精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第8章 夏休み明け

第187話 夏休み明けの朝

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 夏休み明け初日、教室で自分の席に着くと隣の席のクラーラちゃんからおはようと声がかかった。

「ターニャちゃんは夏休みどうしていたんですか?
 また、帝国まで行って来たんですか?」

 休み明け定番の話題を振られた私は、

「うん、帝国は行ってきたんだけど色々あってすぐ帰国することになっちゃった。
 予定よりだいぶ早く帰ってきたので、夏休みの終わり近くはエルフリーデちゃんの所まで遊びに行ってきたの。
 フローラちゃんの別荘に泊まったんだよ。」

とクラーラちゃんに答える。

「いいですね、うらやましいわ。私はこの夏休みネコの手でした。
 王都の商会の勢力図に激変があったので、うちも大忙しで。
 私みたいな子供まで帳簿の計算係として引っ張り出すのですよ、いい迷惑です。」

 クラーラちゃんの話では、今年の冬に不祥事を起こして王室御用達の立場を失った商会があったらしい。その商会は懇意にしている貴族の援助で何とか持ちこたえていたそうだが、夏前にとうとう力尽きたらしい。どこかで聞いた話のような…。

 その商会は王都でもかなりの大店だったそうで、その商会がなくなった穴を他の商会が埋めることとなり、クラーラちゃんのうちも大忙しだったそうだ。

「しかも、夏休みも終わりに近付いた時に最近羽振りの良かった商会が突然閉鎖されたんです。
 なんか犯罪に加担していたようで、いきなり役人が乗り込んできて商会の幹部を拘留すると、他の職員を締め出して証拠保全のため商会を閉鎖したんですよ。
 それがまた、大きな商いをしていた商会で、急なことだったのでかなり焦げ付いた取引先もあるようなんです。うちは幸いその商会とは取引がなかったのですが、やっぱり仕事が回ってきて…。」

 これもどこかで聞いた話のような…。もしかして、わたしってば王都の商人にかなり迷惑をかけている?
 いやいや、こちらも巻き込まれた立場で、悪いのは向こうだからね。

 私は一応確認してみることにした。

「ねえ、犯罪に加担していた商会ってなんて名前、何悪いことしていたの?」

「えーっとね、たしか、プッペ商会だったかな、なんでも魔晶石を不正に販売していたらしいですよ。」

 あ、やっぱり…。

「その商会のオーナーのプッペという人は行方不明らしいの。
 帝国の人なので、帝国へ逃げ出しちゃったんじゃないかと噂されているのですけどね。」

 ああ、まだ護送中か。あれからまだ二週間もたっていないから王都まで情報が伝わっていないんだね。
 それに事件の細かい内容はまだ公表されていないんだ…。まだ捜査中だものね。
 ミルトさんが公表していないなら余計なことは言わない方が良いね。瘴気の森の出来事も黙っておこう。

 そうそう、ついでだから一つ聞いておこうか。

「ねえ、クラーラちゃん、シュバーツアポステル商会って聞いたことがある?」

「また、随分と物騒な名前を知っているのですね。帝国で耳にしたのですか?
 帝国の商会ですよね。
 私も名前しか知りませんよ。何か後ろ暗いところがある商会らしくて、絶対に関わりになるなと言われています。」

 なるほど、子供には詳しく教えられないけど、筋が悪いから関わりになっちゃダメと教えているんだ。

「ただ、プッペ商会のバックにシュバーツアポステル商会が付いているという実しやかな噂が流れているんです。
 プッペという人は帝国から王都にやってきていきなり大きな商売を始めたのです。
 だいぶ貴族へお金を流しているという噂もあり、相当資金力の有る後ろ盾がいるのではないかと言われていて、それがシュバーツアポステル商会ではないかと囁かれているのです。」

  噂って、けっこう核心に迫っているんだね。
 そう、貴族にお金が流れているんだ、だからミルトさんも慎重に捜査を進めているのかな。
 上手くいけば、『黒の使徒』と手を組んでいる貴族を暴けるかもしれないものね。


「随分と熱心に聴いていますね、シュバーツアポステル商会に何か興味があるのですか?」

「ええ、ちょっと帝国でそことトラブッちゃいまして。」

「それって、大丈夫なのですか?」

「平気、平気、もうとっくに暗殺者を送られているので日頃から注意しているから。」

「………」

 あ、冗談のつもりで軽口をたたいたら、沈黙されてしまった。 


     **********


 ダメだ、空気が重くなってしまったんで話題を変えなくては。

「そういえば、アデル侯爵領にある王家の別荘、きれいな湖の湖畔にあって凄く良かったよ。」

 露骨な話題転換にクラーラちゃんは苦笑いをしつつ、

「あいかわらず、あきれた機動力ですね。
 普通、帝国とアデル侯爵領のどちらか片方でも一ヶ月で行ってくるのは無理ですよ。
 それを両方往復してくるなんて、ターニャちゃんの魔導車って本当に規格外れですね。」

と本当にあきれた声で言った。

 それからわたしは授業が始まるまで、フローラちゃんの別荘へ行った時に見たことや食べたものの話をして時間を潰した。

 わたしが髪飾りを指差して、

「この髪飾り不思議な彩でしょう。これアデル侯爵領の特産品らしいよ。
 なんでも、巻き貝の形をした石から取れるんだって、不思議だよね。」

というと、クラーラちゃんは目を輝かせて言った。

「聞いたことがあります、アンモライトですよね。
 うわあ、きれいですね、初めて見ました。
 けっこうお手ごろな値段なのですよね。
 いいなあ、うちの商会でも扱えないか今度お父さんに聞いてみよう。」

 うん、クラーラちゃんもやっぱり女の子だね、アクセサリーには興味津々だ。


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