精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第184話 ゲヴィッセン子爵 

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 王都へ着いたわたし達は学園の寮へ帰る北部組と別れてミルトさんに会うため直接王宮に向かった。
 今日帰ることを事前に知らせてあったためミルトさんは私室でわたし達の帰りを待ってたよ。

「お帰りなさい、フローラ。久し振りの別荘は楽しめたかしら。
 向こうでウンディーネ様に会ったんですって、私もお会いしたかったわ。」

「ええ、お母様、今回は友達もたくさんいたので、とっても楽しく過ごせましたわ。」

 ミルトさんの勧めでソファーに腰掛けたカリーナちゃんは戸惑いの表情を露わにしている。
 腰掛ける位置が明らかにおかしい…。
 本来フローラちゃんが座るはずのミルトさんの両隣には当たり前のようにスイとミドリが座っており、ヒカリに至ってはミルトさんの膝の上に座っている。

 カリーナちゃんが困惑する様子を見て取ったミルトさんが言う。

「あなたが、ゲヴィッセン子爵のお嬢さん、カリーナさんですか。
 初めまして皇太子妃のミルトです。楽にしてちょうだいね。
 それと、この娘たちはプライベートな空間ではいつもこんな感じなので気にしないでちょうだい。」

 そういわれても、自分よりかなり年上に見える少女三人が幼子のようにミルトさんにべったりと引っ付いているのを見て気にするなというのは無理だと思う。特に事情を知らない人は。

「それでお母様、通信機で報告したとおりカリーナちゃんにはしばらく私の寮に住んでもらいたいと思うのですが。」

「そうね、カリーナさんが納得しているのであればそのほうがいいわね。
 アロガンツ家との縁談話がなくなるまではこちらで保護したほうが良いと思うわ。
 実は、そのことを相談しようと思ってゲヴィッセン子爵をお招きしてあるのよ。
 カリーナちゃんも何ヶ月もお父様に会えなくて寂しかったでしょう。」

 ミルトさんがそう言うと側に控えていた侍女が部屋から出て行き、ほどなくして壮年の紳士を伴って戻って来た。
 やや癖のある栗毛色の髪の毛、薄茶色の虹彩がカリーナちゃんと同じで、いかにも親子とわかる容貌を持つ優しそうなおじさまだ。

「カリーナ、よく無事に帰ってきてくれた。
 馬車の事故で怪我をしたと聞いた時は気が気でなかったよ。
 フローラ殿下の一行の方に治療してもらったそうだね。
 その方はこちらにおられるのかい?」

 カリーナちゃんの無事を喜ぶゲヴィッセン子爵の問いにカリーナちゃんはハンナちゃんの手を取って言った。

「こちらのハンナさんが治してくれたのです。
 私と同じ歳なのに凄い治癒術を使えるのです。
 お友達になったのですよ。」

「ああ、君がカリーナを治療してくれたのか、有り難うこの恩は一生忘れないよ。
 ミルト殿下から聞いているよ下町のご婦人達のアイドルだって。
 まだ小さいのに本当に凄いんだね。」

 カリーナちゃんから紹介されたハンナちゃんにゲヴィッセン子爵は深々と頭を下げた。
 子供、しかも平民の子供に頭が下げられるなんてフローラちゃんの言う通り本当に誠実な人なんだね。


     **********


 ミルトさんと対面してカリーナちゃんの隣に腰掛けたゲヴィッセン子爵に対し、ミルトさんは言う。

「厄介な貴族に絡まれているようですね。主人に一言相談してもらえばよかったのに。」

「いえ、私事に王族の方のお手を煩わすわけには参りません。
 今回は図らずも家の恥を晒してしまったみたいで面目次第もございません。」

「いいえ、あなたのことは主人から良く伺っております。
 主人が王位に着いたときに、主人を支えてくれる人の一人だと。
 そんな優秀な人にアロガンツ家ごときの手垢をつけられるわけには参りません。」

 ミルトさんはそういうとゲヴィッセン子爵に対し縁談を断るために協力したいと言った。
 そして、カリーナちゃんをフローラちゃんの側仕えにすることを含みでフローラちゃんのもとに行儀見習いに出すように勧めた。

「もったいないお言葉です。
 しかし、カリーナはまだ六歳です。
 海のものとも山のものとも知れない身、早々と王族の側仕えに決めてしまうのは荷が重過ぎるかと存じます。」

「さすが、主人が見込んだだけのことはございますね。分別をわきまえてらっしゃる。
 カリーナさんもそれだけのものをお持ちだとフローラから聞いております。
 将来、フローラを支える一人になってもらえればと思っているのは本当です。
 ただ、今回に限って言えばそれは縁談を断るための方便です、実際にカリーナちゃんにして欲しいのは別のことです。」

 そう言ってミルトさんは、カリーナちゃんに期待するのはハンナちゃんの遊び相手であることを告げる。
 学園に入学するまでの間、ハンナちゃんと一緒に遊ぶだけでなく、一緒に勉強もして欲しいと希望した。一流の家庭教師をつけると約束していたけど、それってフェイさん達のことだよね。
 そして、二年後には一緒に学園に入学してハンナちゃんの助けになって欲しいと言った。

「もちろん、その間の生活費は全て王家で支給しますわ。また、学園に入学が決まれば学費一切も王家で負担いたします。」

 最後にそう締めたミルトさんにゲヴィッセン子爵は困惑気味だった。

「大変有り難いお話なのですが、ハンナさんの遊び相手、学友ですか?
 差し支えなければお聞かせ願いたいのですが、ハンナさんとはいったい?」

 そうだよね、初めて知った子の遊び相手に破格の高待遇を示されたら誰だって聞きたいよね。

「これから申し上げることはごく一部の者しか知らないことです。口外することを禁じます、よろしいですか。」

 ミルトさんは頷くゲヴィッセン子爵を確認して話を続けた。

「ゲヴィッセン子爵、あなたはここにいる私の娘三人が大精霊様に託されたと言うことは聞いておりますよね。
 実は、もう三人大精霊様からお預かりしている子供がいるのです。
 それが、ここにいる三人です。この三人は王宮に入るよりも市井で学ぶことを望み、今学園の寮に住んでいます。
 年長の二人がターニャちゃんとミーナちゃんと言い、フローラの病気を治してくれたのですよ。
 ある意味、この三人は王族よりも重要人物なのです。
 邪な心を持つ貴族連中が寄ってこないように内密にしているのです。」

 にわかには信じ難い話なんだろうけど、ミルトさんの真剣な眼差しをみたゲヴィッセン子爵は信じることにしたみたい。

「わかりました。大変大切なお役目をちょうだいし、身に余る光栄です。
 娘が引き受けたいと言うのであれば、お受けさせていただきます。
 どうなんだい、カリーナ?」

「はい、私はこのお話をお受けしたいと思います。」

 カリーナちゃんの返事を聞いたミルトさんは言った。

「じゃあ、決まりね。カリーナさんには今日からフローラと一緒に住んでもらうわ。
 アロガンツ伯爵と話が済むまでは寮から出ないほうが良いわね。
 決着がついたら適宜、自宅に帰ってもいいわ。
 ずっと両親と離れ離れだと寂しいでしょうし、その辺はフローラと相談してちょうだい。
 それじゃあ、子爵、私達大人はアロガンツ伯爵家との縁談の件をサッサと片付けることにしましょうか。」







 
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