188 / 508
第8章 夏休み明け
第187話 夏休み明けの朝
しおりを挟む
夏休み明け初日、教室で自分の席に着くと隣の席のクラーラちゃんからおはようと声がかかった。
「ターニャちゃんは夏休みどうしていたんですか?
また、帝国まで行って来たんですか?」
休み明け定番の話題を振られた私は、
「うん、帝国は行ってきたんだけど色々あってすぐ帰国することになっちゃった。
予定よりだいぶ早く帰ってきたので、夏休みの終わり近くはエルフリーデちゃんの所まで遊びに行ってきたの。
フローラちゃんの別荘に泊まったんだよ。」
とクラーラちゃんに答える。
「いいですね、うらやましいわ。私はこの夏休みネコの手でした。
王都の商会の勢力図に激変があったので、うちも大忙しで。
私みたいな子供まで帳簿の計算係として引っ張り出すのですよ、いい迷惑です。」
クラーラちゃんの話では、今年の冬に不祥事を起こして王室御用達の立場を失った商会があったらしい。その商会は懇意にしている貴族の援助で何とか持ちこたえていたそうだが、夏前にとうとう力尽きたらしい。どこかで聞いた話のような…。
その商会は王都でもかなりの大店だったそうで、その商会がなくなった穴を他の商会が埋めることとなり、クラーラちゃんのうちも大忙しだったそうだ。
「しかも、夏休みも終わりに近付いた時に最近羽振りの良かった商会が突然閉鎖されたんです。
なんか犯罪に加担していたようで、いきなり役人が乗り込んできて商会の幹部を拘留すると、他の職員を締め出して証拠保全のため商会を閉鎖したんですよ。
それがまた、大きな商いをしていた商会で、急なことだったのでかなり焦げ付いた取引先もあるようなんです。うちは幸いその商会とは取引がなかったのですが、やっぱり仕事が回ってきて…。」
これもどこかで聞いた話のような…。もしかして、わたしってば王都の商人にかなり迷惑をかけている?
いやいや、こちらも巻き込まれた立場で、悪いのは向こうだからね。
私は一応確認してみることにした。
「ねえ、犯罪に加担していた商会ってなんて名前、何悪いことしていたの?」
「えーっとね、たしか、プッペ商会だったかな、なんでも魔晶石を不正に販売していたらしいですよ。」
あ、やっぱり…。
「その商会のオーナーのプッペという人は行方不明らしいの。
帝国の人なので、帝国へ逃げ出しちゃったんじゃないかと噂されているのですけどね。」
ああ、まだ護送中か。あれからまだ二週間もたっていないから王都まで情報が伝わっていないんだね。
それに事件の細かい内容はまだ公表されていないんだ…。まだ捜査中だものね。
ミルトさんが公表していないなら余計なことは言わない方が良いね。瘴気の森の出来事も黙っておこう。
そうそう、ついでだから一つ聞いておこうか。
「ねえ、クラーラちゃん、シュバーツアポステル商会って聞いたことがある?」
「また、随分と物騒な名前を知っているのですね。帝国で耳にしたのですか?
帝国の商会ですよね。
私も名前しか知りませんよ。何か後ろ暗いところがある商会らしくて、絶対に関わりになるなと言われています。」
なるほど、子供には詳しく教えられないけど、筋が悪いから関わりになっちゃダメと教えているんだ。
「ただ、プッペ商会のバックにシュバーツアポステル商会が付いているという実しやかな噂が流れているんです。
プッペという人は帝国から王都にやってきていきなり大きな商売を始めたのです。
だいぶ貴族へお金を流しているという噂もあり、相当資金力の有る後ろ盾がいるのではないかと言われていて、それがシュバーツアポステル商会ではないかと囁かれているのです。」
噂って、けっこう核心に迫っているんだね。
そう、貴族にお金が流れているんだ、だからミルトさんも慎重に捜査を進めているのかな。
上手くいけば、『黒の使徒』と手を組んでいる貴族を暴けるかもしれないものね。
「随分と熱心に聴いていますね、シュバーツアポステル商会に何か興味があるのですか?」
「ええ、ちょっと帝国でそことトラブッちゃいまして。」
「それって、大丈夫なのですか?」
「平気、平気、もうとっくに暗殺者を送られているので日頃から注意しているから。」
「………」
あ、冗談のつもりで軽口をたたいたら、沈黙されてしまった。
**********
ダメだ、空気が重くなってしまったんで話題を変えなくては。
「そういえば、アデル侯爵領にある王家の別荘、きれいな湖の湖畔にあって凄く良かったよ。」
露骨な話題転換にクラーラちゃんは苦笑いをしつつ、
「あいかわらず、あきれた機動力ですね。
普通、帝国とアデル侯爵領のどちらか片方でも一ヶ月で行ってくるのは無理ですよ。
それを両方往復してくるなんて、ターニャちゃんの魔導車って本当に規格外れですね。」
と本当にあきれた声で言った。
それからわたしは授業が始まるまで、フローラちゃんの別荘へ行った時に見たことや食べたものの話をして時間を潰した。
わたしが髪飾りを指差して、
「この髪飾り不思議な彩でしょう。これアデル侯爵領の特産品らしいよ。
なんでも、巻き貝の形をした石から取れるんだって、不思議だよね。」
というと、クラーラちゃんは目を輝かせて言った。
「聞いたことがあります、アンモライトですよね。
うわあ、きれいですね、初めて見ました。
けっこうお手ごろな値段なのですよね。
いいなあ、うちの商会でも扱えないか今度お父さんに聞いてみよう。」
うん、クラーラちゃんもやっぱり女の子だね、アクセサリーには興味津々だ。
「ターニャちゃんは夏休みどうしていたんですか?
また、帝国まで行って来たんですか?」
休み明け定番の話題を振られた私は、
「うん、帝国は行ってきたんだけど色々あってすぐ帰国することになっちゃった。
予定よりだいぶ早く帰ってきたので、夏休みの終わり近くはエルフリーデちゃんの所まで遊びに行ってきたの。
フローラちゃんの別荘に泊まったんだよ。」
とクラーラちゃんに答える。
「いいですね、うらやましいわ。私はこの夏休みネコの手でした。
王都の商会の勢力図に激変があったので、うちも大忙しで。
私みたいな子供まで帳簿の計算係として引っ張り出すのですよ、いい迷惑です。」
クラーラちゃんの話では、今年の冬に不祥事を起こして王室御用達の立場を失った商会があったらしい。その商会は懇意にしている貴族の援助で何とか持ちこたえていたそうだが、夏前にとうとう力尽きたらしい。どこかで聞いた話のような…。
その商会は王都でもかなりの大店だったそうで、その商会がなくなった穴を他の商会が埋めることとなり、クラーラちゃんのうちも大忙しだったそうだ。
「しかも、夏休みも終わりに近付いた時に最近羽振りの良かった商会が突然閉鎖されたんです。
なんか犯罪に加担していたようで、いきなり役人が乗り込んできて商会の幹部を拘留すると、他の職員を締め出して証拠保全のため商会を閉鎖したんですよ。
それがまた、大きな商いをしていた商会で、急なことだったのでかなり焦げ付いた取引先もあるようなんです。うちは幸いその商会とは取引がなかったのですが、やっぱり仕事が回ってきて…。」
これもどこかで聞いた話のような…。もしかして、わたしってば王都の商人にかなり迷惑をかけている?
いやいや、こちらも巻き込まれた立場で、悪いのは向こうだからね。
私は一応確認してみることにした。
「ねえ、犯罪に加担していた商会ってなんて名前、何悪いことしていたの?」
「えーっとね、たしか、プッペ商会だったかな、なんでも魔晶石を不正に販売していたらしいですよ。」
あ、やっぱり…。
「その商会のオーナーのプッペという人は行方不明らしいの。
帝国の人なので、帝国へ逃げ出しちゃったんじゃないかと噂されているのですけどね。」
ああ、まだ護送中か。あれからまだ二週間もたっていないから王都まで情報が伝わっていないんだね。
それに事件の細かい内容はまだ公表されていないんだ…。まだ捜査中だものね。
ミルトさんが公表していないなら余計なことは言わない方が良いね。瘴気の森の出来事も黙っておこう。
そうそう、ついでだから一つ聞いておこうか。
「ねえ、クラーラちゃん、シュバーツアポステル商会って聞いたことがある?」
「また、随分と物騒な名前を知っているのですね。帝国で耳にしたのですか?
帝国の商会ですよね。
私も名前しか知りませんよ。何か後ろ暗いところがある商会らしくて、絶対に関わりになるなと言われています。」
なるほど、子供には詳しく教えられないけど、筋が悪いから関わりになっちゃダメと教えているんだ。
「ただ、プッペ商会のバックにシュバーツアポステル商会が付いているという実しやかな噂が流れているんです。
プッペという人は帝国から王都にやってきていきなり大きな商売を始めたのです。
だいぶ貴族へお金を流しているという噂もあり、相当資金力の有る後ろ盾がいるのではないかと言われていて、それがシュバーツアポステル商会ではないかと囁かれているのです。」
噂って、けっこう核心に迫っているんだね。
そう、貴族にお金が流れているんだ、だからミルトさんも慎重に捜査を進めているのかな。
上手くいけば、『黒の使徒』と手を組んでいる貴族を暴けるかもしれないものね。
「随分と熱心に聴いていますね、シュバーツアポステル商会に何か興味があるのですか?」
「ええ、ちょっと帝国でそことトラブッちゃいまして。」
「それって、大丈夫なのですか?」
「平気、平気、もうとっくに暗殺者を送られているので日頃から注意しているから。」
「………」
あ、冗談のつもりで軽口をたたいたら、沈黙されてしまった。
**********
ダメだ、空気が重くなってしまったんで話題を変えなくては。
「そういえば、アデル侯爵領にある王家の別荘、きれいな湖の湖畔にあって凄く良かったよ。」
露骨な話題転換にクラーラちゃんは苦笑いをしつつ、
「あいかわらず、あきれた機動力ですね。
普通、帝国とアデル侯爵領のどちらか片方でも一ヶ月で行ってくるのは無理ですよ。
それを両方往復してくるなんて、ターニャちゃんの魔導車って本当に規格外れですね。」
と本当にあきれた声で言った。
それからわたしは授業が始まるまで、フローラちゃんの別荘へ行った時に見たことや食べたものの話をして時間を潰した。
わたしが髪飾りを指差して、
「この髪飾り不思議な彩でしょう。これアデル侯爵領の特産品らしいよ。
なんでも、巻き貝の形をした石から取れるんだって、不思議だよね。」
というと、クラーラちゃんは目を輝かせて言った。
「聞いたことがあります、アンモライトですよね。
うわあ、きれいですね、初めて見ました。
けっこうお手ごろな値段なのですよね。
いいなあ、うちの商会でも扱えないか今度お父さんに聞いてみよう。」
うん、クラーラちゃんもやっぱり女の子だね、アクセサリーには興味津々だ。
20
あなたにおすすめの小説
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス
優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました
お父さんは村の村長みたいな立場みたい
お母さんは病弱で家から出れないほど
二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます
ーーーーー
この作品は大変楽しく書けていましたが
49話で終わりとすることにいたしました
完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい
そんな欲求に屈してしまいましたすみません
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる