精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
173 / 508
第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第172話 北へ

しおりを挟む
「アデル侯爵領にある別荘にいきましょう。」

 クロノスさんにマナをごっそり持ってかれ、ぐったり疲れてミルトさんの私室に戻ると、フローラちゃんが唐突に言った。

「これからエルフリーデちゃんの領地まで行くの?もう十三日しか夏休みは残っていないよ。」

「いいえ、まだ十三日も残っているのです。
 明日の早朝王都を出れば三日目の午前中にはアデル領に着きますわ。
 七日くらい別荘でのんびりできるはずです。」

 よくよく話を聞いてみるとアデル領にある湖畔の別荘はフローラちゃんのお気に入りの場所らしい。
 昨年、今年と二年続けて別荘に行けなかったのが残念でならないみたい。
 せっかく時間ができたので少しでもいいから別荘に行きたいと言ってるの。

 ノイエシュタットにいた最後の方はミルトさんと侯爵が瘴気の森の件にかかりきりで、護衛が手薄になるからと侯爵館から出してもらえず退屈だったらしい。

 でも、みんな長旅の後だし慌ただしく出かけるのは嫌なんじゃないかな?

 わたしは特に疲れている訳じゃないからどちらでも良いけど…。


「フローラおねえちゃん、別荘に行くと何か美味しいものあるの?」

 それまで黙って聞いていたハンナちゃんが尋ねた。

「ええ、別荘の前にある湖で獲れたマスを使った料理は美味しいですわ。
 定番のソテーやムニエルは勿論のことスモークしたものも美味しいですし、なによりも生で食べるのが絶品なんですよ。」

 フローラちゃんの話を聞いたハンナちゃんは涎を垂らしそうな表情で、

「ハンナ、別荘に行きたい!」

と言った。

 
 決まりだった…、このメンバーでハンナちゃんのお願いに抗せる者はいない…。

 残りの夏休みの日数が少ないため、明日は日の出と共に王都を出発することになった。

 今回のメンバーは、フローラちゃん、ミーナちゃん、ハンナちゃんとわたしの四人。

 ミルトさんは勿論仕事だし、ヴィクトーリアさんは瘴気の森の件でミルトさんやハイジさんと相談したいことがあるらしい。そして、ハイジさんは帝国でのこと、オストエンデでのことについての報告書を書くそうだ。

「私も瘴気の森で押収した証拠物件の精査がなければ付いて行くのに…。」

 ミルトさんが残念がっていた。いや、あなた、その件がなければ今頃西部地区で慈善活動をしながら王都へ向かっているところだったでしょうに。


    **********


 朝四時、あたりがうっすらと明るくなり始めた頃、わたし達は王都を出発した。
 今の時期、日の入りは十八時、今日一日で十五シュタット進むつもりでこんなに早く出たんだ。

 ちなみに、今回の旅行を行きたいと強く主張したハンナちゃんはおねむのままでフェイさんに抱かかえられて魔導車に乗せられていた。

 王都を出て少し西へ進みこの国を南北に貫く街道との交差点を今回は北へ向かう。
 冬にポルトへ行ったときに南に向かった街道だよ。
 この国一番の往来がある街道だけあってよく整備されており、凄い速度で進んだ。
 そういえば、冬にポルトに行ったときも凄く速かったっけ。


 そして、王都を出て二日目の夕方、わたし達はアデル侯爵領の領主館前にいた。
 エルフリーデちゃんのおうちだね。

 フローラさんが、門番に身分を明かしエルフリーデちゃんが在宅か尋ねると、幸いなことにまだ領主館に留まっておりすぐに会える事になった。

 正面の車寄せに魔導車を停め正面の入り口に控えていた侍従さんの案内でホールへ入ると、エルフリーデちゃんが迎えてくれた。

「エルフリーデちゃん、遊びに来たよー!ひさしぶり!」

 わたしが声をかけると

「まったく、あなたという人は…。
 市井の子供が隣の家に遊びに来た訳ではないんですから。
 というより、あなた、分かっててやっているでしょう。」

とエルフリーデちゃんが呆れた声で返してきた。

「先触れも立てずに突然お邪魔してごめんなさいね、今この町に着いたばかりなものですから。
 エルフリーデさんが王都に出発した後になるといけないのですぐに来てみましたの。」

 そこにフローラちゃんがフォローを入れてくれた。

「とんでもございません、フローラ様に足を運んでいただけるとは恐縮です。
 しかし、夏休みも終わりが近付いた今日こちらにいらしたのですか?」

「そうなんですの。
 それで、よろしければ王家の別荘にエルフリーデさんをお招きしたいと思いまして。」

「あの、明後日には王都へ向けて出発する予定で、サロンのメンバーが我が家に集まっているのですが…。」

 聞けば明後日の朝、ここを出発して王都へ戻る予定になっていたそうで、サロンのメンバーをアデル侯爵が持つ魔導車で一緒に乗せていくことになっていたそうだ。
 去年もそう言っていたね。みんなの領地はこの町まで馬車で数日かかる所にあるので余裕を持って数日前からここに集まって来たみたい。


「ええ、それも予想していましたわ。みなさんをお招きしたいと思いますの。
 どうせならみんな揃った方が楽しいでしょう。
 いっぱいお喋りしましょう。」

 そう誘ったフローラちゃんの言葉にわたしが付け加えて言う。

「それで、よかったらわたし達の魔導車で一緒に王都へ帰りませんか?
 急げば王都まで二日で着くので、わたし達はフローラちゃんの別荘に七日ほど滞在する予定なのですけど。」

 それを聞いたエルフリーデちゃんが嬉しそうに言った。

「まあ、それは素敵なお誘いですこと。
 是非、お言葉に甘えさせていただきたいですわ。
 では、私は滞在中、みなさんをこのあたりの素敵な場所へご案内しましょうか。
 それと、これから別荘の準備は大変でしょうから今晩は我が家に泊まってください。
 サロンのみんなと一緒に食事をしましょう。」

 エルフリーデちゃんはわたし達の魔導車の乗り心地を気に入っているし、王都まで七日かかって長旅で疲れるって言っていたものね。

 この日は、エルフリーデちゃんの家にお世話になり、明日サロンのみんなも加えてフローラちゃんの別荘に行くことになりました。


 
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「祈るより、殴る方が早いので」 ひとりの脳筋聖女が、本人にまったくその気がないまま、緻密に練られたシリアスな陰謀を片っ端から台無しにしていく痛快無比なアクションコメディ。 ■あらすじ 聖女セレスティアは、その類稀なる聖なる力(物理)ゆえに王都から追放された。 実は彼女には前世の記憶があって、平和な日本で暮らしていたしがないOLだった。 そして今世にて、神に祈りを捧げる乙女として王国に奉仕する聖女に転生。 だがなぜかその身に宿ったのは治癒の奇跡ではなく、岩をも砕く超人的な筋力だった。 儀式はすっぽかす。祈りの言葉は覚えられない。挙句の果てには、神殿に押し入った魔物を祈祷ではなくラリアットで撃退する始末。 そんな彼女に愛想を尽かした王国は、新たに現れた完璧な治癒能力を持つ聖女リリアナを迎え入れ、セレスティアを「偽りの聖女」として追放する。 「まあ、田舎でスローライフも悪くないか」 追放された本人はいたって能天気。行く先も分からぬまま彼女は新天地を求めて旅に出る。 しかし、彼女の行く手には、王国転覆を狙う宰相が仕組んだシリアスな陰謀の影が渦巻いていた。 「お嬢さん、命が惜しければこの密書を……」 「話が長い! 要点は!? ……もういい、面倒だから全員まとめてかかってこい!」 刺客の脅しも、古代遺跡の難解な謎も、国家を揺るがす秘密の会合も、セレスティアはすべてを「考えるのが面倒くさい」の一言で片付け、その剛腕で粉砕していく。 果たしてセレスティアはスローライフを手にすることができるのか……。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

処理中です...