』に偏見を持っているみたいに感じたんだ。

 
 そのことをフローラちゃんに話すと、

「ノイエシュタットの大叔父様は、『色なし』に偏見なんか持っていませんわ。
 お母様のこと凄く可愛がっているし、臣籍に下ったといっても王家の味方ですわよ。
 お母様が心配しているのは隣町の領主ですの、帝国流の考え方に染まっていまして。
 魔力の強い人を露骨に優遇していますし、『色なし』を蔑視しているみたいですの。
 隣町がそうなのでノイエシュタットの下町辺りにもそういう思想に被れている人がいるのかも知れませんね。」

と言っている。


 今凄く忙しいはずのミルトさんがあえて時間を割いて出かけるって、大丈夫なのそれ?
 なんかきな臭いんですけど……。

 悪いけど今回は付き合えないよ、わたしは絶対に帝国の様子を見に行くんだから。
 危ないことをするなら自分達だけでやってね、お願いしますよ……。


     ***********


 わたしは、サロンをお暇するときにエルフリーデちゃんに聞いてみた。

「もし、早く帰ってこれたら、突然遊びに行っても大丈夫?」

そしたら、

「私の家の魔導車はターニャちゃんのほど早く走れませんので夏休みが終る十日前には領地を発ちますよ。
 それまでなら、遊びに来ていただいても構いませんが日程的に無理ではございませんこと?」

と言われてしまった。

 やっぱり難しいか…、遠いものね…。

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